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『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』について語りたい【10】シェズは何者だったか

皆さんは『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』(以下『風花雪月 無双』)というゲームをプレイしたことはありますか? このゲームは『ファイアーエムブレム 風花雪月』(以下『風花雪月』本編)の「もうひとつの物語」と銘打つ無双ゲーム。『風花雪月』本編での主人公ベレト(ベレス)に代わり、シェズが新たな主人公となっています。

ということで、今回は『風花雪月 無双』の主人公であるシェズと意識を共にする謎の存在ラルヴァについて、個人的な思い入れを混ぜつつ語りたいと思います。

シェズ

覚醒したシェズ

 

かりそめの主人公シェズ

『風花雪月』本編の主人公であるベレト(ベレス)と『風花雪月 無双』の主人公シェズは非常に対照的に描かれていきます。

ベレト(ベレス)はセイロス騎士団の元団長ジェラルトを父に持ち、灰色の悪魔という二つ名で呼ばれるほどの凄腕の傭兵。しかも女神の器として胸には紋章石が埋め込まれ、そのため女神ソティスと意識を共にしています。3人の級長をはじめとする士官学校の生徒たちより少し年上(推定21歳)で、セイロス教団の大司教レアから士官学校の教師として招かれます。

一方『風花雪月 無双』の主人公であるシェズは、育ててくれた母親を幼い頃に亡くし天涯孤独の身。傭兵を生業としていますが、灰色の悪魔に圧倒的な力量の差で敗戦を喫してしまいます。その際に不思議な謎の力を目覚めさせてシェズの命を救った謎の存在ラルヴァと意識を共にしています。3人の級長たちをはじめとする士官学校の生徒たちとは同世代。レアから士官学校の生徒として受け入れられます。

これだけを見ても級長たちをフォドラ統一に導く存在であったベレト(ベレス)に対して、シェズは級長たちと共に戦っていくことに重きを置いた存在であることが感じられますよね。

そして3人の級長たちと主人公が出会う章は、『風花雪月』本編では「必然の出会い」、『風花雪月 無双』では「偶然の出会い」となっています。本来であれば、シェズは灰色の悪魔ベレト(ベレス)に斬り捨てられていた名も無い傭兵の1人でしかなかったはずの存在。シェズの存在こそが風花雪月の世界ではイレギュラーな要素だということなんです。

 

各章でのシェズの役割

3人の級長たちと出会ったシェズが、それぞれの章でどのような役割を担っているのかを見ていきたいと思います。

 

赤焔の章でのシェズ

ヒューベルトと長年温め続けてきた計画を実行すべくエーデルガルトが挙兵し戦争を始める赤焔の章

貴重な戦力とみなされたシェズは、傭兵団の指揮を執るよう任命されます。ヒューベルトはあくまでもエーデルガルトの従者として振る舞いますが、傭兵として凝り固まった身分制度には縛られない立場で主従の意識が薄いシェズとエーデルガルトとの関係は、まるでバディのよう。自軍の勝利にハイタッチを交わす2人を見ていると、戦争を起こす側の物語だというのに爽やかささえ感じてしまいます。

 

青燐の章でのシェズ

挙兵した帝国に対して、王国がセイロス教団を受け入れて対決姿勢を明確に示す青燐の章。私兵団の団長に任じられたシェズも、帝国と戦うことになります。

ディミトリの周りにいるのは、王に忠誠を誓い命をかけて尽くす臣下たち。親しかった者たちが皆臣下となってしまったディミトリにとって、王国の身分のしがらみに捉われない存在であるシェズは唯一の純粋な友人となります。

3つの章の中で一番、シェズが元首となった級長さんと気持ちの距離を近づけられているのは、青燐の章ではないかと思います。

 

黄燎の章のシェズ

黄燎の章では、シェズはパルミラからの侵攻を受け同盟領に戻るクロードたちと行動を共にします。その2年後、帝国の挙兵を機に呼び寄せられ、同盟軍の一員に。

諸侯たちは元首に頼らず自分の領地をしっかり守ろうという自立心が強め。同盟全体を守ろうとするクロードにとって、簡単には言うことを聞いてくれない彼らは厄介な存在です。「だったら自分だけで全部やった方がいい」と1人で突っ走るクロードに対して、シェズは金鹿の生徒たちと同じ目線で怒ります。

黄燎の章のシェズは他の章と比べると、元首となった級長を同じ学級だった仲間たちと共に1人の将として支えていくという面が強く感じられます。

 

シェズと出会って

3人の級長たちが森で出会ったのがシェズだったことで、各章に起こる変化はそれぞれ違います。

赤焔の章では師と仰ぐベレト(ベレス)がいないことで、エーデルガルトをはじめとする帝国の生徒たちはより一層団結して突き進んでいるように感じます。青燐の章での王国の生徒たちは、導いてくれる存在がいないため、ディミトリは国王としての、その他の生徒は騎士としての自覚をより早く持つようになっています。『風花雪月』本編の中で主人公とクロードの間に師弟を超えたバディ感を強く感じさせた同盟ルートですが、黄燎の章ではそれと対照的にシェズは同盟軍の将の1人としてクロードを支えていきます。

こうして見てみると、『風花雪月 無双』の世界の級長たちは皆、自分の力で指揮を執り戦争を戦っているんだなと強く感じられるんですよね。この世界で戦い抜く級長たちの姿を一番間近で見守り、私たちに伝えてくれる存在、それがシェズなのだなと思います。

 

シェズの不自然さ

レスター諸侯同盟にあるコーデリア領の山村で育ての母と暮らしていたシェズ。産みの両親の記憶はありません。育ての母は魔法が使え、シェズに読み書きなどを教えてくれました。

育ての母が亡くなり、シェズは生きていくため傭兵を生業とします。傭兵団を転々とし、最後に所属していたベルラン傭兵団の仲間たちは皆ジェラルト傭兵団に討たれ、シェズ自身も灰色の悪魔ベレト(ベレス)にあと一歩のところまで追い詰められますが、そこで自分に語りかける何者かの声を聴きます。その声によってシェズは不思議な力に目覚め、生き延びるのです。シェズはラルヴァと名乗るその声の主と意識を共にしていくことになります。

『風花雪月』本編の主人公ベレト(ベレス)も女神ソティスと意識を共にしていることもあってあまり気になりませんが、シェズとラルヴァには謎が多く、かなり不自然な部分が存在しているんです。

 

サバサバにも程度というものが

シェズってとにかくサバサバしていて、変に引きずることもない非常にさっぱりとした気持ちのいい性格をしているなと思います。それは裏返せば、あまり深くは考えない子だってことでもあります。

士官学校で書庫番のトマシュに姿を変えていたソロンが真の姿を現す様子を見たシェズは、自分が得た不思議な力は闇に蠢く者と同じものなのでは? と思ったり、捨て子だったため出自ははっきりしないと言ったりはしますが、そのことで思い悩んでいる様子はありません。ならば育ての母親はどんな人かと調べ始めると、実在したのか怪しくなるほどに手がかりが無く調査は行き詰まってしまいますが、シェズはそれで良しとしてしまうので、これ以上追及できません。なんだかシェズには自分のことを考えないようストッパーがかけられているようにさえ感じます。

また、シェズって感情豊かなわりに生死について淡々とし過ぎなんですよね。ジェラルト傭兵団と灰色の悪魔ベレト(ベレス)によって、長く一緒にいたというベルラン傭兵団の仲間たちを殺され自分も死にかけ、その後雪辱を果たすべく鍛錬していたシェズ。しかし、ラルヴァが散々灰色の悪魔を倒せ倒せと煽ってくるというのに、シェズはジェラルト傭兵団が仲間になったら心強いと平然と口にします。シェズが鍛錬していたのは恨みを晴らすとか仲間の仇を取るというようなウェットなものではなく、純粋にベレト(ベレス)との勝負に勝ちたいというモチベーションによるもの。殺す殺されるというよりもスポーツの試合みたいなノリだったのかと驚かされるんです。

シェズは傭兵として何度も仲間と死に別れも経験してきたでしょう。とはいえ、割り切り良すぎじゃないですかね。級長さんたちと出会うまでに何度か死にかけたっぽいことがラルヴァとの会話で出てきますが、自分自身も含めて命というものへの執着があまりに低い気がします。

 

よくわからないスキル

シェズの個人スキルに「生への執念」というものがあります。ネーミングから生命の危機に瀕した時に発揮されるスキルだと思いました。ですが、「HP90%以上の時に無双ゲージ増加量が上昇」という内容なんですよ。執念燃やすほどの状況じゃないじゃんって感じですよね。

しかもシェズは最上級兵種アスラになることで、さらに驚かされるスキルを習得します。その名は「造られしもの」。 いきなり説明無しで習得するこのスキルに気づいた時には大混乱でした。

 

ラルヴァという存在

ベレト(ベレス)は、セイロス教団の大司教であるレアにより、女神ソティスの器とすべく心臓の代わりに紋章石を埋め込まれたため女神ソティスと意識を共にしていました。

では、シェズと意識を共にしているラルヴァは何者なのか。度々灰色の悪魔を倒すようにシェズを煽るだけでは終わらず、ラルヴァはシェズの体を乗っ取り自軍で共に戦うこととなったベレト(ベレス)に斬りかかりさえします。なぜそのようなことをするのか。それはラルヴァがアガルタの民であるから、なんですよね。

アガルタの民は、人間の肉体を作り出して魂の器とする神にも匹敵するような高い科学的な技術を持っていました。しかしそのために女神と対立、戦いに敗れてしまった彼らは復讐の時が来るのを地下に潜んで待っていたのです。闇に蠢く者のタレスなども同じくアガルタの民ですが、ラルヴァは彼らとは別の方法で女神とその眷属を討とうとしていたのだと考えられます。

ラルヴァの本当の名前はエピメニデス。長引く女神との戦いに、長寿の民とはいえ肉体の寿命が尽きてしまうことを恐れ、レアがベレト(ベレス)の体を女神の器としようとしたように、その高い科学的技術によってエピメニデスが自身の魂を移す器としての身体を人工的に造り出した、それがシェズです。しかし攻撃をうけたか自然災害などの事故が起きたのか、シェズの培養槽が壊れて警報音が鳴り響くような事態に陥ってしまいます。そこでエピメニデスの肉体は死亡したのでしょう。

造られた人間という点で、シェズは『風花雪月』本編での主人公の母親シトリーと同じような存在です。シトリーに人格があったように、造られた肉体にも魂が宿りますが、それは肉体が器として使われた時に消滅するのだと思われます。エピメニデスは造った肉体に自身の魂を完全に移し替えられないまま死んでしまったため、シェズの人格は失われず、エピメニデスの魂の断片がラルヴァとして残ったのではないでしょうか。

 

シェズの記憶は本物か

エピメニデスの語る不測の事態が何によるものか、シェズの培養のどの段階で起きたのか、その詳細は分かりません。またシェズが造られた人間だということから、語られる過去の真偽はとても怪しいと言わざるを得ません。

シェズの育ての母は誰なんだという疑問が解決されないこともあり、個人的には、シェズの言う育ての母なる人は実際には存在しなかったのではないかと思ってたりします。シェズ個人が培養槽から外の世界に出て見聞きし経験して学んだことと、ラルヴァを内包することによって得たエピメニデスの記憶の断片を合わせた形で偽りの過去の記憶を作り出したのではないのか。自分で考えておいてシェズが可哀想になっちゃってますが。

 

真実は藪の中

どこで生まれ、どのような過去があったのか、なぜ平民の水準以上の教養があるのか、覚醒した時に何も無いところからどうやって剣をつくりだしているのか、なぜ瞬間移動の術が使えるのか。シェズの正体に関する事柄について、エピメニデスの語る言葉だけでは何も明確にはなりません。しかもシェズ自身が自分の正体について追及したいとは思っていないことから、これ以上の真実が提示される事もありません。不思議だな、謎だなという状態のまま放置されてしまいます。なぜならフォドラの地は女神の力によって作られた剣と魔法の世界です。ここには科学的技術というものなど存在していないのですから。

ただ唯一確実なのは、ラルヴァの存在が消えてしまって初めて、シェズが自分自身としての人生を生き始めることになったということです。ラルヴァを感じられなくなってしまっても、シェズの周りには力強い仲間たちがいてくれるのです。

 

次回は『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』の総括を良かった点悪かった点を挙げ連ねつつ語っています。興味を持っていただいた方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com