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BL『40までにしたい10のこと』について語りたい

皆さんはマミタ先生『40までにしたい10のこと』という作品をご存知ですか? この作品は、39歳のサラリーマンが10歳年下の部下に愛されるお話! もうその設定だけでブラボーですよね。

ということで、今回はこの『40までにしたい10のこと』について語っていきたいと思います。

性描写がある作品なので、未成年の方はごめんなさい。大人の方だけこの先をお読みくださいね。

 

ネタバレを含みますのでネタバレ苦手な方は注意してお読みください。

 

 

40歳になるまでに

『40までにしたい10のこと』の主人公十条雀(とうじょう すずめ)は、39歳のサラリーマン。次の誕生日のクリスマスイブまであと3カ月となり、雀は「40までにしたいことリスト」を作ります。若かった時には友達と一緒に過ごせていても、年齢が上がってくるにつれて友達たちは結婚するなどしていき、だんだんと1人で過ごすことが多くなっていった彼のやりたいことは、タコパをはじめ原宿に行ったりコーヒーショップでカスタマイズしたり千疋屋のパフェを食べたりと些細なことばかり。ですが、大人の男性が1人でやるには気後れしてしまうようなことなんですよね。それらのことをやりたいというのではなく、そんなことに付き合ってくれる「誰か」、一緒に過ごしてくれる「誰か」、つまり本当は自分は恋人が欲しいのだと気づいた雀。

若い時は自分のことだけ考えて、恋も仕事も同じようにエネルギーを注げますが、アラフォーにもなると部下ができたりして仕事での責任も重くなるし、「大人」としての分別に縛られて好き勝手できなくなります。そんなつもりじゃなかったのに、雀はハメを外すようなこともできず、仕事一筋になっていたんでしょう。

30代は若いうちに入っても、40代ってもう若くないと見られてしまいます。でもこの先30年40年と人生は続くんですよね。その長い時間を1人で過ごしていくのかもしれないと思った時、どうしようもなく人肌恋しくなってしまうのは当然のことだと思います。

誰もいなくなったオフィスで、自分が作った「40までにしたいことリスト」を前に机に突っ伏す雀。すると、飲みに行ったはずの部下の田中慶司(たなかけいし)に携帯でリストを撮られてしまいます。

そのリストを読んだ慶司は雀をからかうのかと思いきや、自分も雀と同じゲイだと告白し、自分と一緒にリストにあることを消化していこうと提案してきます。「楽しそう」などと言って話を進めていく慶司。次から次に女性と付き合っては別れてを繰り返している様子の慶司が本当にゲイだとは信じられず、からかわれていると思おうとする雀。しかし、そんな彼を抱きしめると慶司はこう言うんですよ。

 

俺は雀さんとセックスできる
あなたのこと余裕で抱けます

 

雀がやりたいことリストに挙げていた「恋人を作る」という項目を消し、空白だった10個目の項目に「誕生日を恋人と過ごす」と勝手に加えてしまう慶司。

押し切られる形で雀は慶司と週末を過ごすようになっりますが、今までの味気なかった毎日が明るくなり、会社と家の往復だけで縮んでしまっていた世界が大きく広がるのを感じ始めます。誰かと一緒に食事をすればより美味しく食べられるし、誰かと行ったことがない場所に行くのはワクワクするし、誰かと次に会う約束をしていることで仕事に追われる忙しい日々も乗り越えられる。初めは戸惑いながらではありましたが、慶司によって雀は忘れていた感情を徐々に思い出していくんです。

 

次は あいつと何をしよう

 

久しぶりに感じるときめきに、フワフワと気もそぞろになっている雀の様子は、見ているこちらまで幸せな気持ちにさせます。

慶司がすごく良いんですよね。序盤、慶司が無理やり押し切っていく展開なので、もっと強引な人かと思っていたんですが、全然違いました。雀がリストに書き出した「やりたいこと」を一つひとつつぶしていきながら、会社では知ることのなかった雀の姿を、彼はニュートラルに受け入れていきます。むしろ会社とは違う一面を楽しんでいる様子。

しかし雀は自分が慶司よりずっと年上の上司であるという意識がどうしても離れません。そんな雀を、慶司はうまく甘やかしてあげるんですよ。上司に対して気を回しているというのではなく、年上の恋人を気遣ってあげている感じで、照れや気後れしてしまうのも大丈夫だと思わせてくれるんですよね。だからこそ、雀は慶司に上司と部下以上の感情を抱くようになっていけたんです。

個人的に、BLというと高校生や大学生など若い男性同士の恋愛を描いたものが多いかなという印象があります。登場人物が社会人の大人という設定もちろんありますが、やっぱり20代止まりが多いなという感じ。でも、恋は若い人だけのものじゃありませんよね。アラフォーの大人だって恋に落ちるんですよ。パートナーのいない同士であれば当然のことなんだよなってこの作品読みながら改めて思わされました。

 

40歳になる夜に

毎週末慶司に会うたび、リストに挙げていた雀のやりたかったことが消化されていきます。リストに書き出したのは、たったの10項目。それを全てやり切った後も、慶司と一緒に恋人同士として、行ってみたいところに行ってやってみたいことをして……。そう雀は思い始めるようになっていきます。

しかし、物語はすんなりとは終わりません。雀と慶司は、同じ部署の田中颯に2人で過ごしているところを目撃されてしまうんです。付き合っていることを勘の良い田中に見抜かれ、慶司は咄嗟に「十条さんは無いわ」と強い口調で2人の関係を否定してしまいます。

今まで好きになるのは異性愛者ばかりだったという慶司。ようやく自分と同じ同性愛者で素敵だと思う人が現れ、好きになったその後の「未来」を望めるような状況になれたんです。雀との関係をどうしても守りたいという強い思いがあったからこそ、彼は田中に対して2人の関係を完全否定する強い言葉を投げつけてしまったんですよね。

そんな慶司の言葉に、1人逃げるように家に帰ってしまう雀。こんなシチュエーションの時、2人の関係を否定する言葉を相手が発したことに傷ついてしまうという展開ってけっこうあるかなって思います。嘘だとわかっていても、隠さなきゃいけない関係だと思っていても、それでも自分たちが恋人同士であると言ってほしかった……みたいな感じで。

でも、雀はちょっと違うんですよ。確かに慶司が田中に対して仕方なくついた嘘であると分かっていても、彼のキツい言葉にショックは受けただろうとは思います。しかしそれ以上に、慶司がゲイであることを何年もずっと隠し通してきたのに、このまま2人の関係を続けていたら、上司として年上の人間として自分は慶司を守れなくなってしまう、そのことを雀は恐れたんですよね。自分が負った傷ではなく、慶司が負ってしまうかもしれない傷を庇おうとするんです。

もっと自分を大事にしてほしいと慶司が雀に言うシーンがあるのですが、本当に雀は自分のことよりも人のことを優先する人なんですよね。雀のそんなところに慶司は惹かれたのかもしれませんが、雀はそんな優しい人だからこそ、慶司と会社以外ではもう会わないことを決めます。あくまでも上司と部下として慶司に接し、彼と過ごした時間を忘れるように仕事に打ち込み、週末を1人で過ごす雀。

そして迎えたクリスマスイブ。誰もいなくなったオフィスで1人、雀は「40までにしたいことリスト」を消していきます。しかしリストを消しても、慶司と過ごした時間は消えはしません。慶司に抱いた気持ちも消せはしないんです。

雀は同僚に誘われて飲みに行った慶司を探すためオフィスを飛び出していき、慶司も雀の家に向かおうとします。上司として年長者として分別ある大人でいようとしてきた雀。絶対にバレるようなヘマはしないとゲイであることを隠して作り上げた「田中慶司」を演じていた慶司。抑えきれない思いを伝えた雀を、クリスマスイブの夜の人通りの多い駅前で他人の目を恐れることなく慶司は抱きしめて言うんです。

 

見られたっていい
その時一緒に考えよう

 

一緒に考えようってことは、2人で乗り越えていこうってこと。取り繕うことをやめたことで、2人は本当の意味で向かい合うことができたんですよね。

初めて身体を重ねる2人。好きでいろいろBL作品を読んできて、受けが年上である作品は読んだことはありましたが、雀のように40代になろうという大人な年齢の人がガッツリ抱かれる作品って初めてだったんです。なのでどんな感じかなぁといつもよりドキドキして読み進めたんですが、結論として大人の男性が愛されてトロトロになっているのを見るのはサイコーでした! 歳を重ねている大人の恋だからこそ、セックスが必要なんですよ。

これまでずっと雀をリードしながらも、冷静に段階を踏んでゆっくり関係を深めていこうとしていた慶司がどれだけ雀にメロメロなのかが伝わり、その愛情を一身に受け止める雀が可愛らしく感じられ、素敵なシーンでした。