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BL『狼への嫁入り 異種婚姻譚』について語りたい

皆さんは犬居葉菜先生の商業BL『狼への嫁入り 異種婚姻譚』をご存知ですか? タイトルそのまま、狼族の名家の嫡男練の元にに嫁具ことになった兎族の少年楓の物語。獣人の登場人物たちは着物姿の和の世界で、昔話を読むような優しい気持ちになります。今回はこの作品について語りたいと思います。

性描写がある作品なので、未成年の方はごめんなさい。大人の方だけこの先をお読みくださいね。でも表現はとても控えめでなのでラブシーンが苦手な方も楽しんでいただけると思います。

ネタバレが含まれるので、ネタバレダメという方は注意してお読みください。

 

兎が嫁ぐ相手は狼

『狼への嫁入り 異種婚姻譚』の主人公は、兎族の少年。天候不良で食糧難に見舞われていた兎族の村に、ある日狼族の名家玄依(くろえ)家の使者がやってきます。この村に2年間食料を届ける代わりに、この村から嫡子の嫁をもらいたいという使者。食べる物に困り果てていた村にとって、願ってもない申し出です。村長たちに土下座で頼みこまれ、楓は2年間の食糧と引き換えに狼族の玄依家の嫡男の元に嫁入りすることになってしまいます。

兎族というと、ついつい弱々しくて可愛いイメージの子を思い浮かべてしまいがちですよね。確かに小柄な体にクリクリした大きな目がとても可愛らしい楓ですが、そんな外見とは裏腹に負けん気が強く簡単にはへこたれません。楓は嫁ぎ先である狼族の家で絶対に幸せになって、村のみんなを見返してやろうと決意します。

兎族の村から4日以上かけてたどり着いた嫁ぎ先の玄依家は、立派なお屋敷を構える商家。優しそうな義父母は待ちかねたとばかりに楓を迎え入れてくれます。楓はもちろん不安でいっぱいだっただろうと思いますが、オオカミとウサギの組み合わせということでこちらも読みながら大丈夫かなぁとずっと心配してました。ひとまずよかった、よかった。

しかし結婚相手であるは、楓に対して実にぶっきらぼう。婚約した2人でモモヨの花の蕾を生ける百代結びの儀が執り行われますが、親戚一同が見守る中、練は乱暴に花器に花を投げ込んで義母を唖然とさせてしまいます。

それでも進んでいく結婚の準備。祝言を上げるまでのひと月の間、婚約者である練と楓は離れで共に過ごすことに。会った時から目を合わせず、まともな会話もしてくれない練。そんな冷たい態度に、この自分の新しい居場所で幸せになるという決意が揺らぎもします。なんとか練に打ち解けようとする楓。しかし練は2人の布団の間に屏風を立てて強い口調で言い放つんです。

 

興味無いくせにに近付いてこようとすんな

 

いやいや、楓は君のことをもっとよく知ろうとしてるんだよ? 玄依家に請われて嫁入りしてきたはずだというのに、ちょっとこのセリフは無いよって感じですよね。義父母は優しくしてくれるのに最大の難関が結婚相手だとは、なかなかに前途多難です。

しかし、ちゃんとここで幸せになると腹を決めている楓は、求めてばかりではダメだと気難しい練にムカつく気持ちをグッと飲み込みます。いつかきっと練が応えてくれるはずだとにこやかな笑顔で接し、商売の仕事を勉強し、玄依家の一員になれるようにと健気に頑張るその楓の健気な姿に、ほんと君は偉いなぁ〜って頭を撫でてあげたくなっちゃうんですよね。練の従兄の裕士もそんな楓を励ましてくれますが、一向に練とは心が通わないまま時ばかり過ぎていきます。

 

嫁体化

終始楓に対して素っ気無い態度を取り続けている練。しかし練はこの婚姻自体がイヤなのかと思いきや、そうではなさそうなんですよね。楓を追い返そうとするわけでもなく、結婚の報告も兼ねて楓を連れて得意先を回りますし、屏風を挟んでいるとはいえども同じ部屋で寝食共にしています。そして何より、楓に「嫁体化(カタイカ)」を施すのは練なんです。

この嫁体化について、練は「異種間で番になるための準備だ」と説明しています。番になるために楓の体質を変えるというのです。そんな話を聞かされていなかった楓は戸惑いますが、有無も言わせず嫁体化薬と催淫剤を混ぜた強いお酒を飲まされ、練に指を突っ込まれて30分ほどの間ひたすらお尻をホジホジされてしまいます。初夜に無事に受け入れられるように、徐々にお尻を慣らしていこうということなのでしょう。義父母も練も楓が男の子でも気にしていませんので、もしかすると嫁体化が終わると男の子の楓でも子どもが産める体になるのかもしれません。

しかしこの嫁体化、いくら結婚相手とはいってもかなり気まずいですよね。きっちり着物を着込んだままで、お尻丸出しで亀のように体を丸めた楓のお尻を指で淡々と弄り続ける練。お互い結婚する前提ではいるものの仲は全然良くないので、色っぽい展開になるかと思いきや、練は砂時計の砂が落ち切るとそのまま楓を置いて部屋を出て行ってしまいます。お酒や催淫剤による激しい酔いと疲れでぐったりしたまま楓は気絶するように寝落ち、そのまま朝に。それを婚儀までに数日おきに繰り返さなければならないというのです。

恥ずかしさと屈辱感で落ち込む楓。でもここまでされると、練相手に気遣いなどしているのがバカバカしくなってしまいますよね。

 

お前も努力しろよ
お前も僕に気を遣えよ!

 

見知らぬ場所に1人でやってきて上手くやっていこうと心を砕いているというのに、いつまで経っても素っ気ないままの練にとうとうブチギレた楓。ほんと、これまでよく我慢してきましたよね。彼が練の前で猫を被るのをやめて素のままで接し始めたことをきっかけに、徐々に2人の会話が増えていきます。楓は怒ったり拗ねたり笑ったりと表情がコロコロと変わり、とても魅力的なんですよ。そんな楓につられるように練の表情も豊かになり、最初は無言だった嫁体化の間も言葉を交わすようになっていきます。じゃれ合うような可愛い口ゲンカを繰り返し、2人はくちづけを交わすまでに。やっと婚約者同士っぽくなってきたと思ったのも束の間、彼らに大きな試練が襲いかかってしまうんです。

 

人ではないもの

ようやく心を通わせ始めた練と楓。しかし練が「先祖返り」してしまうという事態が起きてしまいます。

狼族は自分の意思で獣化することができる種族。練の従兄弟の裕士も楓の前で獣化してみせていましたが、それは自分の意思で行うものであり、しっかり会話もできます。しかし同じ狼の姿になるとは言っても「先祖返り」は「獣化」とは違まったく違うもの。言葉も人だった時の記憶も忘れ、まさに狼というケモノとなってしまうというのです。

練は狼族の血が濃く、幼い頃から「先祖返り」を起こさないようにと感情の抑揚を抑える薬を飲み続けていました。そんな練が激しい怒りで気持ちを昂らせ「先祖返り」を起こしてしまったんです。楓を大切に想っているからこそ、我を忘れ流ほどの怒りを抱きケモノとなってしまった練。楓は狼の姿で屋敷を飛び出していった練を裕士と共に必死に追いかけます。

狼族がなぜ異種族の楓を嫁に望んだのか。それは「先祖返り」を防ぐためでした。狼族には稀になかなか人化できない子どもが生まれます。練も体質が不安定で、異種族と番になることで体質を安定させようとしていたのです。

2人が結び付けられたきっかけは彼の体質を安定させるためであったかもしれませんが、練はちゃんと楓を大切に思っていました。そのことを知った楓は、練を信じて呼びかけ手を伸ばし、ためらうことなく狼の姿のままの練と番になります。自分のできることの全てを尽くして賭けに出たのです。練を人に戻すため、そして練と2人で幸せになるために。楓のその強い気持ちが奇跡を引き寄せ、練を「先祖返り」から引き戻したのです。

 

大丈夫か?

 

人に戻った練がまず最初に発した言葉は、楓を気遣う言葉なんですよ。練を「先祖返り」から戻すのを諦めなかった楓と、自分のことよりもまず楓のことを心配した練。少しずつゆっくりと心を通わせていった2人。出会った頃はまったく噛み合わずにいた彼らが、今では互いがなくてはならないかけがえのない存在になっていたのだと感じ、胸に迫るシーンです。

こうして「先祖返り」という大きな困難を乗り越えた2人。練はお互いの布団の間に立てていた屏風を退かします。この行動、2人の間にあった壁を練が自ら取り払った、とても象徴的な場面ですよね。「先祖返り」を恐れて薬で感情を抑え込まれた状態でずっと過ごしていた練。気持ちを素直に表す楓によって、練は徐々に感情を引き出されていきました。でもそれは楓も同じ。相手を大切に思う「好き」という感情は、互いがいるからこそ芽生えるものなのですから。

 

前回は人鳥ぺんぎん先生の商業BL『Hate My MIA!』について語っています。興味を持って頂けた方は、こちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com