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『時光代理人 -LINK CLICK-』について語りたい②ストーリー編

皆さんは『時光代理人 -LINK CLICK-』という作品をご存知でしょうか。李豪凌(リー・ハオリン)監督・脚本の中国のオリジナルWebアニメで、日本でも2022年1月からTOKYO MXなどでトキ役豊永利行さん・ヒカル役櫻井孝宏さんによる日本語吹替版が放送されていました。

この『時光代理人 -LINK CLICK-』の中国での人気がどれほどなのかというと、bilibili動画で総再生回数1.6億回を突破、1期の最終話が配信された後もキャラクターたちを可愛く1.5頭身化した『时光照相馆的日常』というタイトルのショートムービーを毎月10日に配信中ですし、企業とのコラボCMも作られています。

また中国では『あんさんぶるスターズ‼︎』とコラボ、日本でも『IdentityV 第五人格』とコラボもしていました。もう、制作決定という2期の日本上陸が今から待ち遠しくて仕方なくなってしまいます。

そしてなんと、『時光代理人 -LINK CLICK-』の第2期の日本展開が決定し、それに先駆けてフジテレビの新しい深夜アニメ枠“B8station”で第1期の再放送が2023年10月より始まっています!

今回はこの『時光代理人 -LINK CLICK-』のストーリーについて語っていきたいと思います。

ヒカル(陸光)とトキ(程小時)

 

シリアスな展開に釘付け

この『時光代理人 -LINK CLICK-』は現代の中国のリアルな世界を舞台にしたシリアスな物語が展開されていく作品。中国だからこその描写だなと感じる部分はもちろんあります。しかし中国ってこうなんだな〜とは思っても違和感で気が散ってしまうようなことは全く無く、素直に作品世界に入っていくことができました。

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時光写真館を営むトキ(程小時)とヒカル(陸光)は、写真を通して過去に干渉することができるという特殊な能力の持ち主。そのことを聞きつけた人々から持ち込まれる過去に関する様々な依頼を、彼らは引き受けていきます。

ヒカルが依頼者に渡された写真から撮影後の12時間に起きた出来事を読み取って依頼が実現可能かを判断し、その後トキが写真が撮られた時点の撮影者の意識の中に入り込んで行動することにより、撮影者本人にしか知り得ない事柄を調査していくという流れです。ヒカルは過去を読み取ることはできても過去にはいけませんし、トキは過去に行くことはできても何が起こり自分はどうすればいいのか知ることはできません。2人は互いの能力を補完し合い任務を遂行していくのです。

過去に行くトキに対してヒカルが繰り返し言って聞かせるルールがあります。

 

過去を問うな 未来を聞くな

 

過去はすでに過ぎ去った時間。その時にその人物がしなかった言動をすれば、未来が変わってしまいかねません。なのでヒカルは過去に改変が加わらないよう、その時その人物としてどんな言動をすべきかを過去の世界のトキに指示を出していきます。ヒカルは撮影者の身に起きたことを写真から読み取り知っていますが、実際に過去に行くトキにはそれらは知らされてはいません。自分のナビゲーション通りにトキに動いてもらうために、ヒカルがあえて知らせていないのだと考えられます。

過去の世界に自分自身が紛れ込む形であれば、過去に起きた出来事を客観的に見ていられるかもしれません。しかしトキは自分自身の意識を持ったままの状態で撮影者の中に入り込んで過去の世界にいます。ただ指示を出すだけのヒカルとは違い、女性になってセクハラを受けたり子供になって誘拐されるなど、トキは撮影者の辛い体験や悲しい感情をリアルに追体験していくことになるんです。それってすごくキツイことだと思うんですよ。彼自身が当事者になるわけですから。

感受性が強いトキは、撮影者の意識にリンクして経験を共有することにより大きく感情を揺さぶられ、思わず彼自身としての行動を起こしてしまいます。それはヒカルの指示から外れた、撮影者がしなかったはずの言動を取るということ。トキの行動によって起きた過去の改変は、より良い方向へと事態を向かわせることもありますが、さらに悪い結果を招き寄せてしまうことも。

そのことを『時光代理人 -LINK CLICK-』はいきなり第1話で私たちに突きつけてきます。

ある企業の財務データ入手の依頼のため、トキはエマという女性の意識の中に入り込みます。上司からのパワハラ・セクハラに耐え仕事に追われる毎日を過ごしているエマ。ひとりで残業していると携帯電話に田舎の両親からの電話がかかってきますが、心配をかけまいとエマは気丈に振る舞います。

そんなエマの孤独に深くリンクしたトキは、思わず彼女の両親に向けて「会いたい」とメッセージを送ってしまいます。メッセージを受け取り、遠い田舎からわざわざ両親が上京してくれていたことを知ったエマ。彼女は急いで両親のいる駅へと向かうのです。

財務データを入手し、トキとヒカルの依頼は無事終了。エマも両親と会ってツラい状況から逃れられるのだろうと胸を撫で下ろし、この作品は最後に温かい気持ちになれるヒューマンドラマなのだな〜と思った直後、ヒカルの携帯に表示されるエマのショッキングなニュース。

過去の世界でトキが依頼内容から外れて自分の感情に従って行ったのは、エマの両親にひと言「会いたい」とメッセージを送ったことだけ。幼い頃に両親がいなくなり孤独に過ごしたトキがエマの苦しい心情に同調してしまったことを責めるのは酷だと思いますし、エマが胸の内に押し込めてしまっていた本心をトキが代わりに伝えたのだとも言えます。エマが今幸せかを知りたいと口にするトキ。しかしそのほんの小さな改変によってエマの身に大きな悲劇が降りかかったと分かった時、その衝撃の大きさに観ていて思わず声が出てしまいました。

小さな過去の改変が引き起こす残酷な結果を思い知らせる第1話。物語の最後で一気に突き落としてくるこの落差の大きさによって、この先の物語がどうなるのかと『時光代理人 -LINK CLICK-』から目が離せなくなってしまうんです。

 

現実とのリンクに釘付け

過去改変のタブーを示した第1話もショッキングでしたが、私がすごいなと唸ってしまったのは第3〜5話。この時の依頼は、過去の自分にダイブしてその時に伝えることができなかったメッセージを相手に伝えてほしいというもの。伝えるだけ? ってなりますよね。安心してください。たったそれだけだということがどれほど重みを持っているのか、後で私たちは思い知らされるんでから。

学生だった頃の依頼者の中に入り、バスケの試合に臨むトキ。いつものようにヒカルの指示に従っていましたが、相手チームのラフプレイに怒ったトキは負けるべき試合に思わず勝ってしまうんです。真逆の試合結果。やっちまったよと見ているこちらが焦ってしまいましたが、ヒカルは問題ないと言い、トキは胸を撫で下ろします。

なんだ〜よかったね〜じゃないですよね? だってこんなに大きな改変がされたのにスルーされるなんておかしいんですよ。この違和感はジワジワと続きますが、トキは依頼通り先輩や初恋の女の子に順調にメッセージを伝えていきます。しかし何を伝えたのか、全くわかりません。聞き逃したのかと思って音量を上げて見返してみましたが、そこにセリフはないんです。なぜ? どうして? さらに心がザワザワしてきますね。

結果が変わらなければ、未来が変わることはありません。負け試合に勝ってもどんな言葉を相手に伝えても、それらは未来には何も影響しないため、ヒカルはトキに何も言わなかったんです。

依頼人の母親との会話でこの先に起こることが何か気づいたトキは、どうにかしてその結果を変えようと奔走します。しかしこの先起こるのは1人の人間には大きすぎる出来事。今回の結果は、どんなにトキが手を尽くしても決して変えることはできないものなんです。たったひと言メッセージを送っただけで未来が変わってしまった第1話とは、真逆の展開です。

この「分岐点」となる出来事は、2008年に実際に中国で起きたこととリンクしています。中国の方は、日付からこの後の展開を察して胸が潰れるような思いでこの話を見ていたのではないかと思います。同じような経験を持つ日本人の私たちも、無力感に打ちひしがれるトキの姿は胸に迫って感じられると思います

 

集約されていく物語に釘付け

『時光代理人 -LINK CLICK-』はトキとヒカルの元に持ち込まれる依頼をオムニバスの形で描いてきました。しかし物語は少しずつ集約していきます。

刑事から連続殺人犯の調査の依頼を持ちかけられたヒカル。被害者の中にはエマの姿もありました。トキにそのことを知られないよう、その依頼を断るヒカル。

その後、友人の姗姗(シャンシャン)からの依頼を受けた2人。しかし過去の世界でシャンシャンにリンクしていたトキが連続殺人犯らしき男を目撃し追いかけてしまいます。その過去の改変によってシャンシャンは消息不明に。トキは自分の起こした行動の意味を思い知り、連続殺人犯に立ち向かう覚悟を決めます。

能力を駆使して自ら危険に飛び込み連続殺人犯と対峙するトキ。張り詰めた緊張感の中、トキとヒカルの連携プレーでターゲットを追い詰めていく様子に手に汗握り、これで事件解決! と思いたいところですが、この『時光代理人 -LINK CLICK-』はまったく一筋縄ではいかないんですよ。

これまで行われた過去の改変は、全て確かにトキの良心からくる行動によるものでした。たとえそうであろうと、過去を書き換えた代償から逃れることはできないんです。トキが負う「代償」とは……。

 

もうね、ホント、衝撃しかないですよ。ジェットコースターのように見事に感情をぶん回されました。12話の「光をくれる人」というタイトルの付け方も秀逸で、その展開に打ちのめされながらも「この物語の先を見なければ!」と第2期への期待が大きく膨らんでいきました。

次回はこの『時光代理人 -LINK CLICK-』の物語を深掘りして考察を語っていきたいと思います。

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