観て聴いて読んで書く

マンガ、アニメ、ゲームなど好きだと思ったものについて無節操に書き綴ります

『ID: INVADED イド:インヴェイデッド』について語りたい⑤雷と砂

あおきえい監督・舞城王太郎脚本のオリジナルアニメ『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』について、前回は第5・6話について語りました。今回は第7話「雷の世界」と第8話「砂の世界」のイドについて、それぞれネタバレをしつつ語りたいと思います。

JIGSAWED

JIGSAWED

  • 発売日: 2020/01/13
  • メディア: Prime Video

 

第7話【THUNDERBOLTED】

加害者と被害者の関係にある富久田と数田の、どちらのイドにも「ジョン・ウォーカー」が姿を現わしたこと、富久田の自宅と鳴瓢の娘を殺した連続殺人鬼「対マン」勝山伝心の自宅から同じ型の監視カメラが見つかったことから、殺人鬼たちの間に繋がりが見えてきました。

予想していた通り、「対マン」のイドにも「ジョン・ウォーカー」の姿が現れたことから、百貴は「対マン」を殺した鳴瓢も「ジョン・ウォーカー」の影響を受けていた可能性を指摘します。

鳴瓢は「ジョン・ウォーカー」に作られた連続殺人鬼に娘を殺された上、自身も「ジョン・ウォーカー」によって殺人鬼にされたのではないか

鳴瓢が3年前に「対マン」を撃ち殺した現場から採取した思念粒子からイドを形成し、そこに「ジョン・ウォーカー」が出現するかの確認を行うことになります。

しかし、自分自身のイドに入れば「無意識を意識する」という矛盾が生まれてしまい、意識の侵略を阻止しようとイドが荒れて、名探偵はイドから永遠に抜け出せなくなる「ドグマに落ちた」状態になってしまいます。そのため、鳴瓢は自分のイドには潜ることはできません。

鳴瓢のイドに潜るのは本堂町。名探偵としての初任務です。

「名探偵」聖井戸御代(なぜか本堂町だけフルネーム)となった本堂町。目覚めると、垂れ込める真っ黒い雲から断続的に放たれる雷に、多勢の人々が逃げ惑っていました。逃げ惑う人々の中には鳴瓢の妻の綾子と娘の椋の姿もあり、百貴は思わず息を呑んでしまいます。

マス目で区切られ、ランダムに数字が刻まれた地面。その数字を狙うように雷が落ち、その数字の刻まれたマスに立っていた人間は、雷に打たれて死んでしまうのです。何人も落雷で黒焦げになって死んでいるのを目の当たりにした聖井戸。逃げるために立ち上がろうとしますが、その右手は手錠でカエルちゃんの死体と繋がれています。このままでは逃げることもできないまま、自分も雷に打たれてしまいます。しかしどんなに探しても、カエルちゃんは手錠の鍵を持っていません。

 

もう、どうして? 道連れにするつもり?

 

聖井戸は焦りからカエルちゃんに悪態を吐きますが、すぐに自分の使命を思い出します。自分はカエルちゃんの死の謎を解くためにここに来たのだと。

雷に打たれて死んでいるのはカエルちゃんだけ。そのことは、手錠を掛けたのはカエルちゃんではなく、彼女が死んだ後に別の人物が手錠をかけたことを表しています。隣のマス目に横たわる、黒焦げた鳴瓢の死体。聖井戸は鳴瓢がここにいれば安全だと自分に教えるために手錠を掛けてカエルちゃんの死体のそばに引き留め、自身は雷に打たれて死んだのだと推理します。

約9秒ごとに走る稲光。これは偽物の雷。そう確信した聖井戸は鳴瓢のジャケットから見つけた銃を空に向けて発砲し、周囲の人間にこの雷は同じ所には再び落ちないことを伝えます。手錠を外した聖井戸。いよいよ彼女の行動開始です。すでに落雷したマス目からマス目へ、走って移動していく聖井戸。9秒以内なら、雷を避けて動くことができるのです。その途中、彼女はうずくまっている鳴瓢の妻の綾子と娘の椋に出会います。

聖井戸に問いかける綾子。絶え間のない激しい落雷で、たくさんの人々が次々に死んでいくこのイドの世界。怯えて足が動かなくなってしまっている二人。すでに雷が落ちた所なら移動できるし、雷が落ち続ければ移動範囲も広がっていく、と聖井戸は彼女たちを励ましますが、綾子の表情は晴れません。遠くで雷に打たれている人々を助けたいと言う綾子に対し、聖井戸はこんな言葉を返します。

 

私、名探偵なんです。謎を解くためにいて、人を助けるためにいるんじゃないんです

 

遠くの人が気になるのなら、自分で助けに行けと言い放つ聖井戸。同じイドの中の「名探偵」とはいえ、自分は関係ないと言いつつ誰かを助けようとしてしまう酒井戸とは、ずいぶん異なる印象です。名探偵の言動を見守る井戸端スタッフの羽二重は、この聖井戸の徹底したドライさに戸惑いを見せますが、鳴瓢の娘である椋はその言葉を受け取り、決意した表情になります。

 

私たちだって頑張らないと。逃げ方は教えてもらったんだから、次は私たちがこの世界を良くしようよ。

 

まだ14歳の少女の口から出た、とても力強い言葉。百貴は本物の椋そのままだと思わず笑みを浮かべます。鳴瓢の娘である椋は、連続殺人鬼「対マン」相手に満身創痍になりながら、息を引き取る最後まで勇敢に抵抗をし続けていました。回想シーンで、自分は警察官に向いていると思うかと、鳴瓢に尋ねる場面もあります。きっと鳴瓢から見ても、娘の椋は正義感の強い勇気のある少女だったのだと感じさせる場面です。

二人と別れた聖井戸は、その先でミズハノメのコックピットを発見します。鳴瓢が勝山を殺したのは3年前。ここは蔵の発足よりも以前の殺意の世界のはず。しかしこのイドは、ミズハノメによって現在の鳴瓢の無意識とリンクし、更新し続けているのです。稼働しているコックピット。そこに表示されている井戸主の名前は「飛鳥井木記」。3年前に百貴によって救出された「対マン」最後の被害者の女性の名前です。彼女は救出されたものの行方不明になっているのです。

なぜ鳴瓢のイドの中にミズハノメのコックピットがあり、飛鳥井木記のイドに繋がっているのか。

いきなり大きな謎の出現です。飛鳥井木記について、もう少し情報が欲しいと思う私たちの欲求に応じるように、コックピットに座ろうとする聖井戸。しかし、それではイドの中のイドに潜ることになってしまいます。危険を感じて百貴が聖井戸の排出を指示しますが、その瞬間、井戸端に踏み込んでくる男たち。彼らの後から局長の早瀬浦も姿を現し、この捜査員たちの言うことを聞くようにと指示を出します。

 

百貴さん、
あんたが「ジョン・ウォーカー」だな

 

逮捕状を突き付けられる百貴。富久田の家の監視カメラに百貴のPCからの複数回のアクセスが確認され、彼の自宅の庭からミズハノメの開発者である白駒二四男の白骨化した遺体が発見されたというのです。井戸端のメンバーの前で百貴は取り押さえられ、逮捕されてしまいます。

逮捕され、室長を解任された百貴に代わり、鳴瓢に、彼の殺意からイドを形成して捜査をしたことを報告に行く東郷。

 

俺のイドに
「ジョン・ウォーカー」はいましたか

 

自分が言い出すよりも前に鳴瓢の方から尋ねられ、彼女は言葉を失います。

「対マン」のイドにも「ジョン・ウォーカー」の姿はありました。そのイドに潜ったのは、鳴瓢だったはずです。このまま捜査を続けるのであれば、勝山のイドの次には、富久田と数田の関係のように、勝山との間に加害者・被害者という繋がりがあり、かつ自身も殺人犯である自分のイドを探るに違いない。既に鳴瓢はそのことを確信していたのです。

自身のイドの中には「ジョン・ウォーカー」の姿は無かったと告げられた鳴瓢。彼は、なぜ東郷がそのことを伝えにきたのか、百貴の身に何が起きたのかを尋ねます。

「ジョン・ウォーカー」として殺人犯たちに殺人教唆を働いた疑いで、百貴が逮捕されたことを聞かされた鳴瓢。それが本当であれば、百貴が間接的に自分の娘を殺したことになります。暴れ出した鳴瓢は、刑務官に押さえつけられながら、百貴のイドに潜らせてくれと東郷に直訴するのです。

この雷のイドは、鳴瓢が娘の椋を殺した相手である「対マン」に向けた殺意の世界です。つまりその時の彼の感情が形となったものです。絶えることなく落ち続け、自分自身をも殺してしまうほどの激しい雷。

第7話の終盤に、井戸端メンバーの若鹿と白岳の会話で、この雷が落ち始めたのは鳴瓢の娘の椋が殺された日だと判明します。娘を失った鳴瓢の悲しみの深さと抱いた殺意の激しさを感じずにはいられません。

 

第8話【DESERTIFIED】

殺人鬼メーカー「ジョン・ウォーカー」であるとして逮捕された百貴。松岡によって彼の自宅の寝室から思念粒子が採取されました。

鳴瓢と同じく、百貴のイドにも飛鳥井木記のイドと繋がるコックピットがあるとみた早瀬浦の指示により、イドの世界から戻れなくなっている本堂町を救出するため、酒井戸と穴井戸の二人を投入することになります。

その前に鳴瓢のイドに投入されて20回ほど雷に打たれては繰り返し死んでいたらしい富久田は、はっきりと拒否こそしないものの、イドに投入されることに対して明らかに乗り気ではありません。彼はまるで時間稼ぎをするように「ミステリー小説では二人の名探偵は両立しない」と言い出します。なぜなら真実は一つであり、名探偵が二人いれば、どちらかの推理は間違っていることになってしまうのだ、と。

イドに酒井戸と穴井戸の二人の名探偵が投入され、どちらかが推理を間違えて名探偵として失格となったときに、一体どうなるのか?

結局は東郷によって有無も言わさずイドに投入されてしまうのですが、屁理屈のようにも聞こえる富久田の問いかけは、この作品が小説家である舞城王太郎脚本であるということを加味して考えると、かなり面白い発言だなと感じます。

百貴のイドに投入された二人。まずは穴井戸が、追って酒井戸が目を覚まし、そのイドの様子が井戸端に伝わります。そこは一面の砂の世界。果てのない砂漠でした。

 

お前は誰だ?

 

キミこそ誰だ?

 

いつものようにイドの中の名探偵には記憶が無く、自分が誰か分からないと言う酒井戸。

 

へえ、そういうことか。
じゃあこの女の子も、記憶喪失だったのかな

 

穴井戸が指差す先には、砂に埋もれるように倒れている少女。慌てて酒井戸は少女を助け起こしますが、それはカエルちゃんの死体でした。彼女の死体を目にしたことで二人の名探偵は覚醒し、その死の謎を解き始めます。

状況から見て、恐らく彼女はこの砂漠の中で水を求めている間に脱水症状を起こして死んだと思われ、その死因には謎は無さそうに見えます。しかし酒井戸は、カエルちゃんの手首に巻き付くように日焼けをしていない部分があるのを発見します。同じく自分と穴井戸の手首にも、日焼けしていない部分が。

 

俺たちは腕時計でもしてたのか? それが無くなっている

 

彼らの腕時計を盗って逃げた人物と思われる足跡が砂の上に残っています。その人物が何かを知っているかもしれません。すぐに追いかけていきたい所ですが、酒井戸も穴井戸も、水や食料を持ち合わせてはいません。うかつに歩き回れば、カエルちゃんと同じように脱水症状を起こすだけ。そこで酒井戸の提案により、各自の服を尿で濡らし、体表からの水分の蒸発を防ぐことになります。イドでの言動は全て井戸端に筒抜けになっていますので、当然この時の二人のやりとりもスタッフ全員が聞いています。成人男性二人の放尿を見守らなければならないのは、仕事とはいえ大変そうです。

カエルちゃんの死体の状態をしっかり確認しておこうとする酒井戸。すぐにでも「時計泥棒」を追いたい穴井戸。二人はいまいち噛み合いません。

今まで名探偵は、イドの世界の中で一人で推理を行ってきました。しかし今回、名探偵は二人。自分たち以外の人間の姿のない砂漠を、酒井戸と穴井戸は言葉を交わしながら、「時計泥棒」の足跡を追って進んでいきます。

いつもはちょっと気取ったような口調で斜に構えた物言いをする富久田ですが、穴井戸の姿の彼はずいぶんと朗らかで、とぼけたことも口にします。

名探偵の姿になると、その人間の素の部分が現れるのでしょうか。いつも独房で陰鬱な顔をしている鳴瓢ですが、酒井戸の姿では元刑事らしく果敢に謎に立ち向かっていきますし、本堂町が聖井戸の時には、理路整然としたドライさがぐっと増します。どこか酒井戸に甘えているようにも見える穴井戸。頭に穴を開ける前の富久田は、お茶目さを感じさせるような人物だったのかもと思わせられます。

そんな飄々とした穴井戸に、いつもは冷静な酒井戸が振り回されている様子は、ただ砂漠を男性二人が歩いているだけというのに妙なおかしみを感じます。孤独にイドの世界で戦ってきたためモノローグが多かった酒井戸ですが、今回は必然的に穴井戸との会話がメインとなり、ちょっと楽しそうにさえ見えます。

しかしここは、植物が一本も生えておらず、虫一匹の姿もありません。砂を焼く太陽が真上のまま動くこともない、時間が止まった荒寥とした砂漠です。

 

この砂漠に出口ってあると思うかい?

 

穴井戸の問いかけに、この砂漠には出口などなく、砂漠の外に別の世界があったとしても、自分たちには到底たどり着くことはできないだろうと淡々と話す酒井戸。

酒井戸は今まで何度もイドに潜ってきていますが、不条理なその世界について把握しようとはしても、その世界そのものを疑ったりしている様子はありませんでした。彼は、自分が今いる世界についても、ただ砂しか無い閉じた世界だと認識し、それを受け入れていることが感じられます。穴井戸に聞かれるまで、酒井戸はきっとこの世界の出口など考えたことも無かったのではないでしょうか。

 

つまりこの世界を構成するのは、大量の砂とカエルくんの死体と彼女の死の謎を握っているかもしれない時計泥棒、そして僕たち名探偵ってわけか

 

笑いながら、この世界の存在自体を怪しんでいる様子の穴井戸。イドの世界に対する二人のスタンスの違いは、後でさらに明確になります。

そんなことを話していると足元の砂が崩れ、酒井戸は砂の山から滑り落ちてしまいます。落ちたところはその麓の流砂溜まり。彼は腰まで砂にはまってしまいます。

地獄と同じく、抜け出したいともがくから、より深みにハマってしまうのだという穴井戸。

 

自分というものを地獄が完全に飲み込むまでには時間がかかるし、時間がかかっているうちにゆっくりと這い出せばいい

 

穴井戸の助言で、なんとか無事に流砂から抜け出した酒井戸。二人はさらに足跡を追って歩いていきます。果てのない砂漠。体力が尽きてきた穴井戸はふらりとよろけ、自分が先に死のうとまで言い出します。

そんな時、二人の前に現れた別の流砂溜まり。そこには砂に呑まれて死んでいる人間の指先が見えていました。酒井戸と穴井戸が追っていた「時計泥棒」はここまで逃げてきたというのに、結局は流砂に呑まれて死んでしまったのです。

二人で「時計泥棒」の死体を掘り出す酒井戸と穴井戸。しかし掘り出したその死体は、顔が分からないほどに損傷した状態。ただ流砂に呑まれて死んだとは違う、もっと惨い死に方をしていました。この人物は誰なのか、井戸端では顔の復元作業を進めます。「時計泥棒」の死体のすぐ脇には、同じように砂に埋れたミズハノメのコックピット。酒井戸たちは、「時計泥棒」を追っているのではなく、「時計泥棒」によってここまで導かれていたのです。

コックピットは稼働中。そして表示されている井戸主の名前は「飛鳥井木記」。このコックピットも、酒井戸の雷のイドにあったコックピットと同じく、飛鳥井木記のイドに繋がっていたのです。

その頃、警察で取調べを受けている百貴は黙秘を続けていました。しかし自分のイドに酒井戸たちが投入されたことを伝えられた途端、彼の顔色が変わります。

 

今すぐにイドから出すんだ!

 

しかし百貴の言葉は井戸端のメンバーの耳に届くはずはありません。もちろんイドの中の名探偵たちにも。

 

名探偵だから分かる。>俺たちは何もかもについて全て正しくて、これはここでこうしてこうなるように揃っていたのだ

 

10分後に排出ボタンを押すようにと穴井戸に頼み、コックピットで静かに目を閉じる酒井戸。

 

その時現実世界では、警官たちに体を押さえつけられながらも、百貴はなおも激しく声を荒らげていました。

 

イドから出せ! 全部罠だ!

 

百貴の叫びは、自分のイドに酒井戸たちを入らせたくない一心からのものなのでしょうか。それとも、イドに入った酒井戸たちを罠から救うためのものなのでしょうか。

百貴の言う「罠」とは何か、飛鳥井木記とはどんな人物なのか、さらに謎は深まっていきます。

次回は『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』の第9話について語っていきます。

 

前回は第5・6話について語っています。興味を持っていただいた方は、こちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com