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BL『あかりと彼はなやましい』について語りたい②

皆さんは鶴亀まよ先生の商業BL『あかりと彼はなやましい』という作品をご存知ですか? ということで、今回は引き続きこの作品の2巻について語りたいと思います。

1巻では自分の望むことは叶わないものだと諦観していた高校生のあかりが10歳歳上の会社員の瑞貴と出会い、自分の意思で恋に踏み出すまでを描かれていました。続編である2巻では2人のその後が描かれているわけですが、関係が進んだために起こる心境の変化、特に瑞貴の内面の揺らぎが、同じく10歳ほど歳下の相方がいる身として非常にシンパシーを感じるというか身につまされるというか、他人事とはちょっと思えない感じで読んでいました。

性描写がある作品なので、未成年の方はごめんなさい。大人の方だけこの先をお読みくださいね。

ネタバレが含まれるので、ネタバレダメという方は注意してお読みください。

 

「あかり」と「彼」の変化

瑞貴という落ち着いた歳上の恋人ができて、自分の居場所を得たあかり。まだ彼は高校2年生ですが早めに受験対策を始め、予備校の冬期講習に通うことにしたと瑞貴に報告します。

あかりの行きたい学科にはデッサンの試験があるけれど「そっち方面はよくわかっていない」と言っています。成績が良いという描写はありますが絵についてはこれといった言及が今までないことや、瑞貴が不動産の会社に勤めていることなどから考えると、あかりは最初から美術やデザインといった方面に進みたかったのではなく、瑞貴と出会ってから建築に興味を抱くようになったのかもしれませんね。

あかりの通うことになった予備校は瑞貴の家からは遠く、冬季講習中は瑞貴と会えません。またさらに春からはあかりが3年生となり本格的に受験態勢に入るため、今までのように2人で自由にはなかなか会えなくなってしまいます。「受験なんだから仕方がない」となだめる瑞貴に対して、「寂しい」と言うあかり。素直な気持ちを口に出せるようになったというのは、あかりにとってそれだけ瑞貴が安心できる相手だということですよ。

付き合って初めてのクリスマスは冬期講習とガッツリ重なってしまっていましたが、ただクリスマスプレゼントのマフラーを渡すためだけに瑞貴がわざわざ来てくれ、絶対に推薦で大学に合格しようと決意を新たにするあかり。

今まではあかりにとって家と学校と瑞貴が世界のすべてでしたが、予備校という新たな世界が加わり、当然そこでの出会いも生まれます。通い始めた予備校であかりが出会ったのは、自分と同じ中学出身の正月寿生(まさつきすみお)。あかりの方では面識はまったく無く警戒心剥き出しだというのに、寿生は自分も同じゲイだと告白し「せっかくだし仲良くしようよ」などといきなり図々しいほどの人懐こさを見せます。最初のうちはやけに距離を詰めてくる寿生に対して拒否反応を示していましたが、瑞貴からのプレゼントのお返しを一緒に選んでもらったことをきっかけに、次第に寿生と話すようになり打ち解け親しくなっていくあかり。

相手によって話せる話題って変わってきますよね。高校の友達はみんないい子達なんですが、あかりは思うこと全部を話せていたわけではありませんでした。同じゲイであかりの同性の歳上の恋人の存在も知っており物おじしない寿生が、あかりが高校の友達には話すことが出来なかった瑞貴との関係を話すことができる唯一の相手となります。人間、話を聞いてもらえるだけで気持ちが落ち着きますしね。瑞貴について思うことを吐き出す相手ができて、あかりも気が楽になったのではないでしょうか。

それは恋愛以外のことについても同じです。通うことにした美術系の予備校で、あかりは自分の興味のあることについて仲間たちと存分に語れる楽しさを知ります。自分が心地よくいられる場所がこの先少しずつ増えていくのではないかという予感に、うれしそうな表情をするあかり。

しかし瑞貴の胸の中では、そんなあかりの変化に素直に喜べない、モヤモヤとした感情が生まれてしまうんです。

 

歳の差があるということ

10歳の差って大きいですよね。自分が中学生の時に、相手はまだ3歳とかだったりするんですから。

27歳の社会人である瑞貴から見れば、高校生だとはいってもあかりはかなり幼く見えていたはずです。瑞貴は恋人としてだけでなく、年上の大人の先輩としても、あかりに接していただろうと思います。私自身社会人になってから高校生だった相方と出会って今に至っている身なのですが、相方が未成年の間は自分が大人として見守ってあげなくてはという変な責任感を抱いていました。若者をたぶらかすダメな大人みたいには自分はなりたくないと思っていましたし。ちょっとした保護者気分ですよ。瑞貴もきっと似たような心境だったんじゃないかと思うんです。

だって高校生の時の自分って、思い出してみればみるほど本当にただのガキじゃないですか。楽しかったけれど、しょうもないことをしていたなという自覚はありますよ。瑞貴は元カノにムカつくと言われてしまうほどに普段から理知的で非常に落ち着いた人ですので、おバカな高校生ではなかったのかもしれません。でも、その頃は瑞貴だって将来の自分について無謀なくらいの大きな夢を抱いたりして、やけにキラキラしていたはず。瑞貴には今、あかりがその頃の自分と重なって見えているわけです。

家にも学校にも居場所が無かった不憫なあかりに対して、ずっと歳上である瑞貴の胸の内には、自分が守ってあげよう、自分が居場所になってあげよう、そんな慈しむような感情があったはずです。だからこそ瑞貴はあかりの手を取ったのです。でもあかりは自分で目標を掲げて歩き出していたんですよね。

あかりはまだ子どもの自分に対して不甲斐なさを感じている子です。たくさん瑞貴から与えてもらっているものを返せていないと理解していて、自分の力でちゃんと大人になって、瑞貴と対等になろうと頑張っているわけです。瑞貴が思うほどあかりは弱くも幼くもないんです。

そのことに気づいた瑞貴は、戸惑いを感じ始めてしまいます。忙しなく働く毎日で、瑞貴にはあかりが癒しの存在になっています。しかし、あかりの向こう側に予備校で新しく出会った寿生の存在を感じてしまう瑞貴。

別に瑞貴はあかりの浮気を疑っているのではありません。仕事に追われているばかりの自分と、将来に向かって進んでいるあかりとの間にある、それぞれの人生におけるフェーズの違いを思い知ってしまったんです。

大学受験って人生においても大きな転換点です。大学に入れば自分と同じようなことに興味を持ち学ぼうとする人たちが集まっていますし、全く違う地域から進学してきた人もいれば、講義やサークルで違う学年違う学部の学生とも交流が生まれます。バイトを始めれば、そこで働く仲間もできます。瑞貴は自分も経験してきたことだからこそ、この先あかりの世界が一気に広がっていき、様々な人たちとの出会いが待っていることを知っています。窮屈な世界から救い出してあげたいとあかりの手を取った瑞貴。あかりが新しい世界へ彼が踏み出していこうとしている、そのことを瑞貴自身も望んでいましたし、喜ぶべきことでもあります。でもあかりが広い世界を得た時、自分の存在に価値があるのか、瑞貴は不安になってしまったんですよね。

瑞貴はすでに社会人として何年も働いていて、この先自分に劇的な変化もなく同じような日々が続くであろうと身を持って感じています。10歳も歳上のただの会社員。そんな自分よりもあかりにふさわしい相手との出会いがあるかもしれない、そんな瑞貴の心の揺らぎですよ。でもそんなことをあかりに言える訳がありません。繁忙期の忙しさもあって、瑞貴とあかりの会話はいつの間にかケンカになってしまいます。

あかりのことを大切に思うからこそ、瑞貴は彼のこれから待つ未来の妨げになるようなことはしたくないんです。もはや、子離れしなきゃいけないと思い詰める親みたいな心境ですよ。でも瑞貴はあかりの保護者じゃないんです。親ならば心配でも別れがたくても子どもの背中を押して離れるべきだろうと思いますが、瑞貴はあかりの親ではなく恋人なんですよ。

瑞貴は自宅を訪ねてきた、あかりと出会うこととなったゲイバーのママでもあり大学の先輩でもあり境に思わず本音をこぼします。

 

あいつが外に居場所を見つけてくるたびにひどく焦るんです
俺の手の届かないところに行くようで

 

社会人と高校生の差は大きいですよね。大人と子どもですから。でもこの先あかりは、大学生になり、社会人になっていきます。あかりの世界は確かに広がっていきますが、大人同士の関係に変容してお互いの感覚が近づくので、気持ちの距離としては少しずつ縮んでいきます。その時まで瑞貴は焦らずあかりを信じて待てばいいし、待つしか他にないんですよ。だって10歳下でまだ高校生のあかりを選んだのは、瑞貴自身なんですから

 

さっさと腹くくれ この馬鹿

 

瑞貴の本音を聞いた境は、あかりに話を聞いてやってほしいと頼まれて来たのだと明かし、捨て台詞を吐いて去っていきます。前巻ではあかりに瑞貴が発破をかけていましたが、2巻では瑞貴が境に背中を叩かれ前に進みます。他の誰かにあかりを渡したくなどない。そんな自分の気持ちに向き合った瑞貴は、思い切った行動に出ます。

予備校から一緒に帰っていた寿生から奪い取るようにあかりの手を取り、目的地も告げずに特急に乗り込みむ瑞貴。彼があかりを連れていったのは、彼の志望校近くの2LDKのマンションでした。瑞貴はあかりが大学に進学しても共に過ごせるようにと引っ越しをしたのです。

2人が出会ったタイミングは少し早かったのかもしれません。もっとあかりが大人になってから出会っていれば、瑞貴は思い悩むこともなかったはずです。でももう出会ってしまったんですよ。あかりを絶対に離したくないのであれば、離れないように手を尽くして繋ぎ止めればいいんです。それが社会人であることを利用した、ちょっとずるい手であったとしても

瑞貴の引っ越したマンションでは以前より部屋数が増えて気兼ねが必要なくなったこともあり、ますます勉強に身が入るようになった様子のあかり。彼が瑞貴に向かって言い放つ言葉がいいんですよ。

 

大学くらい一発で入るし さっさとキャリア積んで金稼いで自立する
それであんたは俺のヒモになるんだ

 

歳下だからといって、まったく瑞貴に甘えるという考えを持とうとしないあかり。頼もしい限りです。瑞貴とあかりは2人で並んで歩いていくような大人同士の関係になれるはず。そう確信でき、こちらまでうれしくなりました。

 

もう1人の「彼」の物語

無事に瑞貴とあかりはさらに絆を深めることができましたが、2人の物語に並走していたもう1人の「彼」正月寿生の物語も忘れてはいけません。

あかりが瑞貴との関係に抱く不安やモヤモヤした気持ちにずっと耳を傾けていた寿生。中学の時に男性とホテルに入っていく瞬間の写真を拡散され、あかりがゲイであることが皆に知れ渡ることとなりましたが、その写真を撮ったのが寿生でした。

中学生だった寿生は同性の友人に好意を持ち、そのことを周囲に相談できずにいました。悩んだ末にネットで検索して探したゲイバーに向かう途中、男性と歩いているあかりを見かけた寿生は思わずその場面を写真に撮り、好意を寄せていた友人に見せてしまいます。

同性同士での付き合うことに友人がどんな反応を示すのか試して、自分の好意が彼に受け入れられるのかを確かめようとしたんでしょう。彼が男性同士の関係をそのまま受け止める人なら、自分の気持ちを受け入れてもらうことも可能なんじゃないか、そう思っていたんだと思います。

でも思惑は外れてしまったんですよね。寿生の意図を無視して、その友人によってあかりの写真は学年中に拡散されてしまいました。違うクラスで直接の関わりが無くても、学年中にゲイだと知られてしまったあかりがつらい時間を過ごし続けたことを見聞きしていた寿生。彼はずっとあかりに対して罪悪感があったはずです。久しぶりに再会したあかりと仲良くなったのも、恋の悩みを聞いていあげていたのも、最初のうちは罪滅ぼしの気持ちがあったのではないかと思います。そしてあかりと過ごすうちに、寿生の中で起きていく気持ちの変化。

あかりが自分に心を開いてくれるようになったことで、寿生も偽らない自分であかりに向き合いたいと思うようになったのでしょう。あかりに自分があの写真を撮ったのだと告白する寿生。

 

後悔してる 今は
あの時 あいつになんか見せないで普通にお前に声をかけてればよかったって

 

頭を下げて謝る寿生に対するあかりの言葉は「許さないよ」のひと言。しかしすぐその後には、まるで寿生の告白が無かったかのように、あかりはいつも通りに寿生に声を掛けます。

 

あのさ 俺 ちょっとほんとに お前を

 

そんなあかりに思わず傾きかけていた自分の気持ちを寿生が口にしようとしたその時、瑞貴が現れてあかりを強引に連れ去ってしまいます。

寿生は改めて想いをあかりに伝えることはないでしょうし、あかりもきっと寿生が自分に抱いた気持ちを知ることは無いのでしょう。そう思うと、なんだか切ない気持ちになりますね。

寿生がこの後、本当に想い合える相手と巡り会う物語が描かれてほしいなと熱望して止みません。

 

前回は『あかりと彼はなやましい』1巻について語っています。興味を持っていただけた方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com