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『ファイアーエムブレム 風花雪月』について語りたい【15】主人公(ベレト・ベレス)の役割

「ファイアーエムブレム」シリーズ中の名作『ファイアーエムブレム 風花雪月』。それぞれの理想を抱いて突き進んでいく3人の級長さんたちのルートは、どれも魅力的なストーリー展開ですよね。でも「主人公はそこで何してるんだ?」ということで、今回は主人公(ベレト・べレス)の役割について語っていきたいと思います。

ネタバレが含まれるので、未プレイでネタバレダメという方は注意してお読みください。

 

各章の主人公の役割

黒鷲の学級のエーデルガルト、青獅子の学級のディミトリ、金鹿の学級のクロード。この3人の級長はそれぞれ、いずれ君主となることが定められており、自分が治める国のあり方に理想を抱いています。

エーデルガルトは「身分や紋章に縛られることのない世界」を求め、ディミトリは「弱者が苦しむことのない世界」を望み、クロードは「民族や信仰の違いを乗り越え共に生きられる世界」を目指しています。 まさに三者三様。

主人公(ベレト・べレス)はそんな彼らを士官学校の教師としてサポートするという立場にありました。その関係は彼らが成人して君主となった後も続き、主人公は自ら前線に立って軍に指揮を出し敵を倒すという戦力的な面での支援だけでなく、精神的な支柱として大きな役割を担うことになります。しかし主人公の立ち位置は、どの級長を選ぶかによって微妙に異なっているんです

べレスの顔

女性主人公のべレス

「紅花の章」における主人公

アドラステア帝国の皇帝となる黒鷲の級長エーデルガルト。強烈なカリスマ性で軍を率い、フォドラを侵攻していきます。そんな彼女も「師」と呼んで慕う主人公の前では、1人の生身の少女に戻っているように見えます。

「紅花の章」は、憎きセイロス聖教会を倒すという共通の目的で「闇に蠢く者」と手を組んで進むルート。目的達成のためならば悪の者どもとも結託し、目標達成の暁には手のひら返しで奴らを討伐するつもりでいるなど手段を選ばないあたり、どうしても「悪役感」が拭いきれません。

それはエーデルガルトも当然わかっていること。フォドラにおいて「正義」そのものであるセイロス教を全否定しようというのですから、大国の皇帝とはいえ叛逆に等しい行為です。「毒を食らわば皿まで」という言葉がありますが、まさにそんな感じ。自分たちの行為を正当化するためには、どんなことがあろうと絶対に負けられないんです。

エーデルガルトはセイロス教に押し付けられた紋章のために家族を蹂躙され、自身も深く傷つけられてきました。彼女は教団を倒してこの世から消し去ることを心の支えに生き抜いたのです。セイロス教がフォドラの人々の心の拠り所であろうと、彼女にとっては存在自体認めることなどできないもの。この戦いそのものが、エーデルガルトが抱えるトラウマと向き合い乗り越えるための作業でもあるのです。

そこで主人公(ベレト・べレス)ですよ。

エーデルガルトにとって主人公は、望まぬ炎の紋章を宿らさせられた、自分と同じセイロス教の被害者。そして教師として自分よりも上の立場から導いてくれる唯一の人物でもあります。そんな主人公がレアではなく自分と共にいることを選んでくれたことで、教団を潰す戦いが正しいという証明を得た気持ちになったはずです。主人公によって「あなたは正しい」と背中を押してもらうことが、エーデルガルトが戦い続けるためには必要だったのです。

 

「蒼月の章」における主人公

「蒼月の章」では、心が荒れ放題になっているディミトリを王国軍の人々が揃って見守り続けます。必ず立ち直ると彼を強く信じているという証ではありますが、それだけではありません。

北方に位置し、土地が豊かではない王国。その厳しい環境を乗り越えるため、ファーガスの人々はリアルな心の拠り所として王家に篤い忠誠を誓い仕えています。青獅子の生徒たちもディミトリを殿下と呼び、分を弁えた砕けすぎない態度で接していますよね。さすが「騎士の国」と呼ばれるだけあります。獅子王ルーグをはじめとする代々の王に連なるディミトリは、王位を継ぐ資質を唯一持つ存在。ファーガスの人間にとって王家は大きな存在です。王位継承者であるディミトリの指揮の下で帝国と戦いたいと誰しもが思っているんです。

しかし、彼の心にはダスカーの悲劇が大きくのしかかっています。復讐に囚われエーデルガルトの首を狙い殺戮に明け暮れる王子と、ダスカーで自分が生き残ったことへの罪悪感に苛まれ苦しむ青年と、そのどちらもがディミトリの姿です。そして彼は過去に味わったその悲劇を上塗りする形で、今まさに更なる苦難に飲み込まれ苛まれている真っ最中。自身のトラウマを乗り越えるために教団を潰すと決意し、闇堕ちした状態から脱しようとしているエーデルガルトよりもさらに前の段階なんです。

人としてはディミトリという1人の青年に対しては同情をせずにはいられませんし、家臣として帝国軍に敢然と立ち向かう強い王子を望みはしますが、王族に対して強い態度に出ることは憚られます。それゆえに、王国の人々は誰しもが腫れ物に触れるようにしかディミトリに接することができないでいます。そして周囲の人間がそんな態度でいるため、彼は思う存分闇堕ちしたままズブズブと浸っていられるわけです。王家への強い忠誠心ゆえの悪循環。この状態ではディミトリは立ち直るきっかけが掴めませんし、王国軍はまともな戦いができません。

そこで主人公(ベレト・べレス)なんです。

ファーガスにほぼ縁のない部外者であるため、青獅子の元生徒たちだけでなくロドリグやギュスタヴらも自分の迷いを吐露し、王国軍のメンバーそれぞれの思いが主人公の元に集約されていきます。そうして主人公はディミトリを大将とする軍をまとめるためのハブとして王国軍を下支えする役割をも負うことになります。家臣としての王家に対する遠慮と個人としてのディミトリに対する憐憫の情を知ってしまい、ディミトリの行き過ぎた暴走をたしなめられるのは自分しかいないと、主人公は相当なストレスを感じていはず。気の毒になります。

しかし、王家に忠誠を誓い付き従う家臣ではない主人公が「王子」をではなく「ディミトリという1人の人間」を変わらず支え続けてくれたことは、ディミトリにとって大きな意味を持ちます。皆の望む王子としてではなく自分自身として生きてもいいのだと、彼の目を未来に向けさせることができるのは、主人公しかいなかったのです。

 

「翠風の章」における主人公

同盟は言わば寄せ集めの国であり、帝国軍の猛攻を受けて親帝国・反帝国とに分かれて衝突しあうような状態。母方の祖父オズワルド公はすでに亡く、ジュディットが味方についてくれてはいても彼女は五大諸侯には含まれないため、クロードは後ろ盾が無い状態で盟主として立ち回らなければなりません。精神的にかなり厳しい状況です。

盟主としての責務を負っていますし、 フォドラを他の民族とも尊重し合い共存できる地にしたいという願いを持ってもいますが、苦しい状況が続く中でクロードの頭の片隅に「帝国に同盟を明け渡してパルミラに戻る」という選択肢が浮かんだこともあったはずです。実際に「紅花の章」「蒼月の章」では同盟を託して去っていますし。それでも「翠風の章」のクロードを最後までフォドラに踏みとどまらせていたものは、主人公の存在なんです。

パルミラで命を狙われるほどの苦難を経験し、それを既に1人で乗り越えてきたクロード。親の助けを得られなかった彼は、自分の力で何とかするしかないのだと割り切った考え方を持っていますし、「自分を認めさせた」と語っているように、実際の経験として苦難を跳ね除けてきました。エーデルガルトやディミトリは第2部の戦争編に入っても自分に向き合うことでいっぱいいっぱいな状態ですが、クロードは自分の存在を問うような段階からは脱しています。他の2人がいかにも優等生然としているために感じにくいのですが、実は級長3人の中ではクロードが一番精神的に大人。彼の感情が安定していて負の要素が見られないのはそのためです。なので強い精神力を持つ彼には、自分を無条件に支えてくれるような侍従も必要ないのです。

だからこそ主人公(ベレト・べレス)なんですよ。

フォドラとパルミラにルーツを持つクロードは、パルミラでは異物扱いを受けていました。しかし、自分の意思で来たとはいえフォドラも彼にとってアウェーの地。かなり孤独ですよね。しかも彼の夢は民族や信仰を超えて共に生きられる世界を実現するというもの。自分ひとりで抱える夢とするにはあまりに壮大で、自分の力だけで実現することはあまりに困難です。だからこそクロードは、自分の夢を語り合い共有できる誰かを必要とし、自分が動くことによって誰かを幸せにすることができるという確証を求めていたのです。

しかし侵攻される同盟を守り帝国を倒すことが至上の使命となっている時に、守りたいもののために戦っている同盟の仲間たちに自分の夢を語ることはできません。傭兵として国に縛られず、セイロス教の信仰とも無縁に生きてきた主人公がいたからこそ、クロードは今の戦いの後のさらに先にある同盟の枠をも超えた世界のあり方について語り続け、秘めた野望を手放すことなく追い求めることができたのです。

互いに支え合い共に進んでくれる同志であり、自分の夢見た景色を並んで同じ目線で見てくれる人物は主人公しかいない、そんなクロードの確信は主人公に対する「きょうだい」という特別な呼び方からも強く感じられます。

 

主人公は世界を統べられるか

主人公に自分の学級を選んでもらえないと、エーデルガルトは教団に歯向かう侵略者として討ち倒され、ディミトリは国を追われて復讐に囚われたまま無駄死にをし、クロードは掲げた野望を果たせぬままに終わってしまいます。当然ではありますが、「主人公が自軍にいる」ということが彼ら級長さんたちが勝利するための必須条件になっているわけです。

では、どの級長も選ばずに主人公自らが先頭に立って戦っていたらどうなったのか? それを描いたのが「銀雪の章」です。

 

「銀雪の章」における主人公

炎の紋章を持ち級長さんたちからは実力を認められて一目置かれている主人公であれば、戦争というあまりに強引で急進的すぎる手段を選んだエーデルガルトを説得し、心を閉ざして人の言葉に耳も貸さずに己の復讐心に任せて突っ走るディミトリの目を覚まさせ、3国痛み分けで戦乱を収められるようにクロードをせっついて謀略を尽くさせるっていうのも可能なんじゃないかと思ったりもするのですが、そんなに甘くはありません。

主人公は傭兵として社会のしがらみから離れたところで今まで生きてきたというのに、あれよという間にセイロス聖教会の大司教であるレアによって士官学校の教師にされ、英雄の遺産を託され、やたら信頼されて聖教会の後事までも頼まれてしまいます。そこに主人公の意思は無いんですよね。傭兵の時と同じ感覚で、雇い主のレアに依頼されたから断ることもできずに引き受けた感じ。

「銀雪の章」ではその後、自分が担当していた黒鷲の学級の級長であるエーデルガルトと彼女の腹心のヒューベルトが揃って聖教会に反旗を翻して攻め込んでくることになります。自分の父親は殺されてしまったし、雇い主のレアは行方不明だし、セテスらからはとてもあてにされているし、他の黒鷲の生徒たちはエーデルガルトに裏切られて憤っているし。主人公は「自分には関係ない」と逃げ出すことができない状態になってしまうわけです。

そうして主人公は「セイロス聖教会に楯突く帝国許すまじ」という教団の意思に従って戦っていくことになります。ジェラルトとの縁もあり自分に深い信頼を寄せてくれたレアに対して主人公は恩義を感じていますし、祖国と戦うことになってしまった生徒たちのことも放っておくわけにいきません。この「銀雪の章」は教団ルートと言われているように、戦いたいという積極的かつ能動的な意思は主人公には無く、押し流されるように教団側の人間として先頭に立って戦わざるを得なくなるのです。

そんな主人公に、いずれ国を統べる者となる自覚を持っている級長さんたちのような、自分が目指す理想の国の形のビジョンなんてあるはずがありません。ただの若い傭兵にすぎなかったわけですから、考えたこともないはずです。主人公にとって成し遂げたいことは「帝国を倒すこと」「レアを助けること」の2つだけ。なのに、王国も同盟も帝国軍に倒され潰されてしまいます。その上、帝国を倒してせっかく救い出したにもかかわらず、自身の力の制御ができなくなり白きものとなって暴れ回るレアを倒すしかなくなってしまうんです。「銀雪の章」のラストでフォドラは、帝国も王国も同盟も崩壊し大司教レアまでも失うという、何もかも無い状態になるのです。

つまりフォドラの人々にとって、セイロス聖教会以外にすがることのできる存在が無くなってしまったわけで、そんな不安な状況にいる人々はますます女神に助けを求めてセイロス教の信仰を深めます。今際の際のレアからセイロス聖教会だけで無くフォドラの地そのものまで託されてしまった主人公。セテスたちが動いて統治体制を整え、有無も言わせず聖教会の最高指導者かつフォドラの新たな王に担ぎ上げられてしまいます。

主人公はもともと女神ソティスを復活させるために器としてレアに用意された人間です。胸の中には心臓の代わりに紋章石が埋め込まれ、ソティスと融合して女神ソティスの力を受け継いだ主人公は、周囲の人々に求められるままに女神ソティスの器としての役割を果たすために生きていくことになります。レアの思う壺ですね。

 

女神ソティスの力を宿した聖者ベレト(べレス)により、
王国、同盟を滅しフォドラを戦乱に陥れた帝国は打ち倒され、
セイロス聖教会主導の下、新たな統一国家が築かれた

 

きっと主人公の戦った戦争は、この先人々によってこんなふうに言い伝えられていくのでしょう。これは前進したように見えて、またゼロに戻っての歴史のなぞりなおしでしかありません。父のジェラルトは必死に主人公を教団から守ろうと遠ざけて育ててきました。しかし、結局主人公は教団から逃れることはできずに絡め取られてしまう事になります。「銀雪の章」の結末はハッピーエンドとは言い難い、とても皮肉なものです。

つまりこれって、主人公1人ではダメなんだよってことなんですよね。主人公には女神の力があっても、フォドラをどうしていきたいかという理想や野望が全く無いんですから。

想いだけでも力だけでも世界を変えることはできません。3人の級長さんたちが主人公を必要としたように、主人公には3人の級長たちのフォドラの未来に対する信念が必要なのです。運命や奇跡と呼ばれる人の手が及ばない力と、人の抱く強い想いとが噛み合わさった時に世界は大きく姿を変えていく、そのことを体現し私たちに見せてくれているのが、今作の主人公(ベレト・べレス)なのです。

 

次回は『ファイアーエムブレム 風花雪月』の世界に奥行きを出しているサブキャラたちについて語ります。ご興味を持ってくださった方はこちらからどうぞ。

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