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『ID: INVADED イド:インヴェイデッド』について語りたい②バラバラの世界

あおきえい監督・舞城王太郎脚本のオリジナルSFミステリーアニメ『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』を、皆さんはご存知でしょうか?

前回はこの作品との出会いであるオフィシャルトレーラーの映像やこの作品の概要について語りました。今回から、いよいよ本編についてネタバレしながら語っていきたいと思います。

JIGSAWED

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  • 発売日: 2020/01/13
  • メディア: Prime Video
ID:INVADED イド:インヴェイデッド Blu-ray BOX 上巻

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第1話・第2話【JIGSAWED】

『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』は1月5日の放映初回に、第1話・第2話を続けて放映しました。なんだか太っ腹だなぁなんて思って見てたのですが、これには大きな意味があったのです。物語が続いているということもあるのですが、第2話を見終えると第1話でのキャラクターたちのセリフ全てに意味があって無駄なものは一切無いことがわかり、この作品の構成の巧みさに衝撃を受けると思います。この作品を観ていただく際には、ぜひともまずは第1話・第2話を間をおかずに連続して観ていただきたいと思っています。

 

『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』は、男がベッドで目覚める所から唐突に始まります。彼の目の前には真っ白な空間。それを確かめるように男は手を伸ばしますが、その腕は、ブツンッブツンッと音を立ててたちまち輪切り状に切断されていきます。

 

俺に何が起こったんだ? 何も思い出せない。
俺は誰だ? 俺は誰だ?

 

目覚めると自分の記憶が失われている上に理解できないような状況になっていてれば、誰でも取り乱してしまいますよね。しかし、彼はバラバラになった腕で自分の意思通りに動かせることに気づき、すぐに冷静さを取り戻します。そしてバラバラになった自身の体を繋げぎ合わせながら、この状況について推理を始めるんです。

津田健次郎さんの推理を繰り広げるひとり語りはこの作品の特徴のひとつ。その語りはとても心地良く耳に入り、アニメを見ているのに、まるで演劇を見ているような不思議な感覚にさせられます。

白い空間に銀河の星のようにバラバラになった街や家が漂っている世界で、男は自分以外の人間の姿を見つけますが、それは胸をナイフでひと突きされた白いワンピース姿の少女の死体でした。

 

カエルちゃん…

 

なぜか口をついて出てくる彼女の名前。その瞬間、自分の名前と「名探偵」としての使命を思い出した酒井戸は、すぐさまカエルちゃんの死に隠された謎を解くために行動を開始します。カエルちゃんの死体が彼を「名探偵」にさせるスイッチになっているんですね。

そんな酒井戸の行動を、百貴をはじめとする「井戸端」のメンバーがイドの外から見守ります。ミズハノメという装置によって作り出されたイドの世界に酒井戸を投入し、彼を通してイドの主である殺人犯についての情報を収集し、逮捕に繋げるのが彼らの仕事。彼らにとって不条理な殺人鬼のイドの世界を目撃することが日常なのです。

今回、酒井戸が投入されているのは、電動ドリルで頭に穴を開けて殺す連続殺人犯「穴あき」のイドの世界。酒井戸がここで見聞きしたあらゆるものから、井戸端のメンバーは「穴あき」を特定できる情報を解析していくのです。この時の彼らが交わす会話は、このイドについての推理であると同時に、私たちにイドの世界がどんなものであるかということを、私たちに無理なく理解させてくれます。

井戸端の捜査の様子を見ていた新人外務分析官の本堂町は、初めて目にするイドに素直に感心し、この中に入ってみたいと思わないかと、上司の松岡に尋ねます。純粋な好奇心からの屈託のない質問ですが、それを聞いた松岡は非常に苦々しい表情をして吐き捨てるように言い放ちます。

 

連続殺人鬼の殺人衝動そのものの世界だぞ、イドってのは。そんなところで活躍する名探偵が、まともなはずがねえだろ。

 

ミズハノメの作り出したイドの中に名探偵として入ることができるのは、殺人を犯した者だけ。つまり、連続殺人事件の容疑者のイドの世界で犯人を突き止めている酒井戸は、自らも殺人を犯した人間だということです。しかし、イドの中にいる酒井戸の印象は凶悪な殺人犯とは結びつかないんですよね。私たちに不穏な感情を持たせたまま進んでいく物語。

井戸端メンバーから犯人に繋がる場所の情報を得て、すぐさま外へ飛び出していく松岡と本堂町。酒井戸はイドの世界で、井戸端のメンバーと外務分析官は現実の世界でそれぞれ捜査を行うという明確な役割分担がされているんですね。犯人の活動圏内に到着した本堂町たちは「穴あき」こと富久田保津の自宅へと突入します。

一方、酒井戸はカエルちゃんの死体以外のこのイドの世界の住人たちに出会います。彼らも体のどこかしらがかけた状態で、井戸端スタッフの照合により「穴あき」による被害者及び誘拐された人たちであることが判明します。彼らはこの異常な状況に何も感じていない様子。しかし「名探偵」である酒井戸は違います。

 

俺は世界のあり方すらも疑っていい

 

すべてがバラバラな世界を駆けていく酒井戸。漂う町のパーツをパズルのように次々組み合わせていきます。この時の酒井戸のアクションはMIYAVIさんの曲と相まって、とてもスタイリッシュなんです。そして酒井戸は、この世界では欠けた部分が重要な意味を持つと気づきます。欠けているパーツが無いカエルちゃんの死体は、この世界ではむしろ不自然なのです。

 

そこにいる犯人。カエルちゃんから離れろ!

 

カエルちゃんの死体に身を隠していたことを酒井戸に見抜かれ、逃走する富久田。しかし酒井戸の前に、赤いフロックコートにシルクハットを被りステッキを手にした男が立ちはだかり、ます。その男の名は「ジョン・ウォーカー」。「穴あき」以前に逮捕した連続殺人犯たちのイドにも現れていた謎の存在であり、「連続殺人鬼メーカー」とさえ言われている男の出現に、井戸端のメンバーたちの間に動揺が走ります。人員をすぐさま「ジョン・ウォーカー」の情報収集に振り分ける百貴。その様子を見ても、その謎の男の存在を井戸端メンバーがどれほど危険視しているかが感じられます。

しかしその時、現実世界で拉致された本堂町に危機が迫っていました。警察を欺き逃走した富久田は、本堂町を拉致したのです。電気ドリルを突きつけながら拘束した本堂町を脅す富久田。この状況で自分の居場所を井戸端メンバーに知らせるため、本堂町は自ら富久田のドリルで頭に穴を開けにいきます。彼女の頭にドリルが刺さった瞬間、形成される本堂町のイド。自殺という自分に向けられた殺意でも井戸はできます。本堂町はそのイドを井戸端で解析してもらおうとしたのです。あまりに危ない賭けです。本堂町の危うさが垣間見られます。

百貴によって、「穴あき」のイドから間髪おかず本堂町のイドに投入される酒井戸。そこでは木の枝に縄をかけてカエルちゃんは首を吊って死んでいます。明らかな自殺です。その死に解くべき謎は無く、カエルちゃんと共に巨大なドリルによって貫かれてしまう酒井戸。

 

酒井戸、死亡!

 

事務的に報告される酒井戸の死。井戸端のメンバーは慌ただしく本堂町に繋がる情報を吸い上げ、彼女の監禁されている場所を特定。「ジョン・ウォーカー」についての情報は惜しくも得られませんでしたが、富久田保津を逮捕、本堂町を無事救出して捜査を終えることができました。

緊張感が解け、ほっと息をつく井戸端メンバーたち。功労者を労うと階下の部屋へと降りていく百貴。その部屋で百貴に鳴瓢と名を呼ばれたその男こそが、ミズハノメのパイロットであり、酒井戸の本体。ここで初めて酒井戸がこの鳴瓢秋人(なりひさご あきひと)という男のアバターであることがはっきりと示されます。

鳴瓢はイドの世界の中で「名探偵 酒井戸」として共に捜査した仲間だとも言えますが、百貴はかなりの距離を保ったまま近づこうとはしません。殺人者のイドに入れる名探偵自身も殺人者。百貴は刑事であり、鳴瓢は殺人を犯した囚人なのです。決して距離を縮めることは出来ないんですね。それでも百貴は鳴瓢を気遣うような言葉をかけます。

颯爽としていた酒井戸と同じ声で、ボソボソと喋る鳴瓢。事件捜査について振り返りを語り合う彼らのやりとりはとてもスムーズで、このような会話を過去に何度もしているのだろうと察せられます。

鳴瓢はイドの中で死ぬことにも慣れ、カエルちゃんの死体に会うのは死んだ娘への面会のようだと百貴に語ります。その言葉から、鳴瓢がカエルちゃんの死体を利用して身を隠していた富久田に対して怒りを感じていると気づく百貴。

 

二度と誰かを自殺に導こうとなんてするな

 

説得するような百貴の言葉に対し、鳴瓢は挑発的にふてぶてしい口調で答えます。

 

二度と? 五度と、の間違いじゃないですか?

 

捜査に協力しているとはいえ、彼は殺人犯。鳴瓢が殺人の他にも、酒井戸としてイドに潜った連続殺人犯を、今までに4人も自殺教唆で死に追いやったことが暗に提示されます。酒井戸である時の彼と殺人犯の顔を見せた彼との印象の落差に愕然とさせられると同時に、以前の2人の間にはあったであろう気安さが、今は消え失せてしまっているのだと感じさせられます。

壁に何枚もの家族写真が貼られた独房で、鳴瓢は本堂町のイドで死んでいたカエルちゃんを思い出します。ドリルに貫かれるのは自分だけで良かったのだと悔やむ鳴瓢。

「名探偵」としての頭脳明晰で冷静な彼と、暗い目をした殺人犯としての彼と、そしてカエルちゃんを救えないことを悲しむ彼と。どれが「鳴瓢秋人」の本当の姿なのか。

たくさんの謎が散りばめられた物語が幕を開けたのです。

酒井戸

次回は『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』の第3・4話について語っていきます。

 

前回は『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』との出会いについて語っています。ご興味を持っていただけた方は、こちらからどうぞ。

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