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BL『ゆらめく秋の恋ごころ』について語りたい

皆さんは野花さおり先生の商業BL『ゆらめく秋の恋ごころ』という作品をご存知ですか? 高校生の頃から15年間にわたる両片想いの物語。自分の想いを素直に伝えられないまま30代になってしまった大人たちの、一途さやもどかしさが愛おしい作品です。

ということで、今回はこの『ゆらめく秋の恋ごころ』について語っていきたいと思います。

ガッツリ性描写がある作品なので、未成年の方はごめんなさい。大人の方だけこの先をお読みくださいね。

 

ネタバレを含みますのでネタバレ苦手な方は注意してお読みください。

 

片想いから逃げて

カメラマンの五十嵐樹(いがらし いつき)は、高校生の時に抱いた恋心を何年経っても消すことができずにいました。その相手は、志田諒(しだ りょう)。賞を獲って学校に掲示された五十嵐の写真に惹かれた志田が声をかけてきたことから、2人は友だちとして距離を縮めていきます。

写真を撮るのが好きであまり人付き合いが得意ではない五十嵐と、バレー部で活躍し人付き合いも良くて目立つ存在の志田。五十嵐は自分とは正反対な志田を「関わりのない人種」と感じ、彼の友だちとして自分は「釣り合わない」と思っている様子。

でも、普段なら志田は苦手なタイプのはずなのに、なぜか気が合って、一緒にいると居心地が良くて。五十嵐の中で少しずつ友情では収まりきれなくなっていく志田への想い。眠っている志田に思わずキスをしてしまった事で、自分の気持ちを自覚せざるを得なくなった五十嵐は、高校の卒業式を最後に携帯の番号を変え、志田と連絡を絶ってしまうんです。

ここまでが高校生パート。

五十嵐の繊細さも良いんですが、ポイント高いなーと思うのが志田。人当たりが良く友達が多い彼は、人見知りなところがある五十嵐とも物おじせず距離を縮めているように見えます。しかし五十嵐が苦手なタイプなはずなのに志田は違うと感じているように、 志田はデリカシー無くグイグイ行くのではなく、ちゃんと相手のことを気遣うことができる人なんですよね。

教室で五十嵐と話をしているところに無遠慮に話しかけてくる部活仲間に対して、志田が「五十嵐と大事な話をしてる」からと冗談めかして言うシーンがあります。その時、本当に志田と五十嵐は大事な話をしていたわけではありません。それに高校生にとって、部活の仲間は大事だし、部活の話題は最重要事項と言ってもいいもの。でも志田は、騒がしいのが苦手な五十嵐を気遣うと同時に、自分にとって五十嵐といる方がずっと大事だと伝えてるんです。さらっとこんなことを言えるなんて、志田は人たらしですよね。五十嵐がうれしく思わないわけがありませんよ。

それだけじゃありません。学校で友達と喋りながら歩いていて、向こうから来る五十嵐に気づいた志田。声をかけて挨拶するとかじゃなく、あえて黙ったまますれ違いざまに五十嵐の頭を撫でていくんですよ。そんなの2人だけの秘密を共有してるみたいじゃないですか⁉︎ きっと普段から、志田は五十嵐に対してそんな感じだったんでしょう。五十嵐もときめかずになんていられないよなと思います。でもだからこそ、五十嵐は志田の前から消えることを選んだんです。志田をこれ以上好きになってしまわないように。

切ない初恋の物語として、これだけでも本になりそうですが、この作品は志田と五十嵐の15年の物語。時を経て彼らの物語は続いていきます。

 

8年後の再会

高校を卒業して8年。早くからカメラマンとして活動していた五十嵐は、スタイリストとなった志田と同じファッション誌に携わる仕事仲間として再会します。美化された思い出から現実に戻って、想いを断ち切るいい機会だと思っていた五十嵐。しかし志田は高校時代とまったく変わらず、人に対しての接し方が不器用な五十嵐に、そういうとこが好きだとサラッと口にしてきます。志田の圧倒的なパートナー感! 志田への想いを断ち切るどころか、五十嵐の中で想いは再燃してしまいます。無理もないなと思いますよ。

もう友達には戻れないのならと、酒の勢いを借りて志田と体を繋げた五十嵐。 そんなことをしてしまって、二度と関わる事はないだろうと思っていたというのに、何事もなかったように「また飲もう」と志田は五十嵐に連絡してきます。また2人で酒を飲んでそして……。それ以来、志田と五十嵐は飲みに行っては体を重ねるというセフレ同然の状態になっていきます。

 

お前が酔いのせいにして抱いてくれるなら
いくらだって酔ってやる
何度でも いつまでだって

 

報われない恋なら、せめて身体だけでも。そんな五十嵐の想いが溢れるモノローグが切ないです。

 志田は恋人を作る様子もなく、五十嵐を抱くことを断ることもしないまま、2人で会ってお酒を飲んでセックスしてという状態がずるずると何年も続き、彼らも30代に。再会が26歳の時だと考えると、少なくとも4年以上にわたって志田と五十嵐は、恋人ではないけれど友達とはもう言えない、セフレのような関係であり続けてきたわけです。でも、五十嵐だけでなく志田にも特別な感情がなければ、ここまで長い間関係は続かないですよね。

五十嵐は自分ばかりが好きになっていると思っていますが、志田も高校生の時に五十嵐からの好意に気づいていたし、彼の胸の内にも五十嵐への想いが芽生えていました。ただ、親友として過ごせている関係が大切で、踏み出す勇気を持てずにいたんです。

しかし関係を守ろうとしたのに、五十嵐は自分の前から消えてしまったんですよね。そんなの、余計に想いが消せなくなってしまいますよ。高校卒業後、五十嵐の面影を重ねられる黒髪ショートの女性と付き合い、長続きせずにすぐに別れるということを繰り返している志田。結局、五十嵐以上に志田の心を揺り動かす人は現れなかったんですよね。

早くからカメラマンとして活躍する五十嵐と釣り合う人間になろうと、スタイリストとしての実績を積み重ね、とうとう五十嵐と同じファッション誌での仕事を掴み取った志田。再会した五十嵐に「好きだ」と伝えますが、自己評価が低すぎる五十嵐に本気の告白の言葉と受け取ってもらえずスルーされ、酒の勢いで体の関係に。

五十嵐と友達のままでいるつもりはなかったけれど、セフレになるのも志田にとって本意ではありません。でも、また五十嵐に去られてしまうのが怖くて、志田は酒を言い訳にして五十嵐を抱ける状況をキープし続けます。

踏み出す勇気が持てないまま、それでもどうしても求めずにはいられず、酒を言い訳にしてしまう。志田も五十嵐も、どちらもズルい大人ですよ。そしてそんな2人がたまらなく愛おしいわけです。

 

15年の想いを

2人関係は何かと五十嵐に問われて、「友達」と答えた志田。

 

お前は友達とセックスするのか

 

五十嵐は志田のその言葉に苛立ち、こんな関係はもう潮時だと連絡を絶ってしまいます。

志田は、まだ付き合ってほしいと五十嵐にちゃんと伝えていないし、五十嵐の方も自分と付き合っているとは思っていないとだろう考えて、あえて「友達」だと答えたんでしょう。でも「恋人」って答えておけば良かったんだと思うんですよね。このタイミングで「俺は恋人同士だと思ってるよ」とか、図々しく言っちゃえば。でもそれをしなかったのは、志田の気遣いと誠実さ、そして臆病なところなんでしょう。志田は五十嵐が気持ちを受け入れられるようになるのを待つつもりでいるんですよ。自分から踏み込んでいってしまうと、五十嵐との関係が壊れてしまうから。

しかし五十嵐の方は違っていました。どんなに体を重ねても、志田にとっては「友達」のひと言で片付けられてしまうような不毛な関係なのだと、我慢できなくなってしまったんです。それって志田にちゃんと愛してほしいと思ってるからですよね? もっと志田に無遠慮に踏み込んでガッツリ捕まえて欲しいんですよね? だったら志田に「身体だけでなく心も欲しい」とわがまま言ってもいいのに、そこで素直になれずに逃げてしまうのが五十嵐らしいわけです。

ズルくて臆病で面倒くさくて可愛い大人たちだなーと思います。2人がそんなだから、すれ違って拗れて「散々セックスもしているというのに両片想いのまま」という状態が、再会してからずっと続いてしまったんですよね。

でも、少しずつ少しずつじっくりと前に進んでいくというのが、志田と五十嵐のペースだったんでしょう。高校2年生の時に出会ってから15年という本当に長い月日が経っても、それでも決して消えることのなかった想いを通わせ合った後の2人は、拗れていた分、こちらが照れてしまうほどに甘々。感情を押し隠しているつもりなのに、すぐに顔が赤くなって想いがダダ漏れな五十嵐。そんな五十嵐が可愛くて愛おしくて仕方ない志田。書き下ろしにも幸せそうな2人がいて、自分が読んできた作品の中でもお気に入りの作品となりました。

 

春・夏を経ての秋のスピンオフ

この『ゆらめく秋の恋心』は、『ひねくれ桜に恋が咲く』『ため息の春に恋の夏』に続くスピンオフ作品。前の2作を読んではいなかったのですが、大人の両片想い設定に惹かれて手にしたんです。

スピンオフって謎に面白いですよね。本編より面白く感じてむしろスピンオフの方が気に入ってしまうこと、私はけっこうあるんですが、この作品もまさにそんな感じ。前2作の内容を全く知らない状態で読み進めていましたが、『ゆらめく秋の恋心』自体がとても素敵な話で、独立した1つの作品としてしっかり楽しむことができました。

こちらを読み終えてから『ため息の春に恋の夏』を読んだのですが、こちらでは志田と五十嵐は、年上の大人としてそれぞれのアシスタントである夏CPを見守っている立場。夏CPの可愛い恋物語の裏で、実は志田と五十嵐の焦ったい恋が進行していたんだなーとさらに2人が好きになりました。こういうのはスピンオフならではの楽しみですね。

 

電子小冊子もあります

15年の両片想いを経てめでたく無事に恋人同士となった志田と五十嵐。書き下ろしでもイチャイチャと可愛い2人が見られましたが、さらに彼らのラブラブっぷりが読める小冊子も我慢できず買いました。

毎日会えるわけではないから、エロい五十嵐の動画が欲しい! という志田のお願いに五十嵐が根負けした形で、2人はハメ撮りをすることに。内容的に下品になりそうですが、そうはならないのは野花先生の絵柄のきれいさがあってのことだなと思います。