観て聴いて読んで書く

マンガ、アニメ、ゲームなど好きだと思ったものについて無節操に書き綴ります

『SK∞ エスケーエイト』について語りたい ⑤重なる気持ち

沖縄を舞台に、廃鉱山で行われるスケートボードのレースの熱い戦いと暦とランガの2人の友情を描いた内海紘子監督のオリジナルアニメ作品『SK∞ エスケーエイト』

今回はジョー、チェリー、愛抱夢の3人の過去と、互いの気持ちを確かめ合う暦とランガの2人が描かれる9〜10話について語りたいと思います。

#01 PART 熱い夜に雪が降る

#01 PART 熱い夜に雪が降る

  • メディア: Prime Video

 

第9話 あの時、俺たちは特別だった

8話から続くランガとジョーの本選。本気を出したジョーは鍛えた肉体を活かし、岩肌を蹴って加速を増すパワーブレイクを駆使した滑りを見せます。

筋骨隆々のジョーが岩肌を両足で蹴る時には、ズボンの裾が透けて力を溜め込んだ彼の足の筋肉がグッと太くなる様子が描写され、ちょっと格闘物のようなテイストに。

ぎこちなくなってしまった暦とランガを見守り、優しい気遣いを見せてくれるていますが、ジョーにもこの本選を勝ち進んで愛抱夢と戦いたい理由があります。相手がランガでも、勝負に容赦はありません。

迫力ある滑りで圧倒するジョーに、今一歩及ばないランガを見ていた3人組の観客が、所詮はルーキーだと鼻で笑います。

 

お前らがあいつの何を知ってるんだ!

 

彼らの言葉に思わず反論する暦。今はランガに対する劣等感に苦しんでいるというのに、それでもランガのすごさを訴えずにはいられない暦。本当に邪心のない良い子です。

ジョーは地面と平行に伸ばした体を腕だけで支えるミサイルスタイルで、一気にランガを引き離しにかかります。わかりやすく言うと、ナウシカメーヴェに乗ってる時の姿勢ですね。ジョーがやるからカッコいいってやつです。

 

どんどん離されていく。なのに、ドキドキしない。こんなすごいビーフなのに…

 

空気抵抗を極力抑えた姿勢でスピードを増したジョーに距離を離され、ランガの視界からは完全に彼の姿を捉えられなくなってしまいます。いつも感じていた胸の高鳴りも感じられず、レース中だというのに棒立ちで滑っていくランガ。

 

お前はもっとすげえ奴だよ。簡単に諦めてんじゃねえよ。

 

ランガと会わないよう隠れていたはず。しかし暦はコース近くに走り寄り、声を張り上げランガの名前を叫ぶんです。

自分の名を呼ぶ暦の声に我にかえるランガ。よみがえる胸の高鳴り。ジョーはすでにコースのはるか前方。ランガはジョーに追いつくため、コーナーから飛び出し、一気に崖を飛び降ります。

 

化け物だな、お前も!

 

周回遅れを大胆なジャンプで挽回したランガ。勝負は廃工場までもつれ込みます。

ジョーは壁面の超大型換気扇をぶち破って廃工場に突入。ショートカットのコースを自分で作ってしまう豪快さ。行く手を塞ぐように吊り下がる太い鉄骨を、その脚力で押し退け進んでいってしまいます。ジョーの滑っているコースに飛び移ると、ランガはグラグラと振り子のように揺れている鉄骨の力を利用し、ジョーの一歩前に着地。激しい競り合いを制して、先にゴールを決めます。

しかしランガに勝利を喜ぶ様子はありません。レース中の衝撃でデッキが折れてしまったのです。デッキは消耗品。しかしそれをランガは受け入れることができません。

 

これじゃなきゃ、ダメなんだ。

 

このデッキは暦が板を切り出すところから作ってくれたもの。ランガのために、暦がアイデアを練り工夫を凝らしてくれたデッキです。言わば、ランガは暦の思いと共にずっと滑っていたのです。

 

大丈夫だ、お前らなら。

 

ジョーの言葉に背中を押され、ランガは折れたデッキを抱えて暦の元へと走り出します。

しかしその時、暦はランガが勝ったことを喜べないでいる自分に戸惑っていました。

 

ランガが勝った。……なのに俺、全然うれしくねえ。友達が勝ったてのに、喜んでやれねえ。どうして俺はこんなとこにいるんだって……。

 

彼の頬を涙が伝い、流れ落ちていきます。

 

そうか……悔しかったんだ。俺、やっぱり応援なんて嫌だ。俺はお前と並んで滑りたい……!

 

暦の姿を探すランガ。しかし暦はすでに会場から立ち去り、「S」の通行証代わりのピンバッジも返却してしまっていました。

次の対戦は愛抱夢とチェリー。今まで嬉々として組み合わせを発表していた愛抱夢ですが、チェリーのカードを引いて一瞬表情が変わります。

スタート直後から互角の滑りを見せる愛抱夢とチェリー。愛抱夢はコース序盤でいきなりラブハッグを繰り出します。しかしチェリーは錯覚に惑わされないよう目をつぶり、カーラの機能だけを頼りにそれをかわします。

なぜ今まで愛抱夢はジョーやチェリーとのビーフを拒んできたのか。負けるのが怖いからだとジョーは言いますが、チェリーは違う理由があると確信していました。

まだ高校生だった頃、出会った彼ら。本当なら接点は無かったであろう3人を結びつけたのは、スケートボードだったのです。

 

皆お前に惹かれて、引っ張られて、時を忘れた。


チェリーが語るように、愛抱夢はその頃すでに飛び抜けたテクニックとカリスマ性を持っていたのでしょう。そして3人で過ごす時間は、きっと純粋に楽しかったのだと思います。深くフードを被って顔を隠していた愛抱夢も、ジョーとチェリーの前ではそのフードを取るほどに心を開いていたんです。

しかし愛抱夢は、いつしか自分と同等の滑りができそうな相手を選んでは、大ケガをさせて潰す危険なビーフを繰り返すように。そんなことは止めろと説得していたジョーとチェリー。しかし愛抱夢は彼らに冷たく言い放ちました。

 

お前たちとのお遊びはもう、卒業しないとな。

 

神道家の人間」として生きることを決めた愛抱夢。3人とも大人になり、政治家、書道家、シェフとそれぞれ別の道を進んだ彼らを、「S」が唯一繋ぎ止めているのです。

デッキを高速モードに変形させスピードを上げていくチェリー。愛抱夢は廃工場の手前でチェリーを抜くと、デッキの上でステップを踏みます。

 

愛抱夢、お前は俺を潰せない。

 

ラブハッグに身構えるチェリー。しかし愛抱夢は後ろを振り返ると、チェリーをデッキで殴打したのです。MIYAだけでなくシャドウまでも顔を背けるほどの激しい殴打。観客たちからも悲鳴が上がります。

チェリーは自分たちを大事な仲間だと思う気持ちがあるからこそ、愛抱夢はビーフを拒んできたのだと考えていました。愛抱夢を心の奥でずっと信じていたのです。しかし愛抱夢が彼に放った言葉は、あまりにも冷たいものでした。

 

教えてあげよう。僕が君のビーフを受けなかったのは、ただつまらないからさ。

 

チェリーとのレースを制した愛抱夢。彼は会場に設置された大型モニター越しにランガへ「僕のイヴ」と呼びかけます。愛抱夢の執着は今や、ランガにのみ向けられているのです。

 

第10話 言葉のいらないDAP

愛抱夢にデッキで殴打されて倒れたまま動けないチェリーの元に、慌てて駆け寄るジョー。

 

ちょっとは楽しめると思ったのに、やっぱりチェリーはつまらないな。

 

かつての仲間のジョーを煽りわざわざ喧嘩を売るような愛抱夢の言葉。まるでそれは、過去にはもう戻れないのだと、改めて彼らに決別を告げているように聞こえます。

チェリーが病院に運ばれ、会場がどんよりとした空気になるなか始まる、MIYAと菊池の対戦。

 

最低で最悪だな。私も、このスケートってやつも。

 

かつての仲間だったチェリーにすらためらうことなく大ケガを負わせた愛抱夢。そんな彼の姿を見て、菊池は激しい後悔の念を抱いていました。

幼い頃、虐待に等しい教育に耐えかねて1人隠れて泣いている愛抱夢の姿を見つけた菊池は、彼を元気付けようと、自分が得意としていたスケートボードを教えたのです。

使用人の息子である菊池と、屋敷の主人である神道家の息子の愛抱夢。本来なら仲良く共に過ごすなど許されません。しかし愛抱夢は忍んで菊池の元に行くようになり、菊池もそれを受け入れます。愛抱夢にとって菊池が教えてくれたスケートボードは、神道家から自由になる時間をもたらせてくれるものでした。

しかし父親にデッキを燃やされてしまった愛抱夢。それは、彼に自由など無いという宣告でした。デッキは買い直せても、もう彼は神道家からは逃れられないのです。自分がスケートボードを教えたばかりに、愛抱夢は絶望を味わい、変わってしまったのだと考えた菊池。

 

私は愛之介様に間違った選択肢を与えてしまった。だから、勝って貴方からスケートを奪います。

 

MIYAとのレースを制した菊池。愛抱夢に対して、彼は自分の責任を果たそうとしているのです。

一夜明け、それぞれ親が心配するほどに元気のない様子で家を出る暦とランガ。

ランガはいつもの待ち合わせ場所で暦を待ちますが、彼は学校に姿を現しません。暦がバイトもしばらく休むと知ったランガは、何も知らされていないことにショックを受けます。

学校にもバイト先にも行かず、フラフラと町で時間を潰していた暦。どうにもできない苦しさから逃れるため、暦はスケートから距離を置こうとしますが、それでもデッキを抱えて家を出てきてしまいました。

偶然出会った昔の仲間。まだ明るいうちから酒を飲んでおり、暦のデッキをからかってきます。そんな奴らとケンカになり、多勢に無勢で一方的にやられてしまう暦。しかし彼は、痛めつけられてむしろスッキリした気持ちになってしまいます。自分自身を傷つけたいほどに、暦は自虐的になってしまっているのです。

シャドウが大ケガを負ったと聞いて病院に駆けつけるも、ランガの姿を見てすぐに乗っていたエレベーターに戻り、うずくまってしまう暦。

あんなにいつも一緒にいたランガに「今は会いたくない」というより「合わせる顔がない」という表現の方が、暦の気持ちに合っているのではないでしょうか。暦が八つ当たりするような性格であれば、そこで感情を爆発させ思いをぶちまけ、少しは落ち着けるんではないかと思うんです。でも暦はそれができません。暦は誰かのせいにはしない子なんですよ。だから自分の不甲斐なさを責めて、自分自身を追い詰めていってしまうんです

同じくシャドウの見舞いに訪れたMIYAに見つかってしまった暦。ランガからこそこそと逃げ回り、スケートもやらなくなってしまったことをMIYAになじられてしまいます。

 

この嘘つきスライム!

 

しかし暦は年下のMIYAにも言い返すことができません。今の暦の状況は、「いなくならない」というMIYAとの約束も破ってしまっているのですから。

居た堪れなくなり、病院を飛び出す暦。そこに迫る一台の車。

目を覚ますと、暦は全く見知らぬ部屋のベッドに寝かされていました。暦は菊池の運転する車と衝突、スピードが出ておらずケガは無いものの気を失ってしまったため、人目につかないようにとラブホテルに連れてこられたのです。

自分の主人に迷惑はかけられないと、菊池は示談でことを済ませるため、暦にいきなり金を渡そうとします。

 

こんなケガ、スケートならいつものことだし。

 

金の受け取りを拒むこの言葉で、自分が連れてきた少年が、愛抱夢と以前ビーフを滑った「レキ」だと気づいた菊池。彼はまるで暦を愛抱夢に見立てるように、スケートなど止めろと淡々と語り出します。

 

スケートなんて野蛮で、マイナーで、不幸になるだけのくだらない遊びだ。

 

スケートボードは大ケガをしかねず、今も不良のイメージがあり、指導者は少なく、プロになっても稼げる訳でもない。たしかに菊池の言う通りかもしれません。しかし暦にとって滑ることには、それ以上の価値があるのです。菊池の胸ぐらを掴んで反論する暦。

 

てめえは何も分かってねえ。スケートってのはな、楽しくてドキドキしてカッコよくて、いつでもどこでもできて、コツコツ練習してどんどんできることが増えて、そのたびにうれしくて楽しくて、誰かと滑るのはもっと楽しくて、楽しくて、楽しくて……。そうだよ、スケートってすっげえ楽しいんだ……!

 

暦の瞳からポロポロと溢れ出す大粒の涙。暦にとって菊池は「わかったような口調でスケートのことを悪く言い、やめさせようとする他人」。だからこそ暦は、素直に気持ちを吐き出すことができたのだろうと思います。そして全てを吐き出して最後に暦の胸に残ったものが、「スケートは楽しい」という純粋な気持ちだったのです。

楽しいから夢中になった。楽しいからたくさん練習した。ランガという仲間ができて、楽しさはもっと膨らんだ。

ずっとそうだったはずなのに、いつに間にか他のことに気を取られて忘れてしまっていたと、暦は自分自身の言葉で気づいたのです。

帰宅した暦は、家にランガが来ていたことを知り、慌てて彼を追いかけます。いつも一緒に練習している公園で、暦を待つかのように滑っていたランガ。ようやく顔を合わせたというのに、2人ともうまく言葉が出てきません。

 

滑ろう。一緒に。

 

言葉を補うように滑り出すランガ。暦もすぐに滑り始めます。言葉は無くても、滑ることで心が以前のように近づいていき、ハイタッチをして笑い合う2人。その時ランガは、いつもビーフで感じていた胸の高鳴りを感じます。

 

やっぱりそうだ……。鳴ってる。俺の体が喜んでる。

 

幼い頃から父に教わり、スノーボードを滑っていたランガ。大好きな父と一緒に滑る時間がランガは大好きでした。あれだけ優しそうなパパですから、スノボが上手くなっていく可愛い息子を、笑顔で褒めまくってたと思うんですよ。それがうれしくて、ランガも一生懸命練習していたのでしょう。そんな父を亡くし、失ってしまった「楽しい」という感情を、暦が思い出させてくれたのです。

 

誰と滑るのかが、俺には一番……。

 

暦との出会いが、立ち止まってしまっていたランガを、新しい世界に踏み出させてくれました。穴が空いてしまったランガの心を埋めてくれたのは暦なのです。約束を破ってまで出たトーナメントも、暦がいなければ何も感じることができませんでした。暦がいるから、こんなにもスケートが楽しいんです。暦と一緒に滑れるから、こんなにもスケートに夢中になれたんです。

離れて改めて暦がランガと一緒に滑るスケートが一番楽しいと気付いたように、距離を置かれて初めて暦と一緒にスケートを滑ることこそが自分にとって大切だと思い知ったランガ。暦と向き合い、ランガは気持ちを包み隠さず伝えていきます。

スケートになんでも詳しいこと、自分専用のデッキを作ってくれたこと、教えるのも上手いこと、スケートは楽しいと教えてくれたこと。そして、暦がいるから楽しいと感じられること。

他人と比べてレベルが低いと、暦は劣等感から自分のスケートに自信が持てなくなってしまいました。でもランガは暦を誰かと比べることなどしません。ランガは自分だけの価値観で暦の存在そのものを全て肯定してくれたのです。暦にとって、これ以上ないほどにうれしい言葉だったのではないでしょうか。

お互いが同じ気持ちであると確かめあう2人。

 

無限に暦とスケートしたい 。

 

2話で暦がスケートは無限大だと言った言葉に引き込まれたランガ。そして今、ランガは自分と暦の関係について無限だと答え、しっかりと彼を繋ぎ止めたのです。

ランガの提案で、DAPに2人の手を合わせて∞のマークを作る動作を加えることに。この曲げた指を2人でコツンと合わせる感じが、なんとも可愛らしいんですよ。見ているこっちが照れ臭くなるほど。

そんな笑い合う2人の姿を、一台のドローンが捉えていました。ドローンから送られてくる映像を眺めている愛抱夢。「S」の時の映像だけでは飽き足らず、ここまでやるとは、金にものを言わせての立派なストーカーです。

 

よそ見は感心しないなぁ、ランガくん。

 

ランガが自分には見せない満面の笑顔を暦には見せている。そのことに気づいた愛抱夢。彼は大ケガをしたシャドウの代わりのスケーターが決まったと菊池に告げます。

 

愛に障害はつきものさ。それに、障害がある方が燃えるよね。

 

暦を見る、静かな嫉妬を込めた愛抱夢の目。今までまるで関心が無く、顔もろくに覚えていなかった暦を、愛抱夢は標的に定めたのです。

 

前回は、暦の気持ちが大きく揺れ動く『SK∞  エスケーエイト』の7〜8話について語っています。興味を持っていただいた方はこちらからどうぞ。isanamaru.hatenablog.com