皆さんは『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』(以下『風花雪月 無双』)というゲームをプレイしたことはありますか? 本作は『風花雪月』本編を元に、一度は大聖堂に併設された士官学校に学友として集った生徒たちが、それぞれの国の未来をかけて三つ巴でぶつかり合うことになる無双ゲームです。
ということで、今回は『風花雪月 無双』のレスター諸侯同盟の盟主クロードの物語となる黄燎の章について感じたことを、個人的な思い入れを混ぜつつ語りたいと思います。
黄燎の章をプレイして
士官学校に入ることとなったシェズが、金鹿の学級を選ぶと進むこととなる黄燎の章。レスター諸侯同盟出身の生徒たちの学級なので、シェズも同盟側で戦うことになります。
『風花雪月 無双』は『風花雪月』本編では成されなかった「if」の世界を描いていますが、黄燎の章での「if」は、「クロードがきょうだいと呼べるような存在と出会えなかったら」ということに尽きると思います。『風花雪月』本編でのいつもどこか余裕をかましているようなクロードとは真逆の苦しそうな姿が見られます。
『風花雪月』本編での同盟ルートは、最終的に国王を失った王国を吸収し帝国を倒したうえ、フォドラの黒歴史も撃ち払い、パルミラとフォドラに開かれた関係を築くというまさに大団円を迎えます。しかし『風花雪月 無双』では、何をしようにもままならず茨の道を進み続けるクロードに、プレイしているこちらの胃がキリキリ痛くなっていました。
シェズが金鹿の学級に加わり、盗賊の討伐を課題を出されたクロードたち。盗賊の砦には闇に蠢く者に誘拐されていた黒鷲の学級の生徒のモニカが囚われていました。救出された彼女の証言によって、闇に蠢く者ソロンが書庫番のトマシュに成り代わりガルク=マクに潜入していたことが発覚。ソロンは真の姿を現し逃亡してしまいます。
これをきっかけにするように、帝国でも王国でも内部でゴタゴタが起きて、エーデルガルトもディミトリもそれぞれ国に帰ることになり、残された同盟もパルミラの大軍が攻めてきたことにより、同じく国に戻らねばならない状況になります。帝国、王国、同盟とそれぞれ問題が勃発して勉強どころではなく、士官学校は休止に。
帝国では皇帝に即位したエーデルガルトから傭兵部隊の、王国では国王となったディミトリから私兵団のそれぞれ隊長に任命される高待遇を受けるシェズですが、この黄燎の章での彼はクロードに期待させるようなことを言われた状態のまま、その後2年間放置されてしまいます。シェズはよく律儀に待っていてくれましたよ。
レスター諸侯同盟は帝国や王国のように大きな権力を持つ元首がトップに立っているわけではなく、盟主は諸侯たちのリーダー的な立ち位置に過ぎません。クロードは紋章を持っておりリーガン家の血を引くのは確かであるものの、どこからか連れてこられたよく分からん若僧が盟主を継いで自分たちを仕切るとなれば、諸侯のみなさんは面白くはないですよね。クロードは盟主となってから同盟をまとめることで精一杯で、シェズのことを思い出すこともできないような状態だったのかもしれません。放置はひどいけれど、仕方なかったのかもなとも思います。
帝国が戦争を起こしたことを受けて、シェズを呼び寄せたクロード。盟主として同盟を守るために頑張るぞとなるわけですが、同盟という形をとる国であるが故に、自分の領地を第一に考える諸侯を納得させる落とし所を探るのに時間と精神的エネルギーを割かれてしまいます。この戦争という非常時にトップダウンで迅速な決断ができないのは痛いですよね。
しかもパルミラが再び攻め込んできたことで、クロードは実兄であるシャハドを討たなければならなくなります。本編の「紅花の章」「蒼月の章」で展開された兄弟殺しが黄燎の章でも展開されてしまうんです。クロードが闇堕ちしたりパルミラに逃げ帰ったりしてもおかしくない状況ですよ。しかしクロードはそれでもフォドラに残り、自分の考え得る限りの手を打っていきます。
その1つが同盟から連邦国へと国に形を変えること。厳密に言うと、黄燎の章は同盟ルートじゃなくなっちゃうんですね。レスター連邦国の初代国王に立ったことでクロードは自分の考えを実行しやすくなりますが、同時に周りに相談が足らないまま進め過ぎて仲間たちから反発を食らったりもします。本当に試行錯誤しながら進んでいくんです。
パルミラからフォドラに来て数年しか経っていないというのに、祖国でもない国を守るために孤立無縁で命を張ることになったクロード。『風花雪月』本編より若くて士官学校が休止になり得られるはずだった経験も知見も乏しく、頼れる腹心もいないクロードは、最後までレスター存続のためにがむしゃらに策を練っていきます。そんな泥臭いクロードの姿に胸が熱くなりました。
クロードが得られなかったもの
『風花雪月 無双』の黄燎の章をプレイしてしみじみ感じたのは、盟主として人の上に立つこととなるクロードにとって、士官学校で見聞きし様々な経験をすることがとても重要だということ、そして何よりクロードが自分の夢を叶えるためにはベレト(ベレス)の存在が不可欠だということでした。
1.知見と経験
実はパルミラ王の血を引く王族であるクロード。もちろん生まれも育ちもパルミラですし、リーガン公に後継ぎとして呼び寄せられただけなので、フォドラについての深い理解はありません。
『風花雪月』本編ではクロードに士官学校で同盟の貴族と平民のクラスメイトたちと仲間として過ごすことになるだけでなく、帝国や王国の生徒たちに加えて自分と同じパルミラ人であるツィリルをはじめ、さまざまな異国からフォドラに来ている人たちとも交流を持ちます。そのことにより彼が望んでいる多様であることを認め合う世界が具体性を持つわけです。
しかし『風花雪月 無双』では士官学校での期間があまりに短く、金鹿の学級の生徒たちとの交流は深まりきらないままで、他国の生徒たちとは顔見知り程度。クロードの中での帝国や王国、そしてセイロス教への理解が深まっていません。
レスターはそもそもの結びつきが緩いため、戦争が長引けば帝国側に寝返る者が続出て瓦解してしまう可能性があります。それを避けるためにも、クロードは最小限の被害でとにかく早く戦争を終わらせたいと考えています。その考えは支持できるのですが、本作のクロードは戦争の火種であるセイロス教大司教であるレアの存在をピンポイントで消してさえしまえば戦争を続ける意味もなくなり、交渉で三国丸く収まるだろうと考えている様子。そんな簡単にいくわけなくない? って思いますよね。クロードのこの考えの甘さは、知見や経験が少ない分視野が狭いままであることの現れだなと感じます。
2.「きょうだい」と呼べる存在
エーデルガルトは伯父であるアランデルが闇に蠢く者になり代わられており、ディミトリは伯父のリュファスが内乱を起こすなど身内が問題を抱えていたわけですが、それはクロードも同じ。なぜなら、同盟に攻め込んで来ているパルミラはクロードの母国。しかもその大軍を率いているのは、クロードの異母兄であるシャハド。モロに身内ですね。
パルミラはどうやら王位継承権を持つ者が何人かいる様子で、シャハドは自分の王位継承を優位にするため、フォドラ侵攻で功を立てようとしていたのです。
攻め入った先のフォドラの地で、パルミラの王族でありながらレスターの盟主となっている腹違いの弟クロードを見つけたシャハドは、武功と王位を手にするため彼に襲いかかります。不仲であっても兄弟に変わりはありません。クロードは苦悩の末にシャハドを自分の手で討ち取ります。この場面での余裕の無いクロードの表情はかなり衝撃的です。
クロードがシャハドを討つ場面に唯一居合わせていたシェズ。そのためシェズはクロードの苦悩を知る存在となります。クロードはそんな彼を気に入っていて頼りにしてはいますが、最後まで「きょうだい」とは呼びません。
『風花雪月』本編でクロードに「きょうだい」と呼ばれるベレト(ベレス)は炎の紋章を持ち女神ソティスと意識を共にしているという人間離れした存在。だからこそ、クロードは自分の壮大な夢を語りますし、特別な絆を結びたいと感じたわけです。若く未熟な傭兵に過ぎないシェズは、ヒルダやローレンツたちを超えるような視点は持てないため、クロードの愚痴は聞けてもそれ以上のことはできないんです。あまりに特異な存在であるベレト(ベレス)とシェズを比べるのは酷ですよね。
しかしそうであったとしても、もしも士官学校が休止とならずにいたら、もしもクロードが空白の2年間にシェズを側に置けていたら、彼らの関係性はもっと深まって「きょうだい」と呼べるようなものとなっていたかもしれないですよね。残念。
シェズやヒルダをはじめとする金鹿の生徒たちと親密度が低いままで盟主となり、同盟の生き残りのために頑張ってはいるのに空回ってしまうクロード。彼は腹を割って夢を語り共に進んでいけるような特別な存在である「きょうだい」を、『風花雪月 無双』では最後まで得ることができないんです。
野望は果たされるのか
黄燎の章でのクロードは、エーデルガルトやディミトリに比べると、行動が一貫していない感じがしますよね。それは実際にクロードの中での考えが二転三転しているからだと思うんです。
パルミラからフォドラに来たクロードは閉塞感を抱き、国や民族、宗教の別なく繋がり合えるようにしたいと望むようになります。かなりスケールの大きい夢で、1人の力での実現は難しいですよね。クロードはフォドラにいる自分とパルミラにいる兄弟とで協力し、それを実現しようとしていたのではないでしょうか。
しかし、異母兄のシャハドが同盟に大軍を引き連れ攻め込んできたことで、クロードは兄を討ち取らざるを得なくなります。それは同盟の盟主として当然のことですが、パルミラの王族であり血を分けた兄弟を自らの手で殺してしまったことで、パルミラに助力を求めたりパルミラに逃げるという切り札を失ってしまったわけです。シャハドを討ったクロードは、フォドラの地で生きる覚悟を決めたのだろうと思います。
だからこそ、クロードはその後レスターの存在のために、なりふり構わなくなっていきます。レスターの国の形を変え、敵国と手を結び、戦争の口実となるレアを討ち、交渉で最小限の犠牲でどうにか痛み分けの形に持ち込ませようとするクロード。その交渉が上手くいっても、クロードが本当にやりたかったことが実現されないままなのに良しとしていいのか? となりますし、交渉が上手くいかなかった場合は、レスターの存続が危うくなってしまいます。どちらに転んでも結末に納得はできないように思います。
この黄燎の章は俺たちの戦いはこれからだ! というような、いわゆる「打ち切りエンド」で終了します。プレイして愕然とさせられたわけですが、これ以上描けないと制作陣が逃げたなとガッカリすると同時に、結末をはっきりさせなかったことにホッとしていたりもしています。
次回は本作『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』の主人公であるシェズとラルヴァについて語っていきたいと思います。