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BL『明日もきみに会いに行く』について語りたい

皆さんは熊雪ふる先生の商業BL『明日も君に会いに行く』という作品をご存知ですか? この作品は恋に恋する大学生とどこか陰を感じさせる後輩の物語。絵柄も物語も優しい素敵な作品です。

ということで、今回はこの『 明日も君に会いに行く』について語っていきたいと思います。

性描写がある作品なので、未成年の方はごめんなさい。大人の方だけこの先をお読みくださいね。

ネタバレを含みますのでネタバレ苦手な方は注意してお読みください。

 

恋に恋して

主人公の菅本咲(すがもとさく)は、恋がしたい大学生。 何気ない笑顔にキュンとしたり、急に会いたくなっちゃったり、そんなときめく恋をしたいのに、いつも付き合った女性から「彼氏という感じがしない」「ときめかない」という理由で振られてしまいます。

振られたばかりで傷心真っ只中で落ち込んでいる咲が、友人や後輩たちから声を掛けられる様子を目にした三澄(みすみ)は、偶然咲が女の子から告白されているところに出くわしてしまいます。寂しいもの同士で付き合っちゃいましょうよと軽いノリで告白してくる女の子に、げんなりしてしまった様子の咲。

 

なんで恋がしたいのに断っちゃうんですか?

 

初対面でいきなりそんな質問をしてくる三澄に驚きながらも、屈託なく自分の理想の恋愛を語って聞かせる咲。友人たちには恋に恋する乙女だとからかわれてしまう咲の可愛らしい恋愛観を、は茶化すことなく聞いてくれる三澄。

そんな三澄が後日、咲が入っているスノボサークルに入ってきたことから、2人の距離が縮まっていきます。

この作品、主人公の咲がとにかく本当に魅力的なんですよね。人懐こくて愛嬌があって、男女問わず誰にでも可愛がられるタイプ。しかもモテているのに、恋愛に対してはピュアなままなんですから!

2年の途中からサークルに入った理由を問われ、咲に興味が湧いたからと答える三澄。その言葉通りに、サークルに入ってからの三澄は、大学で咲の姿を見つけては質問攻めにしていきます。犬派か猫派か、身長はいくつか、休日は何をしているか、好きな映画は何か。咲の全てを知りたくて仕方がない感じ。先輩先輩と言って懐いてくれる三澄。終始穏やかな彼は、まさしく大きなワンコです。

最初はそんな三澄を変な奴だと思っていた咲でしたが、友人には呆れられるようなくだらない話でも三澄には受け止めてもらえることをうれしいと感じるように。一緒に過ごす時間が増えていき、2人でいることが当たり前のようになっていくにつれて、咲は三澄の何気ない言動にときめいてしまう自分に気付き、戸惑いを感じ始めます。

三澄は咲のことが好きで一緒にいたいと思っているということを、オープンにしています。咲がいるからサークルに入ったと明言し、咲が行くから合宿も参加すると返答しています。こう書いてしまうと完全に三澄が咲をロックオンして落としに行っているみたいですが、そうではないんですよね。今まで出会ったことのないタイプのピュアな咲に三澄が惹かれているのは確かだと思います。でも三澄は、咲との何気ない会話が楽しくて、咲と一緒に過ごす時間がうれしくて、むしろこの距離感を大事にしようと思っているのが感じられるんです。

特別な存在だからこそ、この関係が壊れてしまわないよう、三澄はあえて咲がお気に入りの先輩だとみんなの前で口にして冗談めかし、胸の中の想いが大きくなってしまわないように自分でもブレーキをかけていたんだと思うんですよ。でも想いって、不意に溢れてしまうものなんですよね。

 

傷痕を隠して

三澄の身体には中学生に時の事故により、鎖骨の辺りから腰にかけて大きな傷痕が残っています。その範囲の広さから、火傷の痕なんじゃないかなと思うんですが、三澄はいつも首元が締まった服を着てそれを隠しています。

長身で容姿も整っている三澄ですが、恋人と深い仲になろうとした時に、その身体の傷痕を怖がられて上手くいかないという経験を重ねてきています。カッコいいと「見た目」を気に入られて付き合い始めたというのに、身体の傷痕という顔以外の「見た目」を理由に遠ざけられてしまうという経験を何度も繰り返したのですから、相手にとって自分の内面はどうでもいいものだったのだと虚しく感じるようになるのも仕方ないよなと思います。三澄が見知らぬ相手と行きずりで一度限りの関係を持ったりしていた描写もあり、他人に自分の内面を見てもらうことを期待するのを諦めて気持ちが荒れてしまっているのが伝わります。

そんな三澄が出会ったのが咲なんです。学内でちょっと目立っていて、誰とも気さくに話すから顔も広くて。付き合う相手には苦労しなさそうに見えるのに、ときめく恋を夢見ていて決して軽い気持ちで付き合おうとはしない咲。可愛いからとかカッコいいからとか、そんな上辺だけの理由ではなく、自分と相手の恋する気持ちを大事にしようとする咲に三澄の心が動いたんですよね。

会うほどに話すほどに、咲が素直で裏表の無い人間だということが分かっていきます。そんな咲は、サークルの合宿先で三澄の身体の傷を見てしまっても、一切怖がるような反応はせず、怖いものを見せてしまったと謝る三澄に対してその傷痕のことをこう言うんです。

 

なんで怖いんだよ
お前が頑張って乗り越えたもんだろーが

 

咲はすごく共感する力が強い人なんだなと思います。三澄の傷痕を見て、彼がどれだけ痛い思いをしたか、怖い思いをしたかを思って泣いてくれる咲。本当に優しい子です。そんなふうに思ってもらえて、そんな言葉をかけてもらえて、三澄はうれしかっただろうと思うんですよ。救われた気持ちにもなったんじゃないでしょうか。その後合宿先で熱を出してしまった自分を看病してくれていた咲に、思わずキスをしてしまう三澄。咲には自分の内面を見てもらえているんだと実感できて、想いが抑えきれずに溢れてしまったんです。

 

俺と恋してよ

咲にキスをしてしまってからの三澄は、拒絶されてもおかしくないことをしたと、咲と会うのを避けるように。自分の中の咲へ向ける気持ちの強さに戸惑いを感じたでしょうし、自分とは違って女の子と恋がしたいと思っている咲にいきなりキスをしてしまったことの申し訳無さや、 良い先輩後輩の関係であろうとしていたのに自分自身のせいでそうあり続けられなくなってしまったことへの後悔もあって、咲と顔を合わせられなくなってしまったんだろうと思います。

けれど咲は、いきなりキスをされたことよりも、今まで学内で当然のように一緒に過ごしていた三澄と顔を合わせていたというのに突然会えなくなってしまったことの方にダメージを受けているんですよ。三澄に避けられるようになったのは、自分がキスに驚いて突き飛ばしたりしたからなのかとすら思っています。キスが嫌だったのなら、むしろ会わなくなってホッとするだろうと思うんですよ。それに、咲にとって三澄がただの後輩でしかなかったのなら、ここまで気にはならないですよね。

今まで一緒にいたのは、三澄がわざわざ自分に会いに来てくれていたからだと気づいた咲は、今度は自分の方から会いにいこうと、シフトも知らないまま三澄のバイト先のカフェへ。居ても立ってもいられないこの感じ、良いですよね。

キスしてしまったことを謝る三澄に、避けられることだけが嫌だったと返す咲。咲は自分に会いたいと思ってくれている、上辺ではなく「自分自身」を求めてもらえている、そう実感し、もう咲を離したくないという胸の中の想いを認めた三澄。

 

先輩 俺と恋してよ

 

この言葉を告げた時の三澄のすがるような、泣きそうになるのを堪えているような、そんな必死な表情に、グッと来てしまいます。よく知らない相手と一度限りの関係を持つなどもして、「好き」という感情を信じられず空しさを感じていた三澄が、恋をしたいと言ったんです。もちろんそれは、身体の関係を結ぶだけとか、探り合ったり駆け引きしたりするような恋じゃありません。何気ない笑顔にキュンとしたり、急に会いたくなっちゃったり、そんなときめく恋なんです。咲とだから、純粋な恋をしたいと思えるようになったんですよ。咲という存在によって、どれだけ三澄の心が癒されたのかが感じられますよね。

恋に恋しているような恋愛に関して少し幼さのあった咲が、自分と向き合い三澄への気持ちが恋だったと自覚した時の表情が、ホント可愛いんです。

お互いの気持ちを伝え合い、三澄と恋人として付き合っていくことになった咲を見た友人が、「やっと恋できたんだな」とジーンとするという場面があるんです。その友人だけでなく咲自身も、今までの恋とは違うと感じているのでしょう。「またすぐに振られて泣かないようにしろよ!」という友人に、咲は「今度は大丈夫」と言い切るんです。

三澄が咲とだから恋をしたいと思えるようになったように、咲は三澄とだからこそ本当の恋に辿り着けたんだなと感じました。