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『ファイアーエムブレム 風花雪月』について語りたい【13】青獅子の進む道

「ファイアーエムブレム」シリーズ中の名作『ファイアーエムブレム 風花雪月』について、今回は、「妄執の王子」と呼ばれることになる青獅子の級長ディミトリの辿るルート「蒼月の章」について深掘りしながら語っていきたいと思います。

ネタバレが含まれるので、未プレイでネタバレダメという方は注意してお読みください。

 

ディミトリの抱える闇

フォドラの北方に位置するファーガス神聖王国は、厳しい気候で恵まれているとは言い難い土地。また、スレン族との侵略戦争も断続的に続くなど、苦しい状況にある人々の心の拠り所として、王家の存在はとても大きいものだろうと思います。

しかし本編の4年前、国王謀殺事件「ダスカーの悲劇」によって、ディミトリの父親である国王ランベールをはじめ多くの命が失われます。王国の人々の怒りは激しく、首謀者とされるダスカー人は、報復として土地を奪われその多くが虐殺されて、今はわずかに生き残るのみとなりました。

ディミトリは「ダスカーの悲劇」で瀕死の重傷を負いながら、1人生き延びました。血に塗れた地獄の中で何者かを目撃したディミトリは、この事件の首謀者がダスカー人ではないと確信したのです。しかし事件の唯一の生存者の彼がそのことを伝えても聞き入れられず、ダスカー人征伐のために自らも出陣することとなってしまいます。その時のディミトリの戦いぶりは、共に出撃したフェリクスに獣と罵られるほどの残虐さだったようです。首謀者ではないと確信しているダスカー人を殺さなければならないことへの行き場のない感情が爆発し、歯止めが効かなくなっていたのかもしれません。

それ以来、ディミトリは自分の内にある獣性を常に律し、感情を荒ぶらせないよう抑え込んで過ごします。それでもなお、彼の胸の内には「ダスカーの悲劇」が影を落とし続けていくのです。

 

疑いの眼差し

ディミトリの伯父リュハスが摂政となったものの、女にうつつを抜かし王国の治安は悪化。王位継承者であるディミトリが、どれほど歯痒い思いを抱いていたか想像に難くありません。すぐにでも伯父を廃し王位を就きたいであろう状況の中、彼はある目的を持ってガルグ=マクの士官学校へと入学をします。

その目的は「ダスカーの悲劇」の真の首謀者を暴くこと。帝国と同盟の貴族の子息子女たちが集まり、セイロス聖教会の書物を閲覧できる士官学校は、「ダスカーの悲劇」の真の首謀者を突き止めるために格好の場所。ディミトリは胸の内の疑惑を誰にも打ち明けず、1人で疑いを裏付けるための調査を進めていきます。

ディミトリが「ダスカーの悲劇」の真の首謀者として疑いを抱いている人物は、アドラステア帝国の摂政アランデル公。本編の9年前に、帝国貴族らが起こした「七貴族の変」と呼ばれる政変首謀者と目されている人物です。

なぜディミトリは帝国の人間であるアランデル公を、「ダスカーの悲劇」の首謀者だと考えたのか。そこには王国と帝国の、そしてディミトリとエーデルガルトの関係に大きく関わる理由がありました。

エーデルガルトの母アンゼルマの兄であるアランデル公は、実妹が皇帝の側室となったことにより勢力を急伸させました。しかしアンゼルマは後にファーガス神聖王国に亡命、パトリシアと名前を変えて国王ランベールの後妻となります。つまり、エーデルガルトの母親はディミトリの継母であり、エーデルガルトとディミトリは血は繋がらないながらも姉弟の間柄にあるのです。

パトリシアが亡命した時期も理由もはっきりしませんが、彼女はエーデルガルトを産んで何年も経たずに帝国を離れたと思われます。側室でありながら紋章を持つエーデルガルトを産んだことで自身の身に危険が及ぶなど、どうあっても亡命しなければならない事情があったのでしょう。娘と別れて国を逃れるしかなかったパトリシアの心を慰めたのが、ランベール国王だったのです。

しかし、パトリシアを国王の妻に迎えたことが知られれば、「皇帝の側室を奪った」とアドラステア帝国との衝突にも発展しかねません。そのため、この事実はごく身近な者以外には秘匿されます。ディミトリがこの事実を語っても、エーデルガルトからは語られないのは、この理由によって彼女が亡命した母の行方を知らなかったからだと思われます。

母がいると知らないまま、「七貴族の変」後の一時期、エーデルガルトはアランデル公と共に王国に身を寄せていました。その時にディミトリは彼女と出会い、「エル」と愛称で呼ぶほどに親交を深め、淡い恋心さえ抱きます。しかし、アランデル公は母であるパトリシアとは会わせぬままエーデルガルトを帝国に帰してしまったのです。

これらのことは全て、後に起こる「ダスカーの悲劇」への布石となっていきます。

 

闇に蠢くもの

ファーガス神聖王国の王妃の兄となったアランデル公。公にはできないこの事実により、彼はアドラステア帝国の摂政でありながら、王国の深部に人知れず手を伸ばすことができるようになったのです。その胸の内に更なる野心が芽生えないわけがありません。アランデル公は「七貴族の変」を起こし、皇帝から権力の多くを剥奪。その後唐突に教団への寄進を絶ってしまいます。

公明正大で敬虔なセイロス教徒だったというアランデル公の、別人になってしまったかのような豹変ぶり。「闇に蠢く者」の一味であるクロニエがモニカという女子生徒になりすまして士官学校に侵入したように、「七貴族の変」の頃にはアランデル公はその胸に抱いた野心ゆえに「闇に蠢く者」に取り込まれ、抹殺されていたと思われます。

同様に王国でも、「聖女」とまで言われた女性魔道士コルネリアが、ある日を境に悪辣な振る舞いをするようになっています。流行り病を食い止めた功績から国王の信頼も篤く、パトリシアにも気に入られている彼女の地位を利用しようと「闇に蠢く者」によって殺されてしまったのでしょう。

共にパトリシアとの接点を持つアランデル公とコルネリア。彼らを殺してその姿に成り代わった「闇に蠢く者」により、「ランベール国王が亡命中の娘に会わせなかった」と国王に恨みを抱くようなことを吹き込まれ、「言うことを聞けば娘に会わせてやる」と唆されるなどして、パトリシアは知らぬうちに奴らの手引きをさせられてしまったのでしょう。

そうして「ダスカーの悲劇」は起こってしまったのです。

 

狂気の矛先

第2部となる「蒼月の章」は、「白雲の章」の5年後。主人公は死体の転がる大修道院にうずくまる獣のような目をしたディミトリと再会します。片目を潰され、髪は伸び放題という彼の姿に、プレイヤーも大きなショックを受けることとなりますが、その兆しは第1部からありました。

村人同士が殺し合うルミール村の惨状に、「ダスカーの悲劇」の情景を思い出したディミトリ。その後「闇に蠢く者」にジェラルトを殺され、自分と同じ親を殺される悲しみを主人公にも味わわせてしまったことで、「闇に蠢く者」への憎しみがさらに大きく膨らみ、彼の口からは「復讐」や「殺す」といった過激な言葉が飛び出すようになっていきます。なんとか堪えてはいるものの、自制が少しずつ効かなくなっているのがわかります。

ジェラルトを亡くした主人公に言葉を掛けるディミトリ

父を亡くした主人公に掛けた言葉がすでに怖い

そして、大女神ソティスの力を受け継いだ主人公が女神の啓示を受ける儀式を受けている最中に聖墓に侵入した炎帝と対峙し、その正体がエーデルガルトと知ったディミトリの心はとうとう崩壊してしまうのです。

エーデルガルトを責めるディミトリ
エーデルガルトを詰問するディミトリ

ルミール村で「ダスカーの悲劇」と同じような惨状を目にしたディミトリは、そこに現れた炎帝がアランデル公であると考えていたのでしょう。そしかし帝国軍を率いて現れた炎帝の正体はアランデル公の姪であるエーデルガルトでした。彼女は「ダスカーの悲劇」に関わりを持っていたのかと、疑惑は一気にエーデルガルトに向きます。

自分の母を殺し、ディミトリの父を殺し、将兵たちを殺し、ファーガス神聖王国の内政を瓦解させ、ダスカー人たちに謂れのない罪を着せたにもかかわらず、「知ったことではない」と平然と言い放つエーデルガルト。何もできず生き延びてしまったと深い自責の念を抱き続けてきたディミトリにとって、正気を失わせるほどの衝撃だったに違いありません。

でもエーデルガルトは「ダスカーの悲劇」のことを、本当に何も知らなかったんだと思うんですよね。ディミトリと同じ13歳だった彼女が、そこまでの謀略に関与しているとは思えませんし、彼女の過去から考えて自ら「炎帝」と名乗るか甚だ疑問ですし。

エーデルガルトが炎帝を演じるようになったのはアランデル公による指示があったと思うんです。エーデルガルトが「ダスカーの悲劇」に深く関わっていたとディミトリに思わせて2人をぶつかり合わせることにより、アランデル公は自ら手を出さずに王国の完全消滅と帝国の弱体化を目論んでいたのでしょう。幼いエーデルガルトを王国に亡命させてディミトリとわざわざ引き合わせていたのも、全ては「闇に蠢く者」による布石だったのですから。

 

妄執の王子

皇帝となったエーデルガルトが戦争を起こしたことで、ディミトリは大義名分のもと帝国軍を討ち、彼女への復讐を果たそうと考えたはずです。しかし彼は祖国で更なる苦難に見舞われます。コルネリアによって伯父殺害の罪を着せられ、投獄されてしまったのです。

処刑の直前にドゥドゥーにより助け出されるも、流浪の身となったディミトリ。王子を失い、西部の領主らは帝国に臣従、残る王領もコルネリアに牛耳られ王国は崩壊。祖国さえも失ったディミトリは、エーデルガルトへの復讐だけを心の支えに、帝国兵への殺戮を繰り返し5年間を生き延びていました。その彼の姿は「妄執の王子」という呼び名がふさわしく、悲痛な思いに駆られます。

眼帯姿のディミトリ

かつての面影の無いディミトリの姿

ガルグ=マク大修道院に流れ着いたディミトリは、そこで共に青獅子の学級で学んだ仲間やギルベルトと再会を果たし、行方不明となったレアの捜索を続けているセイロス騎士団とも合流。エーデルガルトへの復讐、王国の奪還、レアの救出とそれぞれの目的は違うものの共に戦うことになります。

しかし仲間を得ながら、ディミトリは心を閉ざしてまともに会話もできない状態。戦闘では「従おう」って言ってくれて(!)操作できるんですが、散策では彼に対して何も働きかけができなくて手に負えない感じなんですよね。

青獅子の生徒たちやギルベルト、ロドリグらは、そんなディミトリを決して見放そうとはしません。なぜなら「正統な王位継承者であるディミトリを王位に就かせること」が彼らの願いだからです。彼が正気を取り戻し王位に就いてくれたならば、帝国を倒すことは容易いはず。そんな思考なんですね。それだけ王の血筋は尊いものなんです。

それぞれ苦しみを抱えてきた彼らは、ディミトリが立ち直ることを信じて見守り続け、彼の復讐心の赴くままの進軍に従います。苦しい展開が続く中で彼らの絆の強さにホッとはしますが、腫れ物に触るような優しさ故にディミトリの心を復讐から解き放つことはできないのです。

 

復讐を超えて

混迷を極める祖国を見捨てたように、エーデルガルトへの復讐を果たすためにのみ戦っているディミトリ。レスター諸侯同盟の盟主となり同じく帝国と戦っているクロードとグロンダーズで再会し「冷静になれ」と呼びかけられますが、その言葉も彼には届きません。

そんなディミトリの目を覚まさせる事件が、この会戦の後に起こります。帝国の軍人だった兄の仇を討とうと襲いかかる少女の刃から、ロドリグが身を挺して彼を守り、命を落としてしまうのです。

フェリクスの父であるロドリグは、ランベール国王の古くからの友でもありました。「ダスカーの悲劇」で長男を失いながら、それでも主君であり親友でもあったランベール国王の忘れ形見のディミトリを自分の息子のように思い支え続けてきた彼が最期にディミトリに伝えた言葉は「自分の信念のために生きろ」というもの。「ダスカーの悲劇」を生き延びてしまったという自責の念を抱え、多くの失われた命のために復讐を誓い、苦しみながらディミトリは生きてきました。しかし王となるべき人間がやるべきことは復讐などではないとロドリグは説いたのです。

ロドリグの言葉はディミトリの凍てついた心を揺さぶり、その目を覚まさせます。彼の死を経て以降、ディミトリは自分の為すべきこととしてコルネリアを倒し、王都の奪還を果たします。歓声を上げて帰還を喜ぶ人々の姿を目にし、彼の胸には込み上げるものがあったろうと思います。復讐の他に、自分が成し遂げたいことがあったと思い出したたディミトリ。「ダスカーの悲劇」以来9年もの間抱き続けていた復讐心を乗り越えて、彼は殻を破りファーガスの王として大きく成長します。

この「蒼月の章」は、王子ディミトリが自分の国を取り戻し、帝国を倒してフォドラに平和をもたらす物語なのです。

 

真の王として

妄執を断ち切ったディミトリはクロードからの救援要請に応えて、アランデル公率いる帝国軍により陥落されそうになっているリーガン領の領都デアドラへと向かいます。ディミトリと主人公は王国軍を率い、同盟軍とともに帝国軍を撃破。しかしアランデル公は「義姉弟で殺し合え」とだけ言い残して倒れてしまいます。

復讐に囚われていた頃のディミトリであれば、「ダスカーの悲劇」の真相を聞き出せないままにアランデル公を死なせたことに怒り狂っていたかもしれません。しかし今の彼は、国を守るために戦うファーガス神聖王国の王。復讐のためエーデルガルトを殺すのではなく、戦争という帝国の暴挙を止めるためにエーデルガルトを討つと心に決めた彼の国王として堂々としたその姿を見たクロードは同盟の解散を告げ、リーガン家の英雄の遺産であるフェイルノートを託して去っていきます。

クロードは「紅花の章」でも同盟を託して去りますが、この「蒼月の章」では、同盟だけでなくフォドラの未来を託すことのできるのはディミトリだと信じ、彼が救援に来るのを待っているんですよね。この展開、国を違える彼らが士官学校で同じ時を過ごしたことが決して無駄ではなかったと感じられ胸が熱くなりました。無理とは分かっていても、2人に共闘して欲しかったと思わずにはいられません。

クロードから同盟を託されたディミトリ。彼は復讐に囚われた者としてではなく、ファーガス神聖王国の王としてエーデルガルトに向き合います。そして、それぞれに決して譲ることのできない大義があると認め合い、彼らは剣を交えることを選ぶのです。

自分の掲げる理想と正義を叶えるためには多くの犠牲も厭わないエーデルガルトを討ち果たすディミトリ。彼にとってエーデルガルトは敵であると同時に、最後に残された「家族」でもありました。しかも鋼のようなエーデルガルトの心を支えていたのは、幼い頃にディミトリが「未来を切り拓けるように」と願いを込めて彼女に贈った短剣だったという、胸が締め付けられる事実。

ディミトリは最後まで彼女に手を伸ばそうとしますが、2人の思いが重なることはありません。深い縁で結ばれている2人は、命を賭して殺しあうことしかできないまま永遠の別れを迎えます。

「蒼月の章」の戦いは、虚しさと切なさに満ちた結末を迎えます。しかし、憎悪を乗り越えエーデルガルトを倒したファーガスの王ディミトリの進む先は、彼を信じて支え続けた多くの人々が待つ、光に満ちた未来なのです。

 

次回はクロードをはじめとする金鹿の学級の生徒たちの辿る物語である「翠風の章」について語っていきます。ご興味を持ってくださった方はこちらからどうぞ。

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