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『ID: INVADED イド:インヴェイデッド』について語りたい⑨裏井戸

あおきえい監督・舞城王太郎脚本のオリジナルアニメ『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』について、今回は第12話【CHANNELED】についてネタバレしつつ語りたいと思います。

JIGSAWED

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  • 発売日: 2020/01/13
  • メディア: Prime Video

 

第12話【CHANNELED】

早瀬浦によって目覚めさせられた飛鳥井木記。彼女がミズハノメの外に出たことによって、蔵に勤務する人々は幻覚を見させられ、次々と昏睡状態に陥っていきます。

巨大なサメの泳ぐ血の色をした水に怯える者、突然雲の上の空に投げ出され落下する者、地面に数字の刻まれた場所で雷に撃たれる者、薄暗いマンションの一室で爆発に巻き込まれる者。

飛鳥井木記は「自分の見てきた悪夢が現実世界に溢れて多くの人間を蝕んでしまうこと」を恐れていました。まさしく彼女が恐れていたことそのものが、現実となってしまったのです。

殺人現場に残る思念粒子から犯人の殺意のみを吸い上げてイドを形成する装置、ミズハノメ。その名の由来となるのは、古事記日本書紀にも記述のある水の女神です。水は人が生きる上で無くてはならないものであり、米作りをする農耕国家である日本にとって、とても重要なものです。本来であれば、人々に恵みをもたらす女神の名前。そんな女神の名を持つミズハノメは殺意のイドを形成し、百貴をはじめとする井戸端のメンバーたちはイドに飛び込んだ名探偵を、まさに井戸の底を覗き込むようにして見守ってきました。殺人鬼の捜査のたびにミズハノメによって作られてきた数々のイドは全て、ミズハノメの装置の一部とされてしまった飛鳥井木記が見る「悪夢」によって生み出されていたものでした。

井戸の中の蛙は、自ら外に出ることはできません。水の女神になぞらえるように大きな丸い水槽の底で眠らされ、凶悪な殺人犯たちに殺される夢を見続けてきた飛鳥井木記。彼女を「カエルちゃん」などという名前で呼ぶことの残酷さを理解した瞬間、頭がクラクラとしました。

ミズハノメに溜め込まれてきた殺人鬼たちの殺意のイドは、飛鳥井木記の覚醒によって、水が染み渡っていくように人々を飲み込んでいき、とうとう井戸端の東郷たちまでも昏睡させられてしまいます。外で何が起きているのか状況が分からないまま、コックピットのある部屋に取り残されてしまった鳴瓢たち。その部屋に現れた早瀬浦は、いきなり鳴瓢に向けて銃を発砲すると、富久田をコックピットから離れさせ、銃を構えたまま自分で操作を始めます。

 

鳴瓢秋人。今の状況も併せて、君に起こったことは本当に申し訳なく思うよ。
だが、私を殺すのは、私でなくてはならない

 

自分の腹を銃で撃ち、血塗れになりながら怪く笑う早瀬浦。撃たれて動けない鳴瓢や呆然とする本堂町たちに向けて、早瀬浦はさらに言葉を続けます。

蔵自体を巨大なミズハノメとしてより大きな範囲を捜査できるようにする。
自分は引退し、後継を百貴に譲る。そして…

 

私は私自身の贖いとしても、私を殺す

 

そう語った最後に、早瀬浦はコックピットの投入ボタンを押した状態で自分の顎に銃を押し当て、頭を撃ち抜きます。

コックピットに飛び散る血。早瀬浦が戻る肉体はもう現実世界にはなくなりました。つまり早瀬浦は死んで自分のイドに潜ることによって、イドの世界の中で永久に生き続けることとなったのです。

実際に人を殺したことはないと語っていた早瀬浦。しかしその心の中では、人を殺す快楽を味わいたいという欲求が渦巻いていたのでしょう。飛鳥井木記が悪夢を他人に伝播させてしまう能力を持つことに目をつけた早瀬浦は、彼女の夢の中に殺人鬼たちを誘い込んでは繰り返し彼女を殺させ殺人を味わっているうちに、彼女の見る悪夢をコレクションすることを考えついたのだろうと思われます。

自分が警察の人間であることを利用し、飛鳥井木記の能力を媒体にするミズハノメを使った殺人犯の捜査をしながら、その裏で「ジョン・ウォーカー」として殺人鬼たちの殺意のイドを集め続けていた早瀬浦。その目的は、現実世界で手を汚さぬままイドの中で名探偵となり、あらゆる殺人の衝動を永久に貪り続けることだったのです。

イドの中で目覚めた早瀬浦は、思惑通り名探偵「裏井戸」となっていました。シルクハットに赤いジャケット、手にはステッキと、まさしく「ジョン・ウォーカー」の姿で。

 

こいつは「カエル」。そして私の名前は「裏井戸」
「カエル」の死の謎を解くのはこの名探偵の私で、
「カエル」を殺した犯人は私だ

 

血塗れのナイフを手に、高笑いする裏井戸。その笑い声に呼応するように、真っ黒な波打つ地面に無数の仮面が浮かび上がってきます。そして上を見上げると、そこには巨大な早瀬浦自身の顔の仮面。

 

この顔で、私は私を思い出す。私の名前は早瀬浦宅彦。そしてこの本名を思い出させることで、クソ娘は私をイド嵐に閉じ込めたいところだろうが、残念ながら私は既に死んでいるから、私のイドは更新されない

 

早瀬浦は飛鳥井木記=カエルちゃんを呼び捨てにするどころか、「クソ娘」とすら呼んでいます。殺意のイドの収集のためだけに飛鳥井木記の能力を利用し、そのことによって彼女が苛まれ苦しむことを、奴は何とも思ってはいないのです。

自分の能力を利用し続ける早瀬浦に対し、イドの中で殺されながらも、必死に抵抗しようとしている飛鳥井木記。しかし、現実世界で肉体が死んでいるため、早瀬浦をイドから排出することもイド嵐に巻き込むこともできません。

無数にある仮面の一つを手にし、満足げに笑う早瀬浦。その仮面全て殺人者の顔を象ったものであり、その一つひとつが殺意のイドへの入り口になっています。飛鳥井木記の中に繰り返し入り続け、彼女の無意識を共有することに成功した早瀬浦。奴のイドには彼女の能力を利用して集めた殺人者たちのイドが仮面の形で陳列されており、それを被ることによって殺人者たちのイドに自由に入ることができるのです。

 

何が贖いだ!

 

名探偵としてイドの中で生き続けるという早瀬浦の目論みを見抜き、すぐさまイドに潜っていた鳴瓢と本堂町。

彼らがイドの中まで追ってくることを予期していた早瀬浦は、動じることもなく手にしていた仮面をかぶり、酒井戸たちの目の前で別のイドへと逃げてしまいます。酒井戸と聖井戸を嘲笑うように、殺人者たちのイドからイドへと飛び越えていく早瀬浦。

井戸端のメンバーたちも、溢れ出した殺意のイドの中の一つに飲み込まれていました。推理担当の若鹿が冷静にこの状況の分析し、ミズハノメは飛鳥井木記そのものであり、彼女が外に出てしまったため自分たちは昏睡状態に陥り同じ夢を見ているのだと仲間に伝えます。しかし、まるで押しつぶそうという意思を持つかのように彼らをめがけて転がり続けるいくつもの巨大な岩石から、ただ逃げ回るしか術は無いのです。

昏睡した蔵の人々は、飲み込まれた先の様々な殺意のイドの現実には決して有り得ない歪んだ世界で、次々と殺されていきます。ようやくドリルのイドで早瀬浦を捉えた酒井戸と聖井戸。しかし早瀬浦によって、自分が本堂町小春であり、ここが自分のイドだと知らされた本堂町は、たちまちイド嵐に巻き込まれてしまいます。

 

落雷のイドです! そこで思い出して! あなた自身を!
あなたが世界のためになすべきことを‼︎

 

嵐の中で本堂町が残した言葉を胸に、酒井戸は雷のイドに降り立ちます。そこに横たわるカエルちゃんと自分の死体。酒井戸は自分の死体の胸ポケットから取り出した妻と娘の写真を見つめ、自分が鳴瓢秋人であることを思い出します。その瞬間、巻き起こるイドの嵐。吹き荒れる砂の中に、妻と娘の姿を見つけた鳴瓢。しかし彼は、もう惑わされることはありません。妻と娘の幻に別れを告げるような優しい微笑みを浮かべ、鳴瓢はイド嵐を抜け出すのです。バックに流れるMIYAVIさんの「バタフライ」という曲と相まって、非常に印象的な場面になっています。

一方、自らのイド嵐に吹き飛ばされてしまった本堂町。彼女を救い出したのは富久田でした。コックピットの部屋で昏睡状態に陥った彼は、名探偵としてではなく富久田保津として本堂町を探してこのイドまで辿り着いたのでしょう。今まで潜ってきたイドの地図を頭の中にインプットしている富久田は、本堂町を連れてカエルちゃんの死体の場所まで戻り、イド嵐を無事に抜け出すことに成功します。

そして再び早瀬浦の仮面のイドで目を覚ました本堂町と富久田。名探偵ではない富久田は、この先ついていくことはできないし、その理由も無いと答えます。このイドの世界から、どうすれば現実世界に戻れるのか、その手立ては分からないまま。本堂町のイドを気に入ったと言う富久田は、せめて彼女のイドの中に留まりたいと思ったのかもしれません。

この二人の会話に「7という数字をどう思うか」という話題が出てきます。第11話で「ジョン・ウォーカー」が神を気取って7という数字にこだわっていることが判明した時、正直「また天地創造7つの大罪とか、もうお腹一杯だな〜」と、ちょっとしらけてしまったんです。私以外にもそう感じた方はいらっしゃるかと思います。富久田は鳴瓢や本堂町と違い、逮捕された挙句に無理矢理名探偵にされたということもあってか、時折俯瞰したようにメタ的な発言をします。ここで彼は「7」という数字をばっさりと切って捨ててくれます。

 

ただの素数なのに、意味や物語がくっつき過ぎてるんだよね。非常に上っ面のいい数字になってしまっている

 

富久田さん、ありがとうございます。スッキリしました。彼のこの言葉で、絶対的な悪のようだった「ジョン・ウォーカー」=早瀬浦が、一気にとても古臭く陳腐な存在であると感じられるようになります。この物語の決着は「ジョン・ウォーカー」を倒すことではないのだと、この会話は暗に示しているのです。

再び早瀬浦を追うまでのひと時。富久田と本堂町は、それぞれを憎からず思っているのかもと感じさせたのも束の間、富久田は本堂町を庇い、銃弾に倒れてしまいます。撃ったのは、伊波七星。富久田と同じように蔵で昏睡しドリルのイドに飲み込まれていた彼女は、本堂町たちを追ってイド嵐を抜け出していたのです。数田の仮面を手に、彼女は彼のイドに入ります。しかし、数田と再会してすぐに彼女はあっけなく「ジョン・ウォーカー」に刺殺されてしまいます。数田の指先にすら触れることができないままの、報われない恋。

そんな伊波に撃たれ、血に塗れて息も絶え絶えの富久田。イドの世界で彼を救うことはできないと悟った本堂町は、自分で頭にドリルで穴を開けたことによって、欠けている部分が補われて見えるようになったのだと打ち明けます。富久田の頭の穴も塞がって見えていた、それは本堂町が殺人鬼「穴あき」としてではなく、富久田保津という人間として、彼を見ていたのだということではないでしょうか。

富久田は本堂町に見守られながら、穏やかな表情で息を引き取ります。落雷のイドから無事に戻ってきた鳴瓢は、富久田の遺体に寄り添う本堂町を気遣い呼びかけます。互いの表情から、それぞれ自分自身としてこのイドに立っていることを確信した二人。

 

もしこのイドから出ることができたら、
ここで起きた全ての死は無かったことになるんでしょうか

 

本堂町は問いかけますが、その本当の答えは鳴瓢にも分かりません。しかし、つまらない欲望のために大勢の人間を巻き込みながらイドでのうのうと生き続けようとする早瀬浦を、現実世界に生きる人間として決して許すわけにはいきません。

 

待ってろ、ステッキ糞野郎。
お前の作った名探偵が、お前を本当の地獄に堕としてやる

 

鳴瓢は「ジョン・ウォーカー」との最後の戦いを挑むことをはっきりと宣言するのです。(決意を込めたこの言葉は暗いと、すぐに本堂町に他の言葉に言い換えさせられてしまいますが)

殺意のイドの中で鳴瓢と本堂町が早瀬浦を追う一方、現実世界では百貴と松岡が飛鳥井木記の暴走を止めるために蔵に向かっていました。失踪していた飛鳥井木記を探し続けていた百貴。彼は、タイマン事件で彼女を助け出し、入院先の病院を度々見舞っていました。そして彼女の見る悪夢や能力のことを、彼は知っていたのです。

ミズハノメの作り出すイドに飛び込んだ名探偵が覚醒するトリガーとして存在する「カエルちゃん」の死体。それは飛鳥井木記と全く同じ姿をしています。それを見て、百貴が何も感じないわけはありません。彼女がミズハノメの開発の足掛かりに利用されたのではと、百貴はかなり早い段階で疑念を抱きながらも、その真相に迫るところまで行き着けなかったのでしょう。第2話で、何枚ものカエルちゃんの死体の写真を見つめていた百貴の後ろ姿。捜査のたびに現れるカエルちゃん=飛鳥井木記の死体を目にしながら、彼女を見つけ出すことができずにいることに、彼は歯噛みしながら耐えてきたはずです。

蔵のビル全体が、まるで水に包まれているように揺らめいているのを目にし、驚く松岡。蔵の内部の人々は昏睡して倒れ、内部とは連絡も取れません。首謀者である局長の早瀬浦が、自ら「ジョン・ウォーカー」であると自白するように自殺をしてイドに逃げ込んでしまった以上、現実世界でこの事態を鎮静化する手段は、飛鳥井木記の保護しかないと口にする百貴。彼は、飛鳥井木記をもう一度ミズハノメの中に戻すという決断をします。

そしてED後のCパート。防護服で身を固めた百貴。松岡たちに見送られ、彼は銃を手に蔵の内部へと向かっていくのです。

次回は『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』の第12話について語っていきます。

 

前回は第11話について語っています。興味を持っていただいた方は、こちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com