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『ID: INVADED イド:インヴェイデッド』について語りたい⑤雷と砂

あおきえい監督・舞城王太郎脚本のオリジナルアニメ『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』について、前回は第5・6話について語りました。今回は第7話「雷の世界」と第8話「砂の世界」のイドについて、それぞれネタバレをしつつ語りたいと思います。

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ID:INVADED イド:インヴェイデッド Blu-ray BOX 下巻

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第7話【THUNDERBOLTED】

加害者と被害者の関係にある富久田と数田のどちらのイドにも「ジョン・ウォーカー」の姿があったこと、富久田の自宅と「対マン」勝山伝心の自宅から同じ型の監視カメラが見つかったことから、連続殺人鬼たちの間に繋がりが見えてきました。

予想していた通り、「対マン」のイドにも「ジョン・ウォーカー」の姿が現れ、百貴は「対マン」を殺した鳴瓢も「ジョン・ウォーカー」の影響を受けていた可能性を指摘します。

鳴瓢は「ジョン・ウォーカー」に作られた連続殺人鬼に娘を殺された上、自身も「ジョン・ウォーカー」によって殺人鬼にされたのではないか

鳴瓢が3年前に「対マン」を撃ち殺した現場から採取した思念粒子からイドを形成し、そこに「ジョン・ウォーカー」が出現するか確認を行うことになります。

しかし、自分自身のイドに入れば「無意識を意識する」という矛盾が生まれ、名探偵はイドから永遠に抜け出せなくなる「ドグマに落ちた」状態になってしまいます。そのため、鳴瓢を自分のイドに潜らせることはできません。鳴瓢のイドに潜るのは本堂町。これが彼女の名探偵としての初任務です。

「名探偵」聖井戸御代(なぜか本堂町だけフルネーム)となった本堂町。目覚めると、垂れ込める真っ黒い雲から断続的に放たれる雷に、多勢の人々が逃げ惑っています。逃げ惑う人々の中には鳴瓢の妻の綾子と娘の椋の姿もあり、百貴は思わず息を呑んでしまいます。

この雷のイドは、鳴瓢が娘の椋を殺した相手である「対マン」に向けた殺意の世界です。つまりその時の彼の感情が形となったもの。絶えることなく落ち続ける激しい雷。娘を失った鳴瓢の悲しみの深さと抱いた殺意の激しさを感じずにはいられません。

マス目で区切られ、ランダムに数字が刻まれた地面。一つのマスを狙うように雷が落ち、そこに立っていた人間は雷に打たれて死んでしまいます。何人も落雷で黒焦げになって死んでいるのを目の当たりにした聖井戸。彼女も逃げるようとしますが、その右手は手錠でカエルちゃんの死体と繋がれています。このままでは逃げることもできないまま、自分も雷に打たれてしまいます。しかしどんなに探しても、カエルちゃんは手錠の鍵を持っていません。

 

もう、どうして? 道連れにするつもり?

 

カエルちゃんに悪態を吐く聖井戸。酒井戸はカエルちゃんをそんなふうに邪険に扱ったことはありません。酒井戸がカエルちゃんのことを大切に思っていることをこちらは知っているからこそ、この一言はかなり衝撃的。聖井戸の過剰なまでのドライさが感じられ、ちょっと怖くもなります。

しかし彼女も名探偵。すぐに、カエルちゃんの死の謎を解くためにここに来たのだと自分の使命を思い出します。雷に打たれて死んでいるカエルちゃんと手錠に繋がれているのに、自分は無事。つまりカエルちゃんが死んだ後に別の人物が手錠をかけたのです。隣のマス目に横たわる、黒焦げた鳴瓢の死体。聖井戸は鳴瓢がここにいれば安全だと自分に教えるために手錠を掛けてカエルちゃんの死体のそばに引き留め、自身は雷に打たれて死んだのだと推理します。約9秒ごとに走る稲光。これは偽物の雷だと確信した聖井戸。いよいよ彼女の行動開始です。

この雷は同じ所には再び落ちない偽物。すでに落雷したマス目からマス目へ、9秒ごとに落ちる雷を避け移動していく聖井戸。その途中、彼女はうずくまっている鳴瓢の妻の綾子と娘の椋に出会います。絶え間のない激しい落雷で、人々が次々に死んでいくこのイドの世界。怯えて足が動かなくなってしまっている2人。聖井戸はすでに雷が落ちた所なら移動できること、雷が落ち続ければ移動範囲も広がっていくことを説明しますが、綾子の表情は晴れません。遠くで雷に打たれている人々を助けたいと言う綾子に対し、聖井戸はこんな言葉を返します。

 

私、名探偵なんです。謎を解くためにいて、人を助けるためにいるんじゃないんです

 

同じイドの中の「名探偵」とはいえ、自分は関係ないと言いつつも誰かを助けようとしてしまう酒井戸とは、ずいぶん異なる印象ですよね。名探偵の言動を見守る井戸端スタッフの羽二重はこの聖井戸のあまりにもドライな言葉に戸惑いを見せますが、鳴瓢の娘である椋はその言葉を受け取り、決意した表情になります。

 

逃げ方は教えてもらったんだから、次は私たちがこの世界を良くしようよ。

 

まだ14歳の少女の口から出た、とても力強い言葉。百貴は本物の椋そのままだと思わず笑みを浮かべます。鳴瓢の娘である椋は、連続殺人鬼「対マン」相手に満身創痍になりながら、最後まで勇敢に抵抗をし続けていました。回想シーンで、自分は警察官に向いていると思うかと、鳴瓢に尋ねる場面もあります。きっと鳴瓢から見ても、娘の椋は正義感の強い勇気のある少女だったのだと感じさせる場面です。

2人と別れた聖井戸は、その先でミズハノメのコックピットを発見します。鳴瓢が勝山を殺したのは3年前。ここは蔵の発足よりも以前の殺意のイドですが、現在の鳴瓢の無意識とリンクし、更新し続けているのです。稼働しているコックピット。そこに表示されている井戸主の名前は「飛鳥井木記(あすかいきき)」。それは3年前に百貴によって救出された「対マン」最後の被害者の女性の名前でした。彼女は救出されたものの行方不明になっているのです。

なぜ鳴瓢のイドの中にミズハノメのコックピットがあり、飛鳥井木記のイドに繋がっているのか。

大きな謎の出現です。飛鳥井木記についてもう少し情報が欲しいと思う私たちの欲求に応じるように、コックピットに座ろうとする聖井戸。しかし、それではイドの中のイドに潜ることになってしまいます。危険を感じた百貴が聖井戸の排出を指示したその瞬間、井戸端に踏み込んでくる男たち。彼らの後から局長の早瀬浦も姿を現します。

 

百貴さん、あんたが「ジョン・ウォーカー」だな

 

逮捕状を突き付けられる百貴。井戸端のメンバーの前で百貴は取り押さえられ、逮捕されてしまいます。若鹿が口にしていた内部犯行説。そういえばその話をしていた時に百貴はその場にいなかったんですよね。百貴の無実を信じつつも混乱してしまいます。

百貴に代わって、鳴瓢に彼の殺意からイドを形成して捜査をしたことを報告に行く東郷。

 

俺のイドに「ジョン・ウォーカー」はいましたか

 

自分が言い出すよりも前に鳴瓢の方から尋ねられ、彼女は言葉を失います。「対マン」のイドに潜り、「ジョン・ウォーカー」の姿を確認したのは鳴瓢だったはずです。このまま捜査を続けるのであれば、次に勝山との間に加害者・被害者という繋がりがありかつ自身も殺人犯である自分のイドを探るに違いない。既に鳴瓢はそのことを確信していたのです。

自身のイドの中には「ジョン・ウォーカー」の姿は無かったこと、そして「ジョン・ウォーカー」として殺人犯たちに殺人教唆を働いた疑いで百貴が逮捕されたことを聞かされた鳴瓢。それが本当であれば、百貴が間接的に自分の娘を殺したことになります。怒りを爆発させ暴れ出した鳴瓢。彼は刑務官に押さえつけられながら、百貴のイドに潜らせてくれと東郷に直訴するのです。

 

第8話【DESERTIFIED】

殺人鬼メーカー「ジョン・ウォーカー」であるとして逮捕された百貴。松岡によって彼の自宅の寝室から思念粒子が採取されました。

鳴瓢と同じく、百貴のイドにも飛鳥井木記のイドと繋がるコックピットがあるとみた早瀬浦の指示により、イドの世界から戻れなくなっている本堂町を救出するため、酒井戸と穴井戸の2人を投入することになります。

その前に鳴瓢のイドに投入されて20回ほど雷に打たれては繰り返し死んでいたらしい富久田は、はっきりと拒否こそしないものの、イドに投入されることに対して明らかに乗り気ではありません。彼はまるで時間稼ぎをするように「ミステリー小説では2人の名探偵は両立しない」と言い出します。なぜなら真実はひとつであり、名探偵が2人いれば、どちらかの推理は間違っていることになってしまうのだ、と。

イドに酒井戸と穴井戸の2人の名探偵が投入され、どちらかが推理を間違えて名探偵として失格となったときに、一体どうなるのか?

結局は東郷によって有無も言わさずイドに投入されてしまうのですが、屁理屈のようにも聞こえる富久田の問いかけは、この作品が小説家である舞城王太郎脚本であるということも相まって、かなり面白い発言です。この富久田の問いかけに対する答えは、のちほど明らかにされることになります。

百貴のイドに投入された2人。まずは穴井戸が、追って酒井戸が目を覚まし、そのイドの様子が井戸端に伝わります。そこは一面の砂の世界。果てのない砂漠でした。

 

お前は誰だ?

 

キミこそ誰だ?

 

いつものようにイドの中の名探偵には記憶が無く、自分が誰か分からないと言う酒井戸。

 

へえ、そういうことか。じゃあこの女の子も、記憶喪失だったのかな

 

穴井戸が指差す先には、砂に埋もれるように倒れている少女。慌てて酒井戸は少女を助け起こします。それはカエルちゃんの死体。2人の名探偵は覚醒し、その死の謎を解き始めます。

状況から見て、恐らく彼女はこの砂漠の中で脱水症状を起こして死んだと思われ、その死に謎は無さそうに見えます。しかし酒井戸は、カエルちゃんの手首に巻き付くように日焼けをしていない部分があるのを発見します。同じく自分と穴井戸の手首にも、日焼けしていない部分が。

 

俺たちは腕時計でもしてたのか? それが無くなっている

 

彼らの腕時計を盗って逃げた人物と思われる足跡が砂の上に残っています。その人物が何かを知っているかもしれません。すぐに追いかけていきたい所ですが、酒井戸も穴井戸も水や食料を持ち合わせおらず、うかつに歩き回ればカエルちゃんと同じように脱水症状を起こすだけ。そこで酒井戸の提案により、各自の服を尿で濡らして体表からの水分の蒸発を防ぐことになります。イドでの言動は全て井戸端に筒抜け。当然この時の2人のやりとりもスタッフ全員が聞いています。成人男性2人の放尿を見守らなければならないのは、仕事とはいえ大変そうです。

カエルちゃんの死体の状態をしっかり確認しておこうとする酒井戸。すぐにでも「時計泥棒」を追いたい穴井戸。2人はいまいち噛み合いません。

名探偵の姿になると、その人間の素の部分が現れるのでしょうか。いつも独房で陰鬱な顔をしている鳴瓢ですが、酒井戸の姿では元刑事らしく果敢に謎に立ち向かっていきますし、本堂町が聖井戸の時には、理路整然としたドライさがぐっと増します。そしていつもはちょっと気取ったような口調で斜に構えた物言いをする富久田も、穴井戸の姿になるとずいぶんと朗らかで、とぼけたことも口にします。本来の富久田は、お茶目さを感じさせるような人物なのかもしれませんね。

そんな飄々とした穴井戸に、いつもは冷静な酒井戸が振り回されている様子は、ただ砂漠を男性2人が歩いているだけだというのに妙なおかしみを感じます。今まで孤独にイドの世界で戦ってきたためモノローグが多かった酒井戸。でも今回、名探偵は2人。必然的に穴井戸との会話がメインとなり、ちょっと楽しそうにさえ見えます。

しかしここは、植物が1本も生えておらず、虫1匹の姿もありません。砂を焼く太陽が真上のまま動くこともない、時間が止まった荒寥とした砂漠です。

 

この砂漠に出口ってあると思うかい?

 

穴井戸の問いかけに、この砂漠には出口などなく、砂漠の外に別の世界があったとしても、自分たちには到底たどり着くことはできないだろうと淡々と話す酒井戸。

酒井戸は今まで何度もイドに潜ってきていますが、不条理なその世界がどんな世界か把握しようとはしても、その世界の存在そのものについては疑ったりしている様子はありませんでした。彼は、自分が今いる世界についても、ただ砂しか無い閉じた世界だと認識し、それを受け入れていることが感じられます。穴井戸に聞かれるまで、酒井戸はきっとこの世界の出口など考えたことも無かったのではないでしょうか。

 

つまりこの世界を構成するのは、大量の砂とカエルくんの死体と彼女の死の謎を握っているかもしれない時計泥棒、そして僕たち名探偵ってわけか

 

笑いながら、この世界を怪しんでいる様子の穴井戸。イドの世界に対する2人のスタンスの違いは、後でさらに明確になります。

果てのない砂漠。体力が尽きてきた穴井戸はふらりとよろけ、自分が先に死のうとまで言い出します。そんな時、2人の前に現れた流砂溜まり。そこには砂に呑まれて死んでいる人間の指先が見えていました。酒井戸と穴井戸が追っていた「時計泥棒」はここまで逃げてきたというのに、結局は流砂に飲まれて死んでしまったのです。

「時計泥棒」の死体を掘り出す酒井戸と穴井戸。しかし掘り出したその死体は、顔が分からないほどに損傷した状態でした。ただ流砂に呑まれて死んだとは違う、もっと惨い死に方。この人物は誰なのか、井戸端では顔の復元作業を進めます。「時計泥棒」の死体のすぐ脇には、同じように砂に埋れたミズハノメのコックピットが。稼働中のコックピットに表示されている井戸主の名前は「飛鳥井木記」。このコックピットも、酒井戸の雷のイドにあったコックピットと同じく、飛鳥井木記のイドに繋がっていたのです。

その頃、警察で取調べを受け黙秘を続けていた百貴。しかし自分のイドに酒井戸たちが投入されたことを伝えられた途端、彼の顔色が変わります。

 

今すぐにイドから出すんだ!

 

しかし百貴の言葉は井戸端のメンバーの耳に届くはずはありません。もちろんイドの中の名探偵たちにも。10分後に排出ボタンを押すようにと穴井戸に頼み、コックピットで静かに目を閉じる酒井戸。

その時現実世界では、警官たちに体を押さえつけられながらも、百貴はなおも激しく声を荒らげていました。

 

イドから出せ! 全部罠だ!

 

百貴の叫びは、自分のイドに酒井戸たちを入らせたくない一心からのものなのか、それとも、イドに入った酒井戸たちを罠から救うためのものなのか。百貴の言う「罠」とは何か、飛鳥井木記とはどんな人物なのか、さらに謎は深まっていきます。

次回は『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』の第9話について語っていきます。

 

前回は第5・6話について語っています。興味を持っていただいた方は、こちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com