全12話を駆け抜け、最終回を迎えた『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』(以下『ジークアクス』)。
『ジークアクス』はマチュの物語であるとともに、シャリア・ブルの物語でもありました。この作品がこれほど面白くなったのは、主人公であるマチュと対をなすシャリア・ブルが魅力的な人物であったからだと言っても過言ではありません。
『ジークアクス』についてはとにかく語りたいことがたくさんで困ってしまうのですが、今回はメインキャラクターの1人であるシャリア・ブルについて感じたことを吐き出していきたいと思います。
ネタバレがありますので、未視聴の方はご注意してお読みください。
シャリア・ブルという男
『ジークアクス』の物語は、マチュ、ニャアン、シュウジ、エグザベ、コモリ、そしてシャリア・ブル(以下、シャリア)の6人がメインとなり動かしています。この6人の中で、一番年長で、軍人として戦争を経験し、シャアのマヴだったシャリア。パラレルである『ジークアクス』の世界にすんなりと入っていけたのは、いわゆる「正史」の世界との繋ぎ役としてシャリアがいてくれたからなんですよね。その意味でも、シャリアはこの作品のキーパーソンであると言えます。
大人の男を感じさせるもの
劇場版『ジークアクス』を観に行って、マチュたちの辿る少年少女のキラキラ眩しい青春ストーリーももちろん楽しみになりましたが、それ以上にシャリアの存在が気になって仕方なくなってしまったんですよね。主人公より気になるなんて、ものすごいキャラの引力ですよ。
緑の髪と髭
『ファースト』に寄せた絵柄のbeginningパートで、シャアに認められマヴを組むほどの有能さや理知的な印象をシャリアに感じましたが、『ジークアクス』のシンプルかつ可愛くデフォルメされた絵柄でもそれは変わらず。それどころか、若い頃から髭を生やし、もともと年長に見えていたシャリアですが、『ジークアクス』ではあご髭を生やしたことで、34歳という年齢よりも老成して見える落ち着きや滲み出る色気が加わっています。彼が関わりを持つのが高校生のマチュや新米MSパイロットのエグザベやコモリといった若い部下などの年下の人が多いこともあり、より一層「大人の男性」を感じさせます。
劇場版を観たみなさんがネタバレを避けるため、名前を伏せて「緑のおじさん」と呼んでいたことがすっかり定着しましたが、このシャリア・ブルの髪色、なかなか絶妙だと思うんですよね。『ファースト』で描かれた銀髪を思い起こさせつつ、シャアやマチュの赤と対になる色。グレーがかった落ち着いた色ではありますが、他に同じ髪色を持つキャラクターがいないため、いやでも彼に目が行ってしまいます。
加えて、物語の序盤ではシャリアはスーツ姿の印象が強かったですよね。このことで、シャリアがジオン軍の軍人でありつつもイレギュラーな存在であることが示唆されていたなと思います。
その声の魅力
アニメのキャラクターの印象を決めるものとして声はかなり大きな要素。シャリアの魅力を構成するものとして、キャラクターデザインだけでなく、その声の力がとても大きいと思っています。
シャリアのお声は川田紳司さん。私としては、『BANANA FISH』での伊部さんを演じられた時の優しい声の印象があります。しかし『ジークアクス』では、人としての温かさもありつつ、理知的でちょっと冷めた感じでもあります。このお声で次回予告でタイトルを読み上げるだけでメチャクチャかっこ良すぎて、もはや意味がわからなくて混乱しちゃうほど。この川田さんのお声が、シャリアの人生経験や人格の奥行きを感じさせ、彼の「大人の男性」としての魅力を増幅しているのは間違いありません。
また、シャリアは声を荒らげたりすることもなく、落ち着いた話し方をしてそれを崩しません。そこには物事を傍観しているような冷たい響きも感じます。そのことで、シャリアが胸に秘めている本当の思惑は何なのかと、より一層注視したくさせられてしまうのだろうと思っています。
シャリア・ブルをという人間を成すもの
シャアはシャリアを「友人」と呼んで全幅の信頼を置いており、シャリアもシャアに「惹かれた」ことを否定しません。彼らは戦闘時の相棒であるマヴとしてだけでなく、人間同士として深く心を通わせあっていたのだろうと察せられます。
あの時、あなたは
何を見たのですか、シャア大佐
かつてのマヴであり行方不明となってしまったシャアを5年も探し続けているシャリア。シャアのことを思い続けるその横顔は憂いを帯びて見え、SNSでは彼を「未亡人」と表現している投稿も目にしました。シャリアは、人に対して穏やかな口調で接して当たりが柔らかく、あまり感情の浮き沈みを示さないため、感情を抑え込んでいるようにも感じられます。そんなシャリアがをシャアを思い慕い続けているという印象を抱くのもすごく分かるし、実際そうなんだろうとも思います。
しかしシャリアは「ジオン軍最強のニュータイプ」と噂されるほどの男。シャアが行方不明となった後も、ただ失意に沈んだまま過ごしていたわけではなく、順当に昇進もしています。彼は、いつまでも過去の感傷に浸ることなどしていません。シャアを捜索している裏で、シャリアはギレンとキシリアの同時排除を密かに企んでいたんです。
木星帰りの英雄
シャリアの過去を見てみると、エリート軍人とはいえどかなり過酷な経験を経ています。
ヘリウム3の採掘のために結成された木星船団の隊長として任務に着いたシャリア。しかし予定量の採掘を終えて帰路に就こうとしたものの、強い宇宙線を浴び続ける厳しい環境に晒され続けていたために、制御システムが故障して帰還できなくなってしまうんです。
手を尽くしてもシステムは復旧せず、生存するための食糧や酸素も残り少なくなっていき、部下も次々と命を落としていきます。隊長として部下を守る責務を果たすため、シャリアはこの気が狂ってしまいそうな状態でも最後の1人になるまで生き続けていなければならなかったはず。死の順番を待つだけしかない極限状態です。シャリアの胸にあった、重要な任務を帯びた誇りも、軍人の矜持も、成り上がろうという野心も、こんな状況においては全てが意味のないもの。いよいよ自分の命を終わらせようと銃の引き金を引こうとしたその時、突如オートパイロット機能が復旧し、帰還したシャリアは木星帰りの英雄と称されることになります。
そんな経験を経て、変わらずにいられるわけがありませんよね。戦争で人類の半数が犠牲になるという惨状を眼にしても、何も感じられなくなっていることに気づいたシャリア。彼はそんな自分を「空っぽ」だと表現しています。木星船団での地獄のような過酷な状況の中で彼の心は砕かれ、「無」になってしまったんです。もはや生ける屍のような状態だというのに、ニュータイプとしての資質を見出され、政治的な思惑で駒とされるという皮肉。
そんな時にシャリアは、シャアと出会ったんです。
シャアとシャリア
シャアとシャリアが出会った時の年齢は、それぞれ20歳と28歳。若い時の年の差って大きいので、階級がシャアの方が上とはいえ、シャリアの眼には尊大で生意気で可愛い若者に映ったのではないでしょうか。そんなシャアに、シャリアはかつての自分の姿を重ねたかもしれません。まだ若く才に長け、自信に満ちて大きな野望を抱き、それを自分と分かち合おうとするシャア。可能性の塊ですよ。「空っぽ」だったシャリアがシャアに惹かれたのは必然だなと思います。
シャアは同じニュータイプ同士としてシャリアに通じ合うものを感じ、全幅の信頼を寄せて自らのマヴとし、友人として心を開いていきます。シャリアもシャアに共鳴し、より深く彼を知ろうと努めたはず。しかし、そうしてシャアに対する理解が深まっていくにつれ、シャリアはシャアの掲げる理想がいずれ人類の粛正という結論に達してしまうということを予感してしまったのではないでしょうか。
戦争終結後、ソドンを母艦する部隊を率いて、シャアを5年経っても探し続けているシャリア。そこには、自分にとって特別な存在であるシャアにもう一度会いたいというロマンチックな想いも確かにあるでしょう。しかしそれだけでなく、シャアの本質を正しく理解しているからこそ、彼が死んだと確信できない限りシャリアの中で恐れが消えないということが大きかっただろうと思うんです。
実際にシャアは、ゼクノヴァに巻き込まれて行方不明となった後、シロウズと名を変えて「イオマグヌッソ」の開発者の中に紛れていました。この「イオマグヌッソ」は、ゼクノヴァを引き起こす膨大なエネルギーを利用したサイコミュ搭載型の大型戦略兵器。その能力は、周囲の艦隊ごと宇宙要塞ア・バオア・クーを消滅させたのを見ても、どれだけ強大なものかわかります。シャアは一介の開発者にすぎないというのに、シャロンの薔薇をこの世界から消滅させるためにこのイオマグヌッソに「向こうの世界」と繋がれるようにしてしまっています。さらにシャアはキシリアを自らバズーカで抹殺、再会したシャリアに対してギレン総帥もキシリアも死んでザビ家が無くなったジオンの総帥となるつもりであると口にするのです。こんな人、物騒で仕方ないですよね。ということで、シャリアはシャアに不意打ちを食らわせ敵対し、死闘を繰り広げます。
ニュータイプがその優れた能力ゆえに人殺しの兵器として利用されていることを憂慮していたシャリア。ジオン公国を率いる人物が、ギレン(父を殺して総帥となり人類の半数の命を犠牲にした)でも、キシリア(スペースノイドのために地球の人々をイオマグヌッソで一掃するつもりでいる)でも、シャア(いずれ自身の思想から人類の粛清に走る)でも、自分が望む「ニュータイプがニュータイプらしく生きられる世界を作る」という希望は叶わないと判断したシャリアは、ザビ家亡き後のジオン公国の王位にアルテイシアを擁立する準備を着々と進めていました。何がなんでもシャアをジオンのトップには立たせないという決意が感じられますね。
なぜここまでするのか。シャリアはシャアのことは好きなんですよ。それゆえに、シャアの中にある危険性を見抜いてしまったことから目を逸らせなかったんです。ギレンやキシリア以上に過激な思想に到達し、シャアが人類の粛清という名の未曾有の大量虐殺を果たしてしまうのを、なんとしても止めたかったのだと思うんです。だから、かつてのマヴとして、友人として、理解者として、シャリアは自分の命をかけてでもシャアをここで討とうとしたんです。
シャアはシャリアから危険因子だと見做されて抹殺されそうになったことに、きっと失望したことでしょう。でも反論してないんですよ。シャアはニュータイプを「洞察に満ちた優しさを持つ者」であると語っています。これ、そのままシャリアのことですよね。シャアはシャリアを、自分の理想を共有し合える「本物のニュータイプ」だと思っていました。他でもないシャリアに、自分がジオンを導くという理想を完全否定されて命懸けで阻止されたのですから、自分が危険な存在であることを認めざるを得なかったんです。
貴様に殺されずに済む人生を
探してみるか
シャアのこのセリフを言い替えるなら、「シャリアに認められるような生き方をしていくよ」ってことですよね。信頼するマヴとして、大切な友人として、シャリアを安心させるために口にした言葉でしょう。でもその言葉の中には、シャリアに関心を持ち続けてもらいたいというシャアの甘えもあるように感じます。そしてシャリアもそれを受け止めたんですよね。
シャアの思想を許容できなかったシャリア。シャリアを認めて引き下がったシャア。しかしそこには、互いに対する深い理解と信頼があったんです。
エグザベとシャリア
シャアと比べるとすごく面白いなと感じるのが、エグザベとの関係性です。
エグザベはフラナガンスクールを卒業して間もない新米パイロット。戦争難民だった過去を持つ苦労人です。そのためか、優れたニュータイプであるにも関わらず、今の地位は才能ではなく運が良かっただけとかなり謙虚。というか、本当にそう思っている感じ。だから、ジークアクスのオメガ・サイコミュのロックを外せなかったことにエグザベが落ち込むような描写がないのでしょう。たぶん欲が無い人なんだろうと思います。自分の能力を驕らないし、変に尖った思想も持っていないし、すごく良い子なんですよね。エグザベに監視されていると察しながらも部下としてちゃんと気にかけてあげているところを見ると、シャリアはそんなエグザベの素直さや普通な感覚を持ち続けているところを気に入ってるんじゃないかと思ってます。
シャリアもエグザベもあまり感情の起伏が激しくなく、こちらが考える典型的な「ニュータイプ」とはちょっと違うなと思わせます。シャリアは、木星で地獄を見て心身ズタズタになった果てに「自由」を得たことで諦観に至ってのフラットさ。冷めた傍観者ので物事を見ている感じ。一方のエグザベのフラットさはどこから来るのかよくわからなかったんです。人の生き死にをあっさり受け入れ、周りがゴタゴタしてるのに動揺もしない様子に、普段彼が温和で素直なだけに違和感を感じ、戦争難民として過ごした日々が過酷すぎてエグザベは実は健全な精神状態じゃないのかも?と、心配したりもしていました。
エグザベは、かりそめとはいえ上司として自分を気遣ってくれていたシャリアによって部下のギャンをことごとく撃ち落とされ、シャリアと直接対峙して戦闘不能に陥らされ、キシリアが艦ごと討たれてしまうのを目にすることになってしまいます。怒りと憎しみで暴走するエグザベを、これからのニュータイプのために動いてきたはずのシャリアが自分の手で討つなんてことになったらどうしようかとハラハラさせられました。
だからこそ余計に、全ての罪を被って死のうとするシャリアに向かって放ったエグザベの言葉には衝撃を受けました。
あんたはニュータイプがニュータイプとして生きられる世界を作るんだろ! なら、ザビ家亡き後のジオンをなんとかしろ! あんたには責任がある!
眼に涙を浮かべてシャリアに感情をぶつけるエグザベ。
これまでエグザベは、わけもわからぬままに言われた任務をただ受け身でこなしているだけだったんでしょう。だからどこか他人事のようで実感が湧かなかった。しかし、シャリアが自らの命で全ての罪を贖おうとする言葉を聞いて、エグザベは自分も当事者であるとはっきり自覚したんですよ。だから声を張り上げ、涙を浮かべて、感情をむき出しにしたんです。
自分の役目は地固めをしてバトンを次の世代に引き渡しまでだとして、完全退場するつもりでいたシャリア。つまり死に場所を求めていたんですよね。エグザベはジオンを引っかき回しておいて逃げるなんて、そんな無責任なこと許せないって怒りを抱いたでしょう。それと同時に、シャリアを死なせたくないと心から強く思ったのだと思います。嘘のないエグザベの言葉は、シャリアの胸に深く刺さったはずです。
まだ生き続けなければなりませんか
こんな言い方をしていますが、シャリアはうれしかったに違いありません。この状況であっても闇落ちすることなく「生きろ」と真っ直ぐに全力で諭してくれたんですから、シャリアでなくても瞳にハイライトが灯るよなって思います。エグザベは死を求めていたシャリアの目を覚まさせたんです。
シャリア・ブルという男に思うこと
シャリア・ブルという男は、落ち着きもあるし漂う色気もあるし、ジオン最強のニュータイプと噂されるほど軍人として有能だし、淡々としているようでいながら実は裏で企みを着々と進行しているし、年下の子たちには非常に優しいし、なんだかハイスペックで完璧な人間のようにさえ感じます。
若いエネルギーの塊みたいなマチュの対照的な存在として、シャリアは「緑のおじさん」と呼ばれてしまうほどに酸いも甘いも噛み分けた大人として描かれています。でも、彼はまだ34歳なんですよ。34歳の人ってどんな人がいるかなーと芸能人などを思い浮かべると、実はシャリアはすごく若いなって実感すると思います。「おじさん」なんて呼ぶのは失礼なくらい、若いんですよ。
もともと物静かな人っぽいですが、年齢以上に老成したあの雰囲気となったのは、シャリアが自らに課した「ニュータイプがニュータイプらしく生きる世界を作る」という目標のために、個人としての時間を部分を不要なものと捨て置いてきたからなんじゃないかと思うんです。
無事にアルテイシアを擁立し、シャリアは不穏分子の監視などの役割を負っていくのではないかと思います。でもこれからは、1人で全てを抱え込もうとするのはやめて、もっとシャリア自身の楽しみや幸福にも時間を割いて欲しいんですよね。そしてシャリアが声を上げて大笑いしてくれるようになったら、私はとてもうれしいです。
