とうとう『僕のヒーローアカデミア』最終巻となる42巻が発売されましたね。単行本にはジャンプ本誌に掲載された最終話のその後を描いた書き下ろしが収録されていて、これをもって本当に完結ということとなりました。明るい結末を迎えた最終話、心からこの作品を追いかけてきて良かったと胸が震えました。
ということで、今回は完結を迎えたこの『僕のヒーローアカデミア』(以下『ヒロアカ』)について語っていきたいと思います。
ネタバレを含みますのでネタバレ苦手な方は注意してお読みください。
『ヒロアカ』が伝えてくれたもの
『ヒロアカ』は本当に多くの方がご存知だと思います。強力な「個性」を受け継いだ緑谷出久(みどりやいずく 以下デク)が、最高のヒーローを目指していく物語。自分の力を鍛えて、迫り来る悪と激しいバトルを繰り広げ打ち倒してと、『ヒロアカ』はジャンプ連載作品らしく、どんどん脅威を増していく敵(=ヴィラン)たちとの闘いが展開されていきました。
特に終盤での闘いは、堀越先生の画力の凄まじさも相まって迫力が増しに増して、こんな強力な敵を相手にどうすればこの闘いを終えられるの? と思うほどの展開が続き、単行本で追いかけていた私はヒーローたちが皆無事ではいられないかもとハラハラしながら最終巻を読み進めていました。
1巻から42巻まで、ヒーローを目指していたデクは、さまざまな経験を積んで人としてもヒーローとしても成長を遂げていきました。そして「ワンフォーオール」を受け継いだ者が負う宿命に、逃げることなく立ち向かい、闘い抜いてきました。激しく苦しい闘いに決着をつけた後にデクが選んだ道も、そしてデクと共に学び闘ってきた1-A組の生徒たちが取った行動も、とても納得のいく清々しいものでした。
ヒーローは1人じゃない
「ヒーロー」というものには、選ばれし者がなるものというイメージがあります。平凡な少年少女が特別な力を授けられたり眠っている能力を引き出されるなどして巨悪と戦うことになる、みたいな。
時には本人の意志とは無関係に、強制的にヒーローにさせられてしまうこともあります。悪に対抗できるのはその選ばれし者のみで、他の大多数の人々は抵抗する術を持っていません。世界の命運は1人のヒーローのみにかかっていたり、正体を明かすことができなかったり、相当孤独な状況にあったりもします。それでも選ばれし力を持つ者は、大勢の命を守るために使命を帯びて戦わざるを得ないわけです。
『ヒロアカ』の世界でのヒーロー
『ヒロアカ』は人口の約8割の人間が「個性」と呼ばれる特殊な超常能力を持っているという世界の物語。「個性」は実にさまざまで、その内容によっては外見が動物や爬虫類寄りになるなどしている人もいます。そんな世界でも、自分の「個性」を悪用する敵(=ヴィラン)がおり、同じく「個性」を武器にヒーローがヴィランを取り締まっています。(ヴィランを「倒す」ではなく「取り締まっている」という表現になっているのが重要です。)
しかし『ヒロアカ』に登場するヒーローはごく限られた人たちではありません。高校にヒーロー育成のコースがあり、ランキングが行われるなど、ヒーローはとてもメジャーな存在。難関ではありますが、試験を突破すれば晴れてヒーローとして活動することができます。プロスポーツ選手のようにプロヒーローという職業が成立しているんですよね。そのため物語を通して何人ものヴィランが登場しますが、それ以上にヒーローも大勢登場します。『ヒロアカ』の世界では、ヒーローは、選ばれし者がなるものではなく、なりたい者が目指せるものなんです。
この作品の主人公デクは、「個性」を持たない「無個性」。通常なら、善良だけどこれといった特徴がない「無個性」というのは、その他大勢の中の1人ですよね。つまりモブであり凡人でありマジョリティです。しかし何かしらの「個性」を持つことが前提となっている『ヒロアカ』の世界では、「無個性」ゆえにデクはマイノリティなんです。現実とは逆ですね。
そんなデクは、No. 1ヒーローのオールマイトから後継者に選ばれ、「ワンフォーオール」の個性を引き継ぎます。ヒーロー版のシンデレラストーリーです。「平和の象徴」と称される偉大なヒーローの強力で特別な「個性」を得たわけですから、デクが突出した特別な存在になっていておかしくはないはずです。
でもここは、「個性」を持っていることが前提となっている世界です。デクが通う雄英高校にはヒーローを目指す強い「個性」を持つ生徒たちばかりが在籍していて、彼らの中ではデクはずば抜けた存在とはなりません。なぜなら、あまりにも「個性」が多種多様なので比較しようがないんですよね。「個性」を得るまでの流れは非常に特殊ではありますが、「無個性」というレアな存在だったデクは、オールマイトから「ワンフォーオール」の「個性」を受け継いだことによってマジョリティの中の1人になるんです。
ヒーローを孤独にはさせない
たった1人のずば抜けた能力を持つヒーローが命を賭して悪を倒すようなストーリーは、ヒーローの強さに感動しますしカッコいいと素直に思いますが、当事者であるヒーローは全てを背負わされ可哀想だなとも思っていました。
デクはこの作品の主人公なので、当然他の生徒たちよりも多くの事件に巻き込まれ、強力なヴィランと戦うことになります。さらに「ワンフォーオール」の後継者として「オールフォーワン」を討ち倒す使命を帯び、自分1人で抱え込み思い詰めてしまったりもします。しかしデクが心を閉ざしてしまいそうな時でも、同じクラスの仲間やプロヒーローたちはデクに寄り添い、共にいようと呼びかけてくれるんです。
特に終盤ではまさしく総力戦となり、それまで出てきたヒーローたちが次々と登場して活躍します。読者サービス的な面もあったと思いますが、それぞれが持つ「個性」を発揮しながら自分の力を尽くして共に戦ってくれる彼らに、デクは決して孤独にはならないのだと胸が熱くなりました。
ヒーローの資質
デクは、No. 1ヒーローであるオールマイトに後継者と認められ、「ワンフォーオール」という「個性」を継承されます。主人公であることを抜きにしても、行動に見合う「個性」を得ることができて良かったなと思うわけですが、そのきっかけとなるのは、幼馴染みの爆豪勝己(ばくごうかつき 以下かっちゃん)がヴィランに襲われたことでした。
かっちゃんとは幼い頃は仲が良かったデク。でも中学生ともなると人間関係は変化しますよね。かっちゃんはヒーローになることに憧れを抱いているデクを、「無個性」なのに無理だと言ってバカにしたりいじめたり。しかし、そんなかっちゃんがヴィランに襲われているのを目にし、デクはなりふり構わず助けようと身一つでヴィランに向かって飛び出していくんですよね。
ちょっとコワ過ぎやしませんか? デクは「個性」を持っていない中学生ですから、まさしく捨て身で向かっていってるんですよ。それも、かっちゃんが「助けを求める顔してた」という理由だけで。ホント、自殺行為です。
プロヒーローたちからメチャクチャ怒られてデクは反省もしてますが、きっとまた家族や友達がヴィランに襲われたら飛び出してしまうでしょうし、全く知らない人だとしてもやっぱり見過ごすことはできないと思うんですよ。だって、自分は何もできないとデク自身が思っていたって、足が勝手に動いちゃうんです。危なっか過ぎますよね。命がいくつあっても足りない感じがします。
デクが自分でも制御しきれないほどの「助けたい」というこの強い思いこそがヒーローとしての資質だと、オールマイトはデクを自身の後継者とし、「ワンフォーオール」の「個性」をデクに譲渡します。「無個性」であってもヒーローになりたいと真剣に願い、無心で助けようと行動に移してしまうデクは、まさにヒーローになるべき人間だと認められたわけです。
強い「個性」を持っていてもその力を悪用する人がいれば、デクのように何も「個性」を持たなくても助けたいと駆け出す人もいます。力を持っているだけではダメなんですよね。
ブレない強さ
『ヒロアカ』では何人もの魅力的なヒーローたちが登場してきましたが、同様にヒーローと敵対するヴィラン達もとても魅力的に描かれています。特に、最大の脅威となるヴィラン連合は悪の側ではありますが、 オールフォーワンに人生そのものを奪い尽くされていた死柄木弔をはじめ、メンバーたちには非常に過酷な過去があり、社会と噛み合うことができないままにヴィランへと身を堕した経緯が描かれ、また彼らの中に仲間同士の絆が感じられるなどもして、知るほどに愛着が湧くような描かれ方をしていました。
とはいえ、ヴィラン連合の行ってきたことは可哀想だから許してあげようというようなレベルのものではありませんし、 悪は悪として報いを受けなければならないというスタンスは崩れません。しかし、デクは世界そのものを壊そうとする死柄木すらも「助けたい」と思うんです。
デクはオールマイトの強力な「個性」を受け継ぐ後継者として、パワーはトップヒーローと同等かそれ以上にまで成長しています。それでもデクは、ヴィランを倒すために闘うヒーローではなく、誰かを救うために駆け出して手を差し伸べ続けるヒーローであり続けているんですよね。
デクは「ワンフォーオール」の継承者となったことで、誰よりも強いヒーローだったかもしれません。しかしそれは、受け継いだ「個性」による強さだけではなく、デクの心にある「助けたい」「救いたい」という想い、そしてそのことを決して諦めようとはしない行動力があればこその強さなんです。
君もヒーローになれる
死柄木との死闘により「ワンフォーオール」を失ってしまったデクは、その後教師の道を選びます。デクが「ワンフォーオール」の個性を次代に継承させることはありません。しかし、オールマイトが自分のことをを鍛えてヒーローになるスタートラインに立たせてくれたように、デクは次代のヒーローを育てる職業に就いたことで、その想いをヒーローを夢見る少年少女たちに受け継がせることになるんです。
また、デクをはじめヒーローたちが身を賭して闘う姿は、たくさんの人々の胸を打ちました。それまでは過剰にヒーロー頼みとなってしまって困っている人を見て見ぬふりをしてきた人々が、自らも声を掛け手を伸ばすようになるという変化が描かれます。巨悪に立ち向かうだけがヒーローじゃないんです。そんなことをしなくたって「助ける」ことはできるんですよね。
終盤、非力な存在であるおばあさんが、オールマイトの「私が来た」というセリフを真似て、第二の死柄木になりかねない苦しい状況に置かれた少年に声をかけてあげるシーンが象徴的に描かれます。ごく普通の人々にとって、困っている人に声をかけるだけでも大きな勇気がいること。しかし人々が小さなヒーローとなれば、死柄木のような哀しいヴィランは、もう生み出されることはないという明るい未来を感じます。
これだけではありません。物語はさらに円を描くように集約していきます。「個性」を失い教師となったデクに、かっちゃんを中心に1-Aの仲間たちが「データを収集するため」という名目でアーマーをプレゼントするんです。技術の粋を集めたサポートアイテムで失った「個性」を補うことができればデクをヒーローに復帰させられると、かっちゃんたちが共同出資していたんです。「無個性」となってしまっても、デクはヒーローにふさわしいと仲間たちも思っているんですよね。
共に過ごした仲間たちの尽力によって、デクは正真正銘の「無個性」のヒーローとして再スタートを切るんです。
個性が無くてもヒーローになれますか
デクがオールマイトに問いかけたその答えを、デクを支える仲間たちが「イエス」に変えたんです。
君はヒーローになれる
デクの姿を通して、『ヒロアカ』は何度も何度もこの言葉を私たちに繰り返し伝えて続けてくれていました。デクたちは、私たちをいつも勇気づけてくれました。だからこそ、最終話を読み終えて、終わってしまったさみしさよりも、デクたちの物語を見届けられたことへの感謝が湧き上がったのだと思います。

