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『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』について語りたい【11】風花雪月無双は何を描いたか

皆さんは『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』というゲームをプレイしたことはありますか? このゲームは『ファイアーエムブレム 風花雪月』(以下『風花雪月』本編)の「もうひとつの物語」と銘打つ無双ゲームです

ということで、今回は『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』(以下『風花雪月 無双』)の功罪と仰々しく称して、良かった点と残念だった点についてに個人的な思い入れを混ぜつつ、このゲームの総括を語りたいと思います。

風花雪月無双オープニング画面

風花雪月無双オープニング画面

 

残念だった点いろいろ

言いたいことがホントにいろいろたくさんあるので、まずは本作『風花雪月 無双』の残念だった点から挙げて語っていきたいと思います。

 

主人公が大事にされていない

『風花雪月』本編の主人公ベレト(ベレス)を脇に回し、『風花雪月 無双』ではシェズというキャラクターを主人公にしています。でもせっかくの新主人公なのにシェズがあまり大事にされてないんじゃないの? って度々感じていました。

あくまでも『風花雪月 無双』は無双ゲームですし、敵を片っ端から斬りまくっていく爽快さが命。さらには『風花雪月』本編ありきのスピンオフ作品なわけですから、キャラクターを深掘りしすぎないのは当然だとは思っています。

ですが! シェズの持つ力が闇に蠢く者に似てるとやたら言ったり、シェズの育ての母親は誰かうやむやにしたり、シェズが何者でも大事な仲間だぜ的なことを級長さんたちに言わせたり、ラルヴァ(エピメニデス)に匂わせ的に語らせたり、散々そんなことやっておいて結局シェズの詳しい過去は全部プレイヤーの想像にお任せでぶん投げてしまうのは、いかがだろうかと思います。シェズの性格の良さで全部許されると思ったら、大間違いですよ。

シェズをベレト(ベレス)と対照的な存在にしようとしたのは分かりますが、級長さんたちにとって大切な仲間の1人という位置付けに留まり正体不明で終わってしまうのなら、ホントに「ただの傭兵」でも良かったんじゃないかとすら思います。主人公の謎を出すなら、ちゃんと答えを明らかにするべきだと思うんですよね。思わせぶりにした分だけ、シェズが可哀想に感じました。

 

ストーリが不満

赤焔の章は本編との印象とあまり変わらず。難しいことは承知で、もう一捻り欲しかったなという感じ。せっかくモニカちゃんも生きてることですし。

青燐の章は、自分の頭の中で思い描いたアナザーストーリーと近く、満足度は高め。正気のままちゃんと王様やっているディミトリを見たかったという人は多いんじゃないかと思います。

黄燎の章については、私自身がクロード推しということもあって、右往左往せずにガッツリ帝国と戦って欲しかったなと。以前私はこのブログで、エーデルガルトはクロードと手を組めばいい的なことを書いてはいるんですよ。なので赤焔の章で帝国と同盟が組むのは良いと思ってます。でも黄燎の章では侵略側の帝国とではなくて王国と組んで欲しかったんですよね。青燐の章の同盟主体ver.をプレイしたかったなーという気持ちです。

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戦闘中の会話なんて読めない

『風花雪月 無双』では、戦闘中にいろんなことが同時進行で起こりますよね。あっちで仲間が砦を制圧したとか、こっちで盗賊が現れたとか、新しいミッションが発生するとか、なんだかやることが多くて忙しないのがちょっと楽しい、みたいな。

なんですけど、戦闘中にキャラ同士で会話してるじゃないですか。でもキャラクターの声が聞き取れないし、テキスト表示されても全然読めないんですよね。それって私だけですかね。会話を聞き逃してもストーリの筋には影響ないんだろうと、途中から会話は臨場感を出すガヤ扱いでガン無視して進めてました。

 

基地施設の拡張が面倒くさい

シェズたちが戦闘と戦闘の合間を過ごす前哨基地には、訓練場や鍛冶場、武器屋や道具屋など戦闘を続けていくのに必要な施設があります。それらを拡張して機能を充実できますが、それが面倒くさい。全施設共通で必要な建築資材も、各施設ごとに必要な資材もそれぞれ4ランクずつあって、資材が揃ってもランクが合わず拡張できないということも度々ありました。もうちょっとシンプルな仕組みにして、カスタマイズしやすければよかったなのになと思います。

 

良かった点だっていろいろ

いろいろ不満を書きましたが、良かった点だってもちろん、いろいろあったんですよ。

 

主人公のシェズがとにかく良い

『風花雪月 無双』は、主人公のシェズがとにかく良かったなと思います。二刀流の剣士ということで戦闘で使い勝手が良く、操作していて非常に楽しいんですよね。戦闘を繰り返していく無双ゲームなので、操作性が良いのは重要だと思います。操作する時間が長ければキャラクターに愛着も湧きますし。

しかもシェズはかなり性格が良い子。我が強すぎず、すでに出来上がっている世界に新参者として加わっても違和感なく溶け込めていました。ベレト(ベレス)ではなく新しく主人公を迎えるということで拒否反応を示していた方も多々いたかと思いますが、実際プレイしてみてシェズに嫌な感情を抱くことは無かったんじゃないでしょうか。

爽快さを味わうゲームの主人公としてふさわしく、シェズはグダグダ思い悩んだりしないさっぱりした性格。そして戦闘以外の場面で仲間たちと会話する時にはちょっとおっとりした部分も感じさせ、全然がっついた感じはしません。わりと思ったことをすぐ口にしてはいますが、言葉の選び方のおかげかキツくならず、むしろ愛嬌に変換されてしまう絶妙なさじ加減。シェズのキャラクターに救われた部分は多いんじゃないかと思います。

 

『風花雪月』本編の補完的要素

アナザーストーリーということで、『風花雪月 無双』では『風花雪月』本編ではできなかったキャラ同士の関係の深掘りがされたり、名前しか出てこないキャラクターが登場するなど、本編の補完的な要素がたくさんありましたよね。

『風花雪月』本編では死んでしまっていたモニカが赤焔の章では生きて共に戦えるようになっていたり、盗賊に成り果てて各学級の生徒たちに討伐されていたマイクランが、青燐の章で実際はどんな人物だったか知れてうれしかったですし、黄燎の章でパルミラにいる兄弟とクロードの関係性を知って「フォドラに来たくなるのもわかるなー」と納得したりもしていました。

『風花雪月 無双』をプレイしながら、『風花雪月』本編で得た情報が更新されていく感じ、スピンオフ作品ならではの楽しみだなと思います。

 

「作業」の時間が少ない

『風花雪月』本編は世界観に深みを出すのに会話の発生が必要とはいえ、2周目以降は士官学校内をグルグル回らねばならないことが若干面倒だと感じるていました。第2部に入ってからもガルグ=マクが拠点のため変化に乏しく、楽しみながらも少々飽きを感じていたのは事実。生徒たちの落とし物が多すぎて、最後は先生が全部没収することにしてましたもん。

『風花雪月 無双』では、士官学校が前哨基地に置き換わっています。仲間と交流したり訓練してスキルを上げたり武器の鍛錬をしたりとやること自体は多いのですが、次の戦闘に向けての準備をしているのだと『風花雪月』本編よりも感じられます。カレンダーで管理されないので、サクッと訓練して食事作って武器を鍛錬して、さあ戦闘! という感じで、基地内でルーティーンの「作業」をこなさなければという感覚を感じずに済みました。

 

遠乗りの会話が良い

『風花雪月』本編のお茶会に替わって取り入れられた遠乗り、なかなか楽しいですよね。遠乗りでは行き先も森や湖などから選べるようになっていましたし、会話も投げかけられた言葉に対する返答を選ぶだけでなく、こちらから質問できるようにもなっていました。

とても良いと思ったのが、間違って選んだ選択肢を教えてくれるようになっていたこと。これで何度やっても上手くいかないということが無くなります。やっぱりせっかく遠乗りしたからには気分よく終わりたいですからね。

 

キャラクターたちの戦う姿が見られる

『風花雪月 無双』は実際にキャラクターを操作して戦うアクションゲーム。そのため、キャラクターたちが技を繰り出しどのように敵を倒していくのかを見ることができます。戦う姿にそのキャラクターの『風花雪月』本編では数値でばかり見てしまっていたキャラクターの闘いっぷりを目の当たりにして、実際はこんなふうに戦っていたのか! と感激しました。

 

『風花雪月 無双』が描いたものと評価

『ファイアーエムブレム 風花雪月』というゲームは、その世界にどっぷりと浸かり、キャラクターたちへの思い入れが強くなるほど楽しめる作品だったなと思っています。それは、主人公は自分自身が世界を統べることを目指すのではなく自分が選んだ者の理想を叶える役割であるため、ベレト(ベレス)と同等かそれ以上に3人の級長たちにも気持ちが大いに入り込んだ状態になり、彼らの望みを叶えようと命をかけ戦うベレト(ベレス)の行動とプレイヤーの気持ちがうまくリンクしたからなのではないでしょうか。

ベレト(ベレス)が3人のうち誰の学級を選ぶかで、フォドラを統一する国が決まります。エーデルガルト、ディミトリ、クロードの3人が理想として掲げる世界像はそれぞれに共感ができるものではありますが、限りなく神に近い存在であるベレト(ベレス)が誰の理想の世界を是として選び取ったかで、未来のフォドラがどのような姿となるのかが決まるわけです。つまり、『風花雪月』本編は選ばれし者が平和をもたらし世界を統べる物語だったんですよね。

では『風花雪月 無双』はどうだったか。ベレト(ベレス)は凄腕の傭兵にとどまり、その代わりとなる存在のシェズには元首となった級長たちを理想の実現に導くほどの力はありません。『風花雪月 無双』の超越した存在のいない世界で繰り広げられるのは、ファンタジー色が薄められた3人の級長たちが自力で理想の実現を目指す物語なんです。

そのため、『風花雪月』本編でベレト(ベレス)が味方についた陣営は戦に勝ち続けて最終的にフォドラを統一するに至ることによって気づかずにいられた級長たち3人の目指すものの負の側面が『風花雪月 無双』ではあらわにされていきます

エーデルガルトは、紋章の有無や身分にかかわらず能力のある者が持てる能力を発揮できる社会を目指しています。しかし、それは一方で能力を持たない者を切り捨てるということでもあるのだということが、ヴァーリ伯に対する雑で冷たい扱いに端的に現れています。

ディミトリは「民を守る」としっかり口にしていますが、帝国に対峙する際に真っ先にダスカーの悲劇への復讐が口を突いて出てきてしまうあたり、「民」という言葉の対象となるのは王国の国民ではなく、彼に親しい者たちや見知っている者たち(ダスカーの民を含む)であるということが感じ取れます。

クロードの掲げる民族や信仰を超えて共に生きられる世界という理想は、スケールが壮大で非常に聴こえは良いのですがきれいごとに過ぎず、フォドラしか知らない者たちはクロードのその考え方についていけないですし、自分の国すらまとめられないのに説得力もありません。

超越したベレト(ベレス)という存在がいないことで見えてくる、3人の級長たちの元首として足りていない部分。厳しいですよね。容赦ないです。

多くの方は、この『風花雪月 無双』の掲げる「もうひとつの物語」が想像していたものと違うと思ったんじゃないかと思います。私自身は自分の理想の世界を語り続け軽やかに実現させる翠風の章のクロードが好きなので、捨てばちになりながら泥臭く戦う彼の姿はショックでした。しかし同時に人間臭さを感じてグッときたりもしました。3人の級長たちの持つ負の側面を知って、『風花雪月』本編の奇跡のような物語が一層好きにもなりました。

『風花雪月 無双』は『ファイアーエムブレム 風花雪月』のスピンオフとしてキャラクターを操作して敵を倒すのがただ楽しいゲームにもできたはずだというのにそれをせず、あえてアナザーストーリーという形でプレイヤーにフォドラ3国が繰り広げる戦争を見つめ直させる物語を繰り広げました。そこには『風花雪月』本編では描かれなかったもの確かにがありました。『風花雪月 無双』をプレイして制作陣にここまでのものを作らせるに至った『ファイアエムブレム 風花雪月』という作品の奥深さを改めて感じましたし、とてもチャレンジングなこの作品が世に出されたことは素直にすごいことだと思っています。

 

『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』の任天堂の公式ホームページはこちらです。

www.gamecity.ne.jp

 

本編である『ファイアーエムブレム 風花雪月』についても21本の記事を書いて語っています。興味を持っていただいた方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com