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BL『からまり片結び』について語りたい

皆さんは志木見ビビ先生『からまり片結び』という作品をご存知ですか? 催淫成分を持つ実を付ける蔓植物エスカズラによって領主の息子マオと元使用人で幼なじみのテンマの関係が変化していく様子を描いた物語です。

ということで、今回はこの『からまり片結び』について語っていきたいと思います。

性描写がある作品なので、未成年の方はごめんなさい。大人の方だけこの先をお読みくださいね。

ネタバレを含みますのでネタバレ苦手な方は注意してお読みください。

 

 

媚薬の素エスカズラ

この作品の主人公であるマオは、領主の息子。身分も良い上に頭も良くて剣の腕も立ち、さらにはキレイな顔立ちということで女遊びには困らない様子。

普通のセックスに飽きてしまったマオは、媚薬を手に入れるために、昔屋敷で自分の付き人をしていたテンマの営む薬屋を訪ねます。が、当然取り扱いはなし。ということで、媚薬の原料となるエスカズラなる植物の採取に2人で向かうことになります。

テンマによると、エスカズラは蔓を操り動物を捕まえて、強い催淫成分を持つ実を無理矢理食べさせるという、なかなかにアグレッシブな性質を持つ植物。たまーに人間も襲われてしまうとのこと。

はい、皆さん。すでにお解りですよね。テンマのそばを離れて1人歩いていってしまったマオは、案の定エスカズラの餌食となってしまいます。

触手のちょっと太めで粘液に塗れてヌルヌルした感じが個人的にすごく好きなので、植物の蔓は細いしヌルヌルも無いので、ちょっと物足りないかもと思っていましたが、心配無用でした。

無数の蔓に体を縛られ身動きできない状態で、催淫成分たっぷりの果汁に満たされた水風船のような実を無理矢理口に押し込まれてしまうマオ。それだけでは終わらず、次々と伸びてきてはマオの身体に絡みつき、服の中に次々と侵入していく蔓。エスカズラの果汁と汗で身体を濡らしながら、蔓に弄られ感じさせられているマオの姿がすごく良いんです。

エスカズラに襲われ気を失っていたマオは、テンマに助けられ無事屋敷へ。しかしエスカズラの催淫成分をたっぷり浴びたせいで、マオの身体には異変が起きてしまっていました。

それは発情と勃起不全。

催淫成分のせいで性欲はこれまでの数倍になっているにもかかわらず、EDになってしまっては女性を抱くこともできません。マオは、朝昼晩とこまめにお尻で発散させるようにとテンマに言われてしまいます。

仕方ないとはいえ、それまで女性を相手にしていたマオにとってはかなりのハードルです。どうしても自分でお尻を弄ることができないマオ。発情状態が続いて苦しい上に、エスカズラの成分が皮膚に塗り込まれ、ちょっと触れられるだけでふるふると悶えてしまうほどに皮膚の感覚が敏感になってしまっています。これでは日常生活もままなりません。耐えかねたマオは、自分の代わりに「処理」をしてもらうため、テンマに屋敷に戻るように命じます。

ここで問題なのが、テンマがマオに好意を抱いているということなんです。

 

生殺しなんて耐えられない

マオが友達感覚でテンマに接しているので主従関係はゆるゆるではありますが、領主の息子の命令には逆らえないし、マオがエスカズラの催淫成分のせいで苦しそうにしているのは一緒に採取しに行った自分にも責任が無いわけではないし、何より自分が思いを寄せている相手から助けを求められているのですから、断れるわけがありませんよね。

テンマはマオの頼みを聞いて、出ていった屋敷に再び戻ることに。ですが、それが彼の苦難の道の始まりなんですよ。

対外的にはぎっくり腰になってしまったマオの治療のために、テンマがマッサージをしてあげているということになっています。しかし、実際に彼に課せられた役割は、発情状態になっているマオの側にいて、彼が苦しそうになったらお尻を弄って発散させてあげること。つまり自分が好意を抱いているマオのお尻を、ひたすら事務的に心を無にして弄り、彼を感じさせてあげなきゃいけないわけです。しかもそれを、1日に何度となく繰り返し、エスカズラの影響が消えるまで続けることになります。どれぐらいでマオの体の状態が元に戻れるかわからないため、終わりが見えない苦行です。なんて気の毒。

使用人の子供のテンマは、同い年ということもあり付き人としてマオと共に過ごしてきました。自分の能力を認め、身分の差など気にせずに接してくれたマオに対して、テンマは好意を抱くように。しかしマオは領主を継ぐ人間。叶わない思いに蓋をするため、テンマは屋敷を出ていったんです。それくらいテンマのマオに対する想いは強いものなんですよね。

しかしマオは、テンマが屋敷を出て自分によそよそしくなってしまったことを不満に感じているほど、今でも気の置けない相手だと思ってくれています。発情が抑えられずにいる姿を見せられるのも、自分の代わりにお尻を弄るなんてことを頼めるのもテンマしかいないと、全幅の信頼を寄せているからこそ頼ってくれたわけです。マオのお尻を弄るのは、エスカズラの催淫成分による症状を改善させるための対症療法であり、言わば医療行為のようなもの。自分が指でお尻を弄ってあげていることでどんなにマオが感じて悶えようとも、それ以上の行為に進むなんてことはできません。自分の中に本当はやましい下心があることをマオに悟られてしまうわけにはいかないんですよ。

そんなの、生殺しもいいとこですよね。でも自分に向けられている好意を知らないマオは、テンマに罪作りな頼みごとをしていることに一切気づいていません。彼は本当に純粋に困っているからテンマを頼っているんですよね。そんなマオを「オカズ」にしたら終わりだと、テンマは屋敷にある薬草園で作業をするなどして、どうにかやり過ごしていきます。

しかし誕生日を祝うパーティでたくさんの人に囲まれ接触されてフラフラになってしまったマオを前に、とうとう理性のストッパーが効かなくなってしまったテンマは、いつものように指だけでは終わせられずにマオと体を繋げてしまいます。挿入されたことに混乱しながらも感じてしまうマオ。ことが終わって我に返り青ざめるテンマ。ここまで何も起こさずよく頑張ってきましたよ。むしろやっとこれでテンマとマオの関係が動き出すぞ!って感じ。

テンマもマオも当然それが医療行為なんてものじゃないことは分かっています。テンマがなぜ自分に欲情したのか戸惑い、まともに顔を見ることができないマオ。テンマはあまりの事の重大さに、これ以上はいられないと荷物をまとめて屋敷を出て行く決意まですることに。

いやいや、ちょっと待って! だって自ら獲物を捕らえて催淫成分入りの実を食べさせるなんて優れもの植物のエスカズラを、物語序盤で一度登場させただけで終わらせてしまうなんて、そんなもったいないことは許されませんよ。触手には何度も襲われるべし。蔓には何度も絡まれるべし。媚薬だって何度盛られてもいいんですよ。エスカズラに襲われ、蔓に絡みつかれてあられも無い姿になったマオを何度でも見たいですよね? というわけで、その後もマオはシチュエーションを変えて何度もエスカズラに襲われてしまいます。無数の蔓に絡みつかれた状態のマオを見つけた時の、虚無感に満ちたテンマの表情がなんとも言えません。

マオは全然悪くはないんです。エスカズラがめちゃくちゃ良いお仕事をしてくれているのが悪いんです。

 

…卑怯だ

俺があなたに気があるのを知らないフリしてそうやって煽って…

 

好きだという気持ちをどうにか抑えこももうと悩み苦しんできているにもかかわらず、エスカズラに襲われ痴態を晒して自分に助けを求めることになっているマオに、とうとう限界を超えてしまうテンマ。

テンマとマオの関係も変化しますが、エスカズラの催淫成分を浴びすぎたせいで抗体ができたのか、マオの勃起不全も回復。これでまたマオの女遊びが復活するかと思いきや、下半身は女性に反応してくれないまま。それはどうしてなのか、マオは自分の身体で思い知ることになっていくんです。

マオは催淫成分を浴びてずっと発情状態が続いているものの、それで我を忘れて「抱いてくれ」と迫るみたいに乱れてしまうようなことはなく健気に耐えているし、テンマにはお尻を刺激して発散させる以上のことを自分から求めようとはしません。そしてテンマも、悶々とはしながらも、あくまでも発情状態で苦しむマオを楽にするために、とにかくぐっと堪えようとします。こんな状況に置かれていながら、意外と2人ともストイックに過ごすんです。

なので、媚薬を盛ったり触手に襲われたりする作品だとドロドログチャグチャなエロが前面に出てきすぎて、よく話が分からずちょっとウンザリしてしまうこともありますが、この作品はそんなことにはなりません。エスカズラの催淫成分に振り回されるようになったことをきっかけに、テンマとマオの気持ちのベクトル同じ強さで向き合うようになるまでの心の動きが楽しめる作品でした。