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マンガ、アニメ、ゲームなど好きだと思ったものについて無節操に書き綴ります

珠玉の短編集『プリズムの咲く庭』について語りたい

皆さんは海島千本先生をご存知でしょうか。以前はアニメーターとして活躍されており、現在はイラストレーター・漫画家として活動されている方です。

この方の描かれる絵はとても美しく、柔らかで優しい線、鮮やかな色彩に、作品を見るたびにいつもうっとりとしてしまいます。

『千本の花束』という作品集も出されていますが、今回は海島千本先生の短編集『プリズムの咲く庭』について語りたいと思います。

 

プリズムの咲く庭 海島千本短編集 (BUNCH COMICS)

プリズムの咲く庭 海島千本短編集 (BUNCH COMICS)

  • 作者:海島千本
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/03/09
  • メディア: コミック
 

 

色とりどりの物語たち

『プリズムの咲く庭』には、10編の短編が収められています。それぞれどんな話かというと…

①『髪はおんなの、』
癖っ毛に悩む小学生の女の子のアコ。学校で男の子にチリチリとからかわれて悔しがっていると、年齢の離れた姉が髪を結ってくれ、可愛い髪飾りをつけてくれます。いつもからかってくる男の子がアコのその姿を見て…

アコちゃんのお姉さんが出してきてくれた髪飾りがどれも可愛らしくて迷いそうです。その中からアコちゃんが口を尖らせてパッチン留めのものを選ぶのがまた可愛いんです。

 

②『ゆるりと海とときどきイルカ』
陸にある人間の学校に転校した人魚の女の子のゆるり。友達は優しいけれど話題が噛み合わず、なかなか仲良くなれなれずに落ち込んでしまいます。そんな時、一人のダイバーと出会って…

学校の友だちにとは話が盛り上がらず落ち込んでいたゆるりちゃんですが、ダイバーの少年とはお魚の話で自然と盛り上がり、表情も生き生きしていくところが好きです。

 

③『やがて咲くラミウム』
有名な旅絵師の青年が次に描くことに決めたのは、舞踊団の雑用係のジラ。踊りを描きに来たのにジラを描くなんてと皆が不思議がるのも意に介さず、絵師はジラが踊る姿を描いていきます。そのスケッチを見た彼女は…

好きなことを諦めていたジラが背中を押してもらい、本当の姿を認めてもらう物語。踊り子さんたちの反応がうれしいです。

 

④『ミルフィーユの日々』
執筆に行き詰まってしまった小説家の男性が森に出掛けると、そこでバイオリンを弾く少女に出会います。お世辞にも上手とは言えない腕前だった彼女。しかし再び森に行った小説家は、少女の楽しそうに弾く姿に、書くことが楽しいと思っていた自分の幼い頃を思い出し…

無声映画のようにセリフが一切無い作品です。ボロボロだった小説家の表情が少女と出会って変化していきます。好きだ、楽しい、そう思えるからこそ、巧くもなるし良い作品を生み出せるんですよね。

 

⑤『魔女の館』
館の主人の息子である少年に甲斐甲斐しく仕えている侍女のヘレン。朝起きればヘレンが優しい笑顔でお茶を出してくれ、いつも天気が良く、そして他の誰にも出会わない。違和感を感じた少年が夜に部屋を抜け出し見たものは…

夜の闇、ヘレンの黒いメイド服、黒い髪。何度もヘレンは少年に「あなたを守ります」と口にします。その言葉がとても悲しく感じられました。

 

⑥『僕のソフィア』
自動記録型学習式ロボットのソフィアは、マスターである少年の成長を見守ってきました。しかし戦争が始まり、17歳になった少年は戦場へ駆り出されてしまいます。マスターの少年を救うためソフィアは自らの体を改造しながら進んでいくのですが…

まるで小型犬のような可愛らしいソフィアが、マスターを救うために姿を変え進んでいく一途さや勇敢さに、胸が詰まります。

 

⑦『Date with a CAT in Dubrovnik』
一緒に旅行をするはずの相手が飛行機の遅れのため来ず、異国で一人過ごすことになった女性。そんな彼女の元に寄ってきた一匹の猫。誘うように歩き出した猫の後を追ってみると…

とにかく猫が可愛いんです。こんな猫に出逢いたいと切に願ってしまいます。

 

⑧『雨の日』
高校生のみさきは幼なじみの少年に淡い思いを寄せていますが伝えられないまま。少年に「かわいい」と言われて、思わず雨の中飛び出してしまったみさきに少年は…

鈍いのはどっちだよって感じで、みさきちゃんも幼なじみの少年も、二人とも可愛いです。声を聞くと落ち着くって、それってとても大事だななんて思いました。

 

⑨『妖精の耳』
天気の良いある日、丘で昼寝から覚めると妖精の耳が生えていたマルメロは、母に言われて魔女のヴィヴィアンの家を訪れます。この耳が生えてからキレイな声が聞こえるようになったと言うマルメロにヴィヴィアンは…

妖精の耳が生えるという設定にまずビックリ。ヴィヴィアンがマルメロに淹れてあげた「夜咲きスミレと星入り紅茶」はきっと紫色でキラキラと輝いているのだろうなどと想像しています。どんな味か飲んでみたい!

 

⑩『続・髪はおんなの、』
姉に髪を結ってもらい登校したアコ。髪飾りを友だちに褒められ、アコも気に入っていたのですが、学校の帰りにかくれんぼをしているうちに失くしてしまい…

全力でかくれんぼしているアコちゃんが可愛いです。

 

この短編集に収められた作品はそれぞれとても魅力的で優しく、題材も幅広くて読んでいて全く飽きません。まさにタイトルの通り「プリズム」を通して放たれた光のように感じます。

どの物語も何度でも繰り返し読み返したくなるのですが、その中でも私が一番気に入っている作品は『妖精の耳』

魔女のヴィヴィアンの物が溢れんばかりの部屋の様子、ウサギのような狐のような大きな妖精の耳が生えてケモ耳少年(!)になったマルメロの可愛らしさ、そしてマルメロが耳のおかげで聞くことができるようになったキレイな声の主である妖精たちとの交流など、どこを切りとってみても素敵なのです。マンガなのでモノクロで描かれているにも関わらず、鮮やかな色彩を感じさせてくれる、この本の出色の存在です。ぜひ皆さんにもこの物語の世界をぜひとも堪能して欲しいなと思います。

 

前回は古矢渚先生の商業BL『君と夏のなか』について語っています。興味を持っていただけた方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com