観て聴いて読んで書く

マンガ、アニメ、ゲームなど好きだと思ったものについて無節操に書き綴ります

『ID: INVADED イド:インヴェイデッド』について語りたい⑥イドの中のイド

あおきえい監督・舞城王太郎脚本のオリジナルアニメ『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』について、前回は第7話・第8話ついて語りました。今回は第9話【INSIDE-OUTED】について、気合いを入れてネタバレしつつ語りたいと思います。

JIGSAWED

JIGSAWED

  • 発売日: 2020/01/13
  • メディア: Prime Video

 

第9話【INSIDE-OUTED】

もう一度、気が済むように

鳴瓢が目を覚ますと、そこは自宅の寝室でした。妻の綾子が「おはよう」と微笑み、娘の椋はまだベッドで布団をかぶって寝ています。既に死んでいるはずの妻と娘。家族が揃っていた頃の懐かしい日常の風景。

鳴瓢には今までの記憶が残っています。カエルちゃんやミズハノメのことはもちろん、自身が殺人を犯したことや、どうやってここに来たのかも。

10分後にコックピットの排出ボタンを押すようにと穴井戸に頼んでいたことを思い出し、彼は妻と娘を抱き寄せます。せめてこの世界から去る前にもう一度妻子を抱きしめたいと、鳴瓢が妻子の元に慌てて駆け戻るこの場面の描写は、彼の家族への愛の深さをとてもよく表現していて、10分経って再び彼らが離れ離れになってしまうことを思い、こちらの胸も痛くなりました。

しかし、10分経っても鳴瓢が排出される気配もありません。何事も無いように時を刻む時計。ここは砂漠のイドの中にあったミズハノメによって作られた「でっち上げ」の世界。イドの中のイドの世界です。ここにはカエルちゃんはおらず、まるで本当の過去の世界そのもののように見えます。

 

今、俺は全てを憶えている。
俺は俺だ。名探偵などではない。ただの、俺。

 

スマホに表示されたニュースは、連続殺人鬼「対マン」の新しい被害者を報じています。その日付は2016年10月29日。これが過去の世界で、自分の知っている通りに物事が進むのであれば、娘の椋はいずれ「対マン」の被害者になってしまいます。でもまだ妻も娘も「この世界」では生きています。

 

俺にはできることがある。

 

鳴瓢には記憶が残っています。「対マン」が誰で、どこに住んでいて、どのように娘を殺すのかを、彼は既に知っているのです。「対マン」勝山を、鳴瓢はもう一度殺しにいくことを決意します。

実行するかどうかは別の話ですが、子どもを殺された親として、犯人を同じ目に遭わせてやりたいと激しい感情を抱くのは当然のことでしょう。現実世界では、鳴瓢は「対マン」勝山の自宅に踏み込んですぐに、その場で射殺してしまいました。しかし彼の中では、勝山を銃でただ撃ち殺してしまうだけでは、気が済まなかったのではないでしょうか。長い時間、痛みと恐怖を味わい続けてなぶり殺しにされた娘と同じように、できることならば勝山にもっと苦痛を味わわせて殺したかったと思っていたはずです。

でも今なら、今いる「この世界」なら、もう一度「対マン」勝山を殺し直すことができるのです。

刑事でありながら「対マン」を殺しに行くことを決意した鳴瓢。この後、自分が殺人者として収監されることを知っている彼は、「対マン」事件の捜査本部へ同僚たちと決別するように顔を出し、すぐに立ち去ってしまいます。

すぐさま鳴瓢の後を追う百貴。二人は共に勝山の自宅を訪れます。過去の世界にいる百貴は、まだ勝山が「対マン」だということは知りません。ここが「対マン」事件の犯人の自宅だと聞かされて驚く百貴に裏からのバックアップを頼み、鳴瓢は勝山宅のインターフォンを押します。

この時点では警察は「対マン」が誰かは掴んではいません。捜査の手がまだ及んでいないというのに、自分を連続殺人鬼「対マン」と呼んだ鳴瓢を無視するわけにはいかなかったのでしょう。勝山は彼を自宅に招き入れます。

 

「対マン」さんと対マンやりに来たんですよ。
男らしく、正々堂々とね。

 

全く動じる様子の見えず、あくまでも殺人ではなく格闘だと言う勝山を煽るように、鳴瓢は言葉をぶつけ続けます。

 

14歳の女の子を撲殺して楽しんだクソ変態

 

洋服を脱ぎ、格闘のスタイルとなった勝山に向かって、さらに鳴瓢は挑発を重ねます。

 

一度でも女子供相手に無茶苦茶やった奴が
強い弱いを口にすんじゃねえよ

 

勝山は殴りかかる鳴瓢を軽くいなし、拳を食らわせます。プロレスラーや空手家なども殺してきた勝山。鳴瓢の足をすくって倒れさせるや、腕ひしぎ十字固めで彼の左腕をへし折ります。勝山に技を決められ、鳴瓢の腕の筋肉が断裂して関節が逆方向にたわむ描写が絶妙に痛そうで、いつも見るたびに薄目になってしまいます。

痛みを堪える鳴瓢を小馬鹿にするように薄ら笑いを浮かべ、膝を食らわせ殴り続ける勝山。しかし鳴瓢は勝山と勝負するためではありません。奴を殺すためにここに来たのです。正々堂々となどと口では言いましたが、鳴瓢に勝山の格闘に付き合うつもりなどあるはずもありません。鳴瓢に両脚を銃で撃たれ、尻もちをつく勝山。

鳴瓢はさらに容赦なく発砲し、弾は勝山の耳を削ぎます。肉体的な強さは圧倒的に勝山の方が上。鳴瓢は殴られ、絞め技を何度もくらいますが、彼はすぐには勝山を殺そうとはしません。奴が死ぬにはまだ、苦痛も恐怖も足りていないのです。

しかしそれは、鳴瓢にも危険な方法です。脚を掴んで倒され、馬乗りになった勝山に何度も拳で頭を殴られ続けます。抵抗できないまま殴られて、グチャグチャになった鳴瓢の顔。見開いた眼や殴られる時の重たい音など、今回は鳴瓢の痛みの描写に特に力が入っている気がします。

グッタリしている鳴瓢を見下ろす勝山。その腹にまた鳴瓢が銃を放ち、奴は床に倒れますが、こんな状態になっても不気味な薄ら笑いを浮かべたまま。

 

まだまだ行くぞ! かかってこい!

 

鳴瓢は勝山の顔を膝で蹴り、歯が折れるほどの頭突きを食らわせます。もう鳴瓢も勝山も満身創痍で血塗れの状態です。それでも倒れた勝山の腹の上に跨がり、鳴瓢は執拗に何度も銃のグリップの底で奴を殴り続けます。

 

何が連続殺人鬼「対マン」だ!
大したことねえなあ! おい!

 

勝山の頸動脈に触れ、脈が止まっていることを確認すると、雄叫びを上げる鳴瓢。興奮状態にあるはずだというのに、確実に仕留めようとしていたことを改めて感じさせるその行動に、鳴瓢の中の殺人者としての資質を見せられたようで、思わずゾクリとさせられます。そんな場面を、裏から警戒しつつ潜入していた百貴が目撃します。

 

お前、なんて事してくれたんだ!

 

まだ容疑者にも挙がっていなかったであろう勝山を、鳴瓢が殺してしまっていたのです。百貴の驚愕の大きさは相当なものだったはずです。彼はすぐに救急車を呼ぼうとしますが、ほかにまだ被害者がいると鳴瓢に教えられます。勝山がなぶり殺しを楽しむために造った地下のリング。長い髪の女性が、そこに力なく座り込んでいます。彼女は血塗れで、勝山に一方的に痛めつけられていたことは、火を見るより明らかです。

 

なんて酷い! もう大丈夫ですからね。お名前を教えていただけませんか。

 

駆け寄り声を掛ける百貴に、女性は顔を上げて震える声で答えます。

 

飛鳥井です……名前……飛鳥井木記

 

この女性こそ、「対マン」最後の被害者、飛鳥井木記なのです。

 

死なせてください

 

その言葉とともに彼女は意識を失い、倒れてしまいました。

 

飛鳥井木記の悪夢

病院に運ばれた鳴瓢と飛鳥井木記。鳴瓢は彼女の病室を訪ねます。現実世界では「対マン」を撃ち殺して収監されたため、鳴瓢は飛鳥井木記の顔を知らずにいたのでしょう。酒井戸としてイドに潜るたびに出会い、自分の娘と重ねて見ていたカエルちゃんと全く同じ顔をした彼女を見て驚く鳴瓢。しかし彼女は、カエルちゃんのこともミズハノメのことも、全く知らない様子です。

彼女を襲った「対マン」について話そうとする鳴瓢の頭の中に、殺意を持って殴りかかってくる勝山の姿が突然生々しく鮮明に浮かびます。戸惑う鳴瓢。飛鳥井木記は、勝山に殺されかけていた時の自分の記憶を、鳴瓢が受け取ってしまったのだと説明します。

 

昔から私の内側にあるものが、周囲の方に届いてしまうんです。
言葉や思い出や想像したことなどが

 

この言葉から、飛鳥井木記はテレパシーの能力を持っていると思われます。しかし自分の意思で相手に思考を伝えるのではなく、溢れるように自分の心の内が他人に伝わってしまうのを、全くコントロールができないのです。そのことが、彼女にどんな影響を与えてきたか。それはすぐに分かります。

病院の廊下に口笛を響かせ、飛鳥井木記の病室に現れた一人の男。「今夜私を殺す人」だと彼女が言うその男に、鳴瓢はさらに驚かされます。「顔削ぎ」園田。自分が収監されている現実世界で獄中自殺させた連続殺人鬼「顔削ぎ」が、この病室に現れたのです。

 

こいつの夢にいるってことは俺たちの仲間だろ? 今夜は俺の番だぜ?

 

意味の分からないことを口にする園田。殺人鬼をこのまま病室にいさせるわけにはいきません。鳴瓢が殴りつけると、彼の姿はこつ然と消えてしまいます。

 

あなたが痛い思いをさせたから目を覚ましたんです。
私はいつも死んでからじゃないと目を覚ますこともできませんが

 

理解が追いつけない鳴瓢に対して、飛鳥井木記は淡々と説明を続けます。

 

これは私の夢です。眠っているあなたが私の夢に入ってきたんです

 

目を覚ました鳴瓢。陽の差し込む明るい病室。妻の綾子と娘の椋が彼のベッドに縋り付いていました。「対マン」を殺害し飛鳥井木記を救出した後、鳴瓢は一日以上ずっと眠り続けていたというのです。飛鳥井木記の病室に行ったことも、「顔削ぎ」園田が現れたことも全て夢だったのか。改めて飛鳥井木記の病室を訪れる鳴瓢。

 

確かめにいらしたんですね

 

鳴瓢は飛鳥井木記のその言葉で、本当に彼女と同じ夢を同時に見ていたのだということを、納得はできないながらも理解します。

 

あなたが私の夢に入ってきて、あなたは私の心を読んだのではなく、私の心があなたに勝手に届いたんです。理由は分かりません。私は昔から私だけの秘密というものが持てないんです

 

鳴瓢は病院に運ばれて眠っている間に、飛鳥井木記の夢に入り込み、その夢の中で「顔削ぎ」に出くわしました。「顔削ぎ」園田も鳴瓢と同時に、彼女の夢に入り込んでいたのです。彼女を殺すために。飛鳥井木記は、無意識のうちに見る夢までも、自分の内に留めておくことができないのです。

夢の中には、自分を殺そうとする連続殺人鬼しか現れないと言う飛鳥井木記。鳴瓢は狼狽しますが、彼女には彼も殺人者だと既に分かってしまっているのです。

「今夜は俺の番だ」と口にしていた園田。違う夢の中では、また別の連続殺人鬼が自分を殺しに現れるのだと飛鳥井木記は言います。夢の中で幾度となく殺人鬼たちに殺されてきた彼女は、そのことから逃れようとすることさえ諦めてしまっています。

鳴瓢の頭の中に流れこむ、殺人鬼たちによってあらゆる方法で繰り返し殺されている飛鳥井木記の姿。

最初に飛鳥井木記の夢に入ってきたのは「ジョン・ウォーカー」でした。奴が彼女の夢に殺人鬼たちを呼び込んだのです。奴は飛鳥井木記を殺しに夢に現れた人間の中から、連続殺人鬼となる人間を選別していたのかもしれません。あるいは、飛鳥井木記の夢の中で繰り返し殺人を犯させることによって、現実世界での殺人へと導いていったのでしょう。実際に、殴るのも殴られるのも好きという趣向を持っていた「対マン」勝山は、夢では痛みを得られないことに満足できなくなり、彼女を拐って殺そうとしました。

鳴瓢が「対マン」を殺したことで、飛鳥井木記の夢の中に奴が出てくることは無くなりました。殺人鬼が一人も居なくなれば、彼女は二度と夢の中で殺されることはありません。

 

俺があなたのことを楽にしてあげますよ

 

鳴瓢は飛鳥井木記の見る悪夢に現れる殺人鬼たちを排除していくことを決意します。今までイドの中で死んでいるカエルちゃんを、救いたいと思い続けていた鳴瓢。この世界で自分の妻も娘も死なせずに済んだ彼は、カエルちゃんと同じ姿をした飛鳥井木記を救いたいと考えたのです。

車椅子姿で鳴瓢は夜に病院を抜け出し、「顔削ぎ」の潜む倉庫に向かいます。この「顔削ぎ」と呼ばれる男は、この作品の第1話の時点で、すでに鳴瓢によって自殺させられていた殺人鬼のうちの一人です。

鳴瓢は「顔削ぎ」をすでに一度殺しています。たとえケガで体が動かなくても、彼は「顔削ぎ」を言葉だけで追い詰めつることが可能なのです。

 

お前がどうして人の顔を削ぎたいのか、どうしてお前が弱虫で自分の顔を結局削げないのか、ゆっくり話をしようぜ

 

「顔削ぎ」は自分の顔を削ぐことができないまま、首を吊って死ぬこととなります。

朝になり、妻の綾子が自殺する場面を目撃する悪夢にうなされて目を覚ました鳴瓢。抱き寄せられた綾子は、優しく彼に語りかけます。

 

私が死んだらそれが夢だって合図だから、そこで起きればいいよ

 

娘の椋が殺されたことも、妻の綾子が自殺したことも全ては夢であってほしい。そう思いたい鳴瓢にとって、ここは都合の良い世界です。「対マン」を殺しても正当防衛とみなされ、娘の椋が殺されることも妻の綾子が自殺することもありません。綾子の優しい言葉は、彼が「でっち上げ」だと思っていたはずのこの世界を現実の世界だと思い込むように誘う、悪魔の囁きにも似ているようにさえ感じました。

次回は『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』の第10話について語っていきます。

  

前回は第7・8話について語っています。興味を持っていただいた方は、こちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com