深夜アニメの「ノイタミナ」枠で放送されていた幾原邦彦監督のオリジナルアニメ『さらざんまい』。
前回までは主人公である一稀を中心に、1〜6話まで語ってきました。
6話のタイトルは「つながりたいからあきらめない」。もはや最終回のような盛り上がりを見せ、残りまだ5話もあるというのにまさに大団円といった感じ。春河を助け出し、一稀も本当の笑顔を取り戻して良かった!という感想しか出てこない清々しい回でした。
しかし、『さらざんまい』は一筋縄ではいきません。
今回は、燕太を中心に7話を語りたいと思います。
燕太の気持ち
すっかり以前の明るさを取り戻した一稀は、サッカー部に二学期から復帰することになりました。そのことを燕太はとても喜び、夏休みの間いつも練習していた場所で「2人で」特訓をしようと持ちかけます。そこで一稀が悠にも声を掛け、3人でサッカーの練習をすることになります。
しかし誰かに荒らされてしまう練習場所。3人はゴミを片付けペンキを拭き取りハイタッチ。次の日に再びその場所が荒らされてしまっても、一稀は「こんなことで諦めないと証明しよう」と凹む様子もなく、荒らされた練習場所を片付け始めます。
そんな時、悠にかかってきた一本の電話。相手は悠の兄の誓でした。 誓は堅気ではありません。仲間に裏切られて警察に追われることになった兄と共に浅草を離れることになった、だからもう一緒にサッカーはできない。悠は一稀と燕太に告げます。
それを聞いた一稀は迷うことなく、希望の皿を悠のために使おうと言います。それが良いと同調する燕太。燕太が一稀のために希望の皿を集めていることを知る悠はそのことに戸惑いますが、今の一稀の望みは悠を助けることだから自分もそうしたいのだと、燕太は笑って言います。
しかし、人の心がそんなにきれいにいくわけがありません。
カッパゾンビを倒す時に漏洩した燕太の秘密。練習場所を荒らしていたのも、ケッピの留守中に希望の皿を盗んだのも、実は燕太の仕業だったのです。
恋ってやつは
燕太は四年前、海外から日本に戻ってきました。なかなか環境に馴染めずに1人で過ごす彼に、一緒にサッカーをしようと声を掛けてくれたのが一稀でした。それは、ずっと心細い思いをしてきた燕太にとって、一稀が特別な存在になった瞬間です。
家族と血が繋がらないことを知り、春河を事故に遭わせて歩けなくさせてしまい、笑うことが無くなってしまった一稀。次は自分が助ける番だと、燕太は何とかして彼の笑顔を取り戻そうと、今まで様々な努力をしてきたのではないかと思います。
だからこそ、さらわれた春河を無事に助け出して一稀が本来の明るさを取り戻したこと、そしてそのことに自分も関われたことは、燕太にとって無上の喜びだったはずです。
一稀がサッカー部に復帰することになり、もう一度一稀とサッカーをしたいという燕太の願いも叶います。燕太にとって、自分と一稀の関係が以前の2人に「戻る」ということがとても重要でした。一稀と2人で、またゴールデンコンビとしてやっていきたい。そこに悠は存在してはいませんでした。しかし、一稀は悠もサッカー部にと燕太の目の前で誘ってしまうのです。
一稀にとっては、悠も共にカッパの姿になってカッパゾンビを倒してきた仲間であり、弟の春河を助けるために力を尽くしてくれた恩人でもある、特別な友だちです。燕太だけでなく悠も加えた「3人で」サッカーをしようと考えることは、一稀にとっては自然なことでした。
燕太だって、悠が一稀にも自分にも、大事な友だちだとは感じでいたはずです。だから無碍にすることはできず、グッと堪えて一稀の意見に全て同意したのです。しかし心の中では、悠がその誘いを断ってくれることを期待していたのではないでしょうか。
悠も加わり3人でサッカーの練習をすること自体は、燕太も楽しくないわけではなかったでしょう。それだけで終われば、燕太はきっと3人でいることも楽しいのだと、無理にでも自分に言い聞かせることはできたかもしれません。
しかしそれだけに留まらず、一稀は「希望の皿」を悠のために使おうと提案します。希望の皿を使えば悠はここを出て行かなくてもよくなる。そうすれば「3人」でサッカーを続けられる。
以前に一度、一稀は悠に皿を譲ろうとしたことがありました。ですが今度は悠のために皿を集めようとまで言い出したのです。
悠はここにいてよ。
この手が届く人たちとちゃんとつながりたいと考えるようになった一稀。だからこそ彼は悠のために希望の皿を使って救いたいと純粋に思ったのです。
一緒にサッカーやろうと悠を誘い、悠にサッカー部入部を勧め、ヤクザの兄と逃げるという悠のために希望の皿を使おうとする一稀。それだけでもツライというのに、その相手である悠はサッカーの経験者で上手く、さらには一稀への想いを知っているので燕太を気づかってくれもします。まさに追い討ちをかけられた状態です。
練習できないようにすれば、悠と一稀がサッカーをすることは無くなる。
希望の皿が失くなれば、悠は兄と一緒に浅草からいなくなる。
それはとても短絡的で子どもっぽい考え方です。練習場所にゴミを撒き散らし、希望の皿を盗み出してしまう燕太。漏洩するその姿を見て、「久慈のことばっか気にしやがって!」と悔しがる燕太の言葉を聞いて、「分かる、分かるぞ!」と誰もが思ったのではないでしょうか。
だって燕太の気持ちは恋なのですから。
ずっと前から好きだったのに、一稀は少しも自分の気持ちには気付いてくれない。今の一稀は悠のことばかり口にする。一稀を思ってきた時間の長さもその思いの強さも、悠よりもはるかに自分の方が上なのに。
悠に嫉妬する醜い気持ちを好きな一稀の前では隠せても、それを完全に消し去ることなどできるはずがありません。
一稀・悠・燕太が力を合わせて春河を救い出し、3人の確かな友情を感じさせて感動させた直後だというのに、どうしても一稀を好きだという気持ちから悠に対する嫉妬を暴走させて、とんでもないことをしでかしてしまう燕太。
その行動は決して良いことではないとはいえ、今までで一番燕太に共感し、ダメな彼を可愛いと感じてしまったのでした。
次回は誓と悠を軸に、『さらざんまい』8・9話について語りたいと思います。
前回は『さらざんまい』5・6話について語っています。興味を持ってくださった方は、こちらからどうぞ。