観て聴いて読んで書く

マンガ、アニメ、ゲームなど好きだと思ったものについて無節操に書き綴ります

初心者さんにおすすめ ピュアなBL作品について語りたい

f:id:isanamaru:20220326134001p:plain

興味はあるけど手に取りにくいなぁという方や大胆な性描写はちょっと苦手だなと思って手が伸びないでいる方もいらっしゃるかと思います。でも、安心してください! 全てのBL作品=エロではないんです! ここはぜひとも強調しておきたい!

どんなジャンルでもエロを純粋に楽しむものもあれば、心情描写に重きを置いた作品やほのぼのと心温まる作品もありますよね。それはBLだって同じことです。ということで、今回は初心者さんにも、物語として安心して楽しく読んでいただけるBL作品をピックアップして語りたいと思います。

 

少しずつ一歩ずつ恋へと

まず語っていきたいのがみか先生『君には届かない』。5巻まで出ており、現在も進行形の作品です。Twitterでペン入れをしていない状態で書かれたマンガが回ってきたのを読んだのがこの作品との最初の出会いでした。それがこのような長編になって今も続いているということが感慨深いですし、それだけ魅力のある作品なのだなと感じます。

 

容姿もよく優等生、無口で無愛想なところもあるけれど女子からはモテて告白されることも多いヤマト。成績は中の下で補講を受けるのは当たり前、けれど朗らかで真っ直ぐな性格のカケル。彼らは小学校の頃からの幼馴染み。高校生となった今でも、感情を表に出すのが苦手なヤマトにとって、カケルは誰よりも自分を理解してくれる存在です。

そんなカケルがふとしたきっかけで「もしかするとヤマトは自分のことが好きなのかもしれない」とヤマトの想いに気づくところからこの物語は始まります。

最初のうちはずいぶん自意識過剰な勘違いをしてしまったとヤマトに対して申し訳なく思っていたカケルが、徐々にそれが自分の勘違いなどではないのだと確信をしていく様子がじっくり描かれていきます。

仲の良い幼馴染でしかも男同士だし自分と違ってハイスペックだし、そんな相手に自分が好かれる理由なんてあるわけがないと主人公が悩むという展開は、王道ですよね。あまりにも距離が近すぎるからこそ今の関係が壊れるのを恐れて先に踏み出せないというモダモダ感は、どの作品で展開されても美味しく味わえます。

しかしこの『君には届かない』ではそれに加えて、ヤマトが自分の感情を外に出すことが苦手な子なんですよ。なのに時々気持ちの抑えが効かなくなり、カケルを抱き締めるなど大胆な行動に出たりもしちゃうんです。これがミソなんですよね。長い付き合いがあってヤマトの一番の理解者だといっても、彼のすべてを読み取れるわけではありません。カケルは無表情なヤマトの言動を深読みしては振り回されることになってしまうんです。思いを寄せられている側だというのに、ドキドキしたり焦ったり怒ったり落ち込んだり。そんなカケルの様子が本当に可愛いんですよ。

ヤマトとカケルの仲は確かめるようにゆっくりと進展していきます。互いの気持ちに誠実に向き合う2人を誰もが応援したくなってしまうはずです。

 

可愛すぎる異国譚

ふじとび先生の作品はお読みになったことありますか? ふじとび先生の作品はみんなとにかく可愛いものばかり。何が可愛いって「すべて」です。絵柄も可愛ければ色合いも可愛ければ話も可愛いんですよ。私がふじとび先生の作品に初めて会ったのは『あわいろ絵巻』でした。

 

どのジャンルであろうと、暗く重たく読んでいて苦しくなるような物語ってあるじゃないですか。そういうのも当然大好きなんではありますが、元気な時じゃないと読めないというか、エネルギー量が多い作品ほどそちらにメンタルが持っていかれてしまってどっと疲れたり、気持ちが引きずられてどんよりしたりってしちゃいますよね。

ふじとび先生の作品は軽やかで優しく可愛らしく、読んでいてホッとひと息つけて癒やされる感じなんです。心理描写をゴリゴリと深掘りする作品が読みたい方には少し物足りなく感じるかもしれませんが、登場人物が作中で悩んだり落ち込んだりピンチな状況に陥っていたりして切なくなったりハラハラしながらも、なんだか読んでいてほっこりしてしまうというこの作風、とにかくふじとび先生の個性としか言いようがないです。

この『あわいろ絵巻』で描かれているのは、中華風な世界。幼い頃に妖怪から助けてくれた出雲(いずも)に再会した龍汰(りゅうた)。人食い妖怪を祓う際に負傷してしまった出雲を助けようと、龍汰は共に旅に出ます。

あまり表情に変化が無く冷静な出雲。彼はいつも淡々としていて、誰に対してもそっけない態度で接します。それは龍汰に対しても同じ。誰の助けも要らないと今まで1人で妖怪を祓う旅をしてきた出雲は、自分の気持ちを表に出すのが少し苦手なのでしょう。彼はあまり笑うこともなく、素直で表情豊かな龍汰とはかなり対照的。そんな出雲がふと漏らす本音、ふと見せる素の表情がいいんですよ。

旅を続ける中、龍汰に起こるある異変。そのことで出雲は祓い師として大きな決断をすることになります。その決断の潔さ、グッときます。なかなか表情や態度にはあまり出さないでいるけれど、出雲はちゃんと龍汰を大切に思っているんだということが強く感じられる良い場面です。

また出雲と龍汰にくっついて一緒に旅する小さな狐の妖怪の山吹がまた可愛いくて、この作品に漂うほのぼのさを増幅させているんですよね。

この『あわいろ絵巻』のスピンオフ作品『まほろば絵伝』では、この作品に出てくる出雲の昔馴染みの一徹が主人公に。彼のおおらかすぎる破戒僧っぷりに振り回される真面目な大和が少しずつ絆されていく様子がなかなかに可愛くて、こちらもほんわかした物語になっています。

ふじとび先生は今でも『あわいろ絵巻』『まほろば絵伝』のイラストを描き続けてくださっています。Twitterでふじとび先生の絵をお見かけするたびに癒されています。

 

共に過去を乗り越えて

一度このブログで取り上げていますが、あまりにも良い作品なので再度語らせてもらいたいと思います。PEYO先生『ボーイミーツマリア』。読んだことがないのであれば、ぜひとも読んでもらいたい!

この『ボーイミーツマリア』は対照的な2人の高校生が演劇を介してお互いに深く理解し合う物語。

入学した高校の演劇部に入り日本一ビッグな俳優を目指すと豪語する広沢大河(ひろさわ  たいが)。周りから呆れられても、彼は全く気にも留めません。

そんな大河は、演劇部の催しで美しく踊る「マリア」に一目惚れ。友人のテツと福丸が止めるのも聞かず、大河は校門前に咲いていた花を手にアタックしますが、見事に拒絶されてしまいます。それもそのはず、「マリア」の本名は有馬優(ありま ゆう)。れっきとした男子生徒だったのです。

それでも大河は諦めの悪いことに懲りずにアタックを試みます。女だろうと男だろうと優に対する気持ちは変わらない、もっと優のことを知りたい、などなど言葉を並べ立てる大河。彼は本当に思うまま深く考えずにペラペラ喋ってしまうんですよね。そのせいで言葉の軽薄さは否めず、全く優の心に響かないという残念さ。しかし大河は真っ直ぐな気持ちの持ち主です。

 

もっと説得力のある言葉で僕を少しぐらい感動させてみろ、お前

 

そんな優の言葉を真摯に受け止め、自分なりに真面目に演技に向き合う大河。そのことが伝わり、放課後に大河は優に演技の練習をつけてもらえるようになり、2人は少しずつ打ち解けていきます。

大河の前では迫力のある男役の手本を演じて見せているのに、他の部員の前ではそのことを隠している優。彼は壮絶な過去と今なお続く激しい葛藤のため、男である自覚がありながら男であることに不安を感じるようになってしまっていました。そんな優にとって「男」を演じることは恐怖そのもの。それでも優は人知れず「男」を演じることに向き合い続けていました。そのことを知り、大きな衝撃を受ける大河。しかし大河にも深く傷ついた過去があったのです。

それぞれに自分の過去に向き合い、それを乗り越え変わっていこうと必死にもがいている大河と優の姿は胸に迫ります。最初のうちは大河は優の美しい見た目で好きになり、優はただ調子がいいばかりの大河の言動に呆れていますが、物語の終盤で大河と優は表面的なものなど取っ払い、それぞれ互いの心の深いところまで曝け出して固く結びつきます。BLとして描かれていますが、その内容はBLの枠を超えているなと感じます。

作者のPEYO先生は夭逝されていて、もう新しい物語を読むことはできません。私は読み返すたびに、この『ボーイミーツマリア』という作品を生み出してくださったPEYO先生への感謝の気持ちとこの作品への愛おしさが増していくのを感じます。

isanamaru.hatenablog.com

 

告白の台詞が印象的ななBLについてもまとめ語りをしています。興味を持ってくださった方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com