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『ファイアーエムブレム 風花雪月』について語りたい【14】金鹿の征く道

「ファイアーエムブレム」シリーズ中の名作『ファイアーエムブレム 風花雪月』。今回はフォドラの隠されていた歴史を暴き、真の「夜明け」をもたらすこととなる金鹿の級長クロードが辿っていくこととなるルート「翠風の章」を、深掘りしつつガッツリ語っていきたいと思います。

ネタバレが含まれるので、未プレイでネタバレはダメという方は注意してお読みください。

 

「異質の者」クロード

レスター諸侯同盟の盟主オズワルド公の孫クロード。彼が嫡子と公表されたのは、本編開始のわずか1年前。家督を継ぐべき身内を失い断続の危機にあったリーガン家はクロードの登場によって後継を得、レスター諸侯同盟も一応の安定を取り戻したのです。

紋章を宿すクロードがリーガン家の血筋であることは確か。しかし突然現れた上に、父親は誰か、嫡子となる前どこに居たか、など明らかにされないことが多く、エーデルガルトに怪しまれたりもします。

当主の家で生まれ育っていないからか、クロードにはエーデルガルトやディミトリのような生真面目な堅苦しさは感じられません。襟をくつろげる制服の着方をし、食堂から高級食材を失敬したり趣味と言って腹を下す薬を作ったりと、むしろ彼は問題児寄り。

好奇心旺盛で、ペトラやシャミアなどフォドラ以外の地の出身者や、邪神からフォドラを救った解放王ネメシスが使ったという「天帝の剣」とそれを操る主人公に興味津々。また修道院の書物を読み漁っており、彼の部屋は本で散らかり放題です。

とはいえ、クロードは次期盟主となる自覚から殊勝に学んでいるわけではありません。彼はフォドラの貴族でありながらセイロス教とは違う宗教観を持ち、リーガン家に来た後に知った自らの紋章については「利用できるもの」という認識の様子。

人懐こい笑顔を浮かべて誰よりも主人公と距離を詰めてきますが、自らを猜疑心の塊だと言って憚らず、リーガン家を継ぐのも野望実現への踏み台であると匂わすなど、かなりの野心家である事を感じさせ、クロード本人もそれを否定しません。

不遜な表情を浮かべるクロード

何やら思わせぶりなことを言ってます

このようにクロードは一筋縄ではいかない癖の強さがあり、3人の級長の中で異彩を放っています。しかし、そんな彼の「異質さ」こそが「翠風の章」の鍵となっているのです。

 

真実を求めて

褐色の肌に黒髪、左耳にはピアスと、クロードにはフォドラとは違う血と文化を感じます。クロードはリーガン公爵家の公女ティアナとパルミラ王家の男性との間に産まれました。盟主の娘が祖国を捨てるほどに惚れ込んだ相手の男性がどれほどの人物かと言えば、当代のパルミラ王なのですから納得しますね。つまり、クロードはレスター諸侯同盟の盟主の孫にしてパルミラの王子なのです。

パルミラは「フォドラの喉元」と呼ばれる山岳地帯を隔てて東側に隣接する、ドラゴンを乗りこなす好戦的な民族の国。時折フォドラに侵攻してくるため、迎撃に備えて造られた要塞でヒルダの兄であるホルストが常に睨みを利かせているという関係です。

パルミラ王にはクロードの他にも子供がいたのでしょう。異国の血が流れるクロードは王子であるとはいえ異物扱いをされ、幼い頃から殺されかけるなどしてきました。そうなると彼の母親の身が心配になりますが、特に言及がなく正妃なのだと思われます。王位を継がせまいと側室からクロードは命を狙われたということなのかもしれませんね。そんな過酷な状況を、彼は洞察力や策略の才を磨いて乗り越えてきたのです。しかもパルミラではフォドラの人間は臆病者と見下されており、敵国の男性と駆け落ちするような豪放なフォドラ女性を母に持つクロードは、面白くなかったことだろうと思います。

そんなところにリーガン公から嫡子にと請われ、自分の意志でフォドラに向かったクロード。その胸には希望を抱いていたことでしょう。しかし彼は、文化も信仰も違うフォドラでも同様に、パルミラを敵対視していることを知ります。父の国パルミラも母の国フォドラも、隣り合っていながら互いを見下し理解しようとしない。そんな現実を目の当たりにし、クロードは「多様な民族が互いを尊重しながら共存していける世界を作る」という壮大な夢を抱くようになるのです。

自分が継ぐことになる同盟を手始めに、閉鎖的なフォドラの思想を変えようと考えたクロード。その足掛かりを求め士官学校に入学した彼は、人々の思想の礎であるセイロス教の教義や歴史などの知識を蓄えるため、寝る間を惜しんで大修道院内を探り、書庫に通って書物を漁っていました。

そんな彼に、書庫番のトマシュは「教団は英雄の遺産の負の面についての記録をフォドラ全土から消し、事実を隠蔽している」と教え、騎士団に気づかれる前に嗅ぎ回るのは止めろと忠告をします。それほどクロードが熱心だったということですが、その言葉には隠されているべき教団の秘密に触れてしまった時には、その身が危うくなるぞという意味も含まれていたのではないでしょうか。

実際に、クロードは書庫で聖者セイロスを救ったという「白きもの」を描いた絵を見つけますが、ここの蔵書ではないとセテスに取り上げられてしまいます。妨害をされると、クロードはむしろやる気を出してしまうタイプだと思うんですけどね。

セイロス聖教会を信用していないクロード

全然セイロス聖教会を信用してないですよね

取り上げられた絵に描かれていた白きものの額に紋章石があったことから、紋章石は本来この巨大な姿になるための核のようなものであり、その力を利用した武器が英雄の遺産だと仮説を立てたクロード。英雄の遺産は一致する紋章を持たない者を魔獣に変えてしまう恐ろしい力を持っていますが、そのことをレアは内密にしようとします。

女神より授けられた紋章を持つ貴族が国を治める形を取ることで、教団はフォドラ各国の君主より上の地位に立っています。つまり人々にとってセイロス教が信じるべき唯一無二のものである限り、フォドラは教団による実質的な支配下にあります。教団は、英雄の遺産が恐ろしい力を持つなどという女神ソティスに関する負の面を世に知られては困るというわけです。

事実は往々にして権力者の都合の良いように覆い隠され作り替えられるもの。それをクロードも重々承知しているはずです。しかしパルミラで生まれ育った彼に、教団への忖度などありません。フォドラの敬虔なセイロス教徒では決して持つことのできない客観的な目で、着実に真実へと近づいていくのです。

 

「きょうだい」のために

いずれ女神の力を身に宿すことを予見し、主人公に天帝の剣を預けていた様子のレア。その予見通り、主人公は内に宿していた女神ソティスと融合し、その力を完全に受け継ぎます。

しかしジェラルトはそんなレアから逃げるように、赤ん坊だった主人公を連れて教団から去り、その後もセイロス教から徹底して遠ざけて育てていました。なぜ彼はそんなことをする必要があったのか。不審を抱いたクロードは、主人公にジェラルトの日記を読ませてくれと頼み込んだり、レアとセテスの会話を盗み聞いたりと、今まで以上に必死さを感じさせるようになっていきます。

教団は「都合の悪い事実」を当たり前のように隠しています。その隠蔽された事実が主人公の出生にも絡んでいると知り、クロードの中に主人公のために真実を突きとめるという目的が追加されたのです。この先、彼は多様な人々の共存する世界を作るという自分の夢の実現と赤ん坊だった主人公にレアが犯した禁忌の究明という2つの目的のために戦い、教団が隠蔽する事実を明らかにしていくこととなります。

フォドラの地でセイロス教に触れずに育ち、無表情で自分の年齢も知らず、炎の紋章を持ち英雄の遺産「天帝の剣」を扱う主人公は、クロードから見ても「異質」な人間だと感じられたことでしょう。純粋なフォドラ人ではないクロードは、フォドラの人間として「異質」な主人公に共感と希望を感じ、仲間として特別に強く意識するようになっていきます。主人公となら自分の夢を共有できるのではないか、そんなクロードの思いは「きょうだい」と特別な呼び方で主人公を呼ぶことでも感じられます。

この「翠風の章」のクロードと主人公は同盟軍を前進させる両輪のような関係にあり、対等な印象を受けます。それは、エーデルガルトが自分のためにのみ戦い続ける「紅花の章」やディミトリを主人公が精神面・戦力面で支える「蒼月の章」との違いでもあります。

 

戦乱こそ好機

聖廟の襲撃。フレンの血を狙った誘拐事件。村人同士で殺し合う実験場となったルミール村。礼拝堂で魔獣と化した生徒たち。にじり寄るような不可解な敵の動きが何を意味するのか。

それは聖墓で行われる女神の啓示を授かる儀式で明らかになります。人を魔獣に変える力を持つ紋章石を全て奪い取ろうと、炎帝ことエーデルガルトが帝国軍を率いて侵入したのです。クロードたちは紋章石を守り抜いたものの、エーデルガルトを捕り逃がしてしまいます。彼女は、アドラステア帝国皇帝として挙兵。クロードは否応なく戦乱に巻き込まれることになります。

ガルグ=マク大修道院を陥落させた帝国軍は、王国と同盟への侵攻を本格化。行方不明となったレアの捜索のために騎士団は離散し、王国は外からの帝国の攻撃と内からの政変により崩壊状態に。同盟も親帝国派と反帝国派との衝突が続き、盟主を継いだクロードが諸侯をどうにか繋ぎ止めていました。

捨て置かれて荒れ放題になっていたガルグ=マク大修道院で、5年前の約束を信じて主人公を待っていたクロード。金鹿の仲間たちとも再会を果した彼は、帝国と戦うためセイロス騎士団と共にガルグ=マクを拠点に兵を挙げます。

自分の意思と関係なく始まった戦争ですが、クロードにとって、帝国の脅威から同盟を守る戦いであると同時にフォドラの思想と体制を刷新する好機でもあります。レアに教団の後事を託された主人公が自軍にいることを大義名分に味方を得やすくなりますし、セイロス騎士団と共に帝国に囚われたレアを探し出して、隠されてきた真実を究明することもできるのです。

クロードの野望の実現は、戦争が起きて頓挫したようにも見えます。そして、まとまりにかける同盟が強大な帝国を倒すことは困難なことに違いありません。それでもこの「翠風の章」が深刻な雰囲気にならないのは、クロードが常に戦争後の世界に対して希望を抱いているからなのです。

常に共存の道を探るクロード

いつもさらっと前向きな言葉を口にしてくれます

フォドラ以外の世界を知っており、自身が「異物」として虐げられた経験を持つクロードは、違いがある事を理由に排除すべきではないと考えています。そのため、教団の殲滅を目指すエーデルガルトや復讐のためエーデルガルトの首を狙うディミトリのような極端な発想はしません。「卓上の鬼神」という二つ名の通り、彼は直接的な衝突を避けつつ自分に有利に働くように策を立てる能力に長け、だからこそ利害が必ずしも一致しないレスターの諸侯たちを束ねられていると言えます。

クロードの望むものはあくまでも変革であり、排除ではありません。犠牲を最小限に抑えて勝つ事を至上とし、必要であれば違いあるものをそのまま受け入れて自分のものとする柔軟性と合理的な思考が彼にはあるのです。

それは彼の戦いに対する考え方にも現れています。死にそうになったら逃げろと味方に指示を出すことのできるクロード。彼はグロンダーズで正気を失い同盟軍にも見境なく攻撃してくるディミトリに「目を覚ませ」と呼び掛け、乱戦に散った彼の死を悼みます。そればかりか敵であるエーデルガルトにも「殺したいわけではない」とはっきりと言い、彼女の死でしか決着出来なかった戦いを理想的な結末ではないと口にしてもいます。クロードは敵を滅ぼすような勝ち方は望まず、可能な限りの共存を目指していました。しかしエーデルガルトはそれを拒み、主人公に斬られる事を選んだのです。

セイロス教の閉鎖的な教義に縛られたフォドラを解放し、多くの国の人々や文化と交流させたいと考えているクロード。たとえ敵対することがあろうと必ず分かり合えると、クロードは人間を信じています。純粋すぎるほどの彼の理想を相容れないと切り捨て、己の信念を曲げず最期まで気高くあったエーデルガルトの姿は感動さえ覚えましたが、そんな頑なな彼女でさえも、クロードならば丸ごと包容できただろうと思わせられます。

同盟軍により帝国は倒され、囚われていたレアは無事に保護されました。これで終わると思われたクロードたちの戦いは、新たな局面を迎えます。帝国の背後で暗躍していたタレス率いる「闇に蠢く者」の存在が明らかにされるのです。

クロードにとって、フォドラの平定は自身の野望実現の通過点にすぎません。この帝国を倒した後に続く戦いは、その後の世界を常に見据えていたクロードのルートである「翠風の章」でのみ描かれていきます

 

フォドラの夜明けを

空から光の杭を撃ち落とし、不落と謳われたメリセウス要塞を一瞬にして倒壊させるほどの力を持つ「闇に蠢く者」。それは女神の眷属を恨み、このフォドラの地を滅ぼそうと企む者どもでした。

遥か古の時代、女神により与えられた豊かな文明を自分の力だと思い上がった人間は、女神に戦いを挑みました。その戦いに敗れ、地上を捨てて逃れた者の末裔こそ「闇に蠢く者」。復讐の時を待っていた奴らは盗賊だったネメシスの野心につけ入り、聖墓から奪った女神ソティスの亡骸で「天帝の剣」を造って与えました。その剣を手に、女神の眷属たちへの虐殺を重ねたネメシス。しかし最後にその生き残りであるセイロスによって倒されます。

女神の眷属への復讐の念を抱き、「闇に蠢く者」はフォドラ各国の内部に入り込んで殲滅の機会を窺ってきました。そして帝国を利用し、再びフォドラ全土を戦乱に陥れたのです。

「闇に蠢く者」を倒さない限り、フォドラは滅亡の危機から脱することはできません。王国と帝国が君主を失い倒れた今、勝者としてフォドラを守るため「闇に蠢く者」の拠点シャンバラへ攻め入るクロード。追い詰められたタレスは主人公らを巻き添いにしようと何本もの光の杭を撃ち込み、シャンバラは崩壊。白い竜に姿を変え主人公らを身を挺して守ったレアは、瀕死の重傷を負います。

しかし、さらに緊迫の事態は続きます。シャンバラの崩壊により封印が解かれたネメシスが、謎の軍勢を率いてガルグ=マクへと攻め込んできたのです。女神ソティスの血から炎の紋章を得ているネメシスは強大な敵です。自分の命が長くはないと悟り、女神を復活させるため主人公の体内にその心臓を埋め込む禁忌を犯したことを打ち明け、ネメシスを倒せと主人公に命じるレア。フォドラの未来を託された主人公とクロードは見事ネメシスを討ち破りフォドラ滅亡の危機を退け、5年半に及んだ戦争を終わらせたのです。

このネメシスとの戦いのムービーで、「弱き者」と挑発されたクロードがネメシスに返す言葉が、とても良いんですよね。彼の掲げる理想の根底にある、人間を信じる強い心を感じて胸が熱くなります。

希望を語るクロード

戦いの後の世界こそがクロードの希望

「解放王ネメシス」の正体は女神の眷属を虐殺した盗賊であり、英雄の遺産は女神より授けられたものではありませんでした。さらにこのフォドラの地は、人間が高度すぎる文明を持って再び暴走しないようにと、教団によって意図的に外の世界から隔離されていたのです。「闇に蠢く者」と共謀していたエーデルガルトにも、復讐に囚われていたディミトリにも辿り着けなかったフォドラの暗部をえぐり、真実を白日の元に晒したクロード。

この「翠風の章」は、クロードが偽りの歴史により硬く閉ざされていたフォドラの人々の眼を開かせ、新しい時代へと踏み出す物語なのです。

 

次回は今作における主人公(ベレト・ベレス)の役割について語っていきます。ご興味を持ってくださった方はこちらからどうぞ。

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