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『彼方のアストラ』について語りたい!③

「マンガ大賞2019」を受賞し、アニメも素晴らしかった『彼方のアストラ』

今回は、この作品が私たちに伝えるもの、テーマについて語りたいと思います。

彼方のアストラ 1 (ジャンプコミックス)

彼方のアストラ 1 (ジャンプコミックス)

  • 作者:篠原 健太
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2016/07/04
  • メディア: コミック
第1話 前半 PLANET CAMP

第1話 前半 PLANET CAMP

  • メディア: Prime Video

 

明らかになっていく謎

カナタたちの目指す故郷、惑星アストラ。しかしその星はあまりに地球に似ており、別の星であるにも関わらず話す言語は地球人であるポリ姉と同じ英語。このあまりにも不可解な状況に、B5班のメンバーとポリ姉は、情報のすり合わせを行います。

カナタたちの住む惑星アストラには国という領土形態も宗教も無く、過去は振り返るなと意図的に歴史をほとんど教えていないこと、そして第三次世界大戦が起きていたとされていることが明らかになります。

一方、ポリ姉の住んでいた地球では、第三次世界大戦は回避されていました。しかし、その後巨大隕石が衝突するという予測から、別の惑星への移住の計画がされます。ポリ姉は隕石が落ちる前に、地球の生命の移住先の惑星を探すという悲壮な使命を帯びて宇宙に出ていたのです。

惑星イクリスで彼女がスリープに入っている間に、人工ワームホールを使って惑星間移住は終わってしまっていました。その移住先が惑星アストラ。カナタたちはアストラへ移住した地球人だったのです。

カナタたちを襲った謎の球体は人工ワームホールであり、彼らが飛ばされた5012光年先にあった氷の星は、地球だったという事実も分かります。

この作品の始めから私たちが気づかぬように張り巡らされていたいくつもの伏線が、終盤に向かってパズルのピースがはまっていくように回収されていく気持ち良さ!この快感は『彼方のアストラ』の物語に触れた方は、皆さん感じるところでしょう。

あれもこれも伏線だったのかと、考え尽くされたストーリー構成を確認したくて、私は最初から見直してしまうほどに感服させられました。

 

命の価値

なぜ地球から惑星アストラへの移住という、この歴史的な事実をカナタたちは全く知らなかったのか。
まだ謎も矛盾も残ったまま、カナタたちは最後の惑星ガレムに降り立ちます。

そこでまたもカナタを襲う謎の球体。危うく難を逃れたカナタは、最後の中継地点であるこの惑星で、刺客がB5班のメンバー全員を殺して自分ひとり惑星アストラに戻ろうとしていると読み、刺客との対決を決意します。

カナタはシャルスとザックにのみ、刺客と対決する作戦を話します。ターゲットは、なんとウルガー。その作戦は、食糧採取の振りをしてシャルスがウルガーとともに行動、カナタとザックが隙を見てウルガーを捕らえるというものでした。

ウルガーが刺客だという事実に驚きながらも、シャルスとザックは作戦を実行します。

刺客は他の者の目がない状況になった時、メンバーを処分するため、謎の球体である人工ワームホールを出すはず。

洞窟の中でウルガーとシャルスの二人きりとなった瞬間、カナタの読み通りに謎の球体が現れました。しかし、カナタが捕らえたのはウルガーではありませんでした。

真のターゲット、刺客の正体はシャルス。
カナタの本当の計画は、シャルスを欺くことだったのです。

なぜシャルスが刺客としてB5班のメンバーを殺処分しなければならないのか。共に今まで幾多の困難を乗り越えきたアストラ号の仲間たちに向かって、彼は語り始めます。そこには彼の壮絶な過去がありました。

他のメンバーとは違い、シャルスは自分がクローンであることを知っていました。しかも彼はヴィクシア王政地区の王のクローンであり、大人になった時に王に体を明け渡す使命を聞かされて育ってきました。

自分の命は、王のためにのみある。それがシャルスの中で当然のこととして認識されていました。ゲノム管理法が定められ、クローンを作ることが重罪とされるようになった瞬間、彼の使命は王のために体を差し出すことから、自分もろともクローンたちを全員殺処分することへと変わります。ようやく自分の命の使い道ができたことに、シャルスは喜びさえ感じたのです。

しかしシャルスはB5班のメンバーの中に王の娘、セイラのクローンであるアリエスを見つけます。セイラは唯一自分に人として接してくれた人物。アリエスをセイラのクローンであると確信したその時から、彼はアリエスを王の元へ連れ帰ることを決意します。そのためカナタたちB5班のメンバーと力を合わせていたのです。

しかしB5班のメンバー全員に知られ、その目的をも果たせなくなってしまったシャルスは、自分ひとり人工ワームホールに飲み込まれて宇宙の果てで死のうとします。それを止めに入ったカナタ。シャルスは体を張って守ろうとするカナタが共に飲み込まれるのを防ぐため、人工ワームホールを消します。

旅の始め、シャルスは全員を殺処分するという使命を果たそうと、虎視眈々と機会をうかがっていたかもしれません。しかし共に苦難を乗り越えてきたB5班のメンバーに心を通わせていたのは、シャルスも同じです。死ぬことが目的なら、カナタを巻き添えにもできました。でも彼はカナタまで巻き込むことはできなかったのです。その行動は、彼がカナタを大事な仲間だと思っているからこそのものです。そこにシャルスの本心が現れています。

人工ワームホールに右腕が飲まれ、右腕を失ってしまったカナタ。しかし、シャルスの心を理解しているカナタとB5班メンバーは、彼の生まれた環境も犯した罪も全て受け入れ許しました。対峙すべきものは、シャルス個人ではないと彼らの誰もが考えた、その絆の強さと正しく物事を捉える判断力は素晴らしいものです。

そんな彼らB5班のメンバーに、シャルスは自分の知っている本当の歴史を語ります。その歴史は意図的に封印され、無かったことにされていた事実でした。

 

『彼方のアストラ』のテーマ

自分たちは親と思っていた人間のクローンだった。
自分たちの知っていたのは捏造された歴史だった。

自分たちを取り巻く全てが偽りのものだと知るカナタたち。しかし、彼らはそれら全てを飲み込み、惑星アストラに住む一人の人間として自分自身の人生を力強く歩んでいきます。

『彼方のアストラ』という作品は、カナタたちB5班のメンバーがいかにして苦難を乗り越え故郷の星アストラへと帰り着くまでを描いただけの作品ではないのだと私は思います。

無事に帰還してからの彼らの姿を描いたエピローグの長さを見れば、そう感じてもらえるのではないでしょうか。

7年後に宣言通り若くして自分の宇宙船を手に入れたカナタをはじめ、すっかり大人になった彼らの変わらない明るさや逞しさに、私たちは大いに励まされるのです。

誰と、どのように過ごし、何を見て、何を感じ、どう行動していくのか。

それが人生を決める最大の要素です。カナタたちほどの凄まじい経験はなくても、誰もがそれぞれに過去を持っています。胸を張れる過去ばかりではないかもしれません。

それでも自分は変わっていけるのだと、自分の人生を歩んでいいのだと、篠原健太先生はこの『彼方のアストラ』という作品を通じて、私たちにまっすぐに明るいメッセージを送ってくれているのです。だからこそ『彼方のアストラ』は、多くの人の心に深く残る名作となっているのだと思います。

次回は『彼方のアストラ』の主要なキャラクターの中から、シャルスについて語りたいと思います。

 

『彼方のアストラ』のタイトルについて書いた前回の記事に興味を持っていただけた方は、こちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com