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『ファイアーエムブレム 風花雪月』について語りたい【12】黒鷲の選ぶ道

「ファイアーエムブレム」シリーズ中の名作『ファイアーエムブレム 風花雪月』について、今回は、黒鷲の級長エーデルガルトの辿ることとなる「紅花の章」「銀雪の章」の2つのルートについて、深掘りしつつ語っていきたいと思います。

ネタバレが含まれるので、未プレイでネタバレダメという方は注意してお読みください。

 

エーデルガルトの辿る道

黒鷲の学級の級長であるエーデルガルトは、士官学校の学生生活と並行して、ヒューベルトと共に皇位継承のための準備を水面下で進めています。

そのため黒鷲の生徒たちと会話をしてみると、カスパルが軍務卿の父とエーデルガルトが話していたことを不思議がっていたり、宰相の息子のフェルディナントがエーデルガルトとヒューベルトが忙しそうなのを訝しがっていたりと、エーデルガルトたちが帝国の重職に就いている級友たちの親と積極的に接触を図っていることが窺い知れます。しかしエーデルガルトは自分の行動について何も告げずに動いていて、士官学校を離れている時に何をしているのかはプレイヤーにも全く分からない状態が続きます。

しかし、「それ」は突然訪れるんです。

2月。いつも通りに散策で他の生徒と同じようにエーデルガルトに話しかけると、彼女の方から「自分に付き合って欲しい」と主人公に頼んでくるんです。この会話、ホント唐突なんですよ。エーデルガルトは「成さねばならないことがある」と言うだけで、行き先が帝国の首都アンヴァルであること以外わからないまま。なのに切羽詰まってる感はビシバシ感じさせるんですよね。

「付き合う」と返事をすると次の場面になり、「付き合わない」と返事をすると彼女は主人公を置いてさっさとアンヴァルに行ってしまうので、散策し尽くしてから最後に話しかけるのをお勧めします。「まだ散策終わってないからまた後でね〜」というつもりでいたらエーデルガルトの姿が無く、慌ててやり直した覚えがあります。

散策を終えて「付き合う」を選択し、エーデルガルトと一緒に向かったアンヴァルで何があるのかというと、

 

エーデルガルトの即位!

 

彼女の父親であるアドラステア帝国皇帝イオニアス9世は、やつれて玉座に座っているのすら辛そうな様子。だからこそ今しかないと、彼はエーデルガルトに冠位を授ける「皇位継承の儀」を執り行います。

アドラステア帝国は聖者セイロスの助力を得た初代皇帝ヴィルヘルムが、解放王ネメシスを撃ち倒して建国した国。帝都アンヴァルはフォドラ最古かつ最大の都市にして、聖者セイロスが初めて布教を行ったとされるセイロス教の聖地でもあります。そんなセイロス教に深いゆかりを持つアドラステア帝国の皇帝となるには、「皇位継承の儀」にセイロス聖教会の司祭の立ち合いが必要という決まりがあります。つまり、セイロス聖教会の認めた者しか皇帝になれないのです。

しかし、エーデルガルトはセイロス聖教会の壊滅を心に決めていますし、帝国を牛耳る宰相一派を出し抜きたい思いもあります。彼女は彼らの裏をかき、秘密裏に皇帝に即位してしまおうとしていたのです。

エーデルガルトが士官学校では詳しいことを言えなかった理由も、主人公に同行を強く願った理由もここにあります。セイロス聖教会の承諾を得ていない皇帝など認めないとレアが言い出した時のためにも、炎の紋章を持ち天帝の剣が使えてレアにとって明らかに特別な存在である主人公に、どうしても立ち会ってもらいたかったんですよね。

実は私、他の章を先にクリアして最後に黒鷲の学級を選択したので、エーデルガルトが強引に皇帝に即位したのかとずっと思っていたんです。が、違うんですね。状況が状況だけに決して華々しい儀式ではありませんでしたが、エーデルガルトの父親も彼女に帝国の未来を託したんだなということが静かに伝わってきて、胸がジンとしました。

 

未来の選択

ガルグ=マク大修道院の地下にある聖墓で、主人公は女神の啓示を受ける儀式を受けることになります。レアや生徒たちに見守られ、女神ソティスの玉座に座る主人公。その時、現れるはずのない帝国軍が聖墓に現れます。しかもその兵たちは炎帝の手下の者たち。なぜこの聖墓に奴らが現れたのか? その答えは簡単です。エーデルガルトが自ら兵士たちを聖墓に引き入れたのです。なぜなら、彼女こそが炎帝なのですから。

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自分が炎帝であることを告げるエーデルガルト

セイロス教団を討つため密かに動く必要があったエーデルガルトは、正体を隠すため裏では仮面を被り炎帝として振る舞い、死神騎士をはじめとする選りすぐりの兵士たちを炎帝軍として束ねていました。そして「闇に蠢く者」たちと共に、度々主人公に前に立ちはだかっていたのです。

主人公にとって、エーデルガルトは初めて育てた生徒の1人。彼女が体を刻まれるような凄惨な地獄をたった1人生き延びて自分と同じ炎の紋章を宿したこと、そして彼女がアドラステア帝国の皇帝として紋章に頼らない社会を作ろうとしていることを、支援会話を通して知らされています。エーデルガルトが皇帝に即位するのを見届け、主人公には感じるものがあったはずです。

しかしエーデルガルトは利害を共にできる相手として、ジェラルトを殺した仇である「闇に蠢く者」と手を組んでいました。フレンの誘拐やルミール村の人々の豹変などの数々の悪事に彼女も関わっていたわけです。

邪悪な者と手を組んで、あまりにも強硬な「戦争」という手段を用いて自分の意思を貫こうとするエーデルガルト。彼女は自分に目的を果たすためならば、手段を厭わない人物なのです。

レアは聖墓を暴くという暴挙に出た彼女を斬るように主人公に命じます。レアの命に従うか否か、主人公はまたも大きな決断を迫られるのです。非常に迷うところだと思います。しかも、この選択肢ですよ。

エーデルガルトを斬るか守るか

黒鷲の学級にのみ選択肢が現れる

エーデルガルトを斬るか。
エーデルガルトを守るか。

「斬る」か「斬らない」かじゃないんです。「斬る」か「守る」かなんですよ。

「斬る」という言葉によって、エーデルガルトが平和を乱す者であると理解させ、「守る」という言葉でエーデルガルトが主人公の育てた生徒の1人であるということを思い出させます。エーデルガルトを裏切り者とみなすか、それとも信じて味方となるか。一体どうしたらいいんだ! ってなりますよね。この選択肢、開発の方はかなり慎重に言葉を選ばれたのだろうなぁと思います。

私は先に金鹿・青獅子を先にプレイしていて、エーデルガルトを「倒すべき敵」としてしか見たことがなかったこともあり、まずは「斬る」選択をしましたが、最初に黒鷲のルートでプレイを開始していたら、この分岐点でしばらく悩んで進めなくなっていたかもしれません。

 

銀雪の章

自分の野望のため「闇に蠢く者」と手を組み、帝国の武力でフォドラの平穏を乱すなんて、許せない‼︎

ということで「斬る」選択をすると、エーデルガルトとヒューベルトを除く黒鷲の学級の生徒たちに加えて、セテス、アロイスたちセイロス聖教会と騎士団のメンバーと共に戦う「銀雪の章」に進むことになります。帝国出身の黒鷲の学級の生徒たちは、故郷への思いが強いからこそエーデルガルトの暴挙を止めるべく戦うという感じで、祖国や自分の肉親と敵対することに悲壮感は漂いません。

この「銀雪の章」は帝国を倒し教団を守るというシンプルな構造で、非常に敵対関係が明瞭で分かりやすいルートです。このルートを選ぶと、帝国を共通の敵としつつも、王国・同盟とは別々に戦っていくことになります。

なので、このゲームの紹介映像でも取り上げられている「血の同窓会」ことグロンダーズの会戦に主人公たちが直接立ち会うことは無く、知らせとして聞かされるだけ。しかも王国・同盟共に帝国に敗れ、ディミトリは死亡しクロードは生死不明だという事実だけがあっさりと知らされるんです。無情すぎる…。

黒鷲の学級の生徒たちと一緒にはいますが、主人公はセイロス教団軍として戦っている状態。「血の同窓会」と呼ばれるグロンダーズの会戦は、あくまでも帝国・王国・同盟の3つの国の戦いということで、教団は蚊帳の外なんですね。三つ巴から外されてしまって、ちょっと寂しい感じです。

グロンダーズの会戦を経て、ディミトリの王国にもクロードの同盟にも、どちらもにも頼ることはできなくなってしまいます。自分たちで倒さねば‼︎ ということで、主人公たちはレアを救出してエーデルガルトを撃破‼︎ フォドラに平和が訪れるのです。

が、それでこのルートは終わりません。体の弱ったレアが白き獣となり暴走してしまうんです。彼女の寿命が終わりに近づき、力を抑え込むだけの余力がなくなってしまったということなのでしょう。

命をかけてエーデルガルトを倒し、セイロス聖教会を守り抜いた主人公たち。なのに、レアを失う結果になってしまいます。それだけではありません。この教団ルート、帝国も王国も同盟も全ての国が君主を失い、崩壊して戦争が終わります。信仰としてセイロス教は残っているくらいで、フォドラの地は何も無くなってしまうんです。

また一からやり直すことになったフォドラ。こうなっては、新たに生まれ変わるしかないですよね。ということで、フォドラ統一王国を設立し、主人公が初代国王に就きます。その体に紋章石を埋め込まれ、女神ソティスと共に生きてきた主人公。その昔、女神ソティスがそうしたように、新たなフォドラを創り出していくことになるのです。

 

紅花の章

エーデルガルトを「守る」を選ぶと「紅花の章」に進みます。主人公の選択を聞いたレアの表情が、ひたすらに怖いんですよ。女神の啓示を受ける儀式で何も主人公に変化がなかったことにがっかりしていたこともあり、レア様は「こいつも失敗作だったか」ってめちゃくちゃ見下してきます。今まで主人公に対してやけに寛大で甘えたな雰囲気さえ漂わせていただけに、結構な衝撃です。主人公の体内に埋め込んだ紋章石を取り戻し、次こそ女神ソティスを甦らせようと、主人公を殺す気満々で向かってくるレアに、そっちこそ本性現しやがったな‼︎ って感じになります。

レアの本性

これがレアの本性です

セイロス聖教会を相手に戦うことは、敬虔なセイロス教徒の国であるファーガス神聖王国とレスター諸侯同盟を敵に回すことでもあります。セイロス聖教会の人たちと戦うのはそこまで苦では無かったのですが、クロードやディミトリと戦うことになった時には、「翠風の章」「蒼月の章」を先にクリアしていたこともあって、彼らは帝国の敵だと頭で理解しているとはいえ、それはもう辛い気持ちでいっぱいでした。

反帝国と親帝国とで分裂している状態となっているレスター諸侯同盟。盟主であるリーガン家を滅ぼせば一気に同盟は崩れて諸侯たちが帝国側につくと見込んだエーデルガルトは、先にクロードを討つことを決めます。

あれ? グロンダーズは? 血の同窓会は? ってなりますよね。実は紅花ではそもそもグロンダーズの会戦自体が起こらないんです……。

帝国軍は水の都デアドラに攻め込み、クロードと対峙。その時主人公やエーデルガルトで彼と交戦すると、勝利後にクロードを殺すか生かしておくかの選択ができます。実は、エーデルガルトはクロードとは考え方が近いと言っているんですよね。他の生徒たちと違ってクロードは金鹿の級長だし、殺すか生かすかを選ばせてくれるのか! と感激した私。もちろんクロードの命は救いましたよ。私にクロードは殺せませんから。

クロードの戦争に対するスタンスは他の級長2人とは違い、犠牲者を最小限に止めることを至上としています。ことを為すためには生きていなければならないと、彼は非常にドライです。攻め込まれる前から、戦いの後のことを考えに入れていたことが会話から伺えます。生かしておく選択をすると、命を救われた彼は同盟をエーデルガルトに託してどこに去っていきます。彼の向かった先については、「翠風の章」ではっきりわかるようになっています。

クロード撃破の次はディミトリです。王都フェルディアに向けて進軍する帝国軍を、ディミトリとレアが先手を打って迎え撃ちます。「紅花の章」のディミトリは隻眼ではなく、レアはオープニング映像のセイロスの姿で騎士団を率いており、彼らのこの姿が見られるのはこのルートのみです。

共闘しているように見えて、実は自軍を有利にするために互いを利用しようとしている両軍。レアはともかく、ディミトリはこの5年間で手段を選ばぬ「正々堂々」という言葉の似合わない人間になってしまったのかと悲しくもなります。

どのタイミングで撃破するかで少し会話などが違ってくるようですが、セイロス騎士団はここでは撤退し、主人公とエーデルガルトはディミトリと対峙することになりますが、彼を倒した後の一枚絵がなんとも美しいんです。

ディミトリは最期に「エル」という愛称でエーデルガルトを呼びます。その愛称がごく親しい者からだけのものであることは、彼女との支援会話の中で知らされています。ディミトリはエーデルガルトにとって非常に近い存在だったことが、この愛称だけで分かります。しかし、ディミトリにはクロードのように殺すか生かすかという選択肢は出てきません。エーデルガルトにとって教団と手を組んでいたディミトリは決して相容れられない人物なんですね。2人がどんな関係にあったのか明かされないまま、ただエーデルガルトは涙するのみ。そしてレアとの最後の戦いに挑むのです。

セイロス聖教会との戦いは、神と人間の戦いです。世界を人の手に取り戻すというエーデルガルトの願いはここで叶います。主人公に埋め込まれた紋章石も消滅し真の人間として生まれ変わることで、エーデルガルトの願ってやまなかった紋章の呪縛からの解放が象徴的に描かれるのです。

 

紅花の章が短いのはなぜか

「銀雪の章」「蒼月の章」「翠風の章」の3つに比べて「紅花の章」は短いルートとなっています。「闇に蠢くもの」と戦ったことが後日談で伝えられるのみで、その正体はわからぬまま。その一味であるコルネリアを討ったエーデルガルトに対して光の杭を撃ち込み制裁してきたアランデル公との関係もそのまま。レアは確かに倒しましたが、「戦いはまだ続く」といった感じで終わります。

それは「紅花の章」が、本来であれば倒されるべき存在であるエーデルガルトの側に立った「ifルート」であることがその理由でしょう。

ニンテンドードリーム2020年5月号に掲載された開発者のインタビューを読むと、この『ファイアーエムブレム風花雪月』で最初に作られたルートは、「銀雪の章」だったそうです。インテリジェントシステムズの草木原俊行さんが下記のようにおっしゃっています。

 

第一部と第二部の帝国ルート…ユーザーの方からは「教団ルート」と呼ばれている「銀雪の章」です。その過程で級長であるエーデルガルトと敵対して…という流れは最初から決めていました。

引用元:

FE風花雪月インタビュー vol.4-1【ネタバレ編 前半】〜エーデルガルト&主人公の知られざる設定秘話〜 | Nintendo DREAM WEB

 

今回の『風花雪月』は「エーデルガルトを討つ」ストーリーのゲームであると初めに決まっていたわけです。でも、壮絶な過去を乗り越えた彼女の悲願を叶えさせてあげたくもなりますよね。だって人間だもの。ということで「紅花の章」につながる「帝国ルート」が作られたそうです。だからこそ分岐点での選択肢がエーデルガルトを「斬る」「守る」という言葉になったのだなと、開発者の方のエーデルガルトに対する愛情を感じます。

「紅花の章」ではエーデルガルトの願いであったセイロス聖教会の殲滅だけが果たされます。それは、自分の願いが叶った後の世界を知らないままに命を落とすことになるエーデルガルトが最期に見た夢の物語なのかもしれません。

 

次回はディミトリたち青獅子の学級の生徒たちが辿る物語である「蒼月の章」について語っていきます。ご興味を持ってくださった方はこちらからどうぞ。

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