皆さんは『さらざんまい』というアニメ作品をご存知でしょうか?
この作品は深夜アニメの「ノイタミナ」枠で放映されていた、幾原邦彦監督によるオリジナルアニメです。この作品が放映されていた2019年4月から6月の3カ月間、私は寝ても覚めてもこの作品のことばかりをひたすらに考えているという、文字通りのどハマりっぷりでした。ここまで熱に浮かされるくらい何かにハマるということ自体が珍しい自分にとって、まさしく特別な作品になっています。
寒さが増し、2019年も終わろうとしている今だからこそ、この『さらざんまい』という作品について、語りたいと思います。
『さらざんまい』との出会い
『さらざんまい』という作品に出会ったのは、ノイタミナ枠で放映されていた誰もが知る名作マンガ『バナナフィッシュ』が物語の後半に入り、「あの結末」に向けて息の詰まるような展開を繰り広げているのを見守っている時でした。半年後に同枠で放映される作品の告知PVが流れ始めたのです。
その作品が『さらざんまい』でした。
村瀬歩さんの優しい声のモノローグ。実写の浅草の風景の中に違和感無く存在するアニメの男の子。ちょっと和風でセンチメンタルな響きの音楽。「つながり」というキーワード。可愛らしいカッパ。『さらざんまい』というとぼけたタイトル。
ひと目見て、「これはよくわからないけれど、何か実験的で面白そうな作品が始まりそうだ」と感じて心惹かれ、ワクワクしたのを覚えています。
その後、パーカーのフードを目深に被ったそばかすの男の子、一人サッカーをしているメガネの男の子、金髪で褐色の肌の警察官、メガネで色白の警察官と、キャラクターの一人ひとりがそれぞれ「つながり」について語るモノローグのPVが流れ、少しずつPV自体がつながっていく様子に、きっとこの作品は切ない物語なのだろうなと、私は想像していたのでした。
しかしその後、まだ本編が放映前だというのに『さらざんまい』のスピンオフのマンガ『レオとマブ〜ふたりはさらざんまい』がBL雑誌で連載されると知り、ピクトで表現された『さらざんまい』のディザーPV「本当のことを言うよ編」「でも、それが嫌なんだ編」「この世界が空っぽになっても編」の3本でのナレーションが語るメッセージとイラストや音楽の不穏さに驚き、テレビで流れた告知PVから安易に切ない物語だと想像していたけれど「どうも違うらしいぞ?」と混乱させられ、その真相が知りたくてますます作品に興味を引かれていったのです。
まさに制作側の思うツボにまんまとハマった形です。
そして迎えた4月。録画していた『さらざんまい』を張り切って見始めた私。主役の一稀はちょっと内向的な雰囲気の少年で、登場シーンがガード下での車上荒らしという影のある少年悠が転校してきて、これから「彼らが紆余曲折を経て心の通い合うまでの切ない物語が始まるに違いない」と思いつつ 視聴を続けていました。
しかし、白くて丸い王子を名乗るケッピというカッパが現れたり、悠と一稀と彼の幼なじみの燕太の3人がいきなり可愛らしいカッパに姿を変えられてしまったり、突如現れたカッパゾンビと戦うために歌い踊り、ゾンビのお尻に突っ込んでいって尻子玉を引き抜くなどという話の展開に、ただただ流されていくばかり。そして最後は漏洩した一稀の秘密からシリアスムードになり、エンディングの曲が流れるころには「本当に訳が分からないけれど何やらとにかく凄いものを見た」という実感だけが残り、あまりの衝撃にすかさずまた最初から見返すため再生ボタンを押していました。その時の私のTwitterでの取り乱しっぷり。今、冷静に見返すと相当なものです。
「さらざんまい」あの絵柄でどうかしてる感がすごくて、この先どう転がってどう化けてくのかわからないけど、とにかくこの飛び道具ヤバい。
— ひらがないさな@三昧い02 (@hiraganaisana) April 11, 2019
第1話というものは、どの作品でも謎だらけの状態で始まります。
これはどんな世界が舞台なのだろう
どんなキャラクターが出てくるのだろう
どんなことが起こるのだろう。
誰もがそんなことを思いながら、情報を読み取るように作品に入っていきます。登場してくるキャラクター同士の行動や会話から、人間関係や物語の世界の背景を探っていきます。この主人公は、この理由があってヒーローを目指すのだな、このきっかけで恋に落ちるのだななどと、第1話は初めて接する人に作品の概要を理解させ、興味を引きつけておいて次回に繋げる必要があります。
『さらざんまい』の第1話を見た私は、何がなんだかさっぱり分からないまま終わってしまうという、置いてけぼりをくらってしまったのです。どんな話か分かりにくいなと思うことはあっても、ここまで呆然とすることは初めてでした。
幾原邦彦監督作品を見ること自体が未体験だった私は、まるでジェットコースターに乗せられたような気分でした。向かい風に吹きつけられながらすごいスピードで景色が移り変わる中走り抜けて、自分はただ座っているだけなのにがっつりとエネルギーを持っていかれる感覚。
私は三度目の再生ボタンを押しながら、この『さらざんまい』というジェットコースターから振り落とされないように、最後までしがみついていようと決意したのです。
次回は主人公である一稀を中心に、『さらざんまい』の前半の物語について語りたいと思います。
前回は『彼方のアストラ』のウルルカの2人について語っています。記事に興味を持っていただけた方はこちらからどうぞ。