皆さんはもちの米先生の商業BL『ススム×ミノル』という作品をご存知ですか? 主人公の売れないマンガ家ススムが、バイト先の後輩のミノルと一緒に、美味しいものを食べて、BLを知り、BLして、BLを描くという物語。おっとりしたススムと素直なミノルの会話のテンポが良く、リラックスして読める作品です。
ということで、今回はこの『ススム×ミノル』について語っていきたいと思います。
性描写がある作品なので、未成年の方はごめんなさい。大人の方だけこの先をお読みくださいね。
ネタバレを含みますのでネタバレ苦手な方は注意してお読みください。
起死回生はBLで
この作品の主人公の前田進(ススム)は、売れない少年マンガ家。賞を取ってプロになるべく上京し、お好み焼き屋でバイトをしながら腐らずに地道にネームを練る日々を重ねてきました。が、連載には繋がらず。 そしてある日、彼はずっと担当してくれていた編集者から、BLを描いてみないかと言われます。
芽が出ないと見切りを付けられたと、泣いて落ち込むススム。 バイト先の後輩の星風実(ミノル)はそんな様子を見かねて、せっかく舞い込んだ仕事のチャンスなのにイメージだけでBLを敬遠して実家に帰ろうかとか言い出すなんてアカンやろ、とススムにあるものを渡します。それはBLソムリエな姉厳選の「初心者セット」。さらにミノルはBLの体当たり取材を口実に「俺と付き合わへん?」と提案。ススムはミノルの提案に、かなりゆる〜く乗っかることを決めてしまいます。
こうしてススムは、本から得る知識とミノルとの付き合いでの実体験の両軸でBLを学びながら、BL作家デビューを目指すことになっていくんです。
ススムが男性だし、自身がマンガ家であるという設定から、客観的に少し引いた目線でBLを見て解説している部分があったり、新しくススムの担当になったBLマンガの編集者タケ子との会話でBLマンガの執筆者側から見た世界を垣間見れるお仕事マンガ的要素もあり、他の作品とはちょっと風味が違っていて新鮮に感じられます。
この作品で面白いなと思うのが、ススムのBLへの接し方なんですよね。BLなんてよく知らないしと、最初のうちは戸惑いを見せたススム。もともと少年マンガ家になりたかった訳ですし、何より男性だし、BLを描くことに強い抵抗を示して描くようになるまで紆余曲折あって長くかかるのかなと思ったりしましたが、ススムは「初心者セット」をしっかり読み込み、良かったと思った作品は自分で購入もし、早速BLのネームを描いてみるという順応性を見せます。
ススム自身もマンガ家ですから、BLも「作家の魂が込められたモノ」だと捉えていて、BLだからということを理由に作品を茶化したり下に見たりはしていないんですよね。男性同志だからということよりも、自分に恋愛もののマンガが描けるのか懸念を抱いているとススムが言っていることからも感じられます。
ススムはいつも穏やかで当たりも柔らかいし、ちょっとのんびりしている感じ。良い意味で力が抜けていて我が強すぎず、だからこそ物事をそのまま素直に受け取れる人。なので、ススムがニュートラルにBLを受け入れていく様子は違和感がなく、とても自然。もしもこれで、ススムが抵抗を感じながらイヤイヤBLを描き始めたりしたら嫌な気持ちが生まれていたと思いますが、バイト先の後輩でBLを嗜む小春からおすすめ本を借りたり、編集者のタケ子に自分から改善点を聞いてみたりするなどBL執筆に前向きなので、ススムがBLを描くのか描かないのかを気にせず、安心してミノルとの恋の進展を見守っていられるんです。
BLの文化に触れて詳しくなっていくにつれ、ススムは徐々に取材のために付き合い始めたはずのミノルの可愛さに気づいていきます。しかしミノルの姉の彼氏がミノルにとって「幼馴染」であり「初恋の相手」だという最強属性持ちだったり、ススムに本命ができたら別れるつもりだから遠慮しないでということをミノルが言い出したりといった「BLあるある」な要素もしっかり散りばめられています。BLを描くために知識を蓄えている最中のススム自身が、まさしくBL的な状況に置かれるという二重構造になっているのも、この作品の面白さなんですよね。
天使なミノル
少年マンガから一転、BLマンガ家に転向することになったススム。そんな彼を支えるのがミノルです。
このミノルがとにかくとにかく本当に性格が可愛いんですよ! 彼は抑えようとはしていますが、ススムへの好きがダダ漏れ。赤面する表情なんてたまりません。感情豊かないい子なんです。
作品の冒頭で全く見知らぬBLの世界を前に戸惑うススムに、BLの体当たり取材ができるとかなり強引な理由を付けて付き合う流れに持っていった時は、ミノルはもっとちゃっかりした子なのかなと思っていたんです。関西弁でしゃべる子だし、提案に心がグラついているススムの様子にミノルは心の中であとひと押しとか思ってますし、そういうキャラづけされているのかなと。でも全然違ったんですよね。
もちろんミノルの心の中には、ススムともっと近づくチャンス到来だと思うちょっとズルい気持ちもあったでしょう。でも姉に事情を話して参考になりそうなBL初心者セットを選んでもらったりするなどしてススムのマンガ家になる夢が実現するように応援したい気持ちや、マンガを諦めて地元に帰ろうかと言うススムを引き留めたくて必死な気持ちの方が大きかったんじゃないかと思うんですよ。
バイト先のお好み焼き屋の賄いをモリモリと美味しそうに食べるススムに惹かれたミノルは、 元々は料理するのが好きでも得意なわけでもなかったのですが「料理のレパートリーを増やしたいから味見してほしい」と嘘を言って、ススムの部屋に料理を作りに行くようになります。ただの口実でしかなかった料理。でもミノルは、オムライスがうまく作れずに家で練習をしていたような状態から、今では食事だけでなくお菓子作りまでできるところまで腕を上げているんですよ。
ミノルにとってススムに美味しいものを作ってあげることは、好きな人を喜ばせてあげられ、ススムとの間にバイト先の先輩後輩以上の特別な繋がり持たせてくれるもの。その繋がりをすごく大事にしていて失いたくないと強く思っているからこそ、ミノルはここまで料理が上手になっているんですよね。料理の上達ぶりは、ミノルのススムへの想いの強さの現れでもあるんです。
そんなミノルは過去の経験から、ススムを応援してあげられればそれでいいと、恋に対して臆病になってしまっています。なので、(自覚なくススムを萌えさせるようなことを言ってしまってはいますが)自分から積極的にススムに恋愛対象として意識してもらおうと煽るようことはしようとしません。ススムとの付き合いも「体当たり取材」を口実にした偽の関係で満足しようとしています。
時々ひとりじめできたらええねん
まるで自分に言い聞かせるように、健気にそんなさみしいことを言うミノル。
でもミノルが気持ちを抑えようとしていても、その想いはちゃんとススムに伝わっていきます。ミノルの健気さや可愛らしさといった魅力を知って、ススムはBLの取材なんて関係なく惹かれていくんです。
ススムが自分からガツガツいくタイプでは全然なく自制が効く人なので、すんなりと事は運びません。でも、対話を重ねて絆が深まり、嫉妬から恋心に気づき、すれ違いを経て、ミノルを捕まえるためにススムが自ら行動を起こすという、BLの王道な道筋を丁寧にたどって2人は結ばれます。ススムはミノルに対して甘々になるだろうなというのがすごく感じられ、満たされた気持ちになりました。
2巻が出てるんです
この『ススム×ミノル』、この記事を描いている時点で2巻まで出ています。表紙のミノルの表情の変化が良いですよね。
BLマンガ家として一歩踏み出したススム。ペンネームがトゥインクル前田になったのか、非常に気になるところですが、2巻ではススムのマンガ家仲間で人気漫画家のアオちゃんとホストもやっているアシのタイラが出てきたり、ミノルに密かに想いを寄せているモモタが登場したりと、ススムとミノルそれぞれの日常が感じられる物語になっています。
ススムとミノルの間に一波乱(でもさざなみ程度)が起きてちょっぴりハラハラさせられますが、それよりも最後に立てられたフラグが気になって気になって仕方ありません。
続巻を出すとするとスピンオフになると思いますが、ススムとミノルのそれからも引き続き見守りたいですし、立ったフラグの回収のためにも続きをお願いしたいと思っています!

