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BL『全員起立!私立BL学園高等学校』について語りたい

皆さんは晴川シンタ先生の商業BL『全員起立!私立BL学園高等学校』という作品をご存知ですか? 私は晴川シンタ先生のカラフルで可愛らしい絵柄がとても好きで、全作品購入しているのですが、その中から今回はこの作品について語りたいと思います。

タイトルの開き直りっぷりがなんとも言えず、思わず初めて見たときに笑っちゃったのですが、作品の中身もかなりあっけらかんとキワドイことをやっています。

ガッツリ性描写がある作品なので、未成年の方はごめんなさい。大人の方だけこの先をお読みくださいね。

ネタバレが含まれるので、ネタバレダメという方は注意してお読みください。

 

BL学園ってどんな所?

この作品はタイトルにある通り、青嶺学園(通称BL学園!)という私立高校を舞台とした作品です。このBL学園、全寮制で偏差値も高く大学卒業後の一流企業への完全就職が約束されているという学校なのですが、すごいのはそれだけではないのです。

なんとこの学校は、学生同士が番となって「攻め」「受け」の教育を履修することになっているんです!
だってBL学園なのですから!

この作品の主人公である相原総介(あいはらそうすけ)は、親が転勤ばかりだったこともあって寮生活に憧れてこの学校を受験、どうやら優秀な成績で合格を果たしたらしく奨学金まで出るとあって、飛びつくように入学を決めました。入学式での新入生代表としての挨拶も無事に終え、早速クラスメイトの田中守とも仲良くなり、幸先のいい高校生活のスタートを切った総介。

 

ぶっちゃけ勉強より親友が欲しい。
あわよくばカワイイ彼女も欲しい。

 

この学校のシステムも何も知らずに入学し、総介はこんなことを言って守を慌てさせます。しかし、実この総介は過去最高の成績を納めて「学年一の受け」として鳴り物入りで入学していたのです‼︎ 「学年一の受け」ってどういうことが全然分からないけど、スゴイ‼︎

総介が「受け」ということは、当然「攻め」のパートナーがいます。彼のパートナーは、なんと3年生の先輩で「学校一の攻め」である江口景(えぐちけい)。「学校一の攻め」って、もうその字面だけですごいですよね。

 

今日からお前は俺と「組む」ことになったから

 

総介は有無も言わせず江口とペアで「専攻別授業」を受けることに。江口に連れ込まれた教室には露骨にマットが敷かれタオルが置いてあります。しかしまだ自分の置かれた状況が理解できていない総介は、いきなり江口にキスをされ押し倒されるという事態に大混乱。江口にこのBL学園の仕組みについて説明されて初めて、総介は自分が自らの意思とは関係なく「受け」として入学したのだということを知ることになるのです。

 

男同士で…セ…セセックスするってこと⁉︎

 

取り乱し、実家に帰ると大騒ぎする総介。慌てて守がなだめているところに、江口が総介を迎えに来ます。もちろん待ち受けているのは、あの「専攻別授業」。

この「攻め」「受け」がペアになって行う「専攻別授業」は、なんと単位が基本授業の4倍(!)となっており、蹴ってしまえば即留年が決定してしまうのです。これで総介は「専攻別授業」から逃げ出せなくなってしまいましたね。何という設定‼︎ ブラボーですよ。

初めてだというのに、江口に指を挿れられただけでたちまちお尻だけでイッてしまう総介。江口からはお前の体は正真正銘「受け」だと言われ、お尻だけでイッたことに驚いたクラスメイトたちに「秘策があるのか?」などと尋ねられて、総介はがく然としてしまいます。

「どうしても無理だったらセックスしない人もいるから」という守の言葉に、総介は少しホッとします。しかし忘れてはいけません。ここは「攻め」と「受け」がペアになって行う「専攻別授業」があるようなBL学園です。学校のすべてがセックスありきで進んでいくんです。

ペアの2人は必然的に一緒に過ごす時間が多くなります。プログラムの一環として総介の好物をつめたお弁当を用意してくれ、自分の成績にも関わると言って総介の勉強(キスの実習だったりするのですが)に付き合う江口。それまでは強引な印象ばかりだった江口の人となりを知るようになるにつれて、警戒していた総介の気持ちは徐々に緩んでいきます。そして江口には過去に自分以外のパートナーがいたのだということに思い至り、モヤモヤとした気持ちを抱くようになっていくんですよ。

このBL学園では「攻め」と「受け」がパートナーになるということ自体が成績に関わってきます。つまりこの学園では「攻め」と「受け」のパートナーとなってセックスしていたとしても、それは授業の一環(!)であって必ずしも彼れが相思相愛だからということではないのです。実際に江口の過去のパートナーたちは、彼と組めば良い成績が取れるという下心を持った人間ばかりでした。でもこの学校のことを何も知らずに入学してきた総介に、そんな下心など全くありません。計算も何もなく素のまま自分に接してくる総介に、江口も今まで感じたことのなかった感情を抱き始めていくのです。

 

ちょっと一波乱

そんな2人の様子を苦々しい顔で見ている人物がいました。江口の前のパートナーである蓮道寺ミズキです。自分の前と総介の前とではまるで違う表情を見せる江口。嫉妬と対抗心に駆られたミズキは、「学校一の受け」は自分だと打倒総介を誓います。

 

本当に江口さんのパートナーなの? なんの魅力もないじゃん

 

敵対心剥き出しで総介に絡んでいくミズキ。それだけではありません。すでにパートナーを解消されたにも関わらず、彼は江口に「もう一度抱いて」と一方的に迫っていきます。その現場を偶然目撃してしまった総介は、気まずさから江口を避けるように。まさにミズキの思うツボ。そこでさらにミズキは追い討ちをかけるように、金で釣った連中に総介を襲わせるのです。シャツをはだけさせられ、羽交い締めにされてしまう総介。

そこに現れる江口先輩‼︎

ミズキの猛攻に全く心を揺さぶられることもないばかりか、総介のピンチに現れて連中を1人で撃退してしまいます‼︎ さすが「学校一の攻め」‼︎ 良いですね〜。カッコイイです。

 

俺の傍からもう離れるな

 

江口は総介にくちづけ、好きだと気持ちを告げます。

しかし総介はその江口の言葉にうれしいと感じながらも、自分の『男』としての部分が違うと言っている気がして素直に「はい」とは言えず、答えをはぐらかしてしまいます。そのことでウダウダと悩んでいる総介。それを見かねた守が提案したのは、なぜか江口との「決闘」。

「学年一の受け」の総介が「学校一の攻め」である江口に決闘を申し込んだということで、衛によって集められた大勢のギャラリーたち。江口が勝ったらはぐらかしてしまった答えを言うと宣言する総介。総介が勝ったらどうするつもりなのかな〜ということはさて置き、「サクランボの茎結び」なんていう「攻め」が勝つ以外には考えられない対決内容で2人は勝負をし、江口があっさり勝利します。

勝負あったということで、無事に江口にお持ち帰りされる総介。専攻実技室で2人きりとなり、ようやく自分の素直な気持ちを口にします。

 

俺 江口先輩が好きです

 

はい。ここは専攻実技室です。ここで言う実技とはセックスですよ。マットもローションもコンドームも、必要なものは全部揃った親切なお部屋です。もちろん気持ちを確かめ合う2人。

 

俺に全部任せればいいから

 

緊張しまくりな総介に対して、余裕たっぷりな江口。無事に結ばれてキスを交わす2人の表情は見ていてホンワカしてしまいます。

 

ガッツリしっかりエロいのに可愛いんです

この作品の肝は『最も自分に合った職業を見つけ出す為』という大義名分で、入学時の成績で「攻め」「受け」を決められ、ペアとなって専攻別授業で「実践=セックス」を行うという荒唐無稽な設定です。こんなただただセックスをさせたいがための設定で進む物語、普通ならば登場人物たちがセックスするばかりで読んでいてもウンザリしてしまいそうです。もちろんこの作品では、江口が総介に性的な指導をしている場面が多く、描写もガッツリあります。ですが、なぜか読んでいて可愛らしさが残るんですよ。これは晴川シンタ先生の持ち味だなぁと思います。

クラスメイトたちは「専攻別授業」について屈託なく話しますし、江口はあくまでクールでガッつくわけでもなく、総介に無理強いすることもありません。なぜならばこれは、あくまでもこの学校の「カリキュラム」だから。

この設定のおかげで、手順を踏んで少しずつカリキュラムを進めていく中で、どこか冷めている江口と表情豊かで明るい総介の2人の心が少しずつ距離を縮めていき、本当の意味でパートナーになっていくことをしっかりと感じられます。だからこそ2人が授業の一環としてではなく自分の意志で身体を重ねる場面がグッとくるんですよね。

セックスをメインに据えたあり得ない設定のBLだというのに、明るい学園コメディを読んでいるような楽しい印象を持たせてしまうこの『全員起立!私立BL学園高等学校』という作品、私はとっても好きです。

 

前回は海島千本先生の短編集『プリズムの咲く庭』について語っています。興味を持っていただけた方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com