観て聴いて読んで書く

マンガ、アニメ、ゲームなど好きだと思ったものについて無節操に書き綴ります

映画『アイの歌声を聴かせて』について語りたい

皆さんは吉浦康裕監督のオリジナルアニメ映画『アイの歌声を聴かせて』をご覧になりましたか? 少女の姿をしたAIのシオンとその開発者の娘サトミの二人を軸に繰り広げられる、高校生の少年少女たちの爽やかで瑞々しい物語であるこの作品について、今回は語りたいと思います。

シオンとサトミ本

あまりに可愛かったシオンとサトミ

 

 

この作品に呼ばれました

映画『アイの歌声を聴かせて』は、『イブの時間』『さかさまのパテマ』吉浦康裕監督が原作・脚本も手がけたオリジナルアニメ映画。以前に、この作品と同様に人間とアンドロイドの関係を描いた『イブの時間』を観て、ゆったりと優しい気持ちになる良い作品だなぁと感じていましたし、それから時を経てロボット技術も進化した今、改めて描かれる人間とアンドロイドの関係はどのように変化をしているのかということにも興味がありました。しかも大好きな『海辺のエトランゼ』紀伊カンナ先生原案によるキャラクターたちが本当に可愛らしく、ずっと気になっていました。

でもまだ新型コロナが怖いし、家族の目もあるし、主要なキャラクターの声が本業の声優さんではないし、アマプラとかネットフリックスなどが配信するまで待ってもいいかなあと、半ば観に行くのを止めようかと思っていたんです。

そんな所に、共同脚本に大河内一楼さん、劇伴には高橋諒さんと、夢中になって観ていた『エスケー∞』に関わっていらした方達のお名前がある事に気づいてしまったんですよ。もうここまで揃えば自分にとって面白くないわけがないと確信。作品が私を呼んでいると、なんとか予定をやりくりし、上映館を検索して席を予約、会社にお休みを申請しました。

一体の少女型のAIと5人の高校生たちのとても爽やかな物語を観終えた後は、とても明るい気持ちに。『キラキラ☆プリキュアアラモード』でキュアカスタード役を務められていたサトミ役の福原遥さんの声の演技が抜群に良かったのはもちろんなんですが、個人的に不安に思っていたシオン役の土屋太鳳さんの演技と美しい歌声がとても素晴らしくてびっくり。家族に内緒でこっそりひとりで会社サボって観に行ってきたわけですが、その価値はあったなぁ〜と満足でした。

ainouta.jp

 

少女はAI

『アイの歌声を聴かせて』サトミの通う高校に可愛らしい少女の姿をした一体のAIロボットシオンが転校してくるしたところから始まります。クラスに転校生として現れたシオンの姿を見て驚き固まってしまうサトミ。なぜならシオンを開発したプロジェクトのリーダーは実はサトミの母親。このクラスの中でサトミだけがシオンの正体を知っているのです。

そんなサトミの姿を見つけると、まるで昔からの友達に再会したように駆け寄り、彼女に笑顔で幸せかと尋ねて、唐突に歌い出すシオン。

周りの生徒たちから天真爛漫な子だとシオンは受け入れられますが、彼女が母親が人生を賭けてきたプロジェクトの実験でこの学校に来たAIであることを知っているサトミは、気が気ではありません。しかし、そんなことは構わず、シオンはサトミを幸せにしようとあれこれと予想外の行動を取り、彼女を振り回します

しかし、正体がバレないようにとサトミが孤軍奮闘するも虚しく、サトミの幼なじみのトウマ(声:工藤阿須加)たちの前でシオンが緊急停止してしまい、彼らにAIであることがバレてしまいます。

シオンがAIだと知ってしまったトウマゴッちゃん(声:興津和幸)アヤ(声:小松未可子)サンダー(声:日野聡)の5人。学校で少し浮いた存在だったサトミと彼らは、シオンの正体がバレないよう協力し合ううち、徐々に心を通わせていくようになっていきます。その様子が本当に可愛らしいんですよ。すっかり大人になってしまっている自分には、高校生たちの群像劇は眩しすぎてニヤニヤモゾモゾしながら観ていました。

でもこの作品、AIであるシオンとサトミをはじめとする高校生たちとの心温まる物語というだけでは終わりません。サトミたちと交流が深まったことがきっかけで、シオンの言動が開発者側の意図から逸脱したものと見なされてしまうんです。

物語前半で繰り広げられるシオンとサトミを軸とした明るくさわやかな物語が、終盤に向かって人間とAIという全く違うもの同士の共存の在り方はどうあるべきなんだろうかと考えさせられる展開になっていくんです。

 


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シオンはなぜ歌うのか

『アイの歌声を聴かせて』というこの作品のタイトルが表すように、シオンの歌が物語の大きな鍵を握っています。

シオンが突然歌い出すというのもその鍵の一部。ミュージカルじゃないと日常生活でいきなり歌い出す人ってあり得ないですよね。他人の目など気にせず朗々と歌い上げるシオンの姿は、彼女が人間ではないということを象徴的に表現しています

最初こそ突然歌い出したり突飛な行動を取るシオンに違和感を感じていたサトミたちは、ヒトのように会話し行動するシオンに対して、AIとしてではなく一人の少女として友だちとして接するようになります。物語の進行に従い挿入されるミュージカルシーンでのシオンの歌に心動かされるようになっていくことによって、観客はシオンを受け入れていくサトミたちの気持ちの変化を追体験することになります。

私がシオンの歌で特に気に入っているのは「Read your  partner」という曲。その歌と場面とのギャップがとても楽しいんです。どんな場面でこの曲が歌われているのかを、ぜひとも作品を観て確かめて欲しいなと思います。

Lead Your Partner

Lead Your Partner

  • 土屋太鳳
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

シオンの感動的な歌声。しかし命令がなければ動けないと彼女自身が明言しているように、AIであるシオンが歌うのも、当然ある「命令」に基づいた行動なのです。シオンはなぜ歌うのか。彼女が従っている「命令」は誰が出した、どんな内容のものなのか。それがが明らかになった時、どれほどシオンがその命令を忠実に守り続けてきたのかと、彼女に健気さを感じずにはいられなくなってしまうんです。

 


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人はそこに心を見る

人間は犬や猫、鳥、爬虫類や魚などペットを飼います。人間と動物などとでは思考が同じとは限りませんし、理解しあえているのか確かめようがありません。しかし、人間は飼っているペットが感じていることを理解しようと努め、我が子のように深い愛情を注ぎます。

生物だけではありません。AIBOやLOVOTのようなペットロボットを所有している方もいらっしゃいますし、おしゃべりをする人形やぬいぐるみなどのコミュニケーションロボットなどもありますよね。それらと心を通わせてられているとは思えませんが、自分に反応を示してくれると、それらに感情があるように感じて愛着が湧いてきますよね。それに生き物や物を擬人化した絵本やアニメなどの作品もたくさんあります。

それどころか、人間には点が3つあると顔のように見えてしまうというシミュラクラ現象という脳の働きがあります。3極タイプのコンセントなど、ただ逆三角形に配置された点や線などに表情があるように見えてしまい、なんとなく可愛いなぁなんて思ったりしたことが誰しもあると思います。

何となく顔に見えます

少し驚いているような顔に見えたり

人間は動物や物の中にも感情がある、心があると思いたがるものなのかもしれません。この『アイの歌声を聴かせて』に登場するシオンは外見こそ可愛らしい女子高校生ですが、実体はただのプログラム言語による記述です。でもそのプログラムに従って行動し、会話を交わし、しかも歌を歌うということ自体に、私たちはAIであるシオンの中に宿るはずのない意思や感情を見出すのです。

吉浦監督はAIのシオンに人間と同じようにあることを強要しません。人間とAIの繋がり方の形はきっと1つではないのでしょう。人は実体のない文字列であるAIのプログラムの中にも心を感じるようになるのかもしれません。

 

映画『閃光のハサウェイ』についても語っています。興味を持って頂けた方は、こちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com