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同人作家が官能小説を書いた時のあれこれを語りたい (2)

前回は二次創作のR18な小説を書いていた私が官能小説のアンソロジーに参加することを決め、書き始める準備を進めていくまでのあれこれを語りました。前回に引き続き、今回は官能小説を書き出してからのあれこれを語っていきたいと思います。

 

一次創作の醍醐味

話の大筋やある程度の設定も決まったので、いよいよ執筆開始となるわけですが、意外とこれがスムーズにはいかないものなんですよね。

最初の時点での私の目論見としては、せっかく官能小説のアンソロジーに参加するのだから、不感症&セックスレスに悩んでいた主人公の深雪さんが大人のオモチャを使って自分を慰めるうちに快感を覚え、我慢しきれず夫の涼也さんを襲っちゃうくらいの勢いにしようとしてたんです。ノリノリのエロい話を書いちゃおうと思ったんですよね。

でもいざ書き始めてみると、深雪さんは想定以上に内気だし、セックスレスのことをめちゃくちゃ真剣に悩んでるのにセックスに消極的だし、思ったよりシリアスになってしまったんですよ。悶々と悩んでいる深雪さんの様子に「これは大人のオモチャとか買う人じゃないな」と自分で生み出したキャラクターとはいえ認識を改めねばならない状況に。

緻密なプロットを構築して、最後まできっちり書き進めていかれる方もいるでしょう。でも書き進めていくうちに、最初に考えていたコースから少しずつずれていってしまうということの方が多いんじゃないかなと思います。言うつもりのなかった言葉が口をついて出てくるみたいに、気づいたら自分でも予想してない言葉が書き連ねられていて、ちょっとストーリーが思っていたのとは違ってしまってあれ? ってなっちゃうということがまま起きるんですよ。

これが二次創作だと、原作に正解があるのでキャラクターの性格や言動にそこまで悩むことは起きません。これは無しだなと思い切れるので、軌道修正も簡単。例えば罰ゲームで女装することになったとします。開き直ってノリノリで気合い入れて女装するか、「できないのかよ」と煽られたことにブチギレて女装するか、散々逃げ回った挙げ句に捕まって女装させられるか。行動の違いに性格が反映されますよね。「この場面ではこんな行動をした」というエピソードが原作からいくつも与えられていることでキャラクターへの理解はすでに深まっている状態ですので、「こんなシチュエーションでは、きっとこうするはずだ」とそれぞれが自由に想像しても、全くの別人のようになってしまうことって無いんですよ。

でも一次創作では作品を生み出しているのは自分自身。キャラクターのエピソードを自分で考えていくので、当然それに対する解答も自分自身で決めることになります。罰ゲームで女装させられることになったらそのキャラクターがどうするのか、その解答を決めていくためにも、そのキャラクターがどんな性格でどんな経験をしてきた人物なのかを深掘りしてしっかり作り上げていくのは、ほかでもない自分自身です。

何度もキャラクターについて考えることになるので、書き進めていくにつれて作品の中に出てくる人物たちの内面が豊かになり、自分が初めのうちには考えていなかったようなキャラクターが出来上がっていくんです。そうしてキャラクターが自分の意思を超えて動き出す瞬間、これが一次創作の醍醐味なんですよね。

 

二次創作のR18小説との違い

深雪さんはどうして不感症になってしまったの? 今まで涼也さんとのセックスは気持ち良かったの? 不感症だしセックスは好きじゃないけどセックスレスになるのはイヤなの? 

深雪さんのセックスに対する気持ちや経験がどんなものなのか、私は首をひねり脳みそを絞り上げて考え続けましたよ。

自分で生み出したキャラクターだとはいえ、深雪という名前しか知らない他人のセックスに関することを真剣に考えるとか、そうそう無いですよ。でも深雪さんについて、輪郭から細部に至るまでとことん考えていきました。なんてったって、自分の生み出したキャラクターですから、私が一番の理解者になってあげなくては。

深雪さんがここまで悩むのは何か他にもコンプレックスがあるのではないかということで、夫婦の年齢の設定を深雪さんが涼也さんより年上に変更。また、深雪さんがセックスに良い感情を持っていないのは、涼也さんと出会う前に付き合っていた男性とのツラい経験がずっと尾を引いているからなんじゃないかと考え、そのエピソードを練ることに。

けれど私が深雪さんのことを考えるほど、彼女の中のセックスに対するネガティブな思いが膨らんでしまい、夫の涼也さんと気持ち良いセックスができるようになるためのハードルが上がっていっちゃったんですよね。私は深雪さんに最後には夫婦のセックスで気持ち良く幸せになって欲しくて書いてるはずなのに……困った……これではいつまで経っても深雪さんはセックスについて悩んでるだけで終わってしまうのでは? これはマズイ……。

そこでセックスに対してポジティブな性格の友人の有華さんをご用意。グジグジと悩んでいる深雪さんにバシッと発破をかけてもらうことに。有華さんにお説教をくらった深雪さんがセックスの悩みを解消するために行動を起こすことで、強制的に物語を前に進ませました。

 

これでようやくエロが書ける!

 

ほっとしたのも束の間。ここでまた大問題が発生してしまったんですよ。せっかく話が動いてエロを書けるところまで来たというのに、急に恥ずかしくなって書けなくなっちゃったんですよね……。

二次創作で推しCPのR18な小説を書いてきたわけですし、官能小説でラブシーンを書くのなんて平気だろうと軽く思っていたんです。でも二次創作と一次創作とではエロの書き方というか、アプローチの仕方、向き合い方が全然違っているんですよ。

普通は何か作品を鑑賞して感動して「大好きだ!」となったとしても、家族や友だちに感想を話したりTwitterに投稿するなどすれば、だいたいは満足できちゃいますよね。

でも、原作にドップリとのめり込み作中に登場するキャラクターたちに抱いてしまった大きすぎる愛が溢れて感想を誰かに伝えるなんてものだけでは収まりきらず、この気持ちをどうにかしなければ死んでしまうくらいの勢いで生み出されるのが二次創作なんです。わざわざ睡眠時間を削って原作には絶対描かれないキャラクターたちのエロの妄想し作品として創作するなんて、熱に浮かされちょっと正気を失っているくらいでないと、やらないしできないですよ。取り憑かれちゃってるとでも言ったほうがいいくらいですね。

当然うまく書けなくて悩んだりもしますが、推しCPのこんなエロを描くぞ!って感じで、自分自身の妄想が後押ししてくれるんですよ。

ですが、一次創作は全く逆なんです。「ゲヘヘヘ」なんて鼻の下伸ばしてニヤニヤ笑いながら書いてるわけじゃなくて、「がっつりエロいのを書いてやるぜ!」と熱く思いながらも頭の中に俯瞰して見る冷静さも常に存在し続けているんです。というより、ある程度冷めた部分がないと書けないんですよ。

二次創作では原作を介して自分と共通認識を持っている方が読んでくれているので、読みながら頭の中で足りない部分を補完してくれることをある程度は期待できます。確かにそのキャラクターならムードを大事にしそうだなーとか、すでに作られ共有されているキャラクターに対するイメージがあるため、共感してもらえるポイントがスタート時点から多くあります。だから熱意に任せて書き進むことができます。

しかし一次創作では、読む方はその物語の世界に初めて触れるのですから、共通認識なんていう前提そのものがありません。書いている本人が意識して共感してくれるポイントを作っていかなければならないんですよ。

今ようやく書きたいとずっと思っていたごく普通の夫婦のセックスを書ける機会をもらっているんです。文章を書くのが楽しいという情熱に身を委ねながらも、セックスの描写の中にも深雪さんの気持ちを感じてもらえるか、ちゃんと夫婦のセックスになっているか、そんな意識が常に頭の中にありました。読んでくださっている方に(私がネガティブな設定を目一杯盛り込んでしまったこともあって)セックスに対して頑なになってしまっている深雪さんが少しずつ前向きな気持ちになっていく様子を応援してほしいし、夫の涼也さんとのセックスで一緒に気持ちよく幸せな気持ちになれたことを良かったなと思ってもらいたいですから。

しかも私が寄稿するのは官能小説のアンソロジー。深雪さんと涼也さんの夫婦にほっこりしてもらうだけではなく、読んでくれた方に少しでもエロさを感じ取ってもらえるように意識して、行為中の動作をただ羅列するだけに終わってしまっていないかを注意しつつ、喘ぎ声や会話も含めてセックスにフォーカスされるよう描写をできるだけ具体的にしていきました。

つまり一次創作の官能小説でエロを書いている人たちは書くことを楽しんでいつつも、頭の片隅では冷静さを保ちつつ真剣に真面目にエロを仕込んでいるわけです。「こう言わせた方がエロいんじゃないか」「この行為の方がエロいんじゃないか」とアイデアを絞り出し、「もっとエロい描写があるはずなのに!」と頭を抱えていたりするわけですよ。なぜなら、官能小説を書く人と読む人にとっての共感のポイントは「エロ」なのですから。

 

振り返って思うこと

ごく普通の夫婦のR18な話が書きたくてチャレンジした官能小説。官能小説のアンソロジーに参加することで、セックスに対してネガティブな気持ちを持っていた主人公の深雪さんが夫の涼也さんとだからセックスしたいんだと自分の気持ちに向き合い、夫婦でちゃんと気持ちよくなれるところまでを書くことができて、自分的にはスッキリしてます。深雪さんを悩ませすぎちゃってかわいそうだったなとか後半のエロにもっと比重を置けた方が官能小説らしい官能小説になったのになとか、アンソロジーに寄稿した他の作家さま方の作品に混じると浮いてしまってるんじゃないかとか、いろいろ思うところはあります。でもとにかく真剣に自分が生み出したキャラクターである深雪さんのセックスについて考えまくって書いた文章ですし、これが私なりの官能小説の形なんだなと思います。

官能小説を自分で書いてみて、意識をしてエロを書くって思っていたよりも難しいなーということ、そして書いている人は真剣にエロと向き合っているんだなということを身をもって知りました。ジャンルが何であれ、作品を生み出している人ってやっぱりすごいなって感じられた経験でした。