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『雲のように風のように』と『後宮小説』について語りたい

皆さんは『雲のように風のように』という作品をご存知ですか? 酒見賢一の『後宮小説』を原作とする作品で、2024年12月27日から2025年1月5日までの期間限定でスタジオぴえろのYouTubeチャンネルで無料配信するということで、私もホクホクしながら視聴しました。

『雲のように風のように』は1990年にスペシャルアニメとしてテレビで放映された作品なんですが、話のスケールが大きくて、今だったら劇場公開されていたんじゃないかなと思わせられました。

ということで、今回はアニメ『雲のように風のように』とその原作『後宮小説』について語りたいと思います。

 

ファンタジーの奇跡『後宮小説』

まずは、この『雲のように風のように』の原作となる『後宮小説』について語っていきたいと思います。

『後宮小説』は酒見賢一著の新潮社のプロアマ不問の日本ファンタジーノベル大賞第1回(1989年)の大賞受賞作品。歴代の大賞受賞作には、鈴木光司『楽園』(第2回大賞)、森見登美彦『太陽の塔』(第15回大賞)など、また優秀賞や候補作にも、恩田陸、小野不由美、畠中恵など今第一線で活躍されている作家の名前が出てくるのですが、この第1回に『後宮小説』が大賞を取ったことによって、いわゆる「ファンタジー小説」といえば『ナルニア国物語』『ゲド戦記』『指輪物語』だという固定観念をひっくり返し、ファンタジーの定義を刷新したと言っていいんじゃないかと思うんですよね。突然変異の怪物が初回から現れた、立ち塞がる壁を一気に爆破して広がる地平を見せつけた、というそんな感じ。

 

『後宮小説』のあらすじ紹介

素乾国の皇帝が崩御し、新たに即位する若い皇帝の後宮整備のため、宮女が募集されることに。14歳の銀河は3食昼寝付きという条件に惹かれて応募、各地から集められたお后候補の娘たちとともに、宮女としての教育を受けることになる。

天真爛漫で裏表の無い人柄を見込まれ、正妃になった銀河。彼女は、我が子を即位させようと画策する皇太后の陰謀のため常に命の危険に晒されている皇帝槐帝(=双槐樹)にとっての心の拠り所となっていく。

しかし、皇太后の陰謀のみならず、幻影達らによる反乱軍の蜂起までもが勃発、都城である北師に迫り来る。国を守るべく奮闘する双槐樹。正妃として銀河も後宮の宮女や宦官たちと共に反乱軍に抵抗する。

 

『後宮小説』は、一見すると田舎の少女だった銀河が皇帝の妃になるというシンデレラストーリーなんですよね。でも、それだけではありません。銀河を後宮に送り込むことで、正妃という「内側」にいる彼女の目を通して見た素乾国の歴史を描いた小説にもなっているんです。

歴史小説というものは、史料で明らかにされていない部分は実はこうだったんじゃないか、こんな会話がなされていたんじゃないか、というように、現実にあった歴史上の出来事を補完するような形で創作を絡めて描かれていきますよね。歴史を変えることはできないという制約はありますが、それだけしっかりとした物語の骨組みがすでに出来上がっているとも言えますよね。

『後宮小説』は『素乾書』『乾史』などといったいくつもの史料を元に、素乾国の歴史=史実を語っていくという歴史小説の体裁をとっています。でもこれ、あくまでもファンタジー小説なので、当たり前ですがすべてが架空なわけですよ。中国にあった王朝を想起させますが素乾国という国はありませんし、槐帝なんて皇帝もいませんし、幻影達の反乱も起きていません。出典となる史料だって存在していません。

もちろん読む方だって、創作だと分かって読んでいます。なんですが、綿密に設定が練られている上に、素乾国の史実を語るという嘘が徹底して貫き通されているため、読んでいるうちにあたかも現実の歴史が語られているような感覚に陥ってしまうほど、非常に「それっぽい」んですよ。

「リアル」ではなく「それっぽい」というのがポイント。内憂外患を抱えながらどうにか踏みとどまっていた王朝が、反乱軍を組織した新興勢力によってひっくり返され全取っ替えされてしまうという中国史のパターンが展開されていきますし、史料の中に外国人が書いた著作が入っていたり、史料に対しての語り手目線の記述が混じったり、槐帝の父腹帝のさらに遡った何代か前の皇帝について触れていたりして、読み進めていくうちに高校の世界史の授業でなんとかの乱みたいなの習ったことあったなーとふと思い出されたりして、ちょっと知ってる国の歴史のような気がしてきちゃうんですよね。作者自身が嬉々として物語の嘘を作り込んでいるのが伝わりますし、その世界を覗いているのが楽しくなってくる作品なんです。

ちなみに、私のお気に入りの登場人物は江葉です。

 

アニメ化で得た新たな顔

この『後宮小説』を原作としてアニメ化された作品が、『雲のように風のように』です。

アニメ制作はスタジオぴえろ、監督は『科学忍者隊ガッチャマン』の鳥海永行、脚本は『あらいぐまラスカル』を手掛けた宮崎晃、『魔女の宅急便』を手掛けた近藤勝也がキャラクターデザインするほかスタジオジブリ作品に関わったスタッフが多く参加しているという、ちょっと時代を感じさせはしますが、劇場版じゃないのがウソみたいなゴージャスさ。

主人公の銀河の声は、佐野量子。騎手の武豊の奥さまです。元気いっぱいな銀河を魅力的に演じられています(主題歌も歌ってらっしゃいます)。そして、双槐樹の声は市川笑也。歌舞伎役者の独特な喋り方で、若くして皇帝となった高貴で特別な存在ということを感じさせます。ちなみに、アニメでの私のお気に入りのキャラクターは幻影達に反乱を持ちかける混沌です。

原作となる『後宮小説』は、タイトルの通り、銀河という少女が宮女として教育を受け、皇帝の妃となるまでの過程がガッツリ描かれています。皇帝の妃として、美しさや聡明さ、気品など多くのことを要求されると思います。が、やはり一番に要求されるのは、後継となる子供を産むこと。後宮に多くの女性が集められるのも、チヤホヤしてもらって皇帝に機嫌良くいてもらおうというのではなく、何がなんでも子どもを作り次代の皇帝を確保させるため。なので、銀河たちが学ぶ女大学でも房中術が云々といったことを大真面目に学んでいますし、他にも先帝が腹上死していたり、双槐樹の実の姉の玉遥樹が本気で宮女になろうとしていたりと、原作では実はけっこう色っぽい話が出てきたりするんですよね。

でもテレビで放映するアニメでは、原作小説をまだ読めないような小さな子どもも見るわけで、あまり大人向けな内容にはすることができません。なので『雲のように風のように』では、物語の大筋に関係ない色っぽい要素を上手く外してあります。誰もが安心して見られるアニメにするため、銀河が正妃に決まるまで後宮で学ぶ日々の大部分をカットしているんです。

『後宮小説』から「後宮」の匂いを極力消してしまうという大きな改変。しかし原作の物語の強さと脚本の巧みさで、作品の魅力は失われることはありません。新たに即位した皇帝の妃になるために都城に向かった銀河と、王朝に反旗を翻し都城に攻め込んでいく幻影達の対比が際立ち、歴史の波に怯まず立ち向かう少女の成長物語という新たな顔を持つことになっているんです。

『雲のように風のように』という作品は、そのタイトルそのままに、絶えず移り変わっていく国の盛衰と、自由に軽やかに生きる銀河という少女の姿を描いた名作だと思います。