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『ID: INVADED イド:インヴェイデッド』について語りたい③滝と炎

あおきえい監督・舞城王太郎脚本のオリジナルアニメ『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』について、前回は第1・2話について語りました。今回は第3話「滝の世界」と第4話「燃えさかるビルの世界」の2つのイドについて、ネタバレしつつ気合を入れて語っていきたいと思います。

JIGSAWED

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  • 発売日: 2020/01/13
  • メディア: Prime Video

 

第3話【SNIPED】

第3話は鳴瓢の過去から始まります。それは少し美化された夢。鳴瓢の語りから、彼の娘が凄惨な死を迎えたことが明らかになります。独房の壁にベッドを囲むように貼られた何枚もの家族写真はどれもが幸せそうなものばかりで、彼の悲しみを感じて胸が苦しくなります。

今回彼が酒井戸として投入されたのは、ビルを爆破し大量の死者を出している無差別連続殺人犯「花火師」のイド。ヨーロッパの古い城にあるような、石造りの大きな円塔の上で酒井戸は目を覚まします。塔を囲む巨大な滝の内側から断続的に発射される銃弾により、弄ぶように殺されていく人々。カエルちゃんも既に胸を銃で撃たれて死亡しています。周りを遮る物が何も無く、しかもどこから銃を発射しているのから特定できない状況。カエルちゃんの死体の謎を突き止めようとする酒井戸も、頭を撃たれて死んでしまいます。

 

酒井戸、死亡!

 

イドの中で死んだ感覚は鳴瓢に伝わり、彼は精神的なダメージを受けていますが、捜査は終えられません。すかさず再度イドに投入された酒井戸。しかし今度は自分の名前を思い出す前に撃たれて死んでしまいます。

第1話で百貴は「とうとう寝室からの落下を生き延びられたか」と安堵したように呟いていました。あの「穴あき」のバラバラな世界のイドでも、酒井戸は既に死を伴うトライアルアンドエラーを何度も繰り返していたことがわかります。鳴瓢はバーチャルな世界の中とはいえ、何度も自分の死を味わい続けているのです。しかし「名探偵」である彼の使命は、あくまでもカエルちゃんの死の謎を解くこと。真実さえ掴めれば、彼の生き死には関係ないのです。

何度目のイドへの投入でしょうか。狙われにくくなるように、ほふく前進で動き回る人や、耐えきれずに塔から身を投げる人も現れます。飛び降りようとする女性を思わず助けてしまう酒井戸。その時、自分から離れた場所から飛び降りたはずの男が自分の真下で死んでいるのが目に入ります。何故そんなことが起こるのか。周囲を滝に囲まれどこを見ても変化が無いため気づかなかっただけで、この円塔自体がずっと回り続けていたのです。複数の狙撃手があちこちから撃っているように感じたのも、カエルちゃんの死体に感じた違和感も、これが理由でした。

井戸端メンバーの解析により、酒井戸とカエルちゃん以外の塔にいる人々が、1人を除き中東での爆破テロの被害者たちであると判明します。そして残る1人、イドの世界で匍匐前進の号令をかけていた男こそが犯人の「花火師」だったのです。

現実世界で逮捕された「花火師」。報道カメラマンである彼は、爆破現場に集まる野次馬たちの姿を写真に撮っており、自分が爆破事件を起こしたのは人間の空っぽな精神を明らかにするためなのだと語ります。大量の死者を出す爆破事件を起こす理由にもならない身勝手な理屈。しかし「花火師」はそれを認めようとしません。

 

人の命に価値なんか無い。俺のもあんたのもあんたの可愛い娘さんのもな

 

「花火師」は、弱みを突いて鳴瓢を黙らせるつもりだったのかもしれません。しかしその一言で、彼は鳴瓢の逆鱗に触れてしまいました。厭世家を気取りながら、実際は爆破テロの光景を自分で再現して全能感に浸って楽しんでいるだけ。鳴瓢は理詰めで「花火師」にそのことを自覚させ、追い詰めていきます。

 

お前の楽しみはもう終わったんだ。もう地獄は無いよ。お前の記憶以外に。

 

鳴瓢の淡々と低く囁くような声。真っ暗になった監房で「花火師」は自ら命を断ちます。鳴瓢は自殺教唆という形で、収監されていながら五度目の殺人を犯したのです。

その夜、鳴瓢の見た夢は「花火師」のイドの世界でした。

 

ああ、助けたかったのに…

 

撃たれて倒れるカエルちゃんに駆け寄り、抱き上げる酒井戸。「名探偵」である彼の使命はカエルちゃんの死の謎を解くことです。カエルちゃんの死体を見て「名探偵」として覚醒し、謎を解くことで現実世界で起きている連続殺人事件の容疑者が特定されるのです。そのためにも、イドの中でカエルちゃんは殺されていなければなりません。凶悪な連続殺人事件の捜査とカエルちゃんを救うことは決して両立できないのです。

しかし、酒井戸として何度もカエルちゃんの死体と出会い、その名前を呼ぶうちに、鳴瓢の中でイドの中で必ず殺されてしまう彼女を助けたいという気持ちが強くなっていったのでしょう。カエルちゃんと亡くしてしまった娘を重ねて助けたいと思うようになるのは、心の動きとして自然なことだと思います。しかし酒井戸の腕の中で、カエルちゃんから姿を変え、娘の椋が冷たく言い放ちます。

どうして私たちが死ぬ前にそばにいてくれなかったの

 

夢から醒めた鳴瓢の目に浮かぶ涙。

 

カエルちゃんは椋じゃない

 

自分に言い聞かせるように家族写真を見つめて呟く鳴瓢の低い声。たとえカエルちゃんを救っても、娘の椋は生き返りはしません。そして彼の中の良心や悲しみを見ても、彼の言葉によって「花火師」が死んだ事実は覆ることはないのです。

 

第4話【EXTENDED】

「花火師」を自殺に追いやったことで、鳴瓢は身動きも取れない狭い懲罰牢に閉じ込められてしまいました。

彼がそんな状況でも、連続殺人事件は起きてしまいます。局長の早瀬浦の指示により、「穴あき」富久田をミズハノメのパイロットに登用できるか試験を行いますが、どのイドに投入しても彼のアバターである穴井戸はすぐに死んでしまい、使い物にはなりません。

 

殺人鬼を殺してるだけの鳴瓢と違って、本物の連続殺人犯と一緒に仕事してるってことにどうしても反発があって、俺ら自身のパフォーマンスも落ちているのかも

 

井戸端メンバーの羽二重の言葉。酒井戸に対して好意的でないなりに、彼らの中には鳴瓢に対して共に捜査する仲間意識が芽生えていきているようです。

そんな折、「墓掘り」と呼ばれる連続殺人犯による新たな事件が発生します。この「墓掘り」は、誘拐した被害者を生き埋めにし、窒息死していく様子をネットで中継し続けるという残忍な殺人鬼です。今回の被害者は高校生の少女。彼女が生きている間に、何としても救出しなければなりません。7人目の被害者にしてようやく「墓掘り」の思念粒子採取に成功、百貴は捜査のために鳴瓢を懲罰牢から出します。

「墓掘り」のイドで目を覚ました酒井戸。そこは薄暗く古いマンションの一室です。カエルちゃんは人相がわからないほどに焼け焦げた焼死体となっています。窓から外を眺めれば、並んで立つ2棟の高層マンションは共に下の階から炎が広がっており、カエルちゃんのように焼け焦げた何体もの死体が火の海の中に転がっています。さらには燃え盛りながら、音を立ててマンションの部屋が増殖していくという異常な光景。

向かい側のマンションに目をやった酒井戸は、その高層階の部屋に1人の少女の姿を見つけます。その少女は、今回の「墓掘り」の被害者の幼い頃の姿と判明します。酒井戸は少女の救出に向かいますが、爆風に吹き飛ばされ炎に焼かれて、酒井戸は死んでしまいます。最初の部屋からの脱出すらも爆発が起こり、困難な状態です。

 

よし!生き延びた!
その調子!

 

井戸端のメンバー若鹿(羽二重も?)が思わず声をあげてしまい、室長補佐の東郷からたしなめられてしまうほどの過酷さ。それでも百貴は、死んだ酒井戸を排出してはすぐさま機械的に投入指示を出します。

 

もう6時間以上イドでずっと死に続けています。疲労は限界のはずですが

 

東郷があまりの厳しさに進言しますが、百貴は全く聞く耳を持ちません。

 

懲罰牢で休んでたんだ。
投入しろ

 

被害者は今まさに「墓掘り」に生き埋めにされ、その命を救うためには一刻を争います。しかも鳴瓢は百貴の言葉を聞かず、5度目の自殺教唆を犯したのです。鳴瓢にトイレにも行かせず食事も摂らせずに、死んではすぐさまイドに再投入させる百貴。東郷を戸惑わせるほどの彼の冷たさには、事件解決を急ぐ焦りと鳴瓢に対する怒りが強く感じられます。

爆発から逃れてなんとか向かい側のマンションに辿り着いた酒井戸。それでも焼けて崩れ落ちた瓦礫に無残にも押し潰されて死んでしまいます。これは何度目の死なのでしょう。繰り返し死の感覚を味わい、ダメージを受けている鳴瓢。最初の部屋からの脱出すらも難しくなってきた酒井戸の様子に、百貴はようやく彼に食事を摂らせる指示を出します。

酒井戸が死んでしまえば、捜査は進みません。その後も死を伴うトライアルアンドエラーを幾度となく繰り返す酒井戸。井戸端を訪れた局長の早瀬浦と百貴の会話から、すでにこの過酷な捜査が二晩徹夜で行なわれていることがわかります。コックピットに座る鳴瓢も疲れ果てているのは明らかです。しかし彼の表情は、まるで決意したように今まで以上に鋭いものとなっていました。

炎を逃れ爆発から身をかわして向かい側のマンションまでたどり着き、少女のいる部屋まで壁に這わせた排水用のパイプをよじ登っていく酒井戸。バックに流れるMIYAVIさんの「Samurai  45」という曲が、この場面の疾走感をさらに増幅させます。誰の助けも借りることができないイドの世界の中で1人、命をかけて少女の元に向かう酒井戸の姿は、まさに「侍」のイメージに重なります。

少女の部屋に酒井戸が到着したその瞬間、若鹿は思わず「よし!」と両腕を上げ、百貴も深く息を吐きます。井戸端のメンバーたちが、どれほど長時間酒井戸の生き死にを息を詰めて見守り続けてきたかが感じられます。

イドに前に潜った時の記憶は持ち越すことはできません。つまり、イドに投入されるたびに、酒井戸が違う行動を起こすこともあり得るのです。しかし酒井戸は、記憶がリセットされていてもそれでもなお、死を繰り返しながら少女を助けようとし続けていたのでしょう。

早瀬浦は、連続殺人犯に成り下がってしまった鳴瓢には誰かを助けたいという動機はもう存在しない、と評していました。穏やかな口調ながら、かなり厳しい意見です。

 

俺はあの子を助けたい。でもそれは俺の使命ではない

 

酒井戸は確かにそう言っています。しかし助けることは使命ではないと言いながら、それでも少女の元へとひたすらに向かっていった酒井戸。彼は幼い少女を見殺しにすることなど出来なかったのです。

 

この家、燃えて死んでる人ばっかり

 

少女の言葉に、酒井戸は改めて冷静に状況を振り返ります。たくさんの焼死体。しかし、カエルちゃんだけが、まだ燃えていない部屋で既に焼け焦げていました。それはなぜか。酒井戸はカエルちゃんはこの火事で焼かれたのではなく、別の場所で焼いた彼女の死体を犯人がこの火事の中に紛れさせたのだと推理します。「木は森に隠せ」つまり、別の人物がこの事件を真似て自分の殺人を隠蔽しようとしたのです。思念粒子が今回だけ採取できたのも、今回の事件が「模倣犯」によるものだったからなのです。

ならば、このイドは誰のものなのか。部屋から逃げ出そうと酒井戸が少女を抱き上げたその時、少女は向かいのマンションの部屋を見てこう言います。

 

大野さんの家、すごい燃えちゃったね

 

その部屋には火を持った中年男の姿。また再び井戸端に緊張が走ります。

 

大野さんはダメな人でね、全部やり直すために家に火をつけたんだよ。家族が寝てるのにね。たぶん私がそれを見てたんだと思ってる

 

向かいの部屋の男は、被害者の少女が5歳の時まで近所に住んでいた大野という男だと判明します。男は口封じのために「墓掘り」を真似て被害者を生き埋めにしたのです。

現在の大野の住所を特定し、突入する松岡ら。大野の部屋にはカエルちゃんの死体の下に敷かれていたものと同じカーペットが敷かれており、その下に地下室への階段が見つかります。ネット中継ではまだ生きている被害者。しかし発見された少女は、すでに死後数日経っていました。ネットに流されていた映像は、ライブではなく録画だったのです。

酒井戸は少女を抱き上げ、マンションの部屋から脱出します。火に包まれて焼け落ちていく男の姿を見せまいと、少女の目を手で覆ってやる酒井戸。事件の結末を知っていてこの場面を見ると、目を見開いたまま亡くなっていた少女の姿とリンクして胸が痛みます。

被害者は何も見ていませんでした。それどころか当時幼すぎて、男のことを覚えてすらいなかったのです。しかし、少女は既に男によって殺されてしまっていました。

そのことを鳴瓢は百貴から聞かされます。

 

犯人の大野を殺したいか?

 

百貴にそう尋ねられた鳴瓢。彼は即答します。

 

殺していいんですか?

 

イドの世界では少女を救えても、彼は現実世界では何もできませんでした。心の中には犯人に対する憎しみが渦巻いていたことでしょう。殺していいものなら、犯人を殺してやりたいと思っていたはずです。しかし、今まで蔵の中で5人の犯罪者を自殺に追い込み殺してきたが、それは殺したかったからではないと鳴瓢は答えます。

 

耐えきれない殺意が俺の中から湧いてきて、その時思ったんです。俺には殺せると。だから殺したんです

 

人間は衝動だけでは行動しない。理由も無く5人も死に追いやったと言っておきながら、鳴瓢の矛盾を孕んだ返答。

 

お前は人間だよ、鳴瓢。それは俺が保証してやる。ただ弱いんだ、人として

 

百貴の言葉は、厳しいながらも鳴瓢を突き放しきれていないように感じられます。

家族についても知っているほど、親しかった百貴と鳴瓢。酒井戸としての彼の行動から、百貴はそこに良心を見ていたはずです。殺人を犯したことを詰らずにはいられないが、それでも鳴瓢をまだ信じたい。そんな葛藤する気持ちが百貴の中にあり、そのことは鳴瓢にも伝わっているのではないでしょうか。

 

お前はまだ俺の仲間だって意識はあるのか

 

捜査後に交わされる2人だけの会話の時間。百貴だけは、連続殺人鬼としてでも、ミズハノメのパイロットとしてでもなく、人として鳴瓢を見ているのです。

 

鳴瓢秋人

鳴瓢秋人

次回は『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』の第5・6話について語っていきます。

 

前回は、第1話・第2話について語っています。興味を持っていただけた方は、こちらからどうぞ。

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