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『SK∞ エスケーエイト』について語りたい ⑥スライムの戦い

沖縄を舞台に、廃鉱山で行われるスケートボードのレースの熱い戦いと暦とランガの2人の友情を描いた内海紘子監督のオリジナルアニメ作品『SK∞ エスケーエイト』

今回は暦と愛抱夢の対戦が描かれる11話について語りたいと思います。

#01 PART 熱い夜に雪が降る

#01 PART 熱い夜に雪が降る

  • メディア: Prime Video

 

第11話 キング VS ザコ

愛抱夢からの招待状

水の抜かれた屋敷のプールで、共にスケートを滑っている幼い頃の愛抱夢と菊池の描写から11話は始まります。この頃の愛抱夢は屈託なくよく笑い、本当に楽しそうにスケートをしています。

見るからに優しそうな顔立ちの菊池は、使用人の子どもであり愛抱夢よりも年上ということもあって、愛抱夢を常に気遣っている様子。しかしそんな菊池の心配をよそに高い所からスケートで飛び降りてみたりなど、かなりのやんちゃぶりを見せる愛抱夢。

 

忠、僕にスケートを教えてくれてありがとう!

 

にっこりと笑うこの可愛い少年が大人になって「愛のマタドール」愛抱夢になってしまったわけです。あまりにも印象が違い、衝撃的ですらあります。

スケートをしている時だけが、愛抱夢が自由の身になれる時間。彼が自分を解放しようとする姿が「愛抱夢」なのです。

愛抱夢が子どもの頃からせっかんをし、成人して父の後を継いで政治家となってもなお、政治活動に口出しをしたり勝手に見合い話を進めたりしてくる3人のおばさまたちの様子を見ても、彼がどれほど抑圧されストレスを与えられて過ごしてきたのか容易に想像できますよね。しかも愛抱夢の父親は彼のデッキを燃やしてしまったエピソードだけでも、かなり強権的な人だったのだろうと察せます。

その反動が愛抱夢のあの暴力的な滑りに現れているのかと思うと、少し気の毒な気持ちにもなってしまいます。

一方、すっかり吹っ切れて家族も呆れるほどに元気を取り戻した暦。登校前のランガとの朝の待ち合わせも復活、わだかまりも消え、2人は笑い合えるように。バイト先の店長も、以前と変わらずランガと楽しげにしている暦にホッとした様子を見せます。

そんな時、愛抱夢からのトーナメントへの招待状を持参した菊池が現れます。「Dear The Third Wheel」(=邪魔者)と記された招待状。愛抱夢はシャドウの代わりに暦を指名したのです。しかし招待状を手渡すも、以前の遊びだったビーフとは違い今回の愛抱夢は本気だと、菊池は辞退するよう暦を説得にかかります。

 

スケートなんかで人生を棒に振るつもりか。金にも名誉にもならない、事故を起こせば新聞沙汰だ。そうなれば、積み上げてきた全てが壊れてしまう。

 

菊池はラブホテルで暦に語ったことを、もう一度繰り返します。愛抱夢に言いたくても言えずにいることを、彼は暦に向かって吐き出しているんですよね。

愛抱夢は代々続く代議士の家の生まれ。彼は父親が亡くなり、後を継いで国会議員となりました。政治家としてはまだ若いというのに、愛抱夢の元にはその家柄ゆえに多くの人々に群がってきます。県会議員たちの要望に耳を貸す一方で、大物国会議員に恩を売るために収賄事件隠蔽の虚偽証言をするといった危ない橋も渡らねばならず、そのため愛抱夢は警察に身辺を嗅ぎ回られています。

そんな愛抱夢が唯一肩書きの無いひとりの人間に戻れるのが、スケートをしている時。そのことを菊池は十分過ぎるほどに理解しています。しかし愛抱夢のビーフはあまりにも危険。ルール無用と互いに理解した上であっても、相手に大けがを負わせる危険な彼の滑りを知られてしまえば、傷害事件として騒がれ愛抱夢は窮地に立たされてしまいます。

「神道愛之介」を守るためにはスケートが必要だと理解していながら、政治家「神道愛之介」を守るためには愛抱夢にスケートを止めさせなければならないというジレンマに、菊池は愛抱夢からスケートを奪うためにトーナメントに出場しながらもなお、深く悩んでいるんですよね。だから暦に対して言葉があふれてしまったのだろうと思うんです。

しかしそんな事情を知るはずもない暦。「スケートをやるのはただ楽しいからだ」と言って、菊池の説得に耳を貸そうとはしません。

愛抱夢とのリザーブ戦を暦が受けたと聞いて、無謀だと呆れるチェリーとシャドウ、そしてMIYA。しかしジョーだけはどこか楽しげ。なぜならそれは、暦が戻ってきたということだと彼は微笑みます。

ランガにも言わなかった焦る気持ちを、暦本人の言葉でただ一人聞いていたジョー。彼だけが、他の3人とは違う反応を見せているんです。口には出さなくても、ジョーは暦を気にかけ続けていてくれたんですよね。

 

スライムの戦い

ランガの折れたデッキを前に、腕を組んで唸る暦。さすがに真っ二つに折れてしまったものを元に戻すことはできません。自分はいつも大切なものが無くなってしまってから気づくのだと、ひどく落ち込みしゃがみ込んでしまうランガ。

 

壊れちまったら、また直せばいいだろ。
俺たちみたいに。

 

隣でしゃがんでランガと目線を合わせる暦。そうして2人は笑い合います。

この2人のやりとり、暦の関係がギクシャクしていた時に、このまま暦との繋がりが切れてしまうかもしれないとランガが思いのほか深刻に考えていたことが伝わってきて驚いたのですが、何より1人がうずくまってしまっても、もう1人が立ち上がらせてくれるというランガと暦の関係性をさりげなくも強く感じさせられるいい場面だなあと思います。

いよいよ迎えた愛抱夢と暦の対戦の夜。「ヤバくなったらすぐリタイヤしろ」とジョーたちが心配する中、ただ1人ランガだけは「勝てよ」と暦に声をかけます。

 

俺も勝つから。決勝で戦おう。

 

暦にとってこれ以上ない熱いエールですよね。インフィニティのDAPを交わすランガと暦。2人の絆の強さを感じます。

 

ワクワクするなあ。君が僕にグチャグチャにされた時、ランガくんはどんな顔をするかなあ。どんな目で僕を見てくれるかなあ。

 

暦を挑発し、圧をかけてくる愛抱夢。彼はこのビーフで暦を潰せば、ランガが目を向けてくれるようになると考えています。暦とのビーフはランガ獲得を確実にするための手段のひとつ。すでに愛抱夢は自分の勝利を確信しているんです。

同時にスタートを切った愛抱夢と暦。しかしいつもと比べても暦はスピードが出ていません。その遅さに苛立ち、ラブハッグを繰り出す愛抱夢。ランガも破ったラブハッグ。暦は臆することなく愛抱夢の懐に突っ込んでいきますが、愛抱夢もそのことは想定済み。まるで闘牛士のように暦をかわすと、後ろから頭を掴んで彼を押し倒します。地面に叩きつけられ転がっていく暦。

観客たちはこれで勝負が終わるのかとブーイングをしますが、愛抱夢も暦もこれで勝負を終わらせる気などありません。

 

これくらいで勝ったなんて、勘違いしてんじゃねえぞ!

 

立ち上がり再び滑り出す暦。しかし、愛抱夢に肘撃ちで跳ね飛ばされ、体を振り回され、暦は一方的に痛めつけられていきます。抵抗も出来ず、愛抱夢になされるがままの暦。愛抱夢による「虐殺ショー」を期待していたはずの観客たちも、そのあまりの激しさに引いてしまうほど。

高いレベルの滑りをするランガに比べて見劣りする暦。彼らがなぜ共にいるのか理解できない愛抱夢は、暦を不釣り合いな相手だと思っているのでしょう。見下している相手だからこそ、暦に対する攻撃が容赦ないものとなるんですよね。

 

やっぱり期待外れだなあ。この程度の障害じゃ、僕のハートが燃えないよ!

 

パーカーの喉元を掴み、コース壁面の剥き出しの岩肌に暦の背中を押しつける愛抱夢。まるで粗いヤスリでゴリゴリと削られていくように背中が傷付けられ、暦は痛みに声を上げます。

暦をいたぶる愛抱夢。見ていられず、もう止めさせようと声を上げるMIYA。しかし愛抱夢は暦を潰すまで終わらないと菊池は言い放ち、ジョーもチェリーも言葉を失っています。皆が暦の勝ちは無いと諦め、呆然としている様子。

しかしそんな中でもランガだけは目を逸らすことなく、しっかりと暦と愛抱夢のビーフを映し出すモニターを見つめています。

 

暦だってこのままじゃ終わらない。
約束したから。

 

決して暦は勝負を諦めてはいません。そしてランガも暦の勝利を信じ続けます。

岩壁の途切れたカーブに差し掛かり、「そろそろ終わりにしよう」と暦を崖下へ突き落とすことを仄めかす愛抱夢。恐怖の中、暦の脳裏にランガのジャンプする姿がよぎります。同じように自分が飛べるかは分かりません。しかしそんな迷いを振り切り、暦は一気にコーナーに向かってスピードを上げていきます。

 

できるできないじゃない。
それに、こっちの方が楽しそうだ!

 

コーナーを飛び出して崖を滑り降り、そのままのスピードで、コースの一周先の地点を目指して高くジャンプする暦。

 

すげえ! ランガはいつも、こんな景色を見ていたのかよ!

 

暦がランガと同じステージに立った瞬間です。この時の暦の目の輝きが、とても印象的なんです。ただ暦を痛めつけることだけが目的のような愛抱夢とのビーフ。しかし、そんなビーフでも暦はスケートの楽しさを見失うことはありません。それが、暦なのです

 

解ける魔法

後ろから迫ってくる愛抱夢。暦は振り返ると愛抱夢に抱きつき、その動きを阻みます。たしかにそうすることで、愛抱夢は思うように動けはしません。しかし抱きついて離れない暦を、愛抱夢は容赦なく殴打し続けます。

 

僕は構うのは好きだが、構われるのは死ぬほど嫌いなんだよ!

 

繰り返される殴打に傷つけられ、暦の血が飛び散り始めます。それでもじっと堪え続ける暦。そこに、一粒の雨。暦はただ愛抱夢の動きを阻んでいたわけではありませんでした。暦が待っていたのはこの雨だったのです

雨が降り出すことを頭に入れ、雨天時用のウィールを付けてこのビーフに臨んでいた暦。前半でスピードが出ていなかったのもこのためでした。雨の降るバッドコンディションの中、コースを滑るのはスケーターの技量が試されます。たとえ愛抱夢でも、グリップが効かず晴天時と全く同じようには滑ることはできません。コーナーをスリップしながら曲がる愛抱夢。しかし雨天時用のウィールを履いた暦は、晴天時と変わらぬコーナリングで愛抱夢を抜かしていきます。

 

一気にケリを付けてやる!

 

焦る愛抱夢はコースを走ってショートカットすると、チェリーと対戦した時のようにデッキを振りかざして暦に襲いかかります。その構えは野球のバッティングそのもの。なかなかの構えですよ。それはダメだと誰も言わないところから、ルール無用のビーフではこの攻撃をも許容範囲ということなのでしょうが、菊池がいずれ事件になると心配になるのも無理はないなと納得します。

フルスイングキッスと名付けた「技」で暦に襲いかかる愛抱夢。しかし暦は脱いだ上着をフェイクに使って見事に回避。雨でぬかるんだ地面に脚を取られ、愛抱夢は無様に転倒してしまいます。泥まみれになった愛抱夢を尻目に、コースを滑り降りていく暦。

 

アダムが……あのアダムが……!

 

あのアダムが転んだと観客たちが戸惑いざわめく中、弾けるように笑い出すチェリー。神格化されてきたアダムも、ただの人間。まるで愛抱夢によってかけられていた魔法が解けるように、観客たちは暦を応援し始めます。愛抱夢の圧勝と思われていたビーフ。しかし無名だった暦がこの瞬間、観客たちをも味方につけたのです

 

赤毛じゃねえ、俺はREKIだ! 覚えとけ!

 

雄叫びをあげる暦を見つめるランガの表情が、本当にうれしそうなんですよ。こんなに感情がダダ漏れな顔をしてるランガは、初めてなんじゃないでしょうか。

愛抱夢を振り切り廃工場に辿り着いた暦。主人公だからといって眠っていた能力がいきなり覚醒するような劇的な展開ではなく、自分の気持ちの強さと培ってきたもの全てを使って愛抱夢を引き離した暦。才能やセンスの有無に悩んだ末に暦が出した答えがこれなんですよね。この泥臭い感じ、胸が熱くなります

 

俺はランガと滑る! サポートでも応援でもなくて!

 

もはや暦が勝利すると誰もが思い始める中、怒りに満ちた表情で暦を追い廃工場に突入する愛抱夢。

暦はただの雑魚であり、ランガの近くにいる邪魔なだけの存在。トーナメントを、そして自分の気持ちを盛り上げるために戦う相手。言うなれば、暦とのビーフはランガとの決戦の前の余興がわりのつもりでした。ここで暦を叩きのめしてしまえば、ランガは暦に気を取られることも無くなる、そう思い、愛抱夢は暦を招待したのです。そんな暦に差をつけられ、泥まみれにされるなど、屈辱以外の何物でもありません。

 

許さない、許さない、許さない!

 

愛抱夢は圧倒的なスピードと工場を壊すような勢いで暦に迫っていきます。ゴールまであとわずか。しかし暦のウィールが衝撃に耐えきれずグラグラと揺れ始め外れてしまいます。崩れるようにゴールする2人。先にゴールしたのは愛抱夢。暦は最後の最後で破れてしまったのです。

 

やるじゃん、赤毛!

感動したぞ、REKI!

 

激しい競り合いの末、愛抱夢をあと一歩のところまで追い込みながら破れた暦。勝ったのは間違いなく愛抱夢です。しかし観客たちが名を口にして称えたのは、負けた暦の方でした。

ゴールに倒れ込んだまま起き上がらない暦。慌ててランガが駆け寄りますが、暦は大きく手足を伸ばして大の字になり、満足そうに満面の笑顔を浮かべます。

 

やっぱスケートって、超楽しい!

 

ジョー、チェリー、MIYAも暦の健闘を称え和やかな雰囲気に。しかしゴールをしてもなお怒りが収まらず、暦の方へと歩いていく愛抱夢。ランガが暦を守るように愛抱夢を睨みつけ、すかさずジョーが止めに入ります。

 

お前のような雑魚が。それで一矢報いたつもりか。

 

今にも暦に殴りかからんばかりの愛抱夢の前に、菊池も立ち塞がります。

暦の言葉に昔の愛抱夢を重ねて見た菊池。愛抱夢からスケートを奪うのではなく、スケートを愛する心を取り戻してもらうべきだと考えを改めた彼は、自分はトーナメントを棄権すると告げます。彼は、心からスケートを楽しむことができる暦と気持ちの通じ合っているランガに賭けることにしたのです。

いよいよ実現するランガとのビーフ。

 

共に堕ちよう。僕らはアダムとイヴになるんだから。

 

異常なほどのランガへの執着。愛抱夢の目は怪しい光を放つのです。

 

前回は、暦とランガの心が重なり合う『SK∞  エスケーエイト』の9〜10話について語っています。興味を持っていただいた方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com