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『さらざんまい』について語りたい②希望の皿

皆さんは『さらざんまい』という深夜アニメ「ノイタミナ」の枠で放送されていた幾原邦彦監督のオリジナルアニメ作品をご存知ですか?

前回は『さらざんまい』という作品との出会いでの自分の混乱っぷりについて語ってしまいましたので、今回は主人公の一稀を中心に、物語の序盤部分について語りたいと思います。

#1 つながりたいけど、偽りたい

#1 つながりたいけど、偽りたい

  • メディア: Prime Video

 

『さらざんまい 』ってどんな作品?

『さらざんまい』は、浅草を舞台にした作品です。雷門をはじめ、仲見世、合羽橋など、実在の風景が印象的に使われています。

先に言い訳をさせてもらうと、『さらざんまい』は、要約するのがものすごく難しい作品なのです。でも、この浅草を舞台に中学2年生の少年3人がカッパに姿を変えてカッパゾンビと戦い、そのたびに漏洩する3人の秘密が互いの関係を少しずつ変化させていく、というのがメインのお話と言っていいかなと思います。

この作品の主な登場人物は、以下の通りです。

まずは中学生トリオの3人から。

【矢逆一稀(やさか かずき)】(声:村瀬歩)
この作品の主人公の中学生の少年。肌身離さず持ち歩いている箱には、彼の秘密が詰まっている。春河という弟がいる。

【久慈 悠(くじ とおい)】(声:内山昂輝)
一稀の学校に転校してきたそばかすの少年。ヤクザである兄の誓(ちかい)の影響で、車上荒らしなどの悪事を働いている。金属製の物差しを武器のように使う。

【陣内燕太(じんない えんた)】(声:堀江瞬)
一稀の幼なじみのメガネの少年。教師の姉と祖母と暮らしている。一稀と再びサッカーをしたいと願っている。

次は警察官の2人。

【新星玲央(にいぼし れお)】(声:宮野真守)
交番勤務の金髪で褐色の肌の警察官。歯がギザギザ。真武の相棒。

【阿久津真武(あくつ まぶ)】(声:細谷佳正)
交番勤務の色白でメガネをかけた警察官。無表情。玲央の相棒。

その他の人物として、ニコニコと可愛らしい一稀の弟の春河、一稀達をカッパに変えてしまう白くて丸いカッパのケッピ、浅草のアイドルの吾妻サラ、悠の兄の誓などがいます。

物語の前半は、中学生の一稀を中心に、悠・燕太と春河を絡めた物語が、後半は中学生トリオと対を成すように玲央・真武の2人や誓という大人たちを中心とする物語が進み、最後は全てが再び一稀・悠・燕太の3人へと集結していきます。

作品を貫くキーワードは2つ。「つながり」「欲望」。「つながり」という優しい響きの言葉と対照的な「欲望」という強くて怖いようなネガティヴなイメージもある言葉。

つながっても、見失っても。
手放すな、欲望は君の命だ。

キャラクターが飛び出す楽しげな画像とともに、公式サイトにはこのコピーが掲げられています。カラフルで明るいキャラクターたちの表情に対して「欲望」という強い言葉が使われ、このコピーは一筋縄ではいかない作品の二面性を感じさせ、否応なく心に残ってしまうのです。

『さらざんまい』は、とても印象的なアバンから始まります。アバンというのは、オープニングの前に流れるプロローグの部分のことを言うそうで、『さらざんまい』についてのツイートを見ていて初めてこの言葉を知りました。

夜の浅草、隅田川に架かる吾妻橋付近を走る一稀。彼の頭上から、ピンクの円の中にカタカナのアの書かれたお皿のような看板のような巨大な「ア」のマークが落ちてきて、一稀の体はその中心を通過します。

この一稀の頭上に降り注いだ「ア」のマークは、一稀の住む浅草の街のあちこちにいくつも貼り付いています。実際の浅草と変わらない風景の中に、実際には存在しない無数の「ア」のマーク。そしていわゆるモブと言われるその他大勢の人々はピクト化されて無表情に町を行き交います。まるで見ている私たちも「ア」のマークを通り抜け、一稀たちの住む「浅草」という世界に迷い込んだように感じるのです。

 

3人は欲望を選ぶ

前半の6話は一稀を中心に物語が進んでいきます。

一稀はなぜかダンボール箱を大事に抱え、常に気にしています。その箱の中身は浅草のアイドルである吾妻サラのコスプレ衣装。春河とは同じ家に住む兄弟だというのに、一稀はアイドルの吾妻サラになりすまし、自撮りを交換するなどして携帯の画面上で会話を交わしているのです。

彼はどうしてそんなおかしなことをしているのでしょうか。それは彼にとっての切実な理由があり、それが前半6話の軸になっています。

合羽橋にある金のカッパ像を壊して、ケッピにカッパの姿に変えられてしまった一稀・悠・燕太の3人。

第1話ではそれぞれ大事なものが入った箱を、第2話では春河が可愛がっている猫を、第3話では燕太の姉を、第4話では悠の親戚の蕎麦屋の蕎麦を。彼らはそれらを取り返すために、カッパゾンビと闘っていきます。

戦いに勝つと、枚数を揃えると願いが叶うという「希望の皿」が手に入ります。しかし、カッパゾンビを倒すためには、3人で「さらざんまい」を行うことが必須であり、それには大きな代償が伴います。

それぞれが隠している秘密が漏洩されてしまうのです。

一稀は吾妻サラのコスプレをしていること、春河のために飼われていた猫を盗んでいたこと。

燕太は好意を持っている一稀のリコーダーを舐めたり、彼が寝ている間にキスをしていたこと。

悠は借金で亡くなった両親の蕎麦店を潰すまいと金を盗んだ兄のために、ヤクザを撃ち殺していたこと。

決して人には知られたくないそれぞれの秘密。一稀・悠・燕太の3人は「さらざんまい」する事で強制的に互いの秘密を共有させられることになるのです。

ケッピはこれからもカッパゾンビと戦ってほしいと3人に言います。

叶えたい望みがあるのなら、と。

彼らには秘密を持つのと同じく、叶えたい希望も胸に秘めています。3人とも、カッパゾンビと戦う怖さや戦うたびに秘密が漏洩することよりも、戦いの後に手に入れられる「希望の皿」に関心が向いています。

彼らは秘密を隠し通すことよりも、自分の希望を叶えたいという「欲望」を選ぶのです。

次回は引き続き一稀を中心に『さらざんまい』第5・6話について語りたいと思います。

 

前回、『さらざんまい』の第1話を視聴して大混乱に陥った、作品との出会いについて書いています。興味を持っていただけた方は、こちらからどうぞ。

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