観て聴いて読んで書く

マンガ、アニメ、ゲームなど好きだと思ったものについて無節操に書き綴ります

BL『恋の仕方がわからない』について語りたい

皆さんは、まちお郁先生の商業BL『恋の仕方がわからない』をご存知ですか? タイトルからも分かるように、初めて本当の恋を知った主人公のモダモダする様子がとても可愛らしいこの作品について今回は語りたいと思います。

性描写がある作品なので、未成年の方はごめんなさい。大人の方だけこの先をお読みくださいね。

ネタバレが含まれるので、ネタバレダメという方は注意してお読みください。

 

条件飲めるなら誰とでも

大学一のイケメンだと有名な逢見(あいみ)。彼はつきあう相手には必ず「条件」を出しています。

誰とどこで何をしていようと、一切口出しをしてこないこと

果たしてそれってつきあう意味があるのか? と不思議になるくらいの条件ですよね。好きな人とつきあえるのだからと無理をしてその条件を呑んだとしても、これは長続きしませんよ。

大学のカフェで、我慢ができないならもう終わりだと女性にあっさりと別れを告げる逢見。偶然そんな修羅場を近くの席で目撃していた楓(かえで)は、その直後に彼につきあって欲しいと告白。逢見はそれをあっさりとOKします。

男の後輩である楓と逢見がつきあい始めたと知って驚く友人たち。しかし「つきあって欲しいといわれたからOKしただけ」と平然と逢見は言い放ちます。彼にとってつきあうということは、相手に「逢見の恋人であると思う」のを許す程度のもののよう。だから逢見にとってはつきあうことになった相手がどこの誰かなど、どうでもいいことでしかないのです。

 

べつに男だろうが女だろうがつきあいたいって言うならつきあってやる
けど 俺は俺のやりたいようにやるだけだ

 

確かに、相手も逢見の出した条件を了承してつきあいはじめたのだから、文句を言われる筋合いは無いのかもしれません。でも、つきあってるからヤることはヤるけど、セフレともヤるし、そのことに文句を言うようならあっさりとサヨナラだなんて、自分は逢見の恋人になれたと思ってしまった分、余計にツライですよね。なのに逢見はつきあう相手に全く関心を持とうとしていないんです。他人に無関心だからこそ、誰とでも躊躇なくつきあうし、躊躇なく別れてしまうんですよ。相手がどんな気持ちなのか、つきあうってどういう事なのか、逢見には懇々と言って聞かせてやりたい感じになってきますね。

そんなわけで、楓とつきあい始めた逢見。しかし2週間経っても、会話らしい会話も無し。LINEもあいさつ程度。大学で会えば楓はうれしそうな顔をするものの、逢見が女友達と一緒にいても一切何も言ってきません。逢見自身がつきあっているのかわからない状態になった頃、楓からようやく昼食の誘いが来ます。そこでようやく付き合い始めてから初めてのまともな会話を交わす2人。

 

周りの目とか気にせず自由に恋愛したり…自分の思うままに生きてるところとか…めちゃくちゃかっこいいと思います!

 

今まで付き合ってきた女の子たちは逢見の出す「条件」を嫌がりましたが、楓は自分にも条件を提示されたことで、噂は本当だったと知って喜んでさえいたのです。逢見はそんな反応は初めてだと楓に半ば呆れますが、つきあっているのだから気を使わずにもっと誘ってくれて構わないと口にするんですよ。これ、本人は気づいていないですが、逢見からの歩み寄りですよね。なのに、楓からの誘いは一向に増えないんです。

 

名ばかりの恋人

逢見とつきあいはじめ、楓は毎日が楽しい!と上機嫌。友人に「名ばかりの恋人」と言われても怒るどころか、それを認めてしまいます。

 

先輩が俺を好きになるなんて
ありえねーだろ!

 

笑顔で自分からこんなことを言っちゃう楓。物語の序盤でつきあうということの意味をぶち壊すような条件を提示する逢見の自他共に認めるクズ男っぷりに気を取られてしまいますが、予想外の言動で目が離せなくなるのは、実は楓の方なんです。最初は、この楓という子は天然や不思議ちゃんを通り越し、考えていることが理解できないちょっと怖い子かもと感じたんですが、読み進めていくにつれて、そうじゃないことが分かっていきます。彼は逢見との関係に全然欲がないんです。

楓にとって、逢見はカッコいい憧れの人。接点が欲しいと思っていただけなのに、彼の恋人になれた、もうその状況だけで楓は十分満足しています。推しを近くで見ていられる権利を得られてラッキーだな、と思っている感じ。なので、あわよくば逢見と…なんて自分から何か仕掛けていこうとする発想自体、楓は持とうとしないんです。

今まで逢見につきあいたいと寄ってきたのは、彼に恋愛意識を持っている人間ばかり。当然ですよね。逢見のことが好きだからこそ、相手は距離を縮めたくて、皆あれこれと我慢して頑張ってくれていたのでしょう。そんな健気さを、彼はうっとおしいとしか感じてきませんでした。

しかし、楓は今までの相手とは全く違います。楓にとって逢見は言わば違う世界の人なんです。逢見が「どこ」で「誰」と「何を」していようと、それは彼の自由。楓はそのことについて何も言おうとはしません。なぜなら楓は自分の思うままに生きている逢見がカッコいいと思っているから。逢見に言われるまでもなく、自分が彼のプライベートに口出しできるような立場にはないと、楓は最初から思っています。だから逢見が女の子とキスをしているところを目撃してしまっても、平然と振る舞ったのです。

いくら淡々としている楓でも、さすがに女の子とキスをしていたを見たのだから何か言ってくるだろうと思って身構えたのに、肩透かしを食らってしまった逢見。つきあう条件として一切干渉するなと言ったのは自分の方だというのに、楓が本当に何も言ってこないことが気になって仕方なくなった彼は、セフレの女の子に楓の態度がどういうことなのか尋ねようとさえします。

今までの経験が全く当てはまらない楓の態度。このことをきっかけに、逢見は段々と楓に振り回されていくようになっていくんです。

大学で女の子たちと会話している楓を見かけた逢見。その楽しげな雰囲気に、思わず用もないのに楓を呼びつけます。

 

…おまえ 俺のこと好きなんだよな?

 

問いかけに躊躇なく「はい」と答えてくれた楓を、思わず抱きしめてしまう逢見。女の子たちと楓が話しているのを見てヤキモチを焼いたのではと友人たちにからかわれるも、ペットが他人に懐いて嫌だというような感覚だろうと逢見は自分を納得させます。

しかしその後も、誰かと一緒にいる楓の姿を見て上の空になってしまいますし、セフレの女の子からの誘いも気分じゃないと断ります。そして楓からライブに誘われたのに断ってしまったことを気にして考え込んだりさえしてしまうのです。

今まで周りの人間のことなんてどうでもいいと思っていた彼が、楓に対する自分の発言がどうだったかを気にするなんてと、その変化に友人たちも驚きます。しかも逢見は、自分が女の子とキスをしていたのを見た楓が何も気にしていないことが納得いかない様子なのです。

女の子たちと話していた楓を用もないのに呼びつけて会話を邪魔したり、自分のことを話すなと楓に強く当たったり、干渉するなと言っておきながら楓に気にされないでいることに不満がったり。それでいて、楓のことを好きかと聞かれると否定する逢見。そんな逢見に対しての友人のツッコミがあまりに的確。

 

いや…お前…小学生か‼︎

 

つきあいたいと言われたから、ただつきあってきただけ。相手からの誘いには気が向く時だけ乗って、あとは相手のことなど考えもせずに自分の思うように行動して過ごしてきた逢見。彼は、それが自分の恋愛スタイルだと思い込んでいたのでしょう。つきあってきた人数ばかりは多いけれど、逢見は今までつきあってきた相手を誰ひとりとして好きになったことが無かったんです。

でもそれって、逢見がクズ男だからということとはちょっと違うと思うんですよ。彼は変に顔が良くてモテてしまうがために、恋愛ってどういうものなのか自分自身でちゃんと理解しないまま、上っ面だけのつきあいを今まで繰り返してこれてしまったんです。だって自分が誰かを好きにならなくても、つきあいたいと言って向こうから勝手に寄ってきてしまうんですから。

 

恋愛なんてテキトーでいいだろ

 

そんなことを逢見は言っていました。これは、何人も付き合ってきて恋愛に飽きてしまった経験豊富な人間の言葉ではなく、まだ一度も本当の恋に出会ったことのない人間の言葉だったわけです。

自分が好きなわけでもない相手とつきあってきたのですから、つまらないのは当たり前ですよね。好きな相手なら、ただ一緒にいるだけで楽しいし満ち足りた幸せな気持ちになれるのに、それを知らずにいたのかと思うと、逢見がちょっと気の毒にもなってきます。

逢見がどうやら初めて相手を好きになったらしいと察した友人たち。彼らがとても優しいんですよ。恋に落ちた自覚が無い逢見に、楓に対する逢見の気持ちが今までつきあってきた女の子たちに対するものとは違っているということを、まじめに解らせようとするんです。

 

恋ってさ、どんなことでもきっかけになるもんだよ

 

友人たちの言葉を受けて、逢見は楓とライブに行くことにします。早速チケットの手配を始める楓。しかし「チケットは4枚まで取れるが何枚必要か」「日程はいつがいいのか一緒に行く人と相談して決まったら教えてくれ」と言い出します。彼は逢見と2人で一緒にライブに行こうとは全く考えてはいなかったのです。

 

素直になったら

 

おまえさあ…俺とつきあってるって自覚ある?

 

思わずそんなことを問いただす逢見。「気になると言っていたバンドのライブがあるらしいんだけど、どう?」って言われたら、一緒に行こうと誘われているのだと普通の感覚であれば当然思いますよ。私も読みながら「楓くん、なぜそうなる?」って驚きましたもん。逢見だって驚いたんです。楓と一緒に2人でライブにいくつもりになっていたんですから。

でも、楓はそうじゃありませんでした。つきあっていくうちに意識が変わってきたのは逢見だけ。楓はつきあい始めた頃からずっと逢見に対する意識は一貫していて、変わってはいません。憧れの存在である逢見が自分を好きになるなんてあり得ない。自分の思うまま生きているカッコいい逢見のそばにいられる「名ばかりの恋人」で自分は十分満足。そう思っている楓。つきあうとなった時に逢見に提示された「干渉しない」という条件を、言われた通りにきっちり守り続けているのですし、楓からすれば責められる理由は無いはず。

 

誰と行くかは先輩の自由なので…

 

なぜ逢見の機嫌が悪くなったのか、まるで楓は理解できないでいます。逢見がライブに行きたいのならチケットを取ってあげよう、本当にそれだけのつもりだったんです。だってそれ以上のことなんて望んだって叶うわけがないと、楓は初めから逢見とのつきあいを割り切ってしまっているのですから。

今までつきあってきた相手と違い、最初から深く踏み込むつもりが楓には全く無いのだと初めて悟った逢見。自分が出した条件を文句も言わずにきっちり守ってくれる楓。このまま楓はこれ以上のことを望むことはないでしょうし、もしも逢見が別れを切り出せば「今までありがとうございました」などとペコリと頭を下げてあっさり受け入れてしまうでしょう。干渉せず後腐れもない。それは逢見が今まで望んできた言わば理想の相手です。けれど逢見はそれじゃ嫌だと初めて思ったんです。

 

俺…おまえのこと結構好きだよ

 

これ、逢見からの告白です。なのに全然楓に伝わらないんです。あまりに伝わらなすぎて、段々と必死になっていく逢見の表情が可愛いんですよ。いつも淡々と受け流しているばかりで、ほとんど表情の変わらなかった逢見。しかし楓にどうにかして分からせたいと、頭を掻きむしったり、声を張り上げたり。君、そんな顔ができるんじゃん‼︎

2人でゆっくり話そうと、自分の部屋に楓を招き入れた逢見。

 

俺のことを好きになるなんてあり得ないって言ってたじゃないですか。なのに…こんな突然…

 

まだ半信半疑でいる楓に、逢見はまさしく言葉を尽くして自分の気持ちを伝えていきます。そして同時に、まともに誰かを好きになったことも無かったというのに、恋愛なんてテキトーでいいなどとスカしたことを言って、楓に素っ気ない態度を取り続けていた自分が恥ずかしくなり、真っ赤になってしまう逢見。

自分の気持ちを楓に伝えたいと思ってからの逢見は、一気に表情豊かになります。正直にごまかさずに自分の言葉で話す逢見。良い子だなぁ。本当は逢見はこういう子だったんですよね。

 

楓と一緒にいたいって思うし
今はなんとなく触れたいなと思うよ

 

楓を抱きしめくちづける逢見。楓にまっすぐ向きあうようになった逢見は、自分の気持ちに本当に素直。楓が戸惑うほどの急展開。でも好きだから、体が勝手に動いていくんです。

2人のラブシーンは静かで穏やか。でもそれが良いんですよ。やっぱり好きな人の温もりを感じて、好きな人の肌に触れて、好きな人を抱きしめて、好きな人と体を繋げられるって、幸せなことなんですよ。そのことを初めて逢見は知ることができたんです。

楓のことが好きだと自覚した逢見は本当に可愛らしくなるんですよ。攻めなんですけどね。この作品、性描写があるからR-18ではあるんですが、初めて恋を知った逢見の変貌っぷりを可愛く思える大人の人が読んだ方が楽しめるのかもしれないなと思ったりします。

 

前回は中田アキラ先生の商業BL『恋する鉄面皮』の2巻について語っています。ご興味を持ってくださった方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com