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『ID: INVADED イド:インヴェイデッド』について語りたい⑩希望の水面

あおきえい監督・舞城王太郎脚本のオリジナルアニメ『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』。今回は最終話となる第13話【CHANNELED Ⅱ】について、ネタバレしつつ語りたいと思います。

JIGSAWED

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  • 発売日: 2020/01/13
  • メディア: Prime Video

 

第13話【CHANNELED Ⅱ】

イドでの決着

様々な奇妙で歪なイドの世界で殺されていく人々を楽しげに眺める早瀬浦。巨大な幼児がうずくまっている浴槽のように区切られた空間。真っ赤な水の中には、巨大なサメが泳いでいるのが分かります。はるか上方から鳴瓢は早瀬浦目掛けて奇襲を掛けますが、あっさりとかわされてしまいます。

 

名探偵とはすなわち探求者。
私は、私のやり方で私の正義を探求している。
あなたにはそれが理解できないだけで、ねえ。

 

鳴瓢を小馬鹿にした早瀬浦の口調。鳴瓢が注意を引きつけている間に、その隙を突いて、血の色をした水の中に身を潜めていた本堂町がサメを操り奴を襲わせます。巨大なサメは頭から早瀬浦に食らいつきます。頭半分と片腕を食いちぎられた状態で水中から浮かび上がる早瀬浦。

 

正義などというものは、測るものの尺度次第です。
私の正義はここになくとも、外にあるんですよ

 

一瞬のうちに再生される早瀬浦の体。イドの主であり、現実世界に肉体を持たない早瀬浦がイドの中で死んでしまえば、このイドそのものが存在できなくなってしまいます。それを避けるため、ミズハノメが自動的に奴をこのイドのデータとして修復してしまうのではないかと考えられます。

イドの中にあるべきものとしてミズハノメに守られている早瀬浦は、イドに混入した異物に過ぎない鳴瓢と本堂町に対し、圧倒的に有利な立場にいることを確信し、余裕の構え。自分のシルクハットを奪って別の仮面のイドに逃げていく鳴瓢たちを、早瀬浦は呆れたように渋々といった表情で追いかけていきます。

辿り着いたのは、真っ白な空間にバラバラになった街が漂う見覚えのある空間。富久田保津のイドです。着地点を目指して降りていく本堂町を殴り飛ばし、鳴瓢を蹴り落とす早瀬浦。

 

復讐はもっと優美になすべきものですよ、鳴瓢くん

 

浮遊する地面に叩きつけられすぐには起き上がれないでいる鳴瓢と、彼のそばに着地した本堂町。彼らを地面に座らせたまま、早瀬浦は落ち着いてゆっくり話をしようなどと言って椅子に腰掛け、二人を見下ろします。まるで玉座に座り、彼らを支配下に置くかのように。

鳴瓢たちの企みを何もかもお見通しだと言わんばかりに富久田保津はどこかと尋ねる早瀬浦。しかし、忘れてはいけません。奴だけでなく、今対峙している鳴瓢と本堂町も、この世界の「名探偵」だということを。

 

まあ待ってろって
びっくりさせるからさ、「あいつ」が

 

全く怯む様子も無く挑発してくる鳴瓢に、苛立つ早瀬浦。本堂町は畳み掛けるように「7」という数字について、早瀬浦に尋ねます。案の定「7は神の数字だ」などと使い古された陳腐な説明を始める早瀬浦を、本堂町は「神様コンプレックス」の一言で即座に笑い飛ばします。

早瀬浦は「神の数字」である7にこだわり、「穴あき」「顔削ぎ」「腕もぎ」「舌抜き」「股裂き」「墓掘り」「対マン」という7人の殺人鬼を作り出しました。そして、それぞれの殺人鬼たちの犠牲者を7人までと決め、それが達成された時点で早瀬浦は計画を切り上げて自殺するつもりでいたのだと本堂町は指摘します。彼女に笑い飛ばされた「つまらない型」にはまっていることを否定したい早瀬浦は、8人目の殺人鬼として「追い込み」=鳴瓢を作ったと反論します。早瀬浦によって付けられていた自分の呼び名が「追い込み」と知って、鳴瓢はドン引きしていますが、確かに酷いネーミングセンスです。

  • 犠牲者は7人まで
  • その制限に到達したら死か逮捕

殺人鬼自らが敷いたルールは、同じ形で自分にも向かいます。無意識のうちにそのルールを自分自身にも適用していることに気づかされ、うろたえる早瀬浦。

鳴瓢を8人目の「連続殺人鬼」だと早瀬浦は言いますが、鳴瓢が実際に手を汚して殺したのは「タイマン」一人のみ。その他の殺人鬼たちに行った行為はあくまでも「自殺教唆」であり、正確には彼は「連続殺人鬼」ではないのです。幕引きを自分の手では行うことができず、鳴瓢に自殺に追い込んでもらおうとしていた早瀬浦。つまらない型から外れることも、自分自身の手を汚すことも出来ず、神を気取っているというのになんと中途半端なことか。ガッカリしてしまいますね。

 

神の如くにいろんな人を操ったあなたの計画は、どのレベルにおいても完成しないのです

 

キッパリと「ジョン・ウォーカー」の計画を切って捨てる本堂町。その時、何かが空を切り早瀬浦の喉元を押さえつけます。それは鳴瓢の手首でした。立ち上がった彼の左腕は、二の腕から先がバラバラになった状態になっています。ここは富久田のイド。あらゆる物がバラバラになっています。そしてこのイドでは、体のパーツがバラバラになっていても、自分の意思で動かす事ができるのです。この世界の特質を既に知りつくし、バラバラになった自分の体を使いこなしていた鳴瓢による奇襲。彼らの攻撃はまだ続きます。

 

やっぱり偉い人って現場を知らないから、しょうがないですよね。それとも、頭に穴を開けてバラバラなものが認識できなくなった私以外には、わかりにくいんですかね

 

早瀬浦の座っている「椅子のようなもの」。それは富久田がこのイドに持ち込んだコックピットでした。全ての物がランダムにバラバラになっているこの世界で、ミズハノメのコックピットももちろん、あちこちが欠けた状態で存在していたのです。

このイドにダイブした時に、鳴瓢と本堂町は落下しながら、確かに何かの位置を確認し合う会話を交わしていました。バラバラに欠けているものが完全な形で見えるようになった本堂町がコックピットを見つけ出し、意図的に早瀬浦を誘いこんでいたのです。

身動きが取れないように鳴瓢が早瀬浦の喉を押さえつけている間に、本堂町はマントの中に隠し持っていたコックピットのコントローラーを取り出し、投入ボタンを押します。ガックリと意識を失う早瀬浦。奴は鳴瓢たちによって、イドの中のイドへと投げ込まれてしまったのです。

イドの中のイドでは、鳴瓢はタイマン殺害の前に、そして本堂町は富久田に拉致される前にそれぞれ降り立っていました。そこでは、自分が犯した最初の殺人の前に時間が巻き戻されるのだと考えられます。早瀬浦が行き着いた先はもちろん、自分自身で初めて手を汚した殺人、銃で自分を撃ち殺す直前の世界。

 

手を貸せ!
こいつが「ジョン・ウォーカー」だ‼︎

 

イドの中のイドの世界のコックピットの部屋で、鳴瓢に取り押さえられてしまう早瀬浦。自分がミズハノメに守られているとたかを括っていた早瀬浦は、いともあっけなく罠にはまってしまいました。死んでしまっている早瀬浦のイドは更新することもありません。奴は自分のイドの中のイドという偽物の世界で、自ら殺人を犯すこともできないままに、永久にただ収監され続けることになったのです。神を気取った男の、なんとも情けなく哀れな結末。

 

きっと俺のイドはお勧めだ

 

第12話で、頭にドリルで穴を開けてから物の欠けた部分が補われて見えるようになったという自分の「秘密」を打ち明けた本堂町に、富久田が掛けた言葉です。名探偵として富久田はこの戦いに加わることはできませんでした。しかし、彼のこのイドでなければ「ジョン・ウォーカー」を罠に陥れることはできませんでした。「酒井戸」「聖井戸」「穴井戸」の3人の名探偵たちがいたからこそ、「ジョン・ウォーカー」を封じ込めることができたのです。3という数字が好きだと言っていた富久田。彼がこのことを知ったら、きっと満足そうに笑うだろうなと、ちょっと切なくもなります。

名探偵たちの活躍により、イドの中での「ジョン・ウォーカー」との決着は無事に着きました。あとは現実世界での決着をつけねばなりません。しかし、名探偵たちは自分の意思で現実世界に戻ることはできません。ミズハノメのコックピットの排出ボタンを誰かが押してくれるのを待つしかないのです。しかし井戸端のメンバーをはじめ蔵の人々は皆、飛鳥井木記の暴走によって昏睡してしまっています。イドの中にいる鳴瓢や本堂町からは、現実世界の人間にコンタクトを取ることもできません。

現実世界に戻る方策は何もない、絶望的な状況。しかし、希望と期待を持って待つと口にする鳴瓢。そんな彼に対し、窮地を脱するために名探偵として思考するのが正しいのではと本堂町は問いかけます。

 

遠い世界の、自分の預かり知らぬ誰かに
望みを託す事が大事だったりするんだ
それを俺は、名探偵として知っている

 

穏やかな表情の鳴瓢。その視線の先には、彼の最も信頼を置く人物の姿がありました。現実世界での決着は、百貴に託されたのです。

 

現実世界での決着

蔵の内部へと、一人突入した百貴。全身を覆う、まるで宇宙服や潜水服のような防護服。もしかすると、突入前に松岡と共に病院から押収した、飛鳥井木記を連れ去る時に使われたミズハノメのプロトタイプでもあるヘルメットを、防護服の下にかぶっているのかもしれません。それでも、力を増した飛鳥井木記の能力に飲み込まれかけ、百貴の意識は混濁した状態となってしまいます。蔵の外に停めた車から、百貴のバイタルをモニタリングしている松岡たち。心臓が止まってしまい倒れ込んだ百貴は、彼らに遠隔で容赦なく心臓マッサージなどを施され、肋骨が粉砕するなどしながらも、飛鳥井木記の姿を探し続けます。

飛鳥井木記は、蔵の高層階に一人佇んでいました。彼女は自分のところまで辿り着いてくれた百貴の姿を見て、微笑みを浮かべます。夢だけで飽きたらなくなり現実に飛鳥井木記を殺そうとしていたタイマンから、百貴は彼女を救い出し保護しました。彼女にとって百貴は、自分を救うために本当に手を差し延べてくれた唯一の人物だったのです。

しかし、百貴の手には銃が握られていました。飛鳥井木記は決して、自分が何もしていないなどとは思っていなかったはずです。しかし自分の悪夢が人々を飲み込み苦しめてしまうことを恐れていた彼女は、自らその災厄を巻き起こしていることを、現実として信じたくもなかったでしょう。百貴に銃口を向けられて、自分の能力が大勢の人々を悪夢に陥れている事実を突きつけられた飛鳥井木記は、もう受け入れるしかありませんでした。

 

やっぱり、私、壊れてしまったんですね

 

このまま銃で彼女を脅して、無理矢理にでも元のミズハノメの内部へ。松岡たちはそう計画していました。しかし彼らの思惑を知りながら、百貴は銃を捨て通信を切り、飛鳥井木記だけに語りかけます。

 

飛鳥井さん、ここから逃げたいですか?
どこか遠く、近くには人のいない場所を探して他の人の夢には届かないところを見つけて、そこで暮らすという方法もあるかもしれません

 

捜査のたびに、ミズハノメの作り出すイドの中で殺されてきた飛鳥井木記を、百貴が純粋に救いたいと思っているからこその言葉です。耳あたりの良い、優しい百貴の提案。でもそれは飛鳥井木記にとって、「誰とも接することなく孤独に、殺され続ける悪夢を見ながら耐えて生きていろ」ということを、ただ柔らかな物言いに置き換えただけでしかありません。異国の人物の悪夢までもが混じるようになってしまったと言う飛鳥井木記。彼女には、百貴の言うような「他の人の夢は届かないどこか遠くの場所」など、もう現実世界のどこにも存在していないのです。

百貴が床に投げ捨てた銃を拾い上げ、彼女は自分の頭を撃とうとします。しかし弾の抜かれていた銃は、カチカチと軽い音を鳴らすばかり。こんな状態になっても、彼女は死ぬことさえ許されないのです。

自分の見る悪夢を止める方法は無い。逃げ込める場所も無い。死なせてももらえない。外堀を埋められて、飛鳥井木記は自ら悲しい決意をします。

 

やっぱり私、箱に戻るべきですね
そうすれば少なくとも、誰かの役に立つ

 

涙を堪え、そう口にする飛鳥井木記。これは彼女の望んだことではないのは明らかです。しかし、ごく普通の人間として生きることができない彼女は、生きている限りミズハノメの一部として、自分が殺される悪夢を見続けることしか他に道は無いのです。

飛鳥井木記をミズハノメに戻す。百貴はそのために蔵に突入しました。これは望んでいた通りの結果です。それでも百貴は喜ぶことなど出来ず、唇を噛みます。彼は病院から失踪した彼女の行方を、ずっと追い続けていました。彼の胸の中にあり続けた飛鳥井木記を救いたいという思い。それがあるからこそ、彼はこの状況を許す事は出来ないのです。

全てを諦め、静かにミズハノメの水の中へと戻ろうとする飛鳥井木記。堪えきれなくなった百貴は、しっかりと丁寧に、想いを込めた言葉を彼女に投げかけます。

 

まだ私たちにはあなたを救い出すことはできない。でもこれからいつか絶対に、あなたを本当に助けてくれる人が必ず現れるから、それを待っていて欲しいんです。希望を捨てずに。いつか絶対に、あなたを苦しみから解放しますから

 

救われたいと願う人に対して、そして救いたいと思い続けてきた人に対して、「自分にはあなたを救えない」と告げなければならなかった百貴。それを飛鳥井木記に伝えることは、百貴にどれだけの苦悩と葛藤を強いたでしょう。これは救いの言葉ではありません。彼女を救えない自分の無力さと罪の意識に苛まれ、それでも百貴は伝えたかったのです。決して希望を捨てないで欲しい、と。それは百貴の愚直すぎるほどの誠実さの現れなのだと思います。

その瞬間、飛鳥井木記の脳裏に浮かぶ光景。それは陽に照らされ煌めく美しい湖でした。白いワンピース姿の彼女を、穏やかな表情で見つめる酒井戸。

 

生きてるところを見つけるのは
初めてだね、カエルちゃん

 

飛鳥井木記の見る夢には、入り込んできた人間の抱いている未来に対する気持ちなどが反映されます。それは予知夢に近いもの。描き出される「そうなるかもしれない未来」。鳴瓢が彼女に示した「未来」は、優しい希望の光に満ちたものでした。

現実世界では、彼女の苦しみを知ってくれる百貴がいます。そしてイドの世界では、彼女の死を悲しみ涙を流してくれる酒井戸がいます。彼女は一人ではありません。

 

私、信じます。だから待ってます。
ここで、ずっと

 

いつになるのかわからない。それでも信じていい、願っていい、託していい。飛鳥井木記は絶望ではなく希望を胸に、ミズハノメの水の中へと戻っていったのです。

蔵の建物を覆っていた揺らめく水の幻覚は消え、電気が灯ります。意識を取り戻していく人々。飛鳥井木記の暴走は止まり、ミズハノメは元の状態に戻ったのです。

こうして「ジョン・ウォーカー」事件は幕を下ろしました。

凶悪殺人犯の捜査に使われるミズハノメが「飛鳥井木記」という女性の能力を利用していることはもちろん、事件の真相も犠牲者も、昏睡状態のまま意識が戻らない職員がいることも、すべては世間に知らされることなく秘匿され、闇の中へと葬られます。蔵とはそういう組織であることを、職員の全員が理解しているのです。

ミズハノメを使い、何もなかったように行われる殺人犯の捜査。構築される新たな殺人鬼のイド。そのイドに現れるカエルちゃんの死体は、飛鳥井木記が百貴をそして鳴瓢を信じている証でもあります。彼女の苦しみと引き換えに形成される殺人犯の殺意のイドへと、鳴瓢は名探偵酒井戸として、またダイブするのです。

次回は百貴と鳴瓢の関係について語っていきます。

 

前回は『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』の第12話について語っています。興味を持っていただいた方は、こちらからどうぞ。

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