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BL『俺と上司のかくしごと』について語りたい

皆さんは嘉島ちあき先生の商業BL『俺と上司のかくしごと』という作品をご存知ですか? この作品、続編である『つづきのはなし』も出ています。まだこの作品を未読の方は、ぜひ2巻まとめて読んでもらいたいなぁと思っています。ということで、今回はまず『俺と上司のかくしごと』について語っていきたいと思います。

性描写がある作品なので、未成年の方はごめんなさい。大人の方だけこの先をお読みくださいね。

ネタバレが含まれるので、ネタバレダメという方は注意してお読みください。
 

 

ドルオタリーマンの災難

御門純一郎(みかど じゅんいちろう)は上司の姉崎実紗樹(あねさき みさき)のことが大の苦手。調子が良くて図々しく、ストックしているカップ麺を勝手に失敬し(しかも補充してくれもしない)、毎日違う香水を付け女性社員に囲まれてチャラチャラし、仕事を押しつけて自分だけ先に帰ってしまう姉崎に、御門はムカついて仕方がありません。

荒んだ御門の心を癒してくれるのは、アイドルグループKKBのメンバーの岸めいこ。ファンクラブにも入っている彼は部屋の壁にめーちゃんのポスターを何枚も貼り、Twitterやブログを毎日チェック、彼女をセンターにすべくCDを買って奉仕活動を続けているのです。

そんな彼は会社の飲み会で潰れてしまった姉崎を家まで送っていくハメに。どうやら御門は市川、姉崎は西船橋に住んでいるようですね。都心から帰ろうとすると、同じ路線ではありますが姉崎の方が遠いんですよ。自宅の最寄駅を通過し、西船橋に着いたものの、酔っ払っている姉崎に住所を聞いても要領を得ず、おぶって歩いているうちに雨に降られた御門は仕方なくラブホテルへ。

酔っ払った男2人が、雨に降られてラブホテルでひと晩過ごすとなれば‼︎ 皆さん、準備はいいですよね⁇  

そうです、御門は姉崎に寝込みを襲われてしまうんです‼︎

とはいえ、姉崎の方が受け。襲い受けってやつですね。

違和感を覚えて御門が目を覚ますと、姉崎が自分のペニスをくわえている真っ最中。酔いの抜けない姉崎は自分の部下の相手だと気付かぬままに、ためらいもなく御門の上にまたがってきます。明らかに見知らぬ男と一夜限りの関係を持つことに慣れている様子。姉崎は興奮するからと携帯で自身のハメ撮りの撮影を強要。困惑の中、言われるまま動画を撮影する御門。

朝を迎え、酔いも覚めて自分がひと晩過ごした相手が御門だったと気づき、慌てふためく姉崎。ごまかそうにも、自分で撮らせた動画が動かぬ証拠。

 

今日からは俺の言うことを聞いてもらいます
姉崎さん

 

図らずも、ムカつく上司の弱みを手にすることができた御門。この動画をネタに御門が姉崎に反撃していくかと思いきや、そうはならないんですよ。姉崎はこんなことがあったにも関わらず気まずそうにするでもなく、相変わらず御門のカップ麺を勝手に食べているなど特に態度に変化なし。一方の御門は、PCに保存した動画を見返しては姉崎とのラブホテルでの一夜を思い出し悶々とするばかり。

うっかりプレゼンの日に違うUSBを持ってくるというミスをしでかした御門。プレゼン用のUSBを取りに行く口実を得て、動画データの削除を目論み嬉々として御門の家に向かう姉崎。御門も急ぎ自宅に戻るものの、時すでに遅し。姉崎にドルオタ丸出しの部屋に血相を変えて入ってくる様子を動画で撮られてしまいます。

このことによって互いの弱みを握り合うこととなり、結局姉崎に優位に立てなくなってしまった御門。残念! しかもその後、開き直った姉崎は飲んだ帰りなどに頻繁に御門の家に来るように。御門がストックしているカップ麺を食べ、出されたお茶を飲み、くつろいでそのまま御門のベッドで寝てしまう姉崎。着替えまで置かせてもらっていたりとか、もはや御門の部屋だというのに別邸みたいな扱いに。

誤ってセックスしてしまった(しかも襲われた)相手が同性の上司だったなんて、避けるようになってもおかしくないと思うんです。でも御門はそうはなりません。追い返せばいいものを嫌々ながら姉崎を家に入れますし、姉崎が見知らぬの男性と気軽に関係を持つことに呆れながらも危なっかしくてハラハラするとすら言うんですよね。

他人には知られたくない秘密を握り合っている御門と姉崎。そのことによって上司と部下として御門と姉崎の間にあった気遣いや遠慮が取っ払われ、彼らは素の状態で接するようになっています。だからこそ、最悪なハプニングでゲイだと知られた後も、御門がそのことで避けたり蔑んだりすることなど無く以前と変わらず接してくれる人間だことが、姉崎にはとてもうれしかっただろうと思うんです。嫌そうな顔で文句を言いながらも自分を受け入れてくれる御門に、姉崎が居心地の良さ以上のものを感じるようになるのは自然な流れではないでしょうか。

 

気持ちを揺さぶられて

ゲイであること、夜ごと不特定の男と関係を持っていること、8種の香水をローテーションでつけていること、体毛が薄いこと。仕事の付き合いだけでは知ることのない情報が増えていき、姉崎に関する解像度がどんどん上がっていく中、御門は大阪から異動して来た吾妻に対して姉崎が自分には見せたことのない表情をしていることに気づいてしまいます。どう考えても吾妻の姉崎に対する距離感は会社の同僚としてはあまりにも近すぎます。過去に2人が関係を持っていたことを察し、心穏やかではなくなる御門。

常にニコニコと人当たりの良い笑顔で柔らかな物言いをする吾妻に、ポーッとしてしまう女性社員たち。ですが、この吾妻が悪いんですよね。もうすでに2人の関係は過去のもの。姉崎はあくまでも会社の同僚として接しようとしているというのに、吾妻は姉崎を昔のように下の名前で呼んで頭を撫で、他の社員から姉崎の電話番号を聞き出して飲みに誘い、離婚をしていることを告げた上でこんなことを言うんです。

 

実紗樹さえその気になったら
俺はいつでもOKやから

 

自分が結婚することを理由に一方的に関係を終わらせておいて、優しげな微笑みを浮かべ姉崎の気持ちを揺さぶってくるんですから、吾妻ってば狡いですよ。カタカナで「ズルい」じゃなくて、漢字で「狡い」って感じ。

姉崎が一夜限りの相手と寝るようになったのは、吾妻と別れてから。それくらい姉崎は吾妻との別れに傷つけられたんです。それなのに平然とまた姉崎と関係を持てると踏んでいる吾妻の図々しさ、図太さ。しかも飄々としていて、その言動には悪意がこもっているわけでもなさそうなんですよね。本人の自覚があるかはわかりませんが、ほんと吾妻は悪い男だよなぁと思います。

別れてからの5年を姉崎がどう過ごしてきたのか、昔付き合っていた恋人だったら気になると思うんですよ。でも吾妻はひどいことしたなって謝るとかもせず、ただセックスの話しかしてこないんですよね。もしも彼とヨリを戻しても、その場限りただ優しくしてくれるだけで、その先に実るものは何もないでしょう。

そのことは分かっているんですよ。それでも未練があるまま別れた相手に再び言い寄られ、動揺を抑えきれない姉崎。しかしこのことは、御門への想いがあると彼に強く自覚させることにもなります。ゲイではない御門に思いを寄せても不毛だと諦め忘れようとする姉崎にグイグイと無遠慮に迫っていく吾妻。触れられくちづけられ、堕ちてしまいそうになったその時、姉崎の脳裏に浮かんだのは怒った御門の顔。姉崎は我に返り、吾妻を押し退けて御門の部屋に向かいます。夜中に突然訪れた姉崎を、御門はやっぱり受け入れてくれるわけです。そりゃ「好きだ」ってなっちゃいますよね。

姉崎が吾妻と付き合いだしたのだろうと思っていた御門。しかし姉崎から、過去に吾妻にひどい捨てられ方をされたこと、ゲイの自分は孤独なまま幸せにはなれないと思っていることを聞かされます。初めてゲイである自分を認めてくれたと思った吾妻にセックスの相手としか見られていなかった上にポイ捨てされ、自分には愛される価値なんてないと思うようになった姉崎は、一生誰も好きにならないと決めていました。それでも芽生えてしまった御門への想いは止めることなどできません。

 

好きになっちゃったんだから
しょうがねーだろ⁉︎

 

吾妻のように上部だけ優しくしてくれる人ではなく、自分を本当に受け入れ愛してくれる存在を求めていた姉崎。御門にそれを求めても叶わないどころか、どうせ全てを失ってしまう。だって自分はゲイだから。泣きじゃくりながら想いを吐き出した姉崎は、そんな自暴自棄な気持ちでいただろうと思うんですよね。でも、御門は一貫して姉崎を「姉崎実紗樹」という1人の人間として見ていました。姉崎が御門に会いたいと思ってしまうように、御門は姉崎がパタリと部屋に訪れなくなってしまったことを物足りなく感じていたんです。

だけど自分は同性愛者ではないし、確実に男性を愛せる吾妻と過去の関係があったわけだし離婚もしていてヨリを戻しても問題は無いし、だったら姉崎は自分より吾妻と一緒にいた方がいいのではないか。たぶん、そんなふうに御門は遠慮していたんだと思うんですよ。だから姉崎と残業して一緒に電車に乗っても、家に寄って行かないで帰る姉崎をただ見送るしかしなかったんですよね。でも姉崎は、再び不毛な関係に引き戻そうとする吾妻ではなく、御門に手を伸ばしたんです。そして御門は姉崎のその手を迷うことなく掴んで引き寄せたんです。

何度も繰り返し姉崎にくちづける御門。ここまで来て、同情なのではと口にする自己評価が低すぎる姉崎に対して、御門はキッパリと言い切ります。

 

俺が誰を好きになろうと俺の自由で
姉崎さんにそれは否定できない

 

御門は姉崎が好きだと言っているんです。自分が好きになってもらえるはずがないなんて、そんな悲しいことは思わなくてもいいんですよ。御門は「姉崎実紗樹という1人の人間」を好きになってくれたんです。姉崎はその事実にただ浸ればいいんですよ。

御門に抱かれながら、好きな人とのセックスでは、快感だけではなく幸せだという気持ちが湧き上がることを思い出した姉崎。彼の目に溜まる涙はこれから御門が拭ってくれる、そのことに胸が熱くなりました。

 

次回はこの『俺と上司のかくしごと』の続編『俺と上司のかくしごと つづきのはなし』について語りたいと思います。

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