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『さらざんまい』について語りたい⑥レオマブの2人

幾原邦彦監督作品のオリジナルアニメ『さらざんまい』について、一稀を軸に1〜6話を、燕太を中心に7話を、そして前回は誓と悠の久慈兄弟を軸に8・9話を語ってきました。

残るはあと2話となりましたが、今まで語らずにきている重要なキャラクターが2人います。新星礼央と阿久津真武。今回はこのレオマブの2人を軸として、10話を語りたいと思います。

 

レオとマブ

新星礼央(レオ)と阿久津真武(マブ)は、一稀たちの住む浅草の川嘘交番に勤務する警察官です。しかしそれは彼らの表の顔でしかありません。1話から登場し、一稀たちが戦ってきた様々なカッパゾンビたち。それらを生み出していたのはレオとマブ、彼ら2人なのです。

「裸で盗んだ箱を被りたい」をはじめ、普通の常識では理解できない所まで行き過ぎてしまった欲望を持つ人たち。

 

欲望か。愛か。

 

「欲望」と判定を受けた人間は、カッパゾンビに変えられてしまうのです。では「愛」と判定された場合はどうなるのかというと、6話で見られるように巨大なシュレッダーにかけられてしまいます。欲望であろうと愛であろうと、彼らに目をつけられてしまえばおしまいだという、非常に恐ろしい相手です。

浅草で起きた変死体事件の捜査本部での会議中、事件の被害者が紹介されるなり「それは俺らがやったのさ」というレオの口上から始まる回想。事件の前夜、カッパゾンビ予備軍として目をつけていた人間を、取り調べと称して交番に連れてきていたレオとマブ。彼らによってカッパゾンビに変えられた人間が、変死体となっていたのです。

レオとマブがカッパゾンビを作り出す時に歌う「カワウソイヤァ」という曲。カッパ姿の一稀たち3人がカッパゾンビと戦う場面で突然歌い出す「さらざんまい」の歌もかなり驚きましたが、この「カワウソイヤァ」の歌を初めて見たときの衝撃の強さはそれを軽く上回り、一体何が行われたのか理解できないほどでした。

帽子を高く放り投げ、警察官の制服のまま、不思議な動きで歌い踊るレオマブの2人。交番の壁がパタリと倒れ、エレベーターのように移動していく彼らの背景には、スカイツリーの足元で欲望の詰め込まれたであろう大量の段ボール箱が運び込まれてカッパゾンビが生まれていく様子が映し出されていきます。そして曲の最後でのレオがマブの胸から機械の心臓を取り出す決めポーズには、官能的な雰囲気さえ漂うのです。

 

メンテナンス

そんなレオマブの2人が置かれている状況は、回を追うごとに少しずつ明らかになっていきます。

彼らがカッパ王国の敵であるカワウソ帝国の手下らしきこと。裏切りは死を意味すると脅しの言葉を掛けられるような、弱みを握られているだろうこと。そして彼ら2人の間には何かしらの軋轢がありそうだということ。

金髪に褐色の肌をした、表情豊かで少しチャラチャラした印象のレオ。色白でメガネをかけて、口数も少なくいつも沈着冷静な印象のマブ。全く正反対の2人ですが、彼らの日常の様子を伺い知ることができるTwitterのアカウントがほのぼのと仲の良さそうな雰囲気であったこともあり、さすがに息がピッタリだな〜などと思いながら、私はその様子をのんきに見ていました。

しかし、一稀たちがカッパゾンビを倒すことを失敗してしまう5話で転機が訪れます。エンディング曲が終わった後、いわゆるCパートで、私たちはレオとマブの関係の新たな一面を見ることになったのです。

「これでようやく持ち場を離れることができる」と言うマブに対して、レオは「またメンテナンスか?」と嫌味な口調で返します。

「カワウソイヤァ」の曲の最後でレオが機械の心臓を取り出していることから、マブが生身の体ではないということは、早い段階から察することができました。彼にとってはメンテナンスが必須であることは明白で、そのことをレオも分かっているはずです。

にも関わらず、レオは「気持ちいいことが好きなだけなんじゃねえの」ときつい口調で揶揄します。レオにとってマブがメンテナンスに行くことは、許しがたいことであり、苛立ち以上の感情を抱いていることを感じさせる場面です。

レオはマブがメンテナンスを受けている間、独断で春河を誘拐します。春河と交わす会話の中で出てくる「裏切り」という言葉。レオがそこまで嫌悪するマブのメンテナンスの様子は、7話の冒頭で描かれます。

人形焼を上手く焼けないマブの裸の体に、微調整と称し手を這わせるカワウソ。「早く望まれた自分になりたい」と言うマブに対して、カワウソは「哀れで美しい私の人形」と彼を表現しています。マブの必死さが感じられると同時に、カワウソ側には彼の望みを叶えるつもりなど全く無く、ただ彼を弄んでいるだけだということが伝わってきます。それでもマブはカワウソの行うメンテナンスにすがらなければなりません。

 

個人の感情など優先して何になる

 

メンテナンスに向かう時のマブの言葉です。彼には自分の感情よりも優先したいことがあるのです。

 

マブの心臓

かつてレオマブの2人は、ケッピの臣下でした。なぜ今カワウソ帝国の手下となってしまったのか。それには大きな理由がありました。

カワウソ帝国によるカッパ王国殲滅時に、崩れ落ちる建物からレオを庇い、マブは瀕死の重傷を負ってしまったのです。その後、レオが目覚めたのは見知らぬ場所。そしてそこには白衣姿のカワウソが立っていました。

カワウソ帝国の技術長官と名乗るそのカワウソは、マブが既に手遅れであったとレオに告げます。静かにただ横たわるマブの姿を見せられて泣き崩れるレオ。カワウソはそんな彼に向かって、相方を生き返らせたいかと問いかけます。

 

もう一度マブの声が聞けるなら何だってする

 

大切な人を喪ってしまった人間が、こう願って何が悪いでしょうか。カワウソ帝国の技術長官はレオの願いを叶え、マブを生き返らせました。もちろん姿も声も彼そのもの。願いは叶ったはずだというのに、自分の知っているマブではないと、レオは険しい口調で拒絶します。なぜなら対面する前、彼は衝撃の場面を目撃していたのです。

ベッドの上で重なり合う2人の姿。マブが生き返ったことを知り喜びに声を震わせるレオの目の前で、マブはカワウソを受け入れていました。にも関わらず、感情の全く見えない表情で平然としているマブ。メンテナンスに行くことをレオが嫌悪し、裏切りと言う理由です。

それでもレオはマブの機械の心臓を動かし続けるため、カワウソ帝国の陰謀に加担することを選びます。レオにはマブを2度殺すことなどできなかったのです。

 

レオの涙

敵国の者がただ善意でレオの願いを叶えるわけがありません。彼が心から望んだ通りに、マブは生き返りました。しかしその胸に埋め込まれた機械の心臓、それはレオに愛の言葉を告げると爆発してしまう爆弾にされていました。

「私はレオが嫌いだ」

長い逡巡の末、マブは自分の気持ちとは真逆の言葉を口にします。これからも変わらずレオのそばにいたいという、ただ1つの願いを叶えるために、マブは自分の心を殺すことを決めたのです。

レオマブの2人が深く想い合っていることは、カワウソ帝国で目覚めたときに、まず最初に互いの名前を口にしたことからも十分に伝わってきます。マブにとってその決断は、どれほど辛いものだったでしょう。

しかし、そのことを知らないレオに伝わるはずもありません。生き返ったマブは冷たい表情のまま。姿形が同じ分だけ、記憶の中にいるかつてのマブとの差をより一層強く感じ、レオは何度も「人形」と形容してマブに苛立ちをぶつけます。しかし語る言葉を奪われたマブは、それを受け止めることしかできません。そんなマブをレオは偽物だと断じ、「本物のマブ」を希望の皿で取り戻そうとするのです。

そばにいられれば、それだけでいい。

マブはレオと共にいるために想いを押さえ込み、ただ弄ぶようなメンテナンスを受けてきました。しかしそばにいるだけでは心が通じ合うことなど叶うはずもなく、むしろ自分の存在がレオを傷つけてしまうばかり。

そのことを思い知ったマブは、自らカッパゾンビとなることを選びます。心を閉ざした偽りの姿のままレオのそばにい続けることよりも、たとえ自身が消えてしまおうとも、たった1つの真実をレオに伝える事を彼は望んだのです。

帝国のお人形と揶揄されてもなお消えない想いを、ただレオに伝えたい。

それはマブが一方的に望んでいることであり、欲望という判定を受けてしまいます。カッパゾンビに姿を変えたマブの真意が理解できずにいるレオはカッパになり、真実を知るためマブの尻子玉を抜きます。

そして漏洩する秘密。

マブは本当の気持ちを伝えることができないという条件をのみ、自分のそばにいる事を選んだこと。感情を表すことは無くても、マブの胸の中には自分に対する変わらぬ想いが消えずにあること。

苦しんでいたのは自分だけではなくマブも苦しみ傷ついていたことを、レオは漏洩によって初めて知ったのです。

 

今までもこの先も、
ずっとお前を愛している

 

レオの制止を振り切り、マブは本当の気持ちを伝えます。その言葉を告げるマブの表情はあまりにも穏やかで、彼の内に秘めていたレオへの想いがどれほど深いものだったのかを感じずにはいられません。

ようやく望み通りに本当の気持ちをレオに伝えられたマブ。しかし尻子玉を抜かれたカッパゾンビである彼は、この世界から存在自体が消えてしまいました。

すぐさまマブを生き返らせるため、レオは一稀の持つ希望の皿を奪おうとします。悲しみのあまり、まるで迷子の子供のように泣きながら銃を闇雲に撃ちまくるレオ。しかし彼の記憶からマブの存在は消え、その姿も名前も思い出すことができなくなってしまいます。悲しみは消えないのに、レオは自分が誰を失い悲しんでいるのかすらも分からなくなってしまったのです。戸惑うレオ。彼は悠に撃たれ、「胸が痛え」と呟き倒れてしまいます。マブが存在を失ってでもレオに伝えたいと思った愛の言葉の重さ。1人残されたレオが感じた絶望感。マブもレオも、確かに互いを深く愛していました。しかし彼らが愛し合うことはもう叶わないのです。とても切ない場面で、目が潤みました。

しかし、『さらざんまい』はそれだけでは終わりませんでした。

レオマブの日常を伺い知ることのできたTwitterのアカウントの投稿が、次々と消えていったのです。不穏な予感はしていたんです。でも携帯を握りしめてTwitterに感想を呟きつつリアルタイムで放映を見ていた私は、彼ら2人の呟きが容赦無く消えていくという現象を目の当たりにし、想像を超えたその衝撃に体が震えるのを抑えられませんでした。

 

 

レオとマブの呟きが消えていくのをただ見守るしかできず、やっとのことで呟いたのがこの言葉ということからも、私がその時に相当なショックを受けたのがわかっていただけるかなと思います。

レオもマブも、『さらざんまい』というアニメの作品の中のキャラクターにすぎません。存在が消えるというのも、作品の世界の中での出来事です。しかし2人が存在していた証が、アニメの中だけでなく現実世界からも跡形も無く消えていくのを目撃することで、存在が消えてしまうということの残酷さを自分の身で痛いほどに感じさせられたのです。

今もなお、レオとマブのアカウントは真っ黒いアイコンのままそこに存在しています。一つの呟きすら残っていないそのアカウントを見るたび、胸にチクリと微かな痛みを感じるのです。

次回は最終話である11話について語りたいと思います。

 

前回は誓と悠の久慈兄弟を中心に『さらざんまい』8・9話を語っています。興味を持っていただけましたら、こちらからどうぞ。

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