観て聴いて読んで書く

マンガ、アニメ、ゲームなど好きだと思ったものについて無節操に書き綴ります

『SK∞ エスケーエイト』について語りたい ④暦の心の雨

沖縄を舞台に、廃鉱山で行われるスケートボードのレースの熱い戦いと暦とランガの2人の友情を描いた内海紘子監督のオリジナルアニメ作品『SK∞ エスケーエイト』。舞台化とアニメ新作プロジェクトが発表され、放送終了後もまだまだ盛り上がりを見せています。

今回は暦の気持ちの大きな揺れ動きが描かれる7〜8話について語りたいと思います。

#01 PART 熱い夜に雪が降る

#01 PART 熱い夜に雪が降る

  • メディア: Prime Video

 

第7話 つりあわねーんだよ

いつもと違いアバン無しでいきなりOP曲から始まる回です。それだけであれ? となりますね。タイトルからも分かるように、暦の心境に大きな変化が訪れてしまうんです。

元気にお弁当を持って家を出る暦。待ち合わせしているランガとDAPで朝の挨拶。2人は笑顔で仲良く滑っていきます。前は遅刻ギリギリだったのにと妹が呆れるくらい、暦にとってランガと滑るのは楽しい時間。金属の手すりを使った滑りをみせる暦。自分も、とランガはコンクリートの橋脚を伝って滑り登ると、梁近くの高さに描かれた星のマークにタッチをします。

 

スケボーってあんなに高く飛べるの?

 

通りすがりの小学生たちが驚きの声を上げ、暦もランガのテクニックに微かに動揺の色を見せますが、すぐに笑顔で打ち消しランガとDAPを交わします。

夜、クレイジーロックへ練習に訪れた暦とランガ。ここでもランガの滑りに驚きの声が上がります。自分の親友の凄さを認められて誇らしげにしている暦を、「ランガじゃない方」と言われるとからかうシャドウ。

 

過信は毒だが自信は力になる。

 

ジョーの言葉のように、まさに今自分の思うように滑ることができるようになって絶好調のランガ。滑る事が楽しく技術を高めようとするモチベーションも上がっています。

 

あいつまたエア高くなってる。

 

ランガの決めるエアの高さに改めて驚く暦。MIYAは「ランガが競技スケートに来たら間違いなく日本代表を狙える」と断言、チェリーも「ランガは度胸も体幹もしっかりしていて末恐ろしい」と感嘆します。まだ満足に滑れない時から「S」に挑み、足りない技術を補って余りある思い切りの良さと身体能力の高さで素晴らしい滑りをしてきたランガ。だからこそ「S」の実力者のチェリーも日本代表候補のアスリートのMIYAも、彼に一目置いているのです。

そんなランガに比べて、暦は飛び抜けたものもない平凡なスケーター。暦は自分が「いつもスノウと一緒にいる赤毛の奴」「一緒にいるだけの雑魚」などと言われているのを聞いてしまいます。期待のルーキー「スノウ」として注目を浴びるようになったランガに対して、自分は誰の目にも留まらない存在でしかないと、暦は思い知らされてしまったのです。

体育の授業のサッカーですら、暦はボールを取られたというのに、シュートを決めて周りから褒めそやされるランガ。こんな事が続いてしまうと、どんな些細なことでも自分が劣っていると感じる悪循環に陥ってしまいますよね。ランガを置いて先に帰ろうとしたり、用事があると嘘をついて「S」に行かないなど、暦はランガを徐々に避けるようになっていきます。

暗い自室で、ランガの練習の様子を撮影した動画を見返す暦。数ヶ月前のランガは、まだ滑ることもままならない様子。なのに今では…。

 

俺が教えたのに、いつの間に俺たちこんなに差がついてたんだ? 俺はずっと前からやってたのに。努力が足りねえ? それとも才能なのか? なあ、ランガ。どうしてお前はそんなに高く飛べるんだ?

 

暦は実力の差を確かめるため、ランガがタッチした橋脚の星マークに自分も触れられるか、チャレンジしてみます。しかし何度やってみても、どれだけ手を伸ばしても、ランガの高さにまで到達することができません。楽々とランガがこなしていたことなのに、自分は全くできない現実。

 

ランガ……届かねえよ、俺には。

 

雨の中、自分の実力の無さを思い知り、打ちひしがれて戻ってきた暦。ずっとランガは暦の帰りを外で待ち続けていました。

愛抱夢によって発表されたトーナメント開催。ランガは愛抱夢とまた滑れると沸き立つ想いと同時に、暦から「愛抱夢とはもう滑るな」と言われたことを思い出していました。それでも愛抱夢とのビーフで感じた感覚が忘れられないランガは、トーナメントに出ようと思っていることを暦に伝えます。

 

それって結局、俺との約束を破るってことだろ!

 

暦に謝りながらも、愛抱夢のようなすごいスケーターと滑ることにワクワクすると言うランガ。

 

暦もスケーターなら分かるだろ?

 

今までランガに「スケートボードが楽しい」と教えてくれたのは暦でした。だから当然、暦とこの気持ちを共有できると思っているんですよね。ランガは暦のスケートボードに対する気持ちを、すごく信頼しているんです。

しかし暦は今、スケートボードをすることで自分の凡庸さや実力の無さを感じさせられ、劣等感に苛まれています。自分より実力をつけたランガがスケートボードを楽しんでいる様子を見せつけられるのは、苦痛でしかありません。自分は愛抱夢に恐怖しか感じなかったというのに、ランガは違っていました。暦は自分と同じようにスケートボードを楽しんでいたはずのランガに、遠くへ引き離されたような気持ちになってしまったのではないでしょうか。

 

お前も愛抱夢も俺とは違うんだ。俺なんかとは……。勝手にしろ。お前ら頭のおかしい天才同士で好きなだけ滑ってろよ。俺はついてけねえから。

 

俄かに雨が強まり、彼はランガに背を向けてしまいます。

 

俺とお前じゃ、もう釣り合わねえんだよ。

 

涙を堪えるように震える暦の心の声。7話はとても切ない場面で終わります。

 

第8話 宿命のトーナメント!

発表されたトーナメント表を見たMIYAは、暦がエントリーもしていない理由をランガに聞こうとします。しかしランガにもどうしてなのか分からず、答える事ができません。いよいよ暦の出ないトーナメントの予選が始まってしまいます。

愛抱夢と同じ組になったMIYA。

 

僕は潰されないから。

 

MIYAは愛抱夢を睨みつけます。さすがまだ中学生とはいえ、代表レベルのアスリート。度胸がありますね。MIYAのその言葉に、愛抱夢は「潰しているのではなく、いつも滑る相手を愛しているのだ」と返します。からかわれているわけではなく、愛抱夢が本気でそう思っていることを感じてドン引きするMIYA

愛抱夢は代々続く代議士の家の人間。いわゆる名家に生まれた彼は、神道家の名を継ぐに相応しい人間となるよう、幼い頃から厳しく躾けられてきました。彼の3人の「おばさま」たちが曲者で、代議士として活動している愛抱夢に家名を汚すなと逐一報告させたりあれこれ命令したり、勝手に配偶者選びを進めたりとやりたい放題。しかし、そんな彼女たちに愛抱夢はにこやかな態度を取り続け、逆らおうとはしません。

愛抱夢は子どもの頃に「おばさま」たちから教育の範疇を超えた虐待をされていました。彼女たちの口にする「愛しているから」という言葉を飲み込むことで虐待に耐えてきた愛抱夢。そのために、彼の愛情は歪んだ形で相手に向けられるようになってしまったのです。

まるで踊るようにコースを滑っていく愛抱夢。そのスピードはMIYAも置いていかれてしまうほど。

 

君はまだ蕾だからね。きれいに咲いたら、その時愛してあげる。

 

MIYAはまだ中学生ですからね、スケートの技術もこれからさらに伸びていくでしょうし、成長したらキレイな顔立ちになりそうですしね。愛抱夢はMIYAをキープしているということなのでしょう。もしも高校生だったら、ランガに向けられているような愛抱夢の執着は、きっとMIYAに向かっていたはずです。この愛抱夢の言葉を聞いて、まだMIYAがお子様認定される年齢であることに、正直ホッとしました。

ランガはジョーと同じ組。電話をかけたりメッセージを送ったりしているのに、暦からの返信をもらえないまま、ランガはスタートを迎えます。徒党を組んだ輩から鉄パイプなどで襲いかかる妨害行為を受けながらも、予選を突破。しかし激しいレースをしても、いつものような胸の高鳴りを感じられません。

 

なんだろう。こんなスケートができた時は、いつも心臓がうるさいくらいなのに。

 

近づいてくる足音に、ランガは思わず暦の名前を呼んで振り返りますが、そこにいたのは暦ではなく愛抱夢でした。愛抱夢にセクハラ紛いに肩を抱かれ手を握られても、心ここに在らずでまるで反応を示さないランガ。

MIYA、ジョー、ランガに続き、チェリーは愛抱夢の出したタイムに迫る本気の滑りを見せるなど、皆順当に駒を進めていきます。

しかしここで波乱が。シャドウの独り勝ちと思われた組に「S」のスタッフであるはずのキャップマンが参加、シャドウの爆竹での妨害もいともせず、愛抱夢をも上回るスピードとテクニックを見せてゴールし、本選に進んだのです。

登録名は「スネーク」。その正体は愛抱夢の秘書である菊池でした。許可もしていないのにトーナメントに参加したことに怒り、愛抱夢は菊池に詰め寄ります。

 

私が勝ったら、愛之介様にはスケートをやめていただきます。

 

愛抱夢にスケートボードを辞めさせるためにトーナメントに参加したと言う菊池。それまでは、愛抱夢の無茶振りに文句も言わずずっと付き従うだけだった彼が起こした反乱。勝てると思っているのかと声を荒らげる愛抱夢に対し、幼い頃にスケートボードを教えたのは自分だと、菊池は一切引こうとしません。

 

やってみろ。犬は主人には逆らえないと、その体に教えてやる。

 

菊池の髪を掴んで恫喝する愛抱夢。わざわざここで「体に教える」という言葉を選ぶあたり、愛抱夢の中にあるサディスティックな性格や、愛抱夢と菊池の主従関係の強固さが窺い知れますね。

予選の翌日。いつも待ち合わせをしていた暦とランガは別々に登校。きっと暦が来るのをいつもの待ち合わせ場所でずっと待っていたんではないでしょうか。ランガは遅刻ギリギリに教室に入ってきます。

教室でぎこちない挨拶を交わす暦とランガ。隣の席だというのに、暦はずっと窓の外を向いたまま。ランガは顔を見ることすらもできません。予選を勝ち進んだことをランガが伝えますが、暦は自分には関係ないと素っ気ない返事をするだけ。突然冷たい態度を取るようになった暦に落ち込むランガのしょんぼり顔。見ていてこちらもツライです。

 

カッコ悪りいの。

 

帰宅してから、教室の窓に映ったランガの寂しげな横顔を思い出し、自分の態度に自己嫌悪する暦。そんな時暦が見ていたテレビでは、シューズメーカー勤務に転身した元ランナーのインタビューが流れ始めます。どんな形でも陸上に関わりたかったと語る元ランナー。

 

すごい選手の応援ができるって、幸せなことなんですよ。

 

妹に不思議がられたりランガと何かあったのではとMIYAに心配されるほど、スケートボードをやらなくなってしまった暦。以前はランガと一緒に食べていたラーメン屋で、ポツンと1人で食事をとっている暦を見つけたジョーはその隣の席に座り、本選を見るだけでいいから来いと声を掛けます。

ここで声をかけるのがジョーだというのがポイントですよね。6話の温泉回でジョーは暦と2人だけで会話をし、「置いていかれたくない」という彼の中にある焦りをただ1人知っている人物なんです。

 

暦、ひとりぼっちにはなるなよ。

 

暦をはじめ、チェリーすらもトーナメントに向けた自分の思いに一直線になっている中で、ジョーだけは暦とランガの状況を俯瞰して見ています。ジョーのこの言葉、暦を気にかけてくれている人がここにいると安心させてくれます。

一方、ランガは暦の突然の変化の理由をわかっていません。ランガはただスケートボードを一生懸命に練習していただけで少しも悪くないわけですから、理解できないのも仕方がないですよね。そこでランガが唯一思い当たったのは、自分が愛抱夢と滑ると言ったこと。たしかに暦も約束を破るのかと口にしていましたからね。でも、そこじゃないんだよなぁ。

暦はジョーの言葉を受けて、一人クレイジーロックへ。暦の部屋の窓が空いていたことから本選を見に来ていると確信したランガはその姿を探しますが、暦はフードを深く被って顔を隠し、ランガを避けてしまいます。

ランガは自分が「愛抱夢とは滑らない」という暦との約束を破ったことで仲違いをしていると思っていて、母親から素直な気持ちを伝えろとアドバイスされました。会ってちゃんと暦と話し合いたいとランガは思っているでしょうが、このタイミングでは話が噛み合わず、さらに溝が深まったと思うんですよね。ランガは本選の前に暦に会うことが出来ませんでしたが、それで良かった気がします。

愛抱夢が現れ、始まる本選。暦はランガたちが皆、本選に残っていることを知ります。

 

あいつらって凄かったんだな。
すごくないのは俺だけだ。

 

落ち込む暦。暦は何を見ても自分を卑下してしまう悪循環の真っ只中。そこから抜け出すのは大変ですよね。「みんな、やったな‼︎ 」なんて思うことは、今の彼には出来ませんよ。

そんな暦の見守る中、本選は進んでいきます。このトーナメントに人生を賭けていると言い、いち早く本選を突破したシャドウ。気合いが入っているのは彼だけではありません。それはランガと本選で同じ組みになったジョーも同じ。負けられないと言い放ち、今までとは違う本気の滑りを見せます。

皆がそれぞれの想いを胸に、このトーナメントの本選に臨んでいるのです。

 

前回は、暦の気持ちに変化が訪れ始める『SK∞  エスケーエイト』の4〜6話について語っています。興味を持っていただいた方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com