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『彼方のアストラ』ウルルカについて語りたい

『彼方のアストラ』について長々と語ってきましたが、最後はウルルカの2人について、若干の腐目線もありつつ語りたいと思います。

彼方のアストラ 1 (ジャンプコミックス)

彼方のアストラ 1 (ジャンプコミックス)

  • 作者:篠原 健太
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2016/07/04
  • メディア: コミック
第1話 前半 PLANET CAMP

第1話 前半 PLANET CAMP

  • メディア: Prime Video

 

7年後のウルルカ

『彼方のアストラ』の物語の終盤、長いエピローグとしてアストラ号のメンバーの7年後が描かれています。

有言実行で自分の船を手に入れたカナタ。無事ザックと結婚しているキトリー。カナタと結婚が決まったアリエス。フニちゃんは可愛らしい高校生になっていますし、歌手になったユンファ、ヴィクシアの王位に就いたシャルス、教師になったポリ姉は、それぞれ自分のすべきことに取り組み、邁進しています。

そんな彼らの中で、ウルガーとルカの2人はどうなっているのでしょうか。

ジャーナリストとなったウルガーは、相変わらず兄の遺してくれたニット帽を被ってはいますが、長く伸ばした前髪で右目を隠すことをやめてずいぶんとスッキリした表情になりました。それだけでなくアストラ号にいた時とは違い、ポリ姉やフニちゃんともにこやかに話す好青年となっているのです。人を寄せつかないようにトゲトゲしていたウルガーも、7年と言う月日が経ってすっかり大人になったのだな〜と時の流れを思わせるとともに、彼の気持ちがとても安定している様子も伺えます。

アニメの最終話では、原作には無いウルガーのシーンが追加されていましたね。それは、ウルガーがアストラ号の仲間を今も変わらず大事に思いながらも、過去と決別してしっかりと自分の道を歩んでいるのだと強く感じさせ、原作を補完してくれるものでした。

一方ルカについては、原作でアリエスとキトリーと共にユンファのコンサートに訪れる様子が描かれています。アストラ号にいた時には天真爛漫で茶目っ気のある少年という感じだったルカですが、皆と同様に7年と言う月日を経て大人になり、以前よりもぐっと落ち着いた雰囲気になっています。

アリエスは結婚することとなったカナタとの、キトリーは結婚したザックとの、それぞれの近況を報告していますが、ルカはウルガーとのことについて自然にさらりと言及しているんですよね。「トンボみたいな人」とルカに言われているように、ウルガーは前触れもなくふらりとルカの元を訪ねて来てはすぐに取材先へと出て行ってしまう、というように、ジャーナリストとして飛び回る慌ただしい状態なのかもしれません。「放っておけばいい」というそっけない言葉から、彼らが頻繁に会っているのではないかと察せられます。ルカはもう少し2人でゆっくり過ごしたい気持ちもありそうです。

ウルガーのことをルカが語ることについて、キトリーもアリエスも特に驚く様子は見られませんし、ウルガーとルカとの間には他のメンバー間には無いくだけた雰囲気も感じられます。彼らは腐れ縁とも言えるような、離れはしないけれども馴れ合いすぎることもない距離を保ち続けており、そんな2人のことをB5班のメンバーたちはずっと見守ってきたのかもしれないですよね。そんなウルガーとルカの関係に、私は微笑ましさと共に羨ましさも強く感じてしまいます。

 

ウルガーという少年

アストラ号にいた頃のウルガーは、メンバーの中でも無口で一匹狼的な性格をしていました。長く伸ばした前髪で片目を隠していることから、外の世界とは自分の意思で距離を置こうとしているのだなということが分かります。

クローンとして生まれたため親から疎まれて育ったウルガーに、唯一温かく接してくれていた兄。しかし彼はある事件を追う中で、自殺に見せかけて殺害されてしまいました。その仇を討つと固く心に決めたウルガーは、繊細で優しい自分を抑えこもうと周りとの繋がりを持つことをあえて避け、敵を作るような態度を取っていました。そのため、その頃のウルガーは言葉遣いが非常にトゲトゲしいですし、非常に付き合いにくい印象を与えます。

しかしそんなウルガーですが、ルカとは無愛想ながらも旅の序盤からちゃんと会話が成立しているんですよね。シャルスに話しかけられても全く無視していたのとは対照的に、ルカには自分から過去の話さえしているんです。

ウルガーはもともと広く浅くたくさんの人間と友好関係を作ることを好まず、信頼できると判断できた人間に対してのみ心を開いて受け入れるタイプなのでしょう。そんな彼だからこそ、仇を討とうと決意するほどに兄への思慕は強かったのだろうと思います。

B5班はにわかに集められただけのメンバーであり、お互いにまだ深い信頼関係はありませんでした。仲間なんていないと言い放ち、全く協調性を見せないウルガーに対して、B5班のメンバーは初めのうちはどうしても身構えて接してしまうことが多かっただろうと思います。そんな中、ルカだけはウルガーに対して最初から邪気も無くニュートラルに接していったのです。

ルカに隙を突かれて何かとからかわれてしまう様子には、ウルガーが仇を討つという目的のために抑え込んでしまっている、本来の人の良さが出ている気がします。

 

性別を自分で決めるということ

ルカはインターセクシャルという、性別を医学的に判別できない状態で生きています。体も心もグラデーションであると自身で語っているように、非常に不安定な状態であるといえます。

「自分は男性だ」「自分は女性だ」と心も体も性自認がはっきりできる人でさえ、いわゆる社会から「男らしさ」「女らしさ」とされるものは、人によってそれぞれ様々な状態で混在しているものです。私自身も女性であることを受け入れられない部分もありつつそれでも自分は男性ではないと確信できるのは、心の性自認と体の性別が一致しているからであり、自分の性別がどちらなのかと迷うようなことはありません。

男性か、女性か、どちらでもないのか、どちらでもあるのか。

性別というものは、アイデンティティのとても深いところにあるものです。多くの人が考える必要のない自分の性別というものについて、ルカのように自分の意思で選び自分の意思で定義しなければならないということがどれほど大変なことなのか、私には正直想像もつきません。男女に二分されるのが当たり前の世界の中で、どちらともつかない曖昧な状態でいるのはきっと不安なことだろうと思います。しかし、どちらか一方の性別を選びもう一方を切り捨てるということも、ルカにとってはとても難しいことなのではないでしょうか。

それでもルカは、インターセクシャルである自分の体を個性的で好きだと気持ち良いほどにきっぱり言い切ります。他人とは共有できない悩みや苦しみをルカは今までたくさん経験してきているはずです。ルカはそれらの経験を経て、曖昧さや変化を恐れず、そのままの自分の存在そのものを愛することができる心の強さを身につけたのだろうと思います。

 

ウルガーとルカ

B5班のメンバーたちが故郷の星を目指す旅の途中、ウルガーはルカが自分の兄の仇であるエスポジト氏の長男であると知り、銃を突きつけました。その時ルカは自分を殺しても無駄だということを証明するため、メンバーの前で裸をさらしてインターセクシャルであることを打ち明けることになってしまいました。

そのことについてウルガーは、B5班の皆の前でしっかりとルカに謝ってはいますが、その後も何かとルカ本人がそのことをネタにしてからかってくるため、彼は罪悪感を引きずらずに済んだことでしょう。でもそのおかげでウルガーは、他のメンバーよりもルカの中にある「女性性」を意識させられてしまうことも多かったのではないでしょうか。

カナタたちのような単なる「男友達」というわけにはいかないけれど、「女友達」よりはずっと気が楽。ウルガーはルカに対してそんなことを思っていたかもしれません。

またウルガーにとってルカは、エスポジト氏を殺して兄の仇を討つというマイナスでしかない思考から目を覚まさせ、真実を突き止めて告発するというジャーナリストとしての目標を思い出させてくれた人物でもあります。見失っていた目標に再び向き合うきっかけを作ってくれたルカに対して、ウルガーは感謝をしているはずです。そのことだけでも、ルカはウルガーにとって特別な存在になったと言っていいと思います。

一方、アストラ号に乗っていたときには「自認は男」だと言っていたルカですが、旅の間、わざと自分の胸を意識させるような言動をしてウルガーをからかい、たびたび赤面させています。でも他の男性陣には、同じようなことをしてからかっている描写は見られませんよね。アストラ号の男性陣の中でウルガーが一番シャイでからかいがいがあったということもあるでしょう。でも、ウルガーと過ごすことによって、ルカの中で自分の性別に対する自認に少しずつ変化が起きていったのかもしれません

ウルガーのルカに対する気持ちは一切語られてはいません。しかし彼にとってルカはアストラ号のメンバーの中で一番気の許せる特別な存在でした。だからこそウルガーはジャーナリストとして取材に忙しく飛び回りながらも、その合間に時間を作ってわざわざルカの家を訪れているのです。そのことをルカも理解し、半ば呆れながらもウルガーを迎え入れているのだろうと思います。

一見正反対に見え、噛み合いそうにないようにも思えるウルルカの2人。それでも彼らの波長はあっているのだなと強く感じさせられます。しっかりと本質を捉えることのできるウルガーは、表面的な性別の くくりにとらわれることなくルカの人間性を見て心を開き、ルカはウルガーによって自分の心の内にもたらされた変化を、頑なになることなく、あるがままおおらかに受け入れたのでしょう。

それは当たり前のように思えて、とても難しいことではないでしょうか。それをさらりと実現させているウルルカの2人を、私はとても素敵だなと思うのです。

 

前回はシャルスについて気合い入れて語っています。興味を持って頂けた方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com