観て聴いて読んで書く

マンガ、アニメ、ゲームなど好きだと思ったものについて無節操に書き綴ります

BL『堕トシ合イ』について語りたい

もず九先生の商業BL『堕トシ合イ』という作品をご存知でしょうか。東国の妖魔退治師の青年が西洋の悪魔インキュバスに取り憑かれてしまう物語。今回はこの作品について語っていきたいと思います。

性描写がある作品なので、未成年の方はごめんなさい。大人の方だけこの先をお読みくださいね。

ネタバレが含まれるので、ネタバレダメという方は注意してお読みください。

 

異形の悪魔

妖魔が人を脅かす東国。同じ機関の仲間とともに妖魔退治師としての任務を遂行する日々を過ごしていた八尋(やひろ)はある時、任務の後に黒い大きな獣に襲われます。見たこともない角がありコウモリの羽を持つ異形の獣。八尋はその獣に犯され失神してしまいます。

自室で目を覚ました八尋。悪い夢だったのかと混乱する彼の前に、自分を犯した異形の獣が姿を現します。その獣の正体はインキュバスという悪魔。八尋は悪魔の存在を知らせようとしますが、仲間たちは彼がおかしくなったのかと怪訝な表情で立ち去ってしまいます。それもそのはず、人間に取り憑いた悪魔は、その憑き主以外の者には姿が見えなくなってしまうのです。

BL作品で悪魔が出てくる作品ってけっこうありますよね。この『堕トシ合イ』もその中のひとつで、主人公の青年八尋が淫魔とも呼ばれる悪魔のインキュバスに憑かれてしまう物語です。

聖水に怯えていなければならない西国を離れて東国に来たインキュバス。今まで悪魔がおらずその存在を知らない東国の人々は、当然悪魔に対する対抗手段も知りません。それはつまり、淫魔は取り憑いた人間を好きなだけ襲い生気を奪い取ることができるということ。

東国の妖魔と西国の悪魔は全く別物。妖魔を斬る任務にあたる妖魔退治師である八尋でしたが、妖魔を斬る退魔刀が悪魔であるインキュバスには通じず、取り憑かれて犯されてしまうことになってしまったのです。

 

インキュバスに憑かれて

インキュバスというのは女性の夢の中に現れて性交を行い妊娠させるという男性型の悪魔。対して男性の夢に現れて性交をし精液を奪う女性型の悪魔はサキュバスと呼ばれています。どちらも淫魔と呼ばれ、通常は相手にとって魅力的な姿で誘惑をしてくるんです。

しかし、八尋に取り憑いたインキュバスの姿は通常の人型ではなく、オオカミのような獣。鞭のような尾で八尋の身体を拘束して自由を奪い、覆いかぶさって無理矢理襲うその様子は、まさに獣姦。物語の最後まで人型どころか獣人にすらなったりしません。獣そのものに襲われるということで苦手な方もいらっしゃるかとは思いますが、私にはまさしく人ならざる者に犯されている感じがグッときちゃったんですよね。

とはいえこのインキュバス、恐ろしげな見た目とは裏腹になかなか愛嬌があるんですよ。インキュバスとの性交で生気を奪われ、フラフラになりながらも妖魔退治の任務をこなす八尋。そんな彼の様子を見かねたインキュバスは、妖魔退治に手を貸したり、生気を奪って殺してしまわぬよう八尋を襲うのを少し我慢したり、毛がごわついていて嫌だと言われたことを気にしたり、なんてことをするんです。

八尋との会話にはなんだか悪友のようなくだけた雰囲気も感じられるようになっていき、インキュバスはただの獲物でしかなかったはずの八尋に対して愛着を抱くようになります。そしてインキュバスを退治するつもりでいたはずの八尋の方でも、次第に情が移ってインキュバスと共にいられたらと思うようになっていくのです。

 

悪魔との共存

悪魔に憑かれたのは、実は八尋だけではありませんでした。一時サキュバスに憑かれた経験を持つ八尋の同僚の茨木は、八尋が悪魔に憑かれているのではと上司の七条中佐に報告をします。

この七条、悪魔と共存する道もあるのではという思想を持つ人物。八尋は友好的とはいかずとも共存は可能だと語る彼の言葉に、淡い期待を抱くようになります。

しかし七条は聖水で従わせたサキュバスに八尋からインキュバスを引き剥がさせると、聖水で濡らした退魔刀で斬りつけます。七条の考える「共存」とは、悪魔を力でねじ伏せ従わせるというもの。八尋の考えていた「共存」の在り方とは違うものだったのです。

機関上部は西国から聖水を輸入して悪魔退治に力を入れようと動き始めています。八尋はインキュバスを退治するのではなく飼い馴らし共存する道を探って動いていくことになります。

なかなか面白いのが、悪魔を退治するために使われる聖水がインキュバスとの共存のための「鍵」となることなんです。退魔師たちに支給されることになるのですが、同じ道具でも使い方は工夫次第ということなんでしょう。

で、忘れてはならないのがこの作品の『堕とし合い』というタイトル。物語の終盤で心がしっかり通い合い、インキュバスと共に過ごせるようになった八尋。彼の手には聖水が。そこでこのタイトルが生きてくるんですよ。いいですね、こういう終わり方けっこう好きです。

 

前回は告白のセリフが印象的なBL作品3作について語っています。興味を持って頂けた方は、こちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com