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『ID: INVADED イド:インヴェイデッド』について語りたい④落下と環

あおきえい監督・舞城王太郎脚本のオリジナルアニメ『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』。前回は第3話・第4話について気合入れて語りました。今回は第5話「落ちる世界」と第6話「円環の世界」の2つのイドについて、ネタバレしながら語りたいと思います。

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ID:INVADED イド:インヴェイデッド Blu-ray BOX 上巻

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第5話【FALLEN】/第6話【CIRCLED】

第4話は「墓掘り」の模倣犯は逮捕したものの被害者を助けられず、本物の「墓掘り」は野放しのままという後味の悪い結末となりました。第5話はその続きとなります。

犯人の大野宅に捜査に行っていた本堂町は、犯人逮捕に集まってきた野次馬たちの中に、死んだと思われていた「穴あき」の被害者である数田遥を見つけます。

 

数田さん。良かった、無事だったんですね!

 

声を掛けた本堂町に、数田は無言のまま唐突にキスをして、逃げるように立ち去ってしまいます。

明らかに野次馬とは違う様子だった数田。なぜ彼は保護されるべきなのに警察の人間から逃げる必要があったのか。推理を進めていく本堂町。数田は模倣犯の確認をしに来ていたのではないのか。そこで警察の人間である本堂町と出くわし、口封じに殺するのではなくキスをして逃げた。松岡と共に数田と遭遇した場所に戻った本堂町。そこで殺意が検知され、数田が本当は本堂町を殺そうとしていたと断定。

数田は「穴あき」によって頭に穴を開けられた影響によって、数田の中で殺人衝動と愛情表現が入れ替わってしまっていたのです。6人も生き埋めにして殺しておきながら、殺意の思念粒子が検出されてこなかった理由もこれで説明がつきます。

被害者から事件の容疑者へ。早速、酒井戸が数田のイドに投入されます。空高い雲の上に浮かぶ一軒の家に向かって真っ逆さまに落下していく酒井戸。その家はまるでゴッソリとショベルでえぐったように、敷地の地面ごと空に浮かんでいるのです。

家の中で、酒井戸は大量の血液ごと浮かんでいるカエルちゃんの死体を見つけます。カエルちゃんの死体の下を覗き込むと、そこには少女が1人怯えたように体を丸めて身を隠していました。

 

すごい怖いオバケがいるんです

 

少女は酒井戸の姿を見ても、カエルちゃんの死体の下から動こうとはしません。犯人はカエルちゃんの死体の下に少女を隠して、オバケを倒しに行ったのです。数田の犯行が、好意を寄せる女性を守るためであることが感じ取れますね。

少女の言う、オバケと犯人を探しに行き、抉られた地面の裏側で「ジョン・ウォーカー」が少年の体を切り刻んでいる場面に遭遇する酒井戸。少年を助けようと酒井戸は殴りかかりますが、「ジョン・ウォーカー」はまたも逃げてしまいます。まるで、酒井戸に自分の存在を認識させるためだけに現れているかのようで、「ジョン・ウォーカー」にはまるで目的が見えず不穏さばかりが残ります。

少女の元に戻り、少年が殺されてしまったことを告げる酒井戸。この少女の顔が、「墓掘り」のこれまでの被害者たちの顔のパーツを組み合わせたものだと判明。被害者たちが現れたことで、百貴は数田を「墓掘り」と認定します。現実世界で動き出す外部分析官たち。

数田のイドので見つかった写真をもとに、中学時代の同級生である伊波七星宅を訪れた松岡と本堂町。疎遠だったと言いながら、数田に関する情報を把握している伊波。本堂町は数田に対して恋愛感情があったかを伊波に尋ねます。

 

本堂町さんも分かりますよね。相手の子が自分のこと好きなのかもな、みたいなの

 

事件捜査のために来た警察の人間からの質問だというのに、本堂町に「可愛い」と繰り返し、まるで友人との恋愛トークのように笑いながら喋る伊波。本堂町とは若い女性同士だからということもあるのかもしれません。しかし彼女の様子は、状況が分かっていないどころか、むしろ数田のことを喋りたくて仕方ないようにさえ見えるんですよね。普通の感覚の人間なら、警察が聴取に来たとなれば緊張しつつ誠実な受け答えをするのではないかと思いますが、全くそんな気配すらも無い伊波の態度に、本堂町ならずともイラッとしてしまうのではないでしょうか。こんなネットリした女性は苦手だなぁと思いつつ見ていた、その瞬間、本堂町が爆弾を投下したんですよ。

 

私、数田遥とキスしちゃったんです。

 

本堂町の言葉に表情が変わる伊波。本堂町は伊波に拳銃を向けます。「墓掘り」の主犯は伊波、実行犯は数田。伊波は自分に好意を寄せている数田を利用して、何人もの人間を殺させていたのです。

拳銃を突きつけられたまま、伊波はプレゼントを見せびらかすように被害者たちを映している映像をPCに表示してみせます。自分のために動いてくれると伊波が確信している通り、身を隠していた2階から包丁を松岡に投げつけ、本堂町に襲いかかっていく数田。しかし本堂町にナイフで胸を深く刺された彼は、最後に彼女にキスをして絶命してしまいます。

 

思念粒子、ゲット

 

本堂町は自分が数田を殺したことを全く気にかけることもせず、殺意を検知したワクムスビを確認。伊波に対し、冷たく言い放ちます。

 

そういうのって何なんですか。プライドとは言いませんよね

 

イドの世界で「ジョン・ウォーカー」に体を切り刻まれて腹から下を失ってもなお、数田は庭の端から家の中にいる伊波を見守り続けています。酒井戸は2人にそれぞれ声をかけますが、このままでいいと頑なに近づくことを拒み、彼らはただ見つめ合うだけ。これ以上何の進展も無いこの数田のイドから、酒井戸は排出されます。

「ジョン・ウォーカー」がイドに現れた連続殺人鬼は、数田で6人目となりました。真っ赤なフロックコートにシルクハットを被り、ステッキを持つという派手な服装でありながら、目撃者も出さずに連続殺人鬼のみにターゲットを絞って接触することなどできるのか。そして、どうやって無意識の部分に働きかけて彼らを連続殺人鬼に仕立てるのか。

そこで「ジョン・ウォーカー」がミズハノメと同じような装置を使えば人の無意識にアクセスできるとして、大胆にも井戸端スタッフによる内部犯行もある得るとまで言い出す若鹿。そんな物騒な憶測も口にできるほどに井戸端メンバーの信頼関係はしっかりしたものであるのでしょう。しかし、彼らが事件捜査に使っているミズハノメという装置は、開発者の白駒が失踪しており多くの部分が謎のまま。「蔵」という捜査組織自体も、何だか急にキナ臭くなってきます。

逮捕された伊波の自供により、生き埋めにされた「墓掘り」の被害者たちの遺体は全て回収されます。

 

だってカメラで様子が見られないんじゃ、死んでてもらう意味が無いじゃないですか。

 

伊波は死んだ体が朽ちていく様子に強い関心があったのだと感じさせる、異様な言葉。

そんな伊波のイドは、向かい合わせのボックス席の並ぶ列車でした。暗い夜を走る列車の中で、カエルちゃんは血を流し座席に座った状態で死んでいます。床には彼女を刺したナイフが転がり、別の車両へ血の足跡が続いています。酒井戸は逃げた犯人のものと思われるその足跡を追って車両を移動していきますが、どの車両に行っても乗客はいつ死んだか分からないほど時間が経った死体ばかり。そして酒井戸は足跡を追い続けているうちに、再びカエルちゃんの死体のある車両に再び戻ってきてしまいます。この列車は、先頭と最後尾が繋がった輪の状態でグルグルと回り続けていたのです。

 

おじさんのこと待ってたの

 

酒井戸に声をかける少女。それは中学生の姿の伊波でした。彼女の手には血のついたハンカチ。酒井戸は伊波にカエルちゃんを殺したのかと尋ねます。しかし伊波はカエルちゃんについて、特に関心も無く名前すらも知らない様子。伊波はカエルちゃんを殺してはいないと断定し、酒井戸は彼女の向かいの席に腰を下ろします。

伊波の母親は、彼女が中学生の時に電車に飛び込み自殺しました。今このイドで酒井戸たちが乗っているこの列車こそ、伊波の母親を轢いた列車なのです。

 

ねえ、この電車いつ次の駅に着くか知ってる? お母さんが迎えに来てると思うんだけど

 

伊波は酒井戸に尋ねます。しかし彼女の母親はこの列車が通過した踏切から飛び込んでおり、駅にいるはずはありません。そして円環状のこの電車が、次の駅に到着することもありません。伊波は母親が次の駅で待っていると信じたまま、永遠に自分の母親を轢いた列車に乗り続けているのです。

伊波の母親の飛び込んだ踏切には「墓掘り」の被害者たちの姿。彼女は人間が死にゆく様子を何度見届けてもなお、母親の死を受け入れられずにいたのでしょう。そんな彼女の心に、数田は寄り添おうとしたのかもしれません。伊波のイドにも姿を現した「ジョン・ウォーカー」。奴はそんな彼らの心につけ入り、2人を連続殺人鬼に仕立て上げたのです。

伊波と通路を挟んだ席には、同じく中学生の姿で数田が静かに座っていました。彼らは顔を合わせようとはせず、列車の窓に映るお互いの姿を見つめているばかり。酒井戸が促しても、決して近くの席に来ようとはしません。

 

ずっとこのままでいいの

 

伊波と数田は、この先も決して近づくことはないでしょう。なぜなら彼らは、永遠にどこにもたどり着くことのない列車に乗っているのですから。

死んでいるカエルちゃんの向かいの席に戻った酒井戸。この列車がグルグルと同じ所を回っているということを伝え、酒井戸を伊波と数田の席にまで誘導するためだけにカエルちゃんの死は存在します。血を流して死んでいるカエルちゃんの前に跪き、彼女の細い手を取る酒井戸。その頬を伝い落ちる涙。

 

君は死ななくていいんだ。死んで欲しくない。 俺は、君を助けたいだけなんだ。

 

救いたいとどんなに強く願っても、酒井戸はカエルちゃんの死体としか会うことができません。カエルちゃんは死ぬことによって酒井戸を目覚めさせ、真実に導く役割を持っています。事件解決のため、酒井戸に真実を伝えるために、必ず彼女は死んでいなければならないのです。

自分の娘を亡くしている鳴瓢。彼はカエルちゃんに娘を重ね、現実世界では自分ができなかったことを、自分のもうひとつの姿である酒井戸に託しています。しかし、名探偵は謎を解くことはできても、人を救うことはできません。彼のその悲しみはどこに向けることもできないまま、この到着駅を持たない列車のように辿り着く先を失い、堂々巡りを続けるしかないのです。

この場面、演技に合わせて絵の方を修正したという津田健次郎さんの迫真の演技が、深く深く胸を突きます。

事件の幕が引かれ、本堂町は松岡と共に早瀬浦局長の元へ出向いていました。松岡の推薦により、「名探偵」として「ジョン・ウォーカー」の捜査の任務に就くこととなったのです。本堂町は松岡が推薦してくれたことに対して礼を述べますが、松岡が彼女を見る目は冷たいものとなっていました。

本堂町と伊波の2人を対比するような会話シーンでは、粘着質な伊波に対してサバサバとした本堂町に好印象を抱かせました。しかし、殺人犯とはいえ自分が刺し殺した人間を前にして、一切気にかけることをしなかった本堂町。伊波とも違う異様さには、薄ら寒いものを感じさせました。きっとその場にいた松岡も同じように感じたはずです。

「穴あき」のドリルで自ら頭に穴を開けた本堂町。普通なら自分から死ににいくことはできませんよね。彼女と行動を共にしていくうちに、まともなはずがないときっぱり断じた「名探偵」の資質が本堂町の中にあると確信した松岡。この自分の見立てが当たってしまったことは、松岡にとって決して嬉しいことではなかったでしょう。

そしてこの第6話のラストは、「ジョン・ウォーカー」が目をつけた殺人鬼たちを監視していたと思われるカメラが、鳴瓢の娘を殺した連続殺人鬼「対マン」の自宅からも発見されたという東郷の報告で終わります。この後、物語の焦点は、今まで「名探偵」として傍観者の立ち位置にいた鳴瓢自身へと移っていきます。

このラストの場面ですが、百貴はミズハノメのコックピットのある部屋から階段を上って、井戸端に戻ってきています。永遠にどこにも到着できずに回り続ける列車という、物悲しいイドの世界をもう少し見ていたいと言った百貴。「墓掘り」事件の捜査を終えた鳴瓢と百貴は、どんな言葉を交わしていたのでしょうか。ちょっと気になりますね。

次回は『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』の第7・8話について語っていきます。

 

前回は、第3話・第4話について語っています。興味を持っていただけた方は、こちらからどうぞ。

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