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『Buddy Daddies バディ・ダディズ』について語りたい②ストーリー前編1〜4話

皆さんは『Baddy Daddies バディ・ダディズ』(以下『バディ・ダディズ』)という作品をご存知ですか? この作品は2023年1月からTOKYO MXなどで放映されていたP.A.WORKS制作のオリジナルアニメ。殺し屋である一騎と零がバディとして仕事と子育てに励みながら、彼らなりの「家族の形」を見つける物語です。

前回はキャラクターについて語りましたが、今回は1〜4話までのストーリーについて語っていきたいと思います。

PIECE OF CAKE

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  • 豊永利行
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一騎パパとミリちゃん

一騎パパとミリちゃん

 

バディとしてダディとして

殺し屋稼業でバディを組む一騎と零が4歳の女の子ミリを育てることになる『バディ・ダディズ』。3人の物語は、一騎と零がマフィアのクリスマスパーティに潜入するところから始まります。

人身売買を行なっているマフィアのボスの暗殺というミッションの真っ最中だというのに、見知らぬ少女ミリがパパを探しにパーティ会場に入り込んでしまいます。小さな子どもがいては自由に動き回ることもできません。潜入のはずがバレてしまい、派手な撃ち合いに。撃ち合いで混乱の中パパを探し続けるミリは、ターゲットに捉えられ銃を突きつけられてしまいます。零は子どもごとターゲットを撃ち抜こうと提案しますが、一騎にはそれができません。ミリをターゲットから引き剥がすために思わず自分がパパだと言ってしまった結果、家に連れて帰ることになってしまいます。

しかもミリが、実は今回のターゲットであり自分たちが殺したマフィアのボスの娘だということが判明。世話をしているうちにミリへの情が湧いてきていた一騎でしたが、仕事の仲介者である久太郎に頼んで母親の所在を突き止め、ミリを帰らせようとします。しかし、やさぐれた雰囲気の彼女にはミリへの愛情が感じられません。一騎は零と共にミリを育てていくことを決意し、3人で家に戻っていくのでした。

こうして12話のうち3話を使って、一騎、零、ミリちゃんの3人の生活が始まるまでがしっかり描かれているのですが、この序盤で巧みだなと感じたのが一騎と零の描き方でした。

一騎は零が散らかした部屋をテキパキと片付けてきれいにしますし、ミリちゃんと繋がるきっかけとなるケーキはパーティ潜入のために彼が材料を買うところから始めて一から作ったものでした。一騎は家事に抵抗が無く、その能力もかなり高いことが分かります。文句を言いつつもミリちゃんの面倒も見てあげ、パパと懐かれて楽しそうにしつつも、何度も最後までミリちゃんの面倒は見られないのだと自分に言い聞かせている一騎。

親戚や友達のお子さんを一時的にお世話してあげることになった時って、子どもがある程度好きな人なら張り切っちゃいますよね。しかも一騎には、妊娠中の妻を亡くすという辛い過去があります。父親として小さな子どもを世話している自分という、想定していた未来を一騎は失ってしまっているんです。だからこそミリちゃんを邪魔者扱いする母親の態度は、一騎にとって許せないものだったんですよね。

一方、零は捨て猫を拾ってきちゃいますが、大量にキャットフードなどを買い込んだだけで放置しています。彼には猫の世話をする気はあるものの、具体的にどうすればいいかイメージができていない感じ。一騎が元の場所に戻した猫がどうなったかを心配して様子を見に行ったりしていますが、たぶん零にはこの発想は出てこない気がします。さらに捨て猫を拾ってきたことを怒られ拗ねていた零が、ミリちゃんを連れ帰った一騎にムッとしていますが、零にとって猫とミリちゃんが同列の存在という認識なのが分かります。

ミリちゃんが家に来ても、子どもが好きだ嫌いだという以前に関りを持とうとせず、淡々としている零。マイペースを通り越して、関心を向ける対象範囲がちょっと狭すぎる感じです。

零は父親を父と呼ぶことも許されず、厳しく殺し屋として育てられてきました。そのため、普通の親子の形が分からないんですよね。零はポッカリと欠落した部分のために、大人になりきれていないことが分かります。

しかし、ミリちゃんにはそんな2人の事情なんて分かりません。一騎を自分のパパだと信じ切っていますし、零に対しても微塵も警戒したりしません。物怖じしないミリちゃんに、もしかすると「グイグイきてうっとおしい」と感じる人もいるのかもしれません。でも小さな子どもって、掛け値なしに人を信頼して全身で飛び込んできてくれるんですよ。そんなに信頼されて良いのか、こちらが戸惑ってしまうくらい。しかも子どもってすごく優しいんですよね。バスタブの中で寝ている零に「怖いの怖いの飛んでけ〜!」をしてあげるミリちゃんには、何度見てもウルっとしてしまいます。きっとこれは、零が幼い時にやって欲しかったことなんだと思うんです。

やさぐれた様子の母親の元には返したくないと思った一騎。ミリちゃんが警察官に保護されそうになり、自分はミリちゃんの「パパ」だと言い切った零。ミリちゃんの母親に会ってきた後の一騎と零の会話がいいんですよ。「晩飯でも買って帰るか」と言う一騎に、零はあれこれ聞くことなく「3人分?」と返します。相手が考えていることを、口に出さなくてもお互いに分かり合っている感じがすごくしますよね。この2人ならきっとこの先も大丈夫だなと感じられた素敵な場面でした。

 

子育て本格始動!

ミリちゃんが加わったことで、一騎と零は今までのような生活ができなくなってしまいます。これって「一騎と零だから」というわけではありません。子どもと暮らすことになった人は誰もが漏れなくそうなってしまうんです。何せ子どもはこの世に生まれて長くてもまだ数年ですからね、大人の都合とか世間の常識とか忖度とか、経験も知識も無いので理解できるわけがないんですから。

それじゃあどうするかといえば、融通の利かせられる大人の方が知恵を絞って子どもに合わせていくしかないんです。ですが、めちゃくちゃHP削られるんですよね。元気なミリちゃんに振り回されてヘトヘトになっている一騎と零。そこでミリちゃんを保育園に預けようと思い立ちます。

ここからが『バディ・ダディズ』という作品の本当のスタートだと言っていいでしょう。一騎と零のミリちゃんの父親としての成長物語として一気に面白くなっていくんです。

ちびっこのいる共働きの親にとって、保育園は無くてはならないもの。一騎と零の仕事は殺し屋です。とてもではありませんが、ミリちゃんを連れていけるわけがありません。けれど仕事のたびにミリちゃんをお家でお留守番させるわけにもいきません。どう考えても保育園利用はマスト。

でも保育園って入れて欲しいと言ったらすぐに入れるわけじゃないんですよ。通わせたい保育園に見学には行きますが、申し込む先は自治体、つまり役所なんです。ということで、早速一騎と零はミリちゃんを連れて保育園入園申し込みに必要な書類をもらうため役所の窓口に。殺し屋なんてアウトローの2人が、律儀に役所に行くというだけで面白い図ですが、しかも窓口に呼ばれるまでの長い待ち時間や大量の書類といった面倒な手続きにブチ切れる主人公とか、なかなか見れませんよね。

役所の手続きっていちいち面倒なわけですが、保育園の書類ってこんなことまで必要なのか!と思ってしまうようなものまで書かされます。例えば、勤務先はどこでどのルートを使ってどのくらいの時間を掛けて通勤しているのかとか。何時から何時まで保育園で子どもを預かる必要があるのかを知るためなんだなと今では理解できますが、とにかく一度に大量の書類を作成しなければならない状況ではイライラが爆発してしまいますよ。一騎たちは今まで保育園に子どもを預けるなんてことを1mmも考えていなかったわけですから、大混乱するのも仕方ないですよね。が、書かないと書類は出来上がらないんです。

気を取り直して住民票などを偽装し書類を作成し、なんとか役所へに申し込みを済ませた一騎と零は、ミリちゃんと保育園の見学へ。ミリちゃんが通うことになるあおぞら保育園の保育士の杏奈先生の言葉が良いんですよ。パパが2人いたり、全員の苗字が違っていたりと、「普通」の家族とは言いにくい状況であることを書類を読み上げて確認すると、杏奈先生は「パパが2人もいてうれしいね」と優しくミリちゃんに笑いかけるんです。世の中いろんな家庭があると分かってはいますが、こんな自然な受け止め方ってなかなかできないんじゃないかなと思います。この先生、意外と百戦錬磨の強者なのかもしれません。俄然信頼度が上がります。この先生なら大丈夫!

こうして保育園という頼もしい味方を得た一騎と零。しかしまだまだ大きなハードルが存在します。それは保育園に必要な物の準備。保育園入園セットみたいなものが売っていれば楽ですが、それぞれ園によって仕様が違うのでそうもいかないんですよ。

保育園で舐められないようにと高級ブランドで持ち物を揃えた一騎たち。でも、ただ買えば終わりだと思ったら大間違い。保育園に持っていく持ち物すべてに(タオルにも、お着替えのパンツやシャツにも)全部一つひとつ名前を書かなきゃいけないんです。そこにお値段は関係ありません。というか、高級なものならなおさら、ちゃんとお名前を書いておかなきゃいけないんです。

他の子の持ち物とごっちゃにならないようにするため仕方ないわけですが、でもやっぱり持ち物全部に名前を書くって面倒くさいんですよ。しかもお昼寝布団には名札を縫い付けてとか、お手拭きタオルには紐を付けてとか指定されたりして裁縫が必要な場面も出てきます。仕方なく裁縫道具を買いに行っている間に、零がミリちゃんにも手伝わせたせいで奮発したブラウス全体に大きく名前を書かれてしまったり、慣れない裁縫で手が傷だらけになったりと、保育園の用意で四苦八苦している一騎の姿には、息子を保育園に通わせている時のことを思い出して共感しまくってました。

そんな苦労をして保育園の用意をしたものの、気合が入りすぎたオシャレなお洋服のおかげでミリちゃんはお友達と気軽に遊べず、なかなか馴染めません。少しずつ元気がなくなっていってしまうミリちゃんを心配そうに見守る一騎。見ているこちらまでシュンとしてしまいます。

そこで杏奈先生が紹介してくれたのが、明らかに西松屋がモデルのお店「ニジマスヤ」! 子どもに特化したGUやしまむら的な感じのお店なんですよ。高級ブランドとの値段のあまりにも大きな落差差に一騎も零もお金の感覚がバグって大量に買い込んでいましたが、ホントこれ理解できます。300円とか400円くらいで服が買えるのがうれしくて、彼らと同じように、私も両手いっぱいに服を買い込んでいた経験がありますから。その後には漏れなく大量に買った物に名前を書く作業が待っているのではありますが…。

こうして泥んこになろうと気兼ねなく遊べる服を着て登園したミリちゃんですが、お友だちに声を掛けるのをためらっている様子。それを見た一騎は、園庭に転がっていたボールでリフティングをするなどして子どもたちの興味を惹き一緒に遊んであげて、ミリちゃんが自然と友だちの輪に入れるような気遣いを見せるんですよ。

これまでずっと自分たちの都合でミリちゃんを保育園に入れなければと四苦八苦していた一騎。確かに生活するためには働かなくてはなりませんから、ミリちゃんには保育園に入って欲しいわけですよ。でも保育園で過ごす時間がミリちゃんにとって辛いものでは意味がありません。朝預けてお迎えは夕方。通園している子どもは、とても長い時間を保育園で過ごすことになります。ミリちゃんには保育園でお友達や先生たちと楽しく過ごして欲しいという親心が一騎の心の中に芽生えていることが感じられます。

ミリちゃんを手元に置いて育てていくことを決め能動的に動いていた一騎でさえ、ミリちゃんの父親らしくなっていくのは一歩ずつ。家族がどういうものかわからない零にとっては、その一歩を進んでいくことも大変です。一騎に引っ張られていくように、少しずつミリちゃんの父親となっていこうという気持ちが頭をもたげていくことになります。

ということで、次回は『バディ・ダディズ』の5〜8話のストーリーについて語っていきたいと思います。

 

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