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BL『恋する鉄面皮』2巻(斉藤×富田編)について語りたい

皆さんは中田アキラ先生の商業BL『恋する鉄面皮』をご存知ですか? 今回は、3巻が最近出たのをきっかけに全巻購入して一気読みし、どハマりしてしまったこの作品の「2巻について」語りたいと思います。

サラリーマンたちの大人の恋愛を描いた作品であり、ガッツリと性描写がある作品なので、未成年の方はごめんなさい。大人の方だけこの先をお読みくださいね。

ネタバレが含まれるので、ネタバレダメという方は注意してお読みください。

 

『恋する鉄面皮』ってどんな作品?

この『恋する鉄面皮』は現在(2021年3月時点)3巻まで出ていて、1巻の表紙にいる北川と夏目のカップルが物語の中心です。

長身で整った容姿、成績トップの営業マン北川。社内一評判のイケメンでも無愛想、仕事第一な開発部の夏目。開発部の隣の企画部に北川が異動し、2人は接近していきます。仕事用の仮面を外した北川は、実は赤面症で可愛げのある性格。一方の夏目は仕事以外は不器用で、あくまで会社の先輩として接しようとしながら、以前から好ましく見ていた北川に絆される気持ちが抑えきれません。

北川と夏目が互いの気持ちに向き合い結ばれていく物語は、とても素敵でした。引き続き彼らの物語をと思うところですが、2巻は夏目の同僚である富田と彼の行きつけのバーのマスター斉藤のカップルがメインの斉藤×富田編になるんです。

富田は、うまく踏み出せない夏目の背中を押してあげていた、まさしく「主人公の親友」ポジションの人物。2巻をスピンオフのように感じてがっかりされた方もいらっしゃると思います。が、3巻すべて通して読んだ私は斉藤と富田の2人に自分でびっくりするほどにハマり、たびたび2巻だけを読み返しています

斉藤と富田がメインとなる『恋する鉄面皮』の2巻になぜハマったのか、自己分析も兼ねてガッツリ語っていきたいと思います。

 

ごく普通の男が堕とされて

容姿端麗な北川や夏目と比べると、富田の容姿は癖っ毛が特徴なくらいで、目は一重で小さくあっさりした顔立ち。まさに主役の親友キャラという印象です。1巻を読み、仕事でもプライベートでも夏目をうまくサポートしてくれる気の利く同僚とだけ見ていたので、斉藤に抱きしめられた富田が描かれた2巻の表紙には、正直結構な衝撃を受けました。

この2巻、富田が斉藤の店でグチる場面から始まります。カップル成立というのに夏目と北川が中途半端なままの関係でいることに悶々としている富田。その話を聞いていた斉藤は、納得できないのは寂しいからではないかと言い、そのモヤモヤを紛らわせるため自分と男同士のセックスを試してみないかと持ちかけます。かなりストレートなお誘いですが、お酒が入っていることもあり、富田は逡巡しつつもOKしてしまうんです。「こら! 富田!」って感じですよね。でもその流れ、わからなくもないなと思います。

北川と夏目の仲を取り持とうと腐心していた富田。気遣いしてきた甲斐もあって北川と夏目のカップルは成立しますが、その頑張りは自分には全く返ってはきません。1人になり冷静になってしまった富田の胸には、斉藤の言うように寂しさやちょっとした虚無感があったはず。そういう時、温かさに触れたいですよね。いわゆる人肌恋しいってやつです。

ここで誘ってきたのが女性だったら、たぶん富田は断っていたと思うんです。後々の面倒ごとが予測できる女性の誘いにわざわざ乗る気はしません。でも、斉藤は男性。富田は落ち着ける彼の店にたびたび通っており、北川と夏目の男性同士の恋愛のことでモヤモヤとした気持ちになった経緯を把握されてもいます。居心地が良く、ほどほどの他人であり、後で責任を取ることにもならない男性の斉藤が相手なら…。

初めて「される側」となった富田。抵抗感もあって、思わず斉藤を押しのけたり足をジタバタさせたり。全然色っぽくないんですよ、これが。それでも富田は、太ももを使っての擬似的な行為だけというのに斉藤にされるがままになってしまうんです。

「夏目の気持ちが伝わるから今の関係のままでいい」と北川に言われ、もう既に彼らの関係は自分が気にかけてやるまでもないと気づかされた富田は、借りたシャツとネクタイを返すことを言い訳にしてまた泊めてほしいと斉藤の店を訪れます。肌の温もりを知ってしまったから、余計に寂しさが募ってしまったんですよね。

この斉藤がいいんですよ。背が高くて金髪に染めたちょっと長めの髪にあご髭、シャツのくつろげた襟元から鍛えているとわかる逞しい胸筋をのぞかせ、見た目はオラついている感じなのに常に穏やかで落ち着いていて大人の余裕や色気を感じさせる、めちゃくちゃカッコいい男性なんです。最初のお誘いこそ直球でしたが、その後は店に来た富田が望めばそれに応えるというスタンスだったのでしょう。彼があくまでもバーのマスターとして距離を保ってくれて逃げ道があるからこそ、富田は常連客のワガママのような形で斉藤の家に泊まり、次第に彼の腕枕で眠ることが当たり前のようになっていきます。

 

お試しセックスなんかよりこうしている方が断然イイとか…本格的にハマっちゃってる気がする

 

男性である斉藤の温もりに包まれて眠ることに安らぎを感じている自分に戸惑う富田。もうそれって、体だけでなく心も持っていかれている状態ですよね。いつもと違う様子の富田を心配して、自分たちを斉藤の店に連れていけと言い出す北川と夏目。彼らを店に連れていくことにためらいを感じた富田の予感どおり、斉藤は整った顔立ちの夏目に興味津々の様子を見せます。セックスの真似事はしたけれど、所詮自分は「対象外」だと感じて帰ろうとする富田を、斉藤は部屋の鍵を渡して引き留めます。

 

僕は富田さんの連絡先も下の名前すらも知らないから
富田さんがここに来なくなったらもう会えませんね

 

帰さずに部屋に引き留めておいて、この先関係を続けるか委ねるようなことを言う斉藤に、富田は「ずるい」と言うんです。ホントにね、揺さぶりかけたりして、斉藤さんずるいですよ。自分の意思でこの部屋に来たのに、まだ逃げ道を用意されていることに怒って出て行こうとする富田。そうやって怒ってしまうこと自体、斉藤への思いを白状したようなもの。そこまで来てようやく斉藤が動くわけです。

 

最後まで試してみましょうか
それで今までより気持ちよかったら僕のこと好きになってみてくれませんか

 

「最後まで」しようとしてこなかった斉藤が、初めて強引に、まるで貪るように富田を抱くんです。今までずっと彼は自分を抑えてきたんですよ。そんな斉藤に組み敷かれている富田が喘ぎながら口にした言葉が

 

待っ… 俺っ 初心っ 者っ…

 

「嫌だ」でも「止めろ」でもないんです。この言葉、富田は全然拒んでないどころか、荒々しい斉藤の行為を既に受け入れているんですよね。自分では意識していなかったのかもしれませんが、富田はきっと斉藤にその手をつかんで引き寄せてもらいたかったんだろうなと思うんです。

 

その素顔を晒して

そうして無事に斉藤と付き合い始めることになった富田。しかし富田は斉藤がバツ1であることを後から聞かされます。大人同士の恋愛では、相手に離婚歴があるということだって、きっと少なくはないのかもしれませんね。北川と夏目の時とは違う、ビターな展開です。

斉藤に3歳になる息子もいると聞いた富田はその写真も見せてもらい、何の気なしに会ってみたいと口にします。しかし、元奥さん同席でないと息子くんには会うことができません。表情に何か含みを感じたものの、富田は元奥さんと息子くんと4人で会うという斉藤の提案に乗ってしまいます。

自分の恋人の元交際相手ってだけでも、普通なら絶対に会いたくなんてないですよね。それが元配偶者ならなおさらではないかと思います。なのに、どうして富田は斉藤の元奥さんに会ってもいいと思ってしまったのでしょうか。

斉藤との付き合いはまだ日が浅く、何より男性同士。富田は「友人の元カノに会う」くらいの感覚でいたのでしょう。「元配偶者」という存在に自分が何を感じるか、想像もつかなかったのだと思うんです。

離婚したとはいえ、互いに交際相手がいることもあってか斉藤と元奥さんの間の雰囲気は気兼ねもなくくだけた感じ。息子に「パパ」と呼ばれ、元奥さんと自然な表情で会話している斉藤の姿を見て初めて、富田は彼らが家族だった事実を実感します。 喫煙所で1人きりになったところで、思わず涙をこぼしてしまう富田が可愛いんですよ。付き合ってまだ2ヶ月の自分と、家族だった元奥さんとを比べれば、斉藤と共に過ごしてきた時の重みの差は歴然としています。そのことを目の当たりにして居た堪れなくなってしまった富田は、夏目から電話があったと嘘をついて立ち去ってしまいます。

夏目との会話を見るに、富田はあまり恋愛にドップリと浸かったことが無さそうな感じ。いわゆる「本気の恋」ってやつをずっと避けてきたのでしょう。だからこそ、元奥さんに対して自分が嫉妬していること自体に、戸惑ってしまった富田。目が腫れるほど泣いてしまったというのに自分の気持ちに向き合えず、富田は斉藤との関係を終わらせてしまおうと考えます。

 

斉藤さんには新しい扉開いてもらって楽しんだよ

 

逃げ込んだ夏目の家で過ごし、帰宅しようとエレベーターを降りた富田。マンションのエントランスには、夏目から連絡を受けていた斉藤が立っていました。ちゃんと富田を捕まえにきてくれたんですよ。絶対に斉藤さんは来てくれると思ってましたよ、良かった!

斉藤は富田の気持ちをほぐそうと、穏やかに語りかけます。その会話の中で、恋愛慣れしていて富田を自分のペースに巻き込んで手玉にしているのでは? とすら感じさせていた斉藤が、本当は富田には失敗をしたくないと必死だったことが分かるんです。最初にあけすけな遊びのような誘い文句を口にしていた斉藤ですが、巻末の独白でわかるように、実は彼の方が先に富田に惹かれていたんですよね。

余裕たっぷりに思えた斉藤の人間らしい部分に触れ、富田の口からも本音が溢れます。

 

昼間の斉藤さん見てたらさ 勝手にさ…俺に対しては接客なんじゃねーかって

 

もうね、この時の涙を懸命に堪えている富田の表情がたまらないんですよ。もういいやって簡単に放り出せる程度の気持ちしか無ければ、そんな表情で斉藤を見つめたりなんかしないじゃないですか。そんなさびしがり屋の富田を抱きしめる斉藤。彼らの様子を自室のベランダから見守っていた夏目の言葉が、富田をよく見てるなあという感じで、核心を突いているんですよね。

 

常日頃から富田は肉食系草食動物だと思ってたんだ

 

決まった恋人も作らず、機会があれば付き合ってもいない相手と後腐れなく適当に遊んで発散するだけ。富田は恋愛に本気で向き合うことを怖がっていのかもしれません。そんな恋愛に対して臆病で揺らいでしまう富田を、ブレない愛情とその包容力でしっかりと優しく抱きしめる斉藤。ホントに素敵なカップルだなぁと思います。

富田は小柄でも華奢な体つきでも女性顔負けの美しい顔立ちでもない、ごくごく普通の男性なんです。なのに斉藤に抱かれる彼のその表情が抜群に色っぽいんですよね。だって初めて心から本気で好きだと思った相手が、自分のことだけを愛してくれているんですから。あの富田が、斉藤に攻められるとこんな顔しちゃうなんて! と、とにかくギャップの大きさにドキドキします。

そりゃ結ばれるよな〜という美形同士のカップルだったら、きっとここまでグッと来なかった気がするんです。斉藤と富田の2人だからこそ、初めて本気で恋愛に向き合おうと思える相手に出会った、その心の揺れ動きが深く心に刺さるのだと思うんです。

 

4巻出していただけるのを願って

斉藤と富田は順調に仲を深め、北川と夏目がモタモタしているのを尻目に、なんと同棲することに。斉藤の思いを受け止め、富田は腹を括ったんでしょうね。2人の仲睦まじい様子は北川と夏目にも刺激になった様子。その後の3巻では夏目の元彼と偶然再会したことから一悶着あるのですが、斉藤と富田の助け舟もあって無事解決。北川と夏目は互いの気持ちを再確認し、絆がさらに深まります。

夏目に相応しい頼れる男になろうと懸命な北川と、そんな彼に向き合いながらデレないように我慢している夏目が微笑ましい3巻なのですが、最後の方で北川の同僚が何だか富田を意識し始めたことを匂わせるような描写があるんですよね。中田アキラ先生のTwitterアカウントのアイコンが斉藤と富田ですし、これは4巻では富田に接近する男性の存在にいつも穏やかで余裕を感じさせていた斉藤が焦ったりして、そんなピンチな状況を北川と夏目の助力で乗り越えたりとかしちゃうんじゃないか? と勝手に想像してソワソワします。

まだ3巻が発行されたばかりなので、2巻を読み返しつつ、気長に4巻が出されるのを待っていようと思います。

 

7/12追記 4thシーズン 斉藤×富田編開始!

やった〜‼︎ 斉藤と富田のその後が読めますよ〜‼︎ この後、どんな展開が待っているのか楽しみですね〜。斉藤と富田のその後を収録した単行本が出たら、またぜひ感想を書きたいと思います。

 

ということで『恋する鉄面皮』4巻について語っています。ご興味を持ってくださった方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com