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『ID: INVADED イド:インヴェイデッド』について語りたい⑧イドの嵐

あおきえい監督・舞城王太郎脚本のオリジナルアニメ『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』。今回は第11話【STORMED】についてネタバレしつつ語りたいと思います。

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ID:INVADED イド:インヴェイデッド Blu-ray BOX 下巻

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第11話【STORMED】

吹きすさぶ風。舞い上がる砂。嵐の中、浮かび上がる「ジョン・ウォーカー」の影。自分が鳴瓢秋人であると思い出したことによって起きた激しいイド嵐。

鳴瓢は、この砂漠のイドが自分のものであること、そして自らも「ジョン・ウォーカー」に殺意を操られて殺人を犯していたことを理解します。自意識から逃れようと嵐を巻き起こしながら砂漠のイドが膨張を続けるため、酒井戸たちの位置を完全に見失ってしまう井戸端メンバー。酒井戸たちを強制的に排出することも、ミズハノメをシャットダウンさせることもできず、彼らはイドの中で何が起きているかを全く把握する事ができなくなってしまいます。

 

お前、どうして……どういうつもりだ!

 

殺意を剥き出しにして富久田に掴みかかる鳴瓢。しかし抵抗しないどころか微笑みさえ浮かべている富久田の態度に、鳴瓢は違和感を抱きます。怒りに任せて鳴瓢が富久田を殺すというところまでが、「ジョン・ウォーカー」の罠。富久田はそのことを理解して、わざと鳴瓢を自分自身のイドで自分を思い出させたのです。

富久田は自分で頭に穴を空けてもなお、生きていた男です。そんな男がなぜ今、鳴瓢に殺されることを願うのか。そもそもなぜ富久田は自分の頭に穴など空けたのか。

鳴瓢は、富久田の目が数字を求めるように忙しなく動いていることに気づきます。砂漠の砂粒を数えるなど、普通の人間では行わない行為です。それだけではありません。彼は鳴瓢と会話しながら、必ず同じ動作を3回ずつ繰り返していました。鳴瓢は富久田がある強迫性障害の一つの症状にあることを見抜きます。

 

お前、数唱障害だな

 

「強迫性障害」とは、些細でつまらない事柄であると自分でも分かっていても、これにとらわれ、その苦痛を避けるために行動することで生活に支障が出てしまうというもの。その症状の1つとして「数唱障害」があります。

特定の数字や回数・順番等に過剰なこだわりを持ってしまい、その数字を避けたりその回数同じことを繰り返したりせずにはいられない、というものが「数唱障害」の主な症状です。

しかし富久田の場合、それだけの症状で収まることができませんでした。彼は数字そのものに囚われてしまった男。そこに数字があれば全て数え、計算し、把握せずにはいられないのです。

本堂町を拐って逃亡した富久田を追う松岡が踏み込んだ富久田の自宅。随分と物が少ない殺風景なその部屋の壁は、富久田が書いたと思われる手書きの数字でびっしり埋め尽くされていました。また地面に数字が刻まれている雷のイドに穴井戸として投入された富久田は、推理を進めるようなふりをしつつ、いかにも意味ありげに刻まれている地面の数字から、あえて情報を取ろうとはせず、自分に言い聞かせるように「数列の把握なんてしなくていいんだ」と口にしながらフラフラと歩き、雷に撃たれてすぐに死亡していました。砂漠のイドでは流砂に埋まった死体を掘り出す前に、「2人で辿り着けた」とわざわざ鳴瓢に念を押し、イドに潜った鳴瓢の帰還を待つ間に砂を数えてコックピットに数字を刻み続けていました。

常に数を意識せずにはいられない富久田。彼は常に頭の中に渦巻く数から逃れようと、自分の頭にドリルで穴を開けていたのです。脳を削り、頭を貫通するほどの穴。それは、一瞬で開くようなものでは決して無いはずです。富久田は右側の顔から頭部にかけての皮が剥がれたインパクトのある風貌になっていますが、それは彼が自分の頭にドリルを突き立てた際、ドリルに巻き込まれて皮が剥ぎ取れてしまったから。貫通するまでドリルで自分の頭をえぐり続けた富久田の強迫性障害の苦しみから逃れようとする狂気を感じざるを得ません。彼は脳を削り頭に穴を空けたことによって、ようやく数を気にせずにいられるようになったのでしょう。彼が「穴は解放だ」と口にしていたのは、そういった意味が込められていたんですね。

しかし、名探偵の姿はその人間の20代の頃の姿となるのか、穴井戸としてイドに投入されることになった富久田。その頭に空けたはずの穴は、穴井戸の姿では塞がってしまっていました。「名探偵」としての明晰な頭脳で数唱障害が復活するなど、富久田にとって耐えがたい苦痛。だからこそ、穴井戸の彼はイドから早く排出されたいがために、ろくな推理もせずにすぐに死んでいたのです。

砂漠のイドで目覚め、自分の手がカエルちゃんと繋げられていた時点で、富久田はここが以前投入された鳴瓢の雷のイドとの共通点に気づいたのでしょう。だからこそ確信を得るためにも、結び付けられていたカエルちゃんのワンピースの裾を破って作られたリボンを解き、時計泥棒を追うなどと言って鳴瓢を置いて先に1人で歩き始めたのです。第8話で富久田がよろけた時に地面を踏む硬い足音がすると、Twitterで話題になっていました。砂漠に成り果ててはいますが、ここは鳴瓢のイドに間違いはないと、この時点で富久田は確信していたのです。

しかしいくら歩いても、空は曇らず雷は落ちてはくれません。彼は雷に撃たれて死ぬことはできないのです。自分の記憶通りの場所にミズハノメのコックピットを見つけた富久田は、確実に死ねる最後の手段として「ジョン・ウォーカー」の策に乗ったのです。

 

同情はする。だが俺は、お前を殺してはやらない

 

鳴瓢が自分自身を思い出してイド嵐が起きたその瞬間、砂漠のイドと雷のイドから、同時にそれぞれミズハノメのコックピットが消えてしまいます。自分のイドを認識したことで、砂漠と雷のイドとが繋がり合ったのです。砂漠のイドにあったコックピットが、雷のイドで本堂町の座っているコックピットに置き換わったと読んだ鳴瓢。彼は富久田と共に、埋れてしまっている本堂町を助け出すため砂を掘り出し始めます。こんな大量の砂の中に埋れていたら、本堂町は窒息してしまうのではないかと心配になってしまいますよね。今、イド嵐に阻まれて、鳴瓢たちの行動は外から感知することができなくなっています。外からの目があれば現実世界とイドの時間の流れは同期しますが、外から監視できない閉じた空間となったイドの中では、時間の流れは現実とリンクはしないのです。現実世界の5分はこの世界の5分とは長さが違います。うたた寝で長い夢を見るように、いくらでも時間を引き伸ばすことができるのです。

 

その頃、まだイドの中のイドに取り残されたままの本堂町は、鳴瓢が殺人鬼排除のために借りていたアジトを訪れていました。ホワイトボードには、「顔削ぎ」をはじめとする7人の連続殺人犯とその被害者たちの名前がビッシリと書き連ねられ、考察と排除を重ねていた様子がうかがえます。

7人の連続殺人犯たちの殺害方法には、「一対一で殴り合う」「顔面を削ぐ」「舌を引き抜く」など、それぞれ独自の嗜好があり、同じ殺害方法で繰り返し殺害に及んでいます。歴史上の連続殺人鬼にもそれが当てはまるように、「ジョン・ウォーカー」も例外では無いはず。本堂町は、奴が作り出した殺人鬼たちの共通点を探り、その実態についての推理を進めていきます。

第1の共通点。
連続殺人犯たちの殺害方法は、必ずしも被害者を即死させるものではないということ。実際に、現実では生き残った被害者を保護したことから、犯人逮捕に繋がっています。

第2の共通点。
被害者の最大人数は7人。それ以上の被害者が出る前に、殺人鬼たちは逮捕されているのです。

そして第3の共通点。
「股裂き」は月曜、「顔削ぎ」は火曜と、殺人者たちはそれぞれが担当するように同じ曜日に犯行を行っているということ。「ジョン・ウォーカー」は、曜日を決めて殺人鬼たちの殺意を操作し、殺人行為を行わせていたのです。まるでつまらないルーティンの仕事をこなすように。あるいは、1週間で世界を作った神を気取るように。

7人の被害者と7人の連続殺人鬼を生み出した「ジョン・ウォーカー」。奴は百貴に濡れ衣を着せ、鳴瓢をドグマに落とす罠を仕掛け、このまま自分の活動を終わらせるのか、それとも違う段階に進むつもりなのか。

ところで、なぜ百貴の自宅から鳴瓢の思念粒子が採取されたのでしょうか。確認のため百貴宅に戻った松岡。思念粒子が採取されたのは白駒の死体が発見された庭でも「ジョン・ウォーカー」の服でもなく寝室からでした。寝室に飾られていた写真の裏に、鳴瓢の独房に貼ってあった花火師を殺した時の思念粒子が付いた写真が重ねられていたのです。東郷があっさりとそのことを見破ったのですが、それと同時に彼女が百貴の寝室に入るような関係にあると明かされてしまいます。緊迫した場面が続く中での、全く方向の違うところからの衝撃ですね。松岡や若鹿をはじめ、誰も東郷の告白にツッコミができない状況。サラッと流すのもなかなか難しそうです。私も思わず、百貴は独身なのかな? と心配になってしまいました。油断ならないです。

イドの中のイドにいる本堂町は、逮捕される直前の富久田の元に向かいます。いきなり潜伏先に単身で乗り込まれ、驚く富久田。本堂町は銃を構えつつ、富久田が本当にしたいことは誰かの頭に穴を空けたいのではなくて、もう一度自分の頭にドリルで穴を空けることだと言い当て、自分も富久田のドリルで自から頭に穴を空けたことがあるからそれが分かるのだと説明します。怪訝そうだった富久田でしたが、自分の本当の望みを言い当てられたことで本堂町を受け入れ、彼女が頭に空いた穴は自分の一部だったと言ったことに満足そうな表情になります。富久田だけでなく本堂町も、頭に空いた穴を持つことで自分という存在が落ち着き馴染んだ側の人間なのでしょう。

鳴瓢の描いた絵を見せながら、富久田に夢の話を訊ねる本堂町。「ジョン・ウォーカー」によって飛鳥井木記の夢の中に導かれ、彼女の頭に穴を空けないかと3度誘われたと富久田は言います。彼は、夢の中の穴には興味が無いと誘いを断ったものの、結局は殺意を操作され、自分にではなく他人の頭にドリルで穴を空ける殺人行為を繰り返すことになってしまったのです。

3年前の8月15日の午後2時から午後3時
9月7日の午後11時から午前3時
9月10日の午後11時から午前3時

富久田は夢に「ジョン・ウォーカー」が出てきた日時をはっきりと憶えていました。1回だけ時間帯が違うのは、それが富久田は自分の頭にに穴を空けて倒れていた日だったから。富久田は自分に対する殺人行為をしたその日に、「ジョン・ウォーカー」によって夢の中に誘い込まれたのです。しかし、飛鳥井木記の夢に誘い込むためには自分も夢を見ていなければなりません。その日、「ジョン・ウォーカー」にとって昼の時間帯が夜だった、つまり時差のある外国にいたのではないのか。

鳴瓢の独房から写真を持ち出すよう指示を出すことができ、百貴を逮捕させる権限を持ち、イドのデータに接触でき、ミズハノメについて詳しく知っており、そして3年前の8月15日に海外にいた人間。本堂町の脳裏に1人の人間が浮かびます。

 

もしもし、「ジョン・ウォーカー」さん?

 

本堂町のかけた電話の繋がった先は、蔵の局長である早瀬浦。彼は言葉を失い、目を見開きます。ふわりと浮かび上がる本堂町の体。砂漠のイドで、砂の中から鳴瓢と富久田がコックピットを見つけ出し、排出ボタンを押したのです。砂漠のイドで目覚めた本堂町は、すぐに鳴瓢に捜査の報告をします。

 

「ジョン・ウォーカー」の正体、判明しました。早瀬浦局長です!

 

俄かには信じられない事実。しかし一刻も早くこの砂漠のイドから脱出し、現実世界で追及しなければなりません。鳴瓢たちはカエルちゃんの死体のあるスタート地点に戻ります。カエルちゃんの死体を中心に渦を巻くイド嵐。イドと外の世界との時間が同期し、彼らは現実世界へと戻ります。常にこのイドの世界で殺されるカエルちゃん。彼女は繰り返される自分の死の謎を解き、救ってくれることを名探偵たちに求めているのです。

無事にイドから排出され、目覚めた名探偵たち。「ジョン・ウォーカー」の正体が早瀬浦であると本堂町から伝えられた東郷は、すぐさま逮捕状の請求を命じます。しかしその瞬間、早瀬浦の手によってミズハノメが停止させられてしまいます。羊水の中に浮かぶ胎児のように、大きな水槽の液体の中で眠る飛鳥井木記の姿。早瀬浦によって、彼女はミズハノメのシステムの一部として取り込まれてしまっていたのです。

次回は『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』の第12話について語ります。

 

前回第10話について語っています。興味を持っていただいた方は、こちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com