観て聴いて読んで書く

マンガ、アニメ、ゲームなど好きだと思ったものについて無節操に書き綴ります

『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』について語りたい【7】赤焔の章に感じること

皆さんは『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』(以下『風花雪月 無双』)というゲームをプレイしたことはありますか? 『風花雪月』本編と同様に大聖堂に併設された士官学校に一度は学友として集った生徒たちが、それぞれの信念のもとに国の未来をかけて三つ巴でぶつかり合うことになります。

ということで、今回はこの『風花雪月 無双』アドラステア帝国の皇帝エーデルガルトの物語である赤焔の章について感じたことを、個人的な思い入れを混ぜつつ語りたいと思います。

演説をするエーデルガルト

演説をするエーデルガルト

 

赤焔の章をプレイして

士官学校に入ることとなったシェズが、黒鷲の学級を選ぶと進むこととなる赤焔の章。アドラステア帝国出身の生徒たちの学級のため、シェズも帝国側について戦うことになります。

『風花雪月 無双』はもう一つの物語ということで、「if」の世界を描いていますが、赤焔の章での「if」は、「エーデルガルトが闇に蠢く者と早々に手を切ることができたらどうなったか」ということがメインになっていると思います。

モニカが殺されてしまう前に救出成功し、彼女が自分を誘拐した人物がトマシュであると証言。闇に蠢く者の1人であるソロンはトマシュに成り代わってガルク=マクに侵入していられなくなり、姿をくらまします。その際にソロンが本来の己の姿を晒したことによって、エーデルガルトがアランデル公をに化けているタレスを討つ口実ができたんです。ここで失敗をしないために万全の準備をして時期を待とうとする慎重なヒューベルトと、絶好のタイミングを逃さずに即行動に移す決断力に長けたエーデルガルトの対比にはグッときます。

帝国に戻ったエーデルガルトは、シェズたちとアランデル公に成り代わっていたタレスを追放することに成功。『風花雪月 無双』では我が物顔で帝国を蹂躙戦としていた闇に蠢く者との訣別が『風花雪月』本編よりもずっと早く実現するんですよね。

うっとおしい足枷が外れて、自分の考えをそのまま反映できるようになったエーデルガルト。もうここからは彼女を止める者はいません。反旗を翻したエーギル公を捕縛し宰相の地位を罷免、皇皇位継承を済ませて皇帝となり、ヴァーリ卿を南方教会の試供に任命。エーデルガルトは士官学校には戻らず、ベルグリーズ伯とへヴリング伯と共に2年間をかけて「ある準備」を進めていきます。

ちなみにこの時点でヒューベルトの父親は死んでおり、ヒューベルトが宮内卿に。シェズはエーデルガルトに新しく作る傭兵部隊の指揮を執るよう任命されています。かなりの高待遇です。

そして2年後。セイロス聖教会に対して挙兵を高らかに宣言するエーデルガルト。その演説で彼女は、セイロス教団が偽善者であると断じ、「欺瞞と腐敗に塗れた教団を正す」ために帝国は兵を起こすのだと言い切ります。人々の正義のために教団と戦うという勇ましくも気高い志を持つ新皇帝エーデルガルトの姿に、帝国の人々は心酔するわけです。

この戦いはエーデルガルトが立ち上げた一大プロジェクト。新しいことを成し遂げようとするのって気持ちが昂ぶりますよね。トップが掲げた大きな目標に向かって突き進んでいく帝国軍の雰囲気は『風花雪月』本編よりも良く感じられました。

 

それでもエーデルガルトは挙兵する

『風花雪月 無双』赤焔の章をプレイしていてしみじみ思ったのは、エーデルガルトは出会うのがベレト(ベレス)だろうがシェズだろうが、闇に蠢く者と手を組もうが手を切ろうが、自ら戦争を起こすことに変わりがないんだなということでした。

3国が三つ巴で戦うことにならないとゲームが成り立たないので、仕方ないのはもちろん分かってるんですよ。でもフォドラに戦乱の世をもたらすのはエーデルガルトが自身の意思により行うセイロス教団に対する宣戦であるということに、無力感を抱いてしまったんですよね。

 

帝国は侵略すべきだったのか

『風花雪月 無双』は戦闘がメインの無双ゲームだということもあり、エーデルガルトの過去を掘り下げないまま、開戦の演説となります。

『風花雪月』本編では過去に七貴族の変を起こされて父である皇帝は有力貴族によって傀儡化されてしまったり、自身は体を切り刻まれるようにして無理矢理炎の紋章を埋め込まれたりと、辛酸をなめてきたエーデルガルトの過去が明かされます。皇帝すらも貶め好き勝手しようとする貴族たちの後ろ盾となっているのが、セイロス教団が貴族の証とした紋章。紋章を否定し、それを持っているだけで権力を持つ貴族制度を否定し、紋章をもたらしたセイロス教団を否定し、新しい世界を作らなければ! というエーデルガルトの考えには、同情もできるし共感もします。でも『風花雪月 無双』ではその考えを持つに至る経緯を描くのを端折っちゃったので、セイロス教団相手にエーデルガルトが戦争を始める理由が伝わりにくいんですよね。

主人公のシェズは、傭兵ですし熱心なセイロス教徒でもなさそうですし、当然帝国の内部事情も知りません。なのでセイロス教団と戦うことになるのか、他の同級生たちもそうですが、ちゃんとは理解できていないんです。

しかしエーデルガルトの言葉通り、アランデル公は闇に蠢く者タレスが姿を変えていました。そのことはシェズにエーデルガルトに対する揺るぎない信用を抱かせたはずです。エーデルガルトは短い間ではありましたが士官学校で共に過ごし、アランデル公との対決で共に戦い、怪しい力を持ち正体不明だというのに自分を信頼し重用してくれています。シェズが張り切るのに十分すぎる理由だなと思います。

 

王国と同盟は敵だったのか

でも、エーデルガルトが望む世界を作るために軍事力を使ってフォドラをぶっ壊す必要ってあったのかなというのが、どうしても疑問に残感じてしまいます。なぜなら、何が理由であろうとと戦争という手段を取るのはダメだよねということのほかに、「王国のディミトリも同盟のクロードも、実はセイロス教団や紋章にそこまで重きを置いていないんじゃないの?」ということがあるから。

ディミトリはたしかにセイロス教団を匿いますが、それは帝国に従うか否かの選択で彼が従わないことを決意したから。ディミトリはエーデルガルトの進める改革は倣うべき部分はあるとしてはいますが、もっと段階を踏むべきだと言っています。王国の正統性を担保する存在であり国民の心の拠り所ともなっていることから、セイロス教団を真っ向から否定するつもりはないというくらいのスタンス。紋章についても、それが人の能力の全てを決めるものとは思っていないのは、ドゥドゥーやアッシュへの信頼の置き方やマイクランを将に据えたことでも分かります。

クロードはそもそも異国であるパルミラで生まれ育った人間。セイロス教と出会ったのはフォドラに来てからです。大っぴらには言わないだけで、彼はセイロス教とは相容れない考え方の持ち主なんですよね。無い方がいいとまでは断言しませんが、セイロス教がフォドラを縛りつけて凝り固まった考えにとどまらせているとは思っています。紋章については、クロード自身もリーガンの紋章を持ってはいますが、ことさらに神聖視することはありません。同盟には紋章を持っていなくても勇将と称えられるほどの強さを誇るホルストがいますし、フォドラの人々のようにクロードが紋章の有無を強く意識していることは無いと感じます。

そんなディミトリとクロードがそれぞれの国で元首となっているわけですから、セイロス教団と紋章は残り続けはしても、徐々に時間をかけながら、それらに縛りつけられない世界へと緩やかに変わっていくんじゃないかと思うんですよね。

しかし、たとえエーデルガルトもそう感じていたとしても、彼女はやっぱり挙兵するんですよ。時代が少しずつ変化していくのを、彼女は悠長に待ってなどいられないんです。ずっとヒューベルトと2人で計画を練りに練って準備をして機が熟すのを待ち続けていたんですから、エーデルガルトにとって自分で実行しなければ何も意味がないんです。

腹心であるヒューベルトとのみ共有していた計画であり、エーデルガルトの考えが先鋭的になり過ぎるのを抑える人物がいなかった、そのことはとても残念だなぁと思ってしまいます。

また、開戦の演説でエーデルガルトは、セイロス教団と王国と同盟の関係についてこう言っています。

  • 王国や同盟の成立に暗躍して人々を争わせた(『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』)
  • かつて帝国を分裂させて王国を作り、王国を分裂させて同盟を生んだ(『風花雪月』本編)

エーデルガルトは、言葉は違えど教団によって王国と同盟が作られたのだと言っていますよね。セイロス教団から押し付けられたものを全て認めないというのであれば、王国と同盟の存在も認められないことになるわけですよ。ディミトリは王国をクロードは同盟をそれぞれ自分たちの国だと思っていますが、エーデルガルトにとっては王国も同盟も、教団によって無理矢理剥ぎ取られた帝国の一部だという認識なのかもしれません。教団を庇った王国に対してタイマン勝負するのではなく同盟をもあえて巻き込んでいくのは、この理由からなのでしょう。そうなるといよいよもって、エーデルガルトの挙兵は避けられないことだったのだと感じます。

エーデルガルトはセイロス教団を正し、押し付けられた紋章による身分制度を無くし、その人が持つ能力によって正しく評価される人が中心の世界を築くための戦いを始めます。しかし、その戦闘の中で強力な力を発揮するのが紋章による能力であるということは、非常に皮肉だなと感じました。

 

次回は王国ルートとなる青燐の章のストーリーについて語っていきたいと思います。

isanamaru.hatenablog.com