皆さんは『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』(以下『風花雪月 無双』)というゲームをプレイしたことはありますか? 『風花雪月』本編を元に、大聖堂に併設された士官学校に一度は学友として集った生徒たちが、それぞれの信念のもとに国の未来をかけて三つ巴でぶつかり合うことになる無双ゲームです。
ということで、今回は『風花雪月 無双』のファーガス神聖王国の国王ディミトリの物語となる青燐の章について感じたことを、個人的な思い入れを混ぜつつ語りたいと思います。
青燐の章をプレイして
士官学校に入ることとなったシェズが、青獅子の学級を選ぶと進むこととなる青燐の章。ファーガス神聖王国出身の生徒たちの学級なので、シェズも王国側で戦うことになります。
『風花雪月 無双』は本編では成されなかった「if」の世界を描いています。青燐の章での「if」は、「ディミトリが妄執にとらわれず、早く王となっていたらどうなっていたか」ということがメインにあるかなと思います。
シェズが学級に加入し、課題で討伐することとなった盗賊の砦でディミトリたちは闇に蠢く者に誘拐されてしまっていた黒鷲の学級の生徒のモニカを救出します。彼女の証言により書庫番のトマシュに成り代わって侵入していたことが発覚した闇に蠢く者ソロンは、その真の姿を現し逃亡。これをきっかけにするように、王国ではトマシュと同じように闇に蠢く者クレオブロスが姿を変えているコルネリアにそそのかされたディミトリの伯父イーハ大公リュファスによる内乱が起きてしまうんです。
王家の長子として生まれながら、紋章を持たなかったため王位に就けなかったリュファス。闇に蠢く者と手を組んでダスカーの悲劇に加担し、実弟でもある先王ランベールを暗殺したことが『風花雪月 無双』では明らかにされます。紋章による兄弟殺しはゴーティエ家だけでは無かったわけですね。
内乱を鎮めリュファスを捕縛したディミトリは、いきなりダスカーの悲劇の真相を突き付けられた形に。いつか伯父と分かり合えると信じようとしたディミトリですが、リュファスの方はランベールやディミトリを「獰猛な獣」と評し、人と分かり合えないことを本気で悲しむふりをして「気味が悪い」とすら言っているんですよね。肉親なのに絶望的に分かり合えない感じが堪らないです。
父を殺し自分の命をも狙っていたリュファスの首を自ら刎ねたディミトリ。もしかして闇落ちしてしまうのか? とハラハラしましたが、心配は無用でした。『風花雪月 無双』ではリュファス処刑後、ディミトリはすぐにファーガスの王に即位。冷静に臣下たちに指示を出していきます。『風花雪月』本編をプレイして、彼は為政者としてはちょっと優しすぎるんじゃないかと心配していたんですが、なかなか有能な王様になってました。
これにはいろいろと理由があると思うんです。まず、ダスカーの悲劇に加担した裏切り者のリュファスを自分の手で討つことができ、ここで父親の仇を打つことができましたよね。そしてダスカーの悲劇の真実をシェズをはじめ皆が知ることとなり、自分の胸の中だけに留めずに済んでいます。また、ディミトリは邪魔されることなく王位に就くことができましたし、同時に幼馴染のフェリクスが爵位を継ぎフラルダリウス公として政治面でのサポートに回ることになったことも大きいと思います。そして何より、ダスカーの悲劇に帝国も関与していることが明らかになって「帝国許すまじ」となっているところでのエーデルガルトの挙兵ですよ。侵攻から国を守るためにも、ダスカーの悲劇で多くの亡くなった命に報いるためにも、ディミトリがセイロス教団を受け入れて帝国と徹底抗戦を決めるのは当然のこと。ネガってなんていられないわけです。
『風花雪月』本編ではこれでもかというくらいにディミトリに苦難が降り注ぎ、崩壊寸前まで精神的に追い詰められる姿に胸が苦しくなったのですが、『風花雪月 無双』ではダスカーの悲劇という大きな事件を乗り越えていこうとするディミトリを、シェズや青獅子の仲間たちが同じ気持ちで支え打ち勝っていく物語となっています。『風花雪月』本編で見たくても見られなかったディミトリがここにいるという感じがして、プレイしながら気持ちが昂りました。
貴族の身分制度
『風花雪月 無双』の青燐の章をプレイしていて強く印象に残ったのは、王国内の確固とした貴族の身分制度。
ディミトリは国王であり、国の元首として身分制度のトップに立っています。それは明確ですが、その臣下である貴族たちの序列って、あまり馴染みがないので分かりにくいですよね。貴族の爵位の格付けはおおよそ次のようになっています。
- 大公(=王族)
- 公爵
- 侯爵
- 辺境伯
- 伯爵
- 子爵
- 男爵
ディミトリの伯父に当たるリュファスは大公。幼馴染の3人の家はどうなのかというと、フェリクスのフラルダリウス家が公爵、シルヴァンのゴーティエ家は辺境伯、イングリットのガラテア家は伯爵。幼馴染とはいえ、彼らは爵位が違っています。
本作の第二部では父のロドリグから爵位を継いでフラルダリウス公爵となっていることもあり、フェリクスは常にディミトリのすぐ側にいて政治的な会議にも出席し意見を出していますし、ディミトリの留守を預かる立場にもなっています。フラルダリウス公の「ファーガスの盾」という異名は、国王を側で護り支える、王国の中で非常に重要な地位にあるということを表しているのでしょう。
幼馴染の間で一番年長のお兄さん的存在だったシルヴァンは実兄マイクランとのエピソードが強烈なこともあり『風花雪月』本編では印象が強いですが、『風花雪月 無双』ではちょっと後ろに引いて控えめな感じ。まだ父親がまだ家督を譲っておらず嫡子の位置に留まっていることもあると思いますが、フェリクスの父ロドリグとシルヴァンの父マティアスと王家との距離感を見ると、彼が辺境伯の爵位を継いでも公爵であるフェリクスの前に出てディミトリに物を言うようなことはほぼ無いだろうと思われます。
イングリットは士官学校にいる頃から、同じ幼馴染とはいえど、ディミトリに対する接し方とシルヴァンやフェリクスに対する態度とではきっちりと区別していました。騎士になりたいという希望を持つ彼女は、ディミトリの臣下であるという意識がシルヴァンやフェリクスよりも強いように感じます。
傭兵であるシェズを私兵団の隊長に任命したり平民のアッシュをガスパール城主に据えようとしたりと、ディミトリ自身は紋章や身分制度に対して柔軟な姿勢を見せていますが、それはあくまでも彼が君主だから。臣下からすれば爵位=秩序を自分から乱すことはできませんよね。傭兵として国に縛られず身分制度から外れて生きてきたシェズだからこそ、ディミトリとの間に臣下としてではなく同じ軍で共に戦う仲間として強い絆を築くことが出来たのだろうと思います。
一国の王として
青燐の章では、ディミトリが会話もままならないほどに心を病んでしまうこともなく、リュファスやコルネリアと早くに決着を付けることができるため、王国全員でダスカーの悲劇の復讐を果たすべく帝国と対峙していくことになります。ダスカーの悲劇は国王をはじめとする多くの命が失われ、ダスカーの民との禍根を残すことにもなった大きな出来事。決して忘れられることはできません。
それは理解してはいますが、でも復讐という言葉を聞くたびに、ちょっと待てよって引っかかるものを感じてしまうんですよね。
『風花雪月』本編ではディミトリは国を追われ復讐に取り憑かれた王子でしたが、『風花雪月 無双』では違います。彼は国王に即位しているんです。ディミトリにはダスカーの悲劇で救われたその命をかけて、復讐のためではなく、王として国と国民を守るために帝国と戦うときっぱり言って欲しかったし、そうであるべきだったと思うんですよ。けれどフェリクスをはじめ仲間たちは、ディミトリの復讐は我らの復讐とばかりに気持ちを団結させちゃうんですよね。
王家であるブレーダットをはじめ、フタルダリウス、ゴーティエ、ガラテア、カロンといった王家と関係が近く爵位の高い貴族の領地は王国の北方にあり、帝国と接しているところは有りません。王国ルートは内向きな印象ですが、実際に仲の良い臣下が地理的にも近くに固まってるんですよね。
西方貴族は爵位が低めですし、周りをガッチリ北方貴族たちに固められてしまっているので、帝国の侵攻を近くに感じている彼らの意見はディミトリにはちゃんと届かないだろうと思います。もしかすると、ディミトリは帝国が王都を脅かすことには恐れを抱いても、その前に帝国に攻め込まれ被害を受けることになる西方貴族の領地については、そこまで深く考えていないんじゃないかと感じられるのも、このためでしょう。その温度差ってけっこう深刻だと思うんですよ。
ディミトリは思慮深い人です。戦争が終わり平穏が訪れたあとは、紋章の有無や身分に関係なく貴族も平民も共に幸せに暮らせる国を、彼は少しずつ着実に実現させていくのだろうと思います。その時には、シェズの忠告を受け入れたように、フェリクスをはじめとする北方貴族の「おともだち」ではない者たちからの意見も自ら汲み取りに行ってほしいなと思いました。
次回は同盟ルートとなる黄燎の章について語っていきたいと思います。