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『ID: INVADED イド:インヴェイデッド』について語りたい④落下と環

あおきえい監督・舞城王太郎脚本のオリジナルアニメ『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』。前回は第3話・第4話について気合入れて語りました。今回は第5話「落ちる世界」と第6話「円環の世界」の2つのイドについて、ネタバレしながら語りたいと思います。

JIGSAWED

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  • 発売日: 2020/01/13
  • メディア: Prime Video

 

第5話【FALLEN】/第6話【CIRCLED】

第4話の「墓掘り」の模倣犯は逮捕したものの、被害者を助けられず本物の「墓掘り」は野放しのままという後味の悪い結末となりました。

犯人の大野宅に捜査に行っていた本堂町は、犯人逮捕に集まってきた野次馬たちの中に、死んだと思われていた「穴あき」の被害者である数田遥を見つけます。

 

数田さん。良かった、無事だったんですね!

 

声を掛けた本堂町に、数田は無言のまま唐突にキスをして、逃げるように立ち去ってしまいます。

なぜ「穴あき」の被害者の数田があの現場に来ていたのか、なぜ本堂町にキスをしたのか、なぜ彼は保護されるべき警察の人間から逃げたのか。

明らかに野次馬とは違う様子だった数田。彼は単なる野次馬ではなく、模倣犯の確認をしに来たのではないか。犯人が警察の人間に出くわして逃げ場もなければ、口封じに殺そうと考えるのが自然だが、キスをして逃げた。それは「穴あき」によって頭に穴を開けられた影響によって、数田の中で殺人衝動と愛情表現が入れ替わってしまっているからではないか。

松岡と共に数田と遭遇した場所に戻った本堂町。そこで殺意が検知され、数田が本当は本堂町を殺そうとしていたと断定。6人も生き埋めにして殺しているにも関わらず、今まで「墓掘り」の殺意の思念粒子が検出されなかった理由もこれで説明がつきます。

被害者から事件の容疑者へ。早速、酒井戸が数田のイドに投入されます。空高い雲の上に浮かぶ一軒の家に向かって真っ逆さまに落下していく酒井戸。その家はまるでゴッソリとショベルでえぐったように、敷地の地面ごと空に浮かんでいるのです。

家の中に入った酒井戸は、畳の部屋に大量の血液ごと浮かんでいるカエルちゃんの死体を見つけます。酒井戸のマフラーや花瓶なども浮かんでおり、重力が弱くふわふわとした状態と分かります。カエルちゃんの死体の下を覗き込むと、そこには少女が一人怯えたように体を丸めて身を隠していました。

 

すごい怖いオバケがいるんです

 

少女は酒井戸の姿を見ても、カエルちゃんの死体の下から動こうとはしません。カエルちゃんを殺した犯人はたぶんそのオバケと戦いに行っている、という少女の話から推察するに、犯人はカエルちゃんの死体の下に彼女を隠して、オバケを倒しに行ったようです。数田の犯行が、好意を寄せる女性のためであることが感じ取れます。

少女の言う、オバケと犯人を探しに行く酒井戸。彼は抉られた地面の裏側で「ジョン・ウォーカー」が少年の体を切り刻んでいる場面に遭遇します。殴りかかる酒井戸をかわしてまたしても逃げてしまう「ジョン・ウォーカー」。まるで、酒井戸に自分の存在を認識させるためだけに現れているかのような「ジョン・ウォーカー」にはまるで目的が見えず、酒井戸を戸惑わせます。

少女の元に戻り、少年が殺されてしまったことを告げる酒井戸。すると少女は顔色も変えずこう言うのです。

 

じゃあ、お兄さんが代わりに私を守ってくれる?

 

この少女の顔は、「墓掘り」のこれまでの被害者たちの顔のパーツを組み合わせたものでした。イドに被害者たちが現れたことで、百貴は数田を「墓掘り」と認定。イドの中の家は数田の実家の離れであり、そこで見つけた写真は数田の中学時代のものということも判明。現実世界で外部分析官たちが動き出します。

数田の実家へ向かった分析官の西村。以前数田の家が営んでいたという醤油醸造所の樽にケーブルが設置されており、「墓掘り」の被害者が中に閉じ込められている可能性があると見て直ちにその樽を調べます。しかし中に入っていたのはガソリン。たちまち爆発が起こり、西村はその爆風と炎に巻き込まれてしまいます。全て「墓掘り」の仕組んだ罠だったのです。

一方、松岡と本堂町は数田の中学時代の同級生である伊波七星宅を訪れていました。友達というよりさらに疎遠だったと言いながら、数田に付き合っている女性はいなかったと情報を把握している伊波。「墓掘り」が恋愛感情を殺人衝動にすり替えて犯行をしていることから、本堂町は数田に対して恋愛感情があったかを伊波に尋ねます。

 

本堂町さんも分かりますよね。相手の子が自分のこと好きなのかもな、みたいなの

 

事件捜査のために来た警察の人間からの質問だというのに、本堂町に「可愛い」と繰り返し、まるで友人との恋愛トークのように笑いながら喋る伊波。本堂町とは若い女性同士だからということもあるのかもしれません。しかし彼女の様子は、状況が分かっていないどころか、むしろ数田のことを喋りたくて仕方ないようにさえ見えます。普通の感覚の人間なら、警察が聴取に来たとなれば緊張しつつ誠実な受け答えをするのではないかと思いますが、全くそんな気配すらも無い伊波の態度に、本堂町ならずともイラッとしてしまうのではないでしょうか。こんなねっとりした女性は苦手だなぁと思いつつ見ていたのですが、その瞬間、本堂町が爆弾を投下したのです。

 

私、数田遥とキスしちゃったんです。してないでしょう? プラトニックでネチョネチョするだけの関係だったから

 

本堂町の言葉に表情が変わる伊波。本堂町は伊波に拳銃を向けます。「墓掘り」の主犯は伊波、実行犯は数田。伊波は自分に好意を寄せている数田を利用し、何人もの人間を殺させていたのです。ずっと異様に機嫌の良かった伊波。本堂町の治りきっていない頭の傷を見て、気持ちが高揚していたのでしょう。

拳銃を突きつけられたまま、伊波はプレゼントを見せびらかすように被害者たちを映している映像をPCに表示してみせます。自分のために動いてくれると伊波が確信している通り、身を隠していた二階から包丁を松岡に投げつけ、ナイフで本堂町に襲いかかっていく数田。しかし本堂町に胸を深く刺された彼は、最後に彼女にキスをして絶命してしまいます。

 

思念粒子、ゲット

 

本堂町は自分が刺した数田を全く気にかけることもせず、殺意を検知したワクムスビを確認。数田に駆け寄ることもできないでいる伊波に対し、冷たく言い放ちます。

 

そういうのって何なんですか。プライドとは言いませんよね

 

その言葉にうなだれる伊波。数田も伊波も互いに好意は持っており、その気持ちは通じ合っていました。しかし2人とも臆病すぎて、最後まで近づくことはできなかったのです。

イドの世界で「ジョン・ウォーカー」に体を切り刻まれて腹から下を失ってもなお、数田は庭の端から家の中にいる伊波を見守り続けています。酒井戸は2人にそれぞれ声をかけますが、このままでいいと頑なに近づくことを拒み、彼らはただ見つめ合うだけ。これ以上何の進展も無いこの数田のイドから、酒井戸は排出されます。

 

「ジョン・ウォーカー」がイドに現れた連続殺人鬼は、数田で6人目となりました。接点の無い殺人犯たちのイドに全く同じ姿で現れたことから、「ジョン・ウォーカー」が殺人鬼たちに直接会うなどして強烈な印象を与えたと考えられます。

真っ赤なフロックコートにシルクハットを被り、ステッキを持つという派手な服装でありながら、目撃者も出さずに連続殺人鬼のみにターゲットを絞って接触することなどできるのか。そして、どうやって無意識の部分に働きかけて彼らを連続殺人鬼に仕立てるのか。

そこで若鹿は「ジョン・ウォーカー」が直接犯人の無意識に潜入できる機械を使っているのでは、と仮説を立てます。ミズハノメを使えば人の無意識にアクセスできるとして、大胆にも井戸端スタッフによる内部犯行もある得るとまで言い出す若鹿。そんな物騒な憶測も口にできるほどに井戸端メンバーの信頼関係はしっかりしたものであることが感じられます。しかし、彼らが事件捜査に使っているミズハノメという装置は、開発者である白駒が失踪しており、多くの部分が謎のまま。プロトタイプの存在すらも分かりません。「蔵」という捜査組織自体も、何だか急にキナ臭くなってきました。

逮捕された伊波の自供により、生き埋めにされた「墓掘り」の被害者たちの遺体は全て回収されます。

 

だってカメラで様子が見られないんじゃ、死んでてもらう意味が無いじゃないですか。

 

人が死ぬところというよりも、死んだ体が朽ちていく様子に強い関心があったのだと感じさせる、異様な言葉です。

そんな伊波のイドは、向かい合わせのボックス席の並ぶ列車でした。暗い夜を走る列車の中で、カエルちゃんは血を流し座席に座った状態で死んでいます。床には彼女を刺した血塗れのナイフが転がり、別の車両へ血の足跡が続いています。酒井戸は逃げた犯人のものと思われるその足跡を追って車両を移動していきますが、どの車両に行っても乗客は死人ばかり。しかも、いつ死んだか分からないほど時間が経ち、骨だけになっています。そして足跡を追い続けているうちに、再びカエルちゃんの死体のある車両に再び戻ってきてしまった酒井戸。この列車は、先頭と最後尾が繋がった輪の状態でグルグルと回り続けていたのです。

 

おじさんのこと待ってたの

 

酒井戸はカエルちゃんの死体のいる手前の席に座る少女から声をかけられます。それは中学生の姿の伊波でした。彼女の手には血のついたハンカチ。酒井戸は伊波にカエルちゃんを殺したのかと尋ねます。

 

あの子、死んだんだ

 

伊波は返り血を浴びてもいなければ、血塗れのハンカチを握りしめ、血に汚れたカエルちゃんの靴を平然と足元に置いています。カエルちゃんについて、特に関心も無く名前すらも知らない様子。伊波は血を流しながら列車を一周してきたカエルちゃんに頼まれて、床に付いた彼女の足跡をハンカチで拭いただけなのです。

伊波の母親は、彼女が中学生の時に電車に飛び込み自殺していました。今このイドで酒井戸たちが乗っているこの電車は、解析により伊波の母が飛び込んだ電車と同じ時刻を走っていることが判明します。つまり、酒井戸たちが乗っているこの列車こそ、伊波の母親を轢いた列車なのです。

 

ねえ、この電車いつ次の駅に着くか知ってる? お母さんが迎えに来てると思うんだけど

 

伊波は酒井戸に尋ねます。しかし彼女の母親はこの列車が通過した踏切から飛び込んでおり、駅にいるはずはありません。そして円環状のこの電車が、次の駅に到着することもありません。伊波は母親が次の駅で待っていると信じたまま、永遠に自分の母親を轢いた列車に乗り続けているのです。

伊波の母親の飛び込んだ踏切には「墓掘り」の被害者たちの姿がありました。人の死に強い関心を持っている伊波。彼女は人間が死にゆく様子を何度見届けてもなお、母親の死を受け入れられずにいたのでしょう。そんな彼女の心に、数田は寄り添おうとしたのかもしれません。伊波のイドにも姿を現した「ジョン・ウォーカー」。「ジョン・ウォーカー」はそんな彼らの心につけ入り、二人を連続殺人鬼に仕立て上げたのです。

伊波と通路を挟んだ席には、同じく中学生の姿で数田が静かに座っていました。彼らは顔を合わせようとはせず、列車の窓に映るお互いの姿を見つめているばかり。酒井戸が促しても、決して近くの席に来ようとはしません。

 

ずっとこのままでいいの

 

伊波と数田は、この先も決して近づくことはないでしょう。なぜなら彼らは、永遠にどこにもたどり着くことのない列車に乗っているのですから。

死んでいるカエルちゃんの向かいの席に戻った酒井戸。この列車がグルグルと同じ所を回っているだけだということを酒井戸に伝え、伊波と数田の席にまで誘導するために、カエルちゃんは自殺をしたのです。

血を流して死んでいるカエルちゃんの前に跪き、彼女の細い手を取る酒井戸。その頬を涙が伝い落ちます。

 

君は死ななくていいんだ。死んで欲しくない。 俺は、君を助けたいだけなんだ。

 

救いたいとどんなに強く願っても、酒井戸はカエルちゃんの死体としか会うことができません。カエルちゃんは死ぬことによって酒井戸を目覚めさせ、真実に導く役割を持っています。事件解決のため、酒井戸に真実を伝えるために、必ず彼女は死ななければならないのです。

自分の娘を亡くしている鳴瓢。彼はカエルちゃんに娘を重ね、現実世界では自分ができなかったことを、自分のもう一つの姿である酒井戸に託しています。しかし、名探偵は謎を解くことはできても、人を救うことはできません。彼のその悲しみはどこに向けることもできないまま、この到着駅を持たない列車のように辿り着く先を失い、堂々巡りを続けるしかないのです。

この場面、演技に合わせて絵の方を修正したという津田健次郎さんの迫真の演技が、深く深く胸を突きます。

事件の幕が引かれ、本堂町は松岡と共に早瀬浦局長の元へ出向いていました。松岡の推薦により、「名探偵」として「ジョン・ウォーカー」の捜査の任務に就くこととなったのです。本堂町は松岡が推薦してくれたことに対して礼を述べますが、松岡が彼女を見る目は冷たいものとなっていました。

本堂町と伊波の二人を対比するような会話シーンでは、粘着質な伊波に対してサバサバとした本堂町に好印象を抱かせました。しかし、殺人犯とはいえ自分が刺し殺した人間を前にして、一切気にかけることをしなかった本堂町。伊波とも違う異様さには、薄ら寒いものを感じさせました。きっとその場にいた松岡も同じように感じたのではないでしょうか。

松岡は以前、「穴あき」のドリルで自ら頭に穴を開けて入院した本堂町を見舞った時に、すでに彼女の中に鳴瓢に近いものを感じていました。彼女と行動を共にしていくうちに、まともなはずがないときっぱり断じた「名探偵」の資質が本堂町の中にあると確信したのです。この自分の見立てが当たってしまったことは、松岡にとって決して嬉しいことではなかったでしょう。

そしてこの第6話のラストは、「ジョン・ウォーカー」が目をつけた殺人鬼たちを監視していたと思われるカメラが、鳴瓢の娘を殺した連続殺人鬼「対マン」の自宅からも発見されたという東郷の報告で終わります。この後、物語の焦点は、今まで「名探偵」として傍観者の立ち位置にいた鳴瓢自身へと移っていきます。

このラストの場面ですが、百貴はミズハノメのコックピットのある部屋から階段を上って、井戸端に戻ってきています。永遠にどこにも到着できずに回り続ける列車という、物悲しいイドの世界をもう少し見ていたいと言った百貴。「墓掘り」事件の捜査を終えた鳴瓢と百貴は、どんな言葉を交わしていたのでしょうか。ちょっと気になりますね。

次回は『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』の第7・8話について語っていきます。

 

前回は、第3話・第4話について語っています。興味を持っていただけた方は、こちらからどうぞ。

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