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『SK∞ エスケーエイト』ラン暦について語りたい

昨日(2021年7月4日)のイベントにて、舞台化とアニメ新作プロジェクトが発表されましたね! やった〜! うれしい! 私は配信でイベントを視聴していたのですが、発表された時には喜びのあまり手を叩いてしまいました!

ということで、今までは『SK∞ エスケーエイト』という作品について、今まではストーリーに沿って語ってきましたが、今回はこの作品の主人公である「REKI」こと喜屋武暦と「スノウ」こと馳河ランガの高校生2人に焦点を絞って語りたいと思います。

#01 PART 熱い夜に雪が降る

#01 PART 熱い夜に雪が降る

  • メディア: Prime Video

 

ライバルとしてではなく

スケートボードのレースを題材としたこの『SK∞ エスケーエイト』という作品、放映された時期を見ても、スケートボードが正式種目となった東京オリンピックを意識した作品であるだろうなと推察できます。

となると、

 

「スケートボードのレース「S」に夢中な暦。暦の高校にカナダから転校してきたランガがライバルとして暦の前に立ちはだかる。2人はレースで激突しながらも、互いの実力を認め合っていく」

 

というようなスポ根アニメ的な展開になっても良さそうですが、この作品はそうはしませんでした。暦の前に現れたランガはスケートボードの初心者という設定で、暦が一からランガにスケートボードを教えてあげることになります。そして2人の前に立ちはだかるのは、伝説的スケーターであり「S」の創始者である愛抱夢。暦とランガはそれぞれに愛抱夢と対戦。彼らは互いを信じて暦はランガの、ランガは暦のレースを見守ることになります。

 

対照的な2人

第1話の暦のモノローグで始まり、最終話のランガのモノローグで終わるこの作品。ラン暦の2人がこの作品の軸。沖縄の高校に通う暦とカナダからの転校生であるランガが出会うことで、この物語は走り始めます。

主人公である2人は、意図的にとても対照的なキャラクターとして描かれています。

 

喜屋武暦

赤い髪にキラキラした瞳が印象的な暦。彼はとても表情が豊かです。両親、祖母、3人の妹たちと家族が多く、沖縄の民家に特徴的な赤瓦の家に住んでいます。いつも明るくて朗らかな彼ですが、第1話のモノローグではテレビのヒーローが夢は何かと問いかけてきたことを「怖い」と言っており、実はとても感受性が強く繊細さを持つ少年なんだということが分かります。

スケートボードで滑ることはもちろん自分でボードを制作しており、雑誌で情報収集したりポイントをノートにまとめたりしているなど、かなり研究熱心。暦はスケートボードに関すること全てを愛している感じですね。

 

馳河ランガ

ランガは青い髪に青い瞳。大人っぽい整った顔立ちなので一見クールそうに見えますが、実はおっとりとしたマイペースな性格。あまりテンションが変わりません。父を亡くしており、マンションで母親と2人暮らしをしています。

ちょっと鈍感なところがあり、それが「S」のレースでは動じない度胸の良さとして現れています。アスリート向きな性格なのだろうなと思います。

 

きっかけの理由

転校して間もないランガに暦が声をかけたことでこの物語は大きく動き出すのですが、そもそもなぜ暦はまだろくに喋ったことも無いランガに声をかけ、スケートを教えてやると誘ったのでしょうか。

 

印象が少し変わりました

この場面で暦がランガにスケートを教え始めなければ話が進まないわけですが、それにしても暦が強引な気がします。なのでこの場面、ちょっと不思議だなぁと思っていたんです。でも何度か作品を見返していくうちに、初めにこのシーンで受けた印象が少しずつ変化してきました。

 

「暦はスケートボードという、自分が大好きで最高に楽しいと思っているものを共有できる仲間を求めていた。教室にいる友達を何度も暦は誘っていたけれど、彼らの反応はイマイチ。でも転校生のランガは、クラスメイトたちとは違いボードに興味を示してくれた。そのことがうれしくて、暦は半ば強引にランガをスケートに巻き込んでいき…」

 

という感じだと思っていたんです。このブログの以前の記事でもそう書きました。だって自分の好きなものに興味を持ってもらえるって、すごくうれしいことですから。

でも今は、それだけでなないかなと思うようになりました。

転校初日の挨拶だというのに、非常に面倒くさそうにしていたランガ。彼が沖縄に来たのは父親を亡くしたことがきっかけ。ランガは父親を失った悲しみで、それまで楽しむことができたスノーボードに何も感じなくなってしまっていたのです。母親と共にカナダを離れたものの、ランガは沖縄の学校で新しく友達を作ろうといった前向きな気持ちを持ってはいなかっただろうと思います。

ランガのそんな家庭事情を、暦はまだこの時点では知りません。しかし面倒見が良く、人の気持ちを推しはかることに長けている暦は、教室で見たランガのつまらなそうな表情が、どうしても気になってしまったのではないでしょうか。だからこそ暦は、自分が一番楽しいと思っているスケートにランガを誘ったのだと思うんです。

暦は自分が絶対に楽しいと確信していることについて語っているので、すごい熱量だったはず。転校してきたばかりで同じクラスらしいけれども顔も名前も覚えていない奴がやたら親しげに喋りかけてくることに、ランガは戸惑いを感じたと思います。しかしそれ以上に、暦の楽しげな様子に自分が忘れてしまった気持ちを思い起こさせられたのではないでしょうか。そして暦が見せたジャンプ。それまで無表情だったランガが、大きく目を見開いて驚きの表情を見せます。それはランガの心に感情が戻った瞬間だったのです。

仲間を欲しがっていた暦と楽しむ心を失くしたランガが出会い、互いを補完しあうように引き寄せられていったのは当然のことだろうなと感じます。

 

心のすれ違い

ランガに初歩から丁寧にスケートの滑り方を教えていく暦。何事も上達するためには、繰り返し練習していくことが重要になります。何かできるようになるまでの過程って、面倒だしつまらないですよね。

でもランガと暦が2人で一緒に練習している様子は、和気あいあいととても楽しそうなんです。

彼の母親も言うように、コミュニケーションが下手なところがあり言葉数も少なめなランガ。しかし暦と一緒に練習しているときは、まるで主人に褒めてもらおうとする大型犬のよう。幼かった頃に父親にスノーボードを教えてもらっていた時のランガは、きっとこんな可愛い感じだったのだろうなと思わせられます。自分の大好きなスケートを一生懸命練習してくれるランガの姿見たら、暦はうれしくなっちゃいますよ。教える方にも熱が入りますよね。

でもランガは幼い頃からのスノーボードの経験があるために、スケートボードとの違いにたびたび戸惑いを覚えてうまくいかない様子。もっと滑れるようになったら、もっとスケートが楽しくなる。そのことを自分の経験で知っている暦は、ランガのために彼専用のデッキを作ってあげます。スノーボードで滑っていた感覚に寄せて、デッキのサイズを大きく設計し、足が固定できるようなパーツも付けてあげます。暦はランガに「スケートボードらしさ」は強要しないんですよね。なぜなら、ランガにスケートを好きになって楽しんで欲しいから。暦にとってスケートは自由で楽しいものなのです。

クレイジーロックで激しいレースを繰り広げる「S」も、暦にとって高いテクニックを持つスケーターたちと一緒に滑ることができる、ワクワクできること。レースですから当然勝ちを目指して滑るわけではありますが、勝ち負けも含めて暦は「S」のレースそのものを楽しんでいるんです。

 

愛抱夢が起こす波乱

そんな暦ですが、あることをきっかけに少しずつ自分の好きなスケートに苦しまされるようになっていきます。それは皆が憧れる「伝説のスケーター」愛抱夢の登場です。

ランガとのビーフに負けてしまったMIYAに対して傷つける言葉を投げつけたことが許せなかった暦は、愛抱夢にビーフを申し込みます。愛抱夢は自分とビーフで対戦した相手に大ケガを負わせてきた危険なスケーター。実際に彼は何人ものスケーターが病院送りにしているのです。

「S」は先にゴールさえすれば、レース中に何をしても構わないという非常に荒っぽいレース。物語の初めに、暦は対戦したシャドウに爆竹を投げられてコースアウトして負けてしまいましたが、シャドウの妨害行為はあくまでもレースに勝つためのもの。しかし愛抱夢の危険性は、その滑りがビーフの相手を傷つけ、苛み、痛めつけることを目的としているところにあるのです。

そんな愛抱夢を相手に暦は果敢に挑みますが、スケートの実力差があることはもちろん、愛抱夢の瘴気をモロに食らい、完全に飲まれてしまいます。愛抱夢にとってはビーフの相手を痛めつけることは愛情表現であり、可愛がってやっているくらいのつもりだろうと思いますが、そんなこと暦は感じられるわけもありません。一方的に愛抱夢に痛めつけられ、暦の脳裏には大ケガをしてスケートをやめてしまった友達のこともよぎったのではないでしょうか。自分も大ケガをして二度とスケートができなくなってしまうかもしれないと、何度も思ったかもしれません。愛抱夢によって、暦はスケートに対する恐怖の感情を植え付けられてしまったのです。

しかしランガは違います。暦が愛抱夢に大ケガを負わされたことへの怒りはもちろんあると思いますが、一方的にやられっ放しだった暦のビーフを見ても、怯むどころかテクニックに磨きをかけていきます。そして愛抱夢とのビーフでは、暦と同じように彼に振り回されながらも跳ね除けてしまうのです。

ビーフをきっかけにランガはその滑りを愛抱夢に気に入られ、異様なまでに露骨に執着されるようになりますが、そのことに怯えたり嫌がったりしている様子は特になく完全にスルー。愛抱夢に言い寄られたら相当怖いと思うんですけど、ランガはその点平気そうですよね。自覚が無いというか、強メンタルというか。

さらに、危険な滑りをするけれど愛抱夢はすごいスケーターだ、とランガは平然と口にしたりします。愛抱夢に対する認識の差が、ランガと暦とではあまりにも大きいんですよね。

数ヶ月前まで自分が手取り足取りスケートを教えてきたランガに、いつの間にか大きく引き離されてしまったことを感じていた暦。ただでさえ自分に引け目を感じて落ち込んでいる暦に、ランガは悪気は無いながらも追い討ちをかけてしまったんです。

自分と同じようにスケートを楽しいと感じてくれていると思っていたランガが、自分とは全然違うことを感じていると知ってしまった暦。自分が愛抱夢を怖いと感じるのは、自分のスケートのレベルが低いからではないのか、と暦は思ってしまったのでしょう。

ランガのスケートのレベルは自分よりずっと高い次元に行ってしまったけれど、自分にはその壁は越えられない。自分はランガのようには感じられない。自分はランガとは釣り合わない。

大好きだったスケートに苦しめられて、暦の心はズタズタですよ。

しかしランガは、自分が愛抱夢とはもう滑らないという約束を破ってトーナメントにエントリーしたことで暦を怒らせてしまったと考えます。暦が何にショックを受けたのかランガは分かっていないので、言葉通りに受け取るしかないですよね。

暦が自分のスケートのレベルがランガより低いことで劣等感に苛まれているなんて、まったく思いもしていないランガは、暦の気持ちの揺れ動きに追いつけず、戸惑うばかり。暦を怒らせてしまったけれど時間が経てばきっと……と初めのうちは思っていたかもしれませんが、ランガが思っているよりも事態は深刻。暦は学校もバイトも休み、クレイジーロックにも姿を現さなくなってしまったのです。

 

DAPで誓う2人の無限

そんな状況で愛抱夢主催のトーナメントに出場したランガ。しかしレースはとても刺激的なはずだというのに、何も感じられません。ランガは自分の中の何かが足りないことを感じ始めます。

一方、暦も自分の中で大きく何かが欠けてしまったことを感じていました。こっそり見に行ったトーナメントでランガの勝利を見届けながらも、喜べない暦。観客としてなどではなく、本当はランガと並んで滑りたいのに、それができない自分の不甲斐なさにうなだれてしまいます。

しかし、自分がスケートを続けてきたのは純粋に楽しいからだったと暦は自分が口にした言葉によって思い出します。楽しくて夢中になって、コツコツと練習を重ねて上手くなって、もっともっとスケートが楽しくなって。そしてランガという仲間ができて、その楽しさはさらに大きく膨らんだのです。

互いの存在の大切さに気づいたランガと暦。上手く言葉が出ない2人は、確かめ合うように一緒に滑り始め、笑顔でハイタッチを交わします。ランガは暦と久しぶりに滑りったことで、ビーフの激しいレースでも感じる事のなかった胸の高鳴りを感じます。暦がいなければ、心からスケートを楽しむことができないのだと確信したランガは、暦に自分の気持ちを素直に伝えていきます。

ランガとのスケートの実力差に悩んでいた暦。しかしランガは暦をスケートが上手いかどうかなどでは一切見ていません。スケートに詳しくて、自分のためにデッキを作ってくれて、教えるのが上手くて、スケートが楽しいと教えてくれて。他の誰かと比べることなどせず、ランガは暦だけが持つ素晴らしさをいくつも挙げて、彼を全肯定していくんです。暦はすっかり照れてしまっていましたが、ランガの言葉は暦の心の傷を優しく癒してくれたはずです。

ずっと一緒に滑っていたいと、同じ想いを抱いていた2人。すっかり心の溝が埋まったランガと暦は、いつも交わしていたDAPにもう1つ「∞(インフィニティ)」のマークを2人で作る動作を追加することを決めて笑い合います。

このDAPというのは、拳を突き合わせたり、ハイタッチをしたりという動作を組み合わせて作る、仲間内の挨拶のようなもの。友達の間でだけ通じる隠語で話していると親密感が強まるのと同じように、親しい仲間だけが分かるDAPを交わすことで結びつきがより強くなるんです。ランガと暦はDAPの動作を1つ加えましたが、その動きに込められた意味は2人だけしか知らないのです。

 

眩しい関係性

愛抱夢は主催するトーナメントに暦を「邪魔者」として招待したことで、ランガと暦はそれぞれ愛抱夢と対戦することとなります。ランガは暦の、暦はランガの愛抱夢との対戦を見守りますが、彼らは互いが「愛抱夢に勝つ」と信じているというよりも、「愛抱夢には負けない」と信じているという表現の方が合っているように思います。

同じ思いを共有できる仲間と滑ることができるからスケートは楽しいのだと強く信じているランガと暦。愛抱夢のように人を傷つけて勝とうとするスケートに自分たちのスケートが負けることはないという思いが、ランガと暦の胸の中にはあったと思います。そしてそんなランガと暦だからこそ、対戦を通じて愛抱夢にスケートを楽しみ愛する心を取り戻させることができたのです。

この『SK∞ エスケーエイト』はルール無用の激しいスケートボードのレース「S」を描いてはいますが、勝利することに絶対的な価値は置いてはいません。ランガと暦の2人は何かに夢中になり心から楽しむことの素晴らしさを伝えてくれます。そして私たちは、互いの存在があるからこそ世界が生き生きと輝いて感じられるような、ランガと暦の心の結びつきの眩しさに感動を覚えるのです。

 

前回は、ランガと愛抱夢のビーフとその後を描く『SK∞  エスケーエイト』の12話について語っています。興味を持っていただいた方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com