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『Buddy Daddies バディ・ダディズ』について語りたい④ストーリー後編 9〜12話

皆さんは『Baddy Daddies バディ・ダディズ』(以下『バディ・ダディズ』)という作品をご存知ですか? この作品は2023年1月からTOKYO MXなどで放映されていたP.A.WORKS制作のオリジナルアニメで、殺し屋である一騎と零がバディとして仕事と子育てに励みながら、彼らなりの「家族の形」を見つける物語です。

前回は5〜8話までのストーリーについて語りましたので、今回は9から最終話である12話までのストーリーについて語っていきたいと思います。

PIECE OF CAKE

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  • 豊永利行
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零パパとミリちゃん

零パパとミリちゃん

 

ミリの幸せを

一騎と零、それぞれの目線でこれまでの物語を振り返るインターミッションを挟んで、いよいよ物語は終盤に突入していきます。

9話はミリちゃんの保育園の運動会のお話。気合十分なミリちゃんですが、初めて子どもの運動会に参加するということで張り切っているのは一騎と零も同じ。一騎がお弁当作りに励んでいるだけでなく、零は誰も近寄れないようガッツリと場所取りをし、さらにはおにぎり作りにもチャレンジ。

今までは一騎がミリちゃんのためにいろいろと動き、零はそれに後からついていくような感じでしたが、8話での父親や梶との会話を経て、ようやく零も自分から積極的に動くようになったんですよ。進歩! 成長! よしよしって感じです。

保育園は0歳から5歳のクラスがありますが、運動会ではそれぞれの年齢でできる競技を先生方が考案してくれます。例えば0歳さんクラスではゴールのところにいるパパママのところまでハイハイで競争したりします。先生の指示で整列したり、みんなで踊ったり、真剣な顔で競技に臨んだりする子どもの姿を見ると、けっこう胸にグッとくるものがあるんですよね。

ミリちゃんがかけっこで金メダルを取ると意気込んで練習していたことを、一騎も零も知っています。当然一騎は大きな声で応援しますが、零はなかなか声を出すことができません。

諏訪家の御曹司である零は殺し屋として純粋培養されて、ごく普通の家庭の子供が経験するようなことから隔離されてしまっていたんじゃないでしょうか。今まで誰かを応援すること自体、零には経験が無かったことかもしれません。でも一生懸命に走っているミリちゃんの姿を見て、零が何も感じないわけはないんです。

始めはつぶやくようだった声は少しずつ大きくなっていき、最後には一騎も驚くほどに声を張り上げてミリちゃんに声援を送る零。ミリちゃんは惜しくも金メダルは取れませんでしたが、いつも物静かな零の精一杯の声援は特別うれしかったはずです。そして最後の借り物競走で「かぞく」の紙を引き、一騎と零の手を取って走り出すミリちゃん。この3人の微笑ましさったら極上です。

このままいつまででもこの「家族」が幸せに過ごしているのを見守っていたい! と強く思わせてからの10話では、一騎と零の前に突然ミリちゃんの母親の美咲が現れるんですよ。そうです、彼女はミリちゃんを取り戻しに来たんです。

ガンで喉を手術し、店を解雇され男にも捨てられてしまったという美咲。ミリちゃんと真面目な生活を送りたいと訴えられ、猛反発する一騎と零。今さら一緒に暮らしたいと言い出すなんて、調子が良すぎますよね。でも、今までの自分を振り返った時に、ミリちゃんに親らしいことを何もしてあげられていなかったと深く後悔したというのは、美咲に愛情がある証拠でもあります。

一騎と零は、ミリちゃんとの間に血の繋がりなどなく、赤の他人同士でしかありません。さらには2人は殺し屋という裏稼業を生業としている日陰者。ミリちゃんと一緒に暮らしていることは組織にも把握されており、一騎と零と共にいることはミリちゃんのこれからにとってマイナスにしかなりません。一騎に説き伏せられ、零も美咲の元にミリちゃんを返すことに同意します。寄せ集めの偽物家族で暮らしていくよりも、血の繋がった実の母親と暮らしていくことがミリちゃんにとって幸せだと2人は結論を出したんです。

一騎たちからの「サプライズプレゼント」として現れた美咲に、駆け寄り抱きつくミリちゃん。美咲の元にミリちゃんが帰ってしまえば、きっともう二度と会うことはできないでしょう。元気でいろよとミリちゃんに伝えて別れを惜しみたい気持ちが無いはずがありません。でも一騎も零も、ミリちゃんには笑っていて欲しいんです。別れるのではなく、母親と一緒に過ごす生活をミリちゃんにプレゼントすると表現したところに、一騎と零の優しさと精いっぱいの強がりが感じられます

一騎も零も普通の家族を知らず、ましてや子どもを育てるなんて何ひとつ分からないながらも、試行錯誤をして自分たちなりにミリちゃんに愛情を注いできました。ミリちゃんは、一騎は失った妻子と共に過ごすはずだった未来を、零は幼い子どもとして無邪気に過ごせなかった過去を、それぞれ補完してくれる存在だったんですよね。一騎たちの胸の中にはそんなミリちゃんとの日々に、感謝の気持ちもあったんじゃないかと思います。

 

家族のかたちは

ミリちゃんが美咲の元に帰っていってしまい、静まり返った部屋。喪失感を埋めることはできず、零は諏訪家に戻ることを決め、一騎もマンションを出ていくことに。ミリちゃんが来る前から2人でここで生活していたはずだというのに、ミリちゃんがいないと一気にみんなバラバラになってしまう様子が本当に切なくなります。

家に戻った零は、身辺整理として美咲とミリちゃんがターゲットにされていることを父親から知らされます。零がミリちゃんに愛着を持っている状態では殺し屋として支障が出ると見なされたのです。動揺し、ミリちゃんを見逃すようにと必死に頼む零。しかし父親は彼の言葉を一切聞き入れようとはしません。零から連絡を受けた一騎はミリちゃんが美咲と住むアパートに急ぎますが時すでに遅く、零の父親から指示を受けた小木埜によって美咲は腹部を撃たれてしまっていました。自身も肩を撃たれながら、小木埜からミリちゃんを守ろうとする一騎。久太郎の機転によってどうにか難を逃れることはできましたが、美咲を救うことはできませんでした。

実の父親だけでなく母親まで失ってしまったミリちゃん。久太郎に匿ってもらい、この先ミリちゃんをどうするべきか話し合いを始める一騎と零。ミリちゃんの今までの痕跡を消し、別人としてどこかの施設に預けようと提案する一騎に対し、零はミリちゃんを引き取りたいと口にします。ミリちゃんのためにも自分たちとの関わりを断つべきだと考える一騎。自分たちがミリちゃんを守っていくべきだと譲らない零。これまでと2人の関係が逆転していますよね。

ミリちゃんが普通の幸せを得られるようにと願っても、自分が諏訪家の人間である限りミリちゃんを守ることはできないのだと思い知った零は、自分が諏訪家を断ち切ることを決めます。こんな積極的に我を通そうとする零は初めてですよね。その熱意に負けた一騎は、零と2人で殺し屋を廃業すると久太郎に宣言。なんと組織を抜けることを「直談判」するため、零の父親でもあるボスのいる屋敷に向かうことにするんですよ。

息子とはいえ足抜けなど許されません。「話し合い」のために屋敷に向かう一騎と零ですが、ボスに歯向かう者に容赦はありません。もちろん組織の裏切り者となったわけですから、一騎と零も平和に話し合いができるなんてことは微塵も思ってはいません。屋敷の中で繰り広げられる激しい銃撃戦。そこで一騎は再び小木埜と相まみえることになります。

この小木埜って男が怖いんですよ。零に関わる人間の身辺調査や殺しの依頼を受けていることから零の父親からその腕を信頼されているのだとわかりますが、それ以上に怖いのが彼の言動。殺しは答え合わせだと言い、ターゲットとなった人間の最期の言葉をメモして集めている小木埜。つまり、彼は人が死にゆく様子を観察するのが好きなんでしょう。きっと小木埜にとって殺しは、仕事であり楽しみでもあるんです。

そんな小木埜との対決シーンはかなりシリアス。小木埜は美咲のアパートで一騎を撃ったその傷口に親指を突っ込んでグリグリするような奴です。この屋敷での対決でも小木埜に押されて一騎はピンチに。しかし一騎と零はさすがの連携で、苦しみながらも小木埜を倒します。

「倒します」ってサラッと書いてはいますが、そのトドメの刺し方がけっこうエグいんですよ。ミリちゃんを狙った奴には容赦なく牙を剥く感じ。やっぱり一騎も零も殺し屋なんだなぁと改めて思わせられました。小木埜は狙った獲物が悪すぎましたね。

屋敷内の銃撃戦を制し、いよいよ組織のボスである零の父親との直接対決。ですが、零はこの先は自分たち親子の問題だと言って一騎を待たせます。一対一で向き合い、組織のボスと部下としての、諏訪家の当主と後継者としての、そして父親と息子としての結びつきを断つ、その決断に至った理由を静かに父親に語っていく零。それはすべて一騎とミリちゃんと3人で過ごした日々の中で零が感じたことなんですよ。普段は物静かで言葉少ない零が、胸の中でこんなにも一騎とミリちゃんと過ごす日々を大切に思い、3人での生活を渇望していたのかと胸が震えるシーンです。うるっとさせられましたよ。

が、同じくらいに私が感激したのが、このシーンで零も父親も銃を向け合い対峙しながらも、「親殺し」「子殺し」がなされなかったこと。激しい銃撃を受けても、零は父親に胸の内をさらけ出し、理解されないのを承知でそれでも言葉で伝えようとします。そして銃口を今まで何人も殺してきた自分の右腕に向けるんです。父親の望む息子であることを止め、1人の人間として自分の意志で生きていくことを決めた零の強い気持ちが感じられます。去ろうとする息子の背に銃を向けながらも、撃つことができなかった父親。形は歪ではあっても、やはり彼らは親子だったのだなと深く感じ入りました。

こうしてミリちゃんと3人で生きていくことをつかみ取った一騎と零。物語は10年後の彼らの姿で終わります。騎と零はたっぷり愛情を注いでミリちゃんを育ててきたのでしょう。月日が経っても3人の仲の良さは変わることがありません。見終えて、温かい気持ちになれる素敵な作品でした。

 

ちょっとだけ蛇足を

この『バディ・ダディズ』、ラストで10年経っても変わらず一騎たち3人が本当の家族として共にいますが、それを当たり前のこととして描かれるってけっこう凄いことなんじゃないかと思うんですよ。

だって一騎と零がバディを組むだけでなく一緒に暮らしていたり、2人でミリちゃんを育てていこうと決意して奮闘したり、ちょっと演出のさじ加減を変えれば、BLっぽくもなっていく要素はたっぷりありますよね。しかしこの作品の中で一騎と零の間に恋愛的な感情があるような描写は一切無く、そんな雰囲気も感じさせられることもありません。だってそんな描写は必要ないんですから。

一騎と零は殺し屋としてバディを組んでいることで、お互いの命を預け合う一蓮托生の感情を抱いています。さらには、一緒に暮らしていくことでそれぞれの過去や環境によって背負わされた孤独を理解し合ってもいます。バディとしてだけでなく仲間として友人として疑似家族として、ミリちゃんが来る前からすでに一騎と零の間には他の誰よりも深い繋がりが築かれていたんですよね。

一騎は妻子を失った悲しい過去を、零は裏組織のボスである父親との歪な親子関係を乗り越え、彼らはひたすらミリちゃんへ愛情を注いでいきます。ミリちゃんを引き取って3人で「本当の家族」になろうとする一騎たちの姿に一喜一憂するほど感情移入できたのは、「家族」というテーマから物語の描写がブレることがなかったおかげだと思うんですよね。

『バディ・ダディズ』というタイトル、これだけで一騎と零の関係性も彼らが求めているものと物語について的確に表現されている素晴らしいタイトルだと思っています。