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『Buddy Daddies バディ・ダディズ』について語りたい③ストーリー中編 5〜8話

皆さんは『Baddy Daddies バディ・ダディズ』(以下『バディ・ダディズ』)という作品をご存知ですか? この作品は2023年1月からTOKYO MXなどで放映されていたP.A.WORKS制作のオリジナルアニメ。殺し屋である一騎と零がバディとして仕事と子育てに励みながら、彼らなりの「家族の形」を見つける物語です。

前回は1〜4話までのストーリーについて語りましたが、今回は5〜8話までのストーリーについて語っていきたいと思います。

PIECE OF CAKE

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  • 豊永利行
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零パパとミリちゃん

零パパとミリちゃん

 

父親という自覚

一騎と零が2人でミリを育てていこうと決意してからの物語は、彼らが殺し屋稼業でバディを組んでいることも、ミリちゃんは彼らが殺したターゲットの娘であったということも、観ている私たちに忘れさせようとするように、3人の日常生活にフォーカスをグッと絞って描かれていきます。

 

5話

保育園で保護者の職業を調べて発表することになったミリちゃん。家をこっそり抜け出し、1人で出掛けた一騎を尾行しているところで久太郎と出会います。久太郎から一騎と零のお仕事について教えてもらったミリちゃんは、もちろん素直にそのまま発表。ママ友たちの間に衝撃が走ってしまったりする5話。

久太郎はミリちゃんが来てからの一騎と零の変化を一番感じている人物ですが、表向きは喫茶店を営みながら彼らに殺しなどの依頼を仲介しており、裏組織とのつながりも持っています。そんな彼がミリちゃんにどんな態度で接するのかとハラハラもしましたが、とても優しくて紳士的でした。一騎たちに厳しい言葉をかけはしますが、少なくとも3人の敵ではないことがわかってホッとした回でした。

 

6話

ミリちゃんが保育園でお友だちとケンカをしたと杏奈先生から報告を受け、将来不良になってしまうのではという不安に駆られた一騎は、しつこくケンカの原因を聞き出そうとしてミリちゃんに嫌われてしまいます。機嫌を直してもらおうと張り切って遠足お弁当を作るも、持たせるのを忘れてしまい、ミリちゃんに気づかれないようこっそりお弁当を届けようとする一騎と零。そこに不審な男が現れてミリちゃんが大ピンチ! になってしまったりする6話。

ミリちゃんに対して父親らしくあろうと張り切りすぎて空回る一騎とそんな一騎に呆れつつも一緒に行動している零が対照的で楽しい回。一騎たちがいないところでも、ミリちゃんは本当に良い子でした。

 

7話

家でただゲームをしているだけの零にミリちゃんはベッタリ。一騎は1人で家事のすべてをこなして疲れ果て、あまりの報われなさに気持ちも萎えていきます。零と2人でミリちゃんの父親になるはずだったというのに、まるで2人の子どもの世話をしているような状況になっていることにキレた一騎は、置き手紙を残して家を飛び出してしまいます。家のことすべてを一騎に任せきりだった零は保育園の用意すらままならず、ミリちゃんが熱を出してしまってもどうしていいかわからない始末。一方、一騎は過去のことを思い出していて、という7話。

この回では、1人でミリちゃんの世話をすることになってしまった零の様子を描く一方、いつも飄々として明るい一騎が、妻と生まれてくるはずだった子を失った過去を引きずっていることが、義理の妹かりんとの会話によって表現されています。かりんとの関係がかなり良好なところを見ると、一騎は妻とその家族を大切にするかなり良い夫だったのでしょう。そんな彼が妻を失った悲しみは、表に出さない分深かったんだろうなと感じました。

 

5〜7話では、保育園の準備で思いのほか散財してしまって家計簿をつけながら頭を抱えていたり、絶えず炊事洗濯に追われて疲弊しているところに追い討ちを喰らってブチギレて家出してしまったりする一騎を見ていると共感しかなくて、もはや同志のような気持ちになってしまっていました。こういうのって蓄積なんですよね。小さな不満を溜め込んで溜め込んで一気に爆発するんです。家事に追われてげっそりした一騎の表情。確かにあんな感じになるよなって同情しちゃいますよ。

しかしその一方で零はというと、特に手伝うこともせずにゲーム三昧。一騎はミリちゃんの将来のことまで想像して心配したりするなど、この先ずっと父親としてミリちゃんを育てていくことに腹をくくっているように見えるのに対し、ミリちゃんと一緒にゲームをしたり食事の好き嫌いを主張したりと、零は親というよりミリちゃんのきょうだいやお友だちのような感じ。殺し屋の仕事に特化しすぎて生活能力がまるで無く、もともと家のことは一騎に甘えてきた零。とはいえ、ミリちゃんと暮らすようになり勝手の分からない事ばかりの生活を送ることになったというのにまるで変化が見られないのですから、一騎がブチ切れるのも無理はないですよね。

たぶん、今までの一騎と零の2人の生活は、同居してはいますが仕事以外の時はお互いあまり干渉せずにそれぞれ自由に過ごしていたんだろうと思うんです。生活リズムが合わなそうですし。でもそれは大人2人だけだから成立するんですよね。小さな子どもが1人でも加わってしまうと、自分のことだけ考えて気ままに過ごせる時間ってほぼ消滅するし、日常生活でも話し合ったり分担したりしなければいけない場面がたくさん出てくるようになります。イヤでも大人2人が協力しないと、生活が上手く進んでいかないんです。

親の顔を知らないとは言っていますが、一騎には妻と一緒に家庭を築いていこうとした経験があります。しかし零は一騎より歳下ということもありますが、生まれ育った環境からも自分が誰かと家庭を持つということを想像したことさえ無いんじゃないかと思うんです。父親をボスと呼び殺し屋として鍛えられてきた零。一騎とはそもそもスタートラインが違うんですよね。

 

訪れる転機

そんな零が大きく踏み出すことになるのが8話です。

朝から身支度を整えて組織のボスである父親に会いに行った零。父親は組織を継ぐために家に戻ってくるよう零に迫り、さらに組織の裏切り者の男を殺すように命じます。見覚えのあるその男は、かつて零と組み、彼に武器の扱いや仕事の仕方を教えた梶でした。

零の誕生日をお祝いをしようと、家でパーティの準備をして帰りを待つ一騎とミリちゃん。しかしその頃、零は組織を裏切って逃亡しようとしていた梶を始末するため、死闘を繰り広げていました。激しいやり合いの末に梶は命を落とし、ボスである父の命令を遂行しますが、組織を裏切ることを決めた梶の言葉を聞いた零の心は大きく揺らぎます。

いつまでも帰ってこない零の居どころをGPSで特定し、強引に車に乗せて家に連れ帰る一騎。その車内、零は一騎にそして自分自身に「俺たち、変われるのか?」と問いかけるんです。

裏組織のボスである零の父親は、一騎を「下賤」だとか「腕が三流」だと評し、諏訪家の人間である零とは流れる血が違うと言わんばかり。さらには「藪の中の茨」とも言い放ち、零に家に戻って後を継ぐように迫っています。

零の父親が口にする「藪の中の茨(うばら)」って言葉、あまり聞きなれないですが、その意味は「朱に交われば赤くなる」と同じ。藪の中では茨はまっすぐ伸びることができない、つまり手塩にかけて一人前の殺し屋に育て上げたはずの息子が家を出て一騎と暮らすようになってから殺し屋としての腕を落としているのだと、零の父親は腹に据えかねているんです。さらに、わざわざかつてのバディであり師匠のような存在でもあった梶の始末を零に命じることで「息子でも組織を裏切れば命は無い」「一騎を始末して家に戻れ」くらいの脅しを畳み掛けているわけで、零の父親がどれだけ一騎の存在を邪魔だと思っているかが感じさせられます。一騎はミリちゃんに零の父親のことをおっかないと説明していますが、そんな生ぬるい言葉ではとても釣り合いませんよね。でも一騎はミリちゃんの母親のことを悪く言わないように、零の父親についても悪くいうことはしません。一騎のそういうところ、とても好きです。

ボスの命令は絶対。足抜けなんてできるわけがない。しかし零にとって、一騎とミリちゃんと過ごす今の生活は大切で失いたくないものとなっています。だからこそ零は、家に戻れという父親に時間をくれと答えを濁し、愛する女性といきていくために組織を抜けようとした梶の言葉に激しく心を揺さぶられたんですよね。

家に帰る車内で、出会った頃の互いの印象などをそれぞれ語り合う一騎と零。一騎と出会う前までの零はすさんだ生活をしていた様子の零。しかし一騎がゴミだらけの部屋をきれいに片付け、風呂に入れたり髪を切ってやるなどして身支度を整え、手作りの食事を用意してくれたことを「悪くなかった」と言っています。

ただ命じられるままに人を殺すだけの自分をどうにかしたくて、きっと零は家を出たのでしょう。しかし殺しか教えられてこなかった彼は、その後に何をしていいかわからないでいたんです。一騎と出会って共に暮らすようになったことで初めて、零は「普通の人間として生活する」ということを知ったんですよ。一騎は零の家に居候として住み着いた形にはなっていますが、目が死んでいてゾンビみたいだったという零のことを放ってはおけなくなったんじゃないかと思うんです。そんなお節介的なところも含めて零には初めての経験だったはず。一騎が殺人マシンのようだった零に、人として血を通わせたんですよ。

このことがあったからこそ、これからミリちゃんと暮らすという一騎の決断を、零はすんなりと受け入れたんじゃないかと思います。そして一騎が連れてきたミリちゃんと一緒に暮らすことになって、零は「誰かのために自分から行動をする」ことを経験していくことになったんです。

一騎と一緒にいることでもたらされた自分の中の変化は、零にとって「悪くはない」もの。たとえ裏組織の後継者ととして零を育ててきた父親からは疎まれても、殺し屋としてではなくひとりの人間として変わっていく自分を、零自身は選ぼうとしています。

「俺たち、変われるのか?」という零の言葉。それは、零が一騎とミリちゃんと共に3人で生きていきたいと心から思い始めた証なんです。

 

物語の中盤ということで、喫茶店を営みながら裏組織の依頼を一騎たちに仲介している久太郎や一騎の妻の妹のかりん、零の父親である組織のボス、諏訪家に雇われている殺し屋の小木埜といった、一騎と零を取り巻く人物とのエピソードによって、彼らのそれぞれのバックグラウンドが描かれました。

一騎はいつまでも妻を亡くした悲しみに浸るのをやめて、これから続いていく零とミリちゃんと3人での日々に目を向けることを心に決めます。しかし零は、3人での生活を選ぶのか跡取りとして組織に戻ることを選ぶのか、保留にしただけで最終的な結論はまだ出してはいません。一騎は自分の心の問題でしたが、零には組織のしがらみがあります。零は父親と組織とどのように決着をつけるのか、この後描かれていくことになります。

 

ということで、次回は『バディ・ダディズ』の9〜12話のストーリーについて語って言いたいと思います。

 

buddy-animeproject.com