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『ID: INVADED イド:インヴェイデッド』について語りたい③滝と炎

あおきえい監督・舞城王太郎脚本のオリジナルアニメ『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』について、前回は第1・2話について語りました。今回は第3話「滝の世界」と第4話「燃えさかるビルの世界」の2つのイドについて、ネタバレしつつ気合を入れて語っていきたいと思います。

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ID:INVADED イド:インヴェイデッド Blu-ray BOX 上巻

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第3話【SNIPED】

第3話は鳴瓢の過去の追憶から始まります。鳴瓢の独房の壁にベッドを囲むように貼られた何枚もの家族写真は、どれもが幸せそうなものばかり。しかし彼の語りから、娘が凄惨な死を迎えたことが明らかになります。写真の枚数の多さが彼の悲しみの深さを語っているように感じられ、胸が苦しくなります。

今回彼が酒井戸として投入されたのは、ビルを爆破し大量の死者を出している無差別連続殺人犯「花火師」のイド。ヨーロッパの古い城にあるような、石造りの大きな円塔の上で酒井戸は目を覚まします。塔を囲む巨大な滝の内側から断続的に発射される銃弾により、弄ぶように殺されていく人々。周りを遮る物が何も無く、しかもどこから銃を発射しているのから特定できない状況。カエルちゃんの死体の謎を突き止めようとする酒井戸も、頭を撃たれて死んでしまいます。

イドの中で死んだ感覚は鳴瓢に伝わり、彼は精神的なダメージを受けていますが、捜査は終えられません。すかさず再度イドに投入される酒井戸。しかし今度は自分の名前を思い出す前に撃たれて死んでしまいます。

第1話で百貴は「とうとう寝室からの落下を生き延びられたか」と安堵したように呟いていました。あの「穴あき」のバラバラな世界のイドでも、酒井戸は既に死を伴うトライアルアンドエラーを何度も繰り返していたんだと改めて気付かされます。捜査のために、バーチャルな世界の中とはいえ何度も自分の死を味わい続けている鳴瓢。しかし真実さえ掴めれば、名探偵の生き死には関係ないのです。

何度目のイドへの投入なのか、狙われにくくなるように動き回る人や、耐えきれずに塔から身を投げる人も現れます。自分も飛び降りようとする女性を思わず助けてしまう酒井戸。その時、離れた場所から飛び降りたはずの男の死体が自分の真下にあるのが目に入ります。周囲を滝に囲まれどこを見ても変化が無いため気づけませんでしたが、この円塔はずっと回り続けていたのです。複数の狙撃手があちこちから撃っているように感じたのはこれが理由でした。

井戸端メンバーの解析により、酒井戸とカエルちゃん以外の人々が、1人を除き中東での爆破テロの被害者たちであると判明します。そして残る1人、犯人の「花火師」が特定されます。

現実世界で逮捕された「花火師」。自分が爆破事件を起こしたのは人間の空っぽな精神を明らかにするためなのだと語ります。大量の死者を出す爆破事件を起こす理由にもならない人を見下してた身勝手な理屈。お前は何者だよって感じなのですが、「花火師」はそれを認めようとしません。

 

人の命に価値なんか無い。俺のもあんたのもあんたの可愛い娘さんのもな

 

「花火師」は、弱みを突いて鳴瓢を黙らせるつもりだったのかもしれません。しかしその一言で、彼は鳴瓢の逆鱗に触れてしまいました。厭世家を気取りながら、実際は爆破により全能感に浸って楽しんでいるだけ。鳴瓢は理詰めで「花火師」にそのことを自覚させ、追い詰めていきます。

 

もう地獄は無いよ。お前の記憶以外に。

 

鳴瓢の淡々と低く囁くような声。真っ暗になった監房で「花火師」は自ら命を断ちます。鳴瓢は自殺教唆という形で、収監されていながら五度目の殺人を犯したのです。

その夜、鳴瓢の見た夢は「花火師」のイドの世界でした。

撃たれて死亡しているカエルちゃんに駆け寄り、抱き上げる酒井戸。カエルちゃんの死体によって「名探偵」として覚醒した酒井戸がイドの中で謎を解くことで、現実世界で起きている連続殺人事件の容疑者が特定されます。そのためにも、カエルちゃんは殺されていなければなりません。凶悪な連続殺人事件の捜査とカエルちゃんを救うことは決して両立できないのです。

しかし、酒井戸として何度もカエルちゃんの死体と出会ってその名前を呼ぶうちに、鳴瓢の中でイドの中で必ず殺されてしまう彼女を不憫に思い、助けたいという気持ちが強くなっていったのでしょう。それは人の心の動きとして自然なことだと思います。しかし酒井戸の腕の中で、カエルちゃんから姿を変え、娘のが冷たく言い放ちます。

 

どうして私たちが死ぬ前にそばにいてくれなかったの

 

夢から醒めた鳴瓢の目に浮かぶ涙。

たとえカエルちゃんを救っても、娘の椋は生き返りはしません。そして彼の中の良心や悲しみを見ても、彼の言葉によって「花火師」が死んだ事実は覆ることはないのです。

 

第4話【EXTENDED】

「花火師」を自殺に追いやったことで、身動きも取れない狭い懲罰牢に閉じ込められてしまった鳴瓢。彼がそんな状況でも、連続殺人事件は起きてしまいます。局長の早瀬浦の指示により、「穴あき」富久田をミズハノメのパイロットに登用できるか試験を行いますが、どのイドに投入しても彼のアバターである穴井戸はすぐに死んでしまい、使い物にはなりません。

そんな折、誘拐した被害者を生き埋めにし、窒息死していく様子をネットで中継し続けるという残忍な殺人鬼「墓掘り」による新たな事件が発生します。今回の被害者は高校生の菊池桂子。彼女が生きている間に、何としても救出しなければなりません。7人目の被害者にしてようやく「墓掘り」の思念粒子採取に成功、百貴は捜査のために鳴瓢を懲罰牢から出します。

「墓掘り」のイドで目を覚ました酒井戸。薄暗く古いマンションの一室で、カエルちゃんは人相がわからないほどに焼け焦げた焼死体となっています。外を眺めれば、並んで立つ2棟の高層マンションは共に下の階から炎が広がっており、さらには燃え盛りながら、音を立ててマンションの部屋が増殖していくという異常な光景が広がっています。

向かい側のマンションに目をやった酒井戸は、その高層階の部屋に1人の少女の姿を見つけます。その少女は、今回の「墓掘り」の被害者菊池桂子の幼い頃の姿と判明。酒井戸はすぐさま少女の救出に向かいますが、爆風に吹き飛ばされ炎に焼かれて、酒井戸は何度も死んでしまいます。

 

よし!生き延びた!
その調子!

 

井戸端のメンバー若鹿羽二重も?)が思わず声をあげてしまい、室長補佐の東郷からたしなめられてしまうほどの過酷さ。それでも百貴は、死んだ酒井戸を排出してはすぐさま機械的に投入指示を出します。

 

もう6時間以上イドでずっと死に続けています。疲労は限界のはずですが

 

「死に続けている」ってかなり衝撃的な言葉ですよね。しかし東郷の進言に百貴は全く聞く耳を持ちません。

 

懲罰牢で休んでたんだ。
投入しろ

 

被害者は今まさに「墓掘り」に生き埋めにされ、その命を救うためには一刻を争います。しかも鳴瓢は百貴の言葉を聞かず、5度目の自殺教唆を犯したわけです。鳴瓢にトイレに行かせず食事もさせずに、死んではすぐさまイドに再投入させる百貴。東郷を戸惑わせるほどの彼の冷たさには、事件解決を急ぐ焦りと鳴瓢に対する怒りが強く感じられます。

酒井戸が死んでしまえば、捜査は進みません。すでにこの過酷な捜査は二晩徹夜で行なわれています。コックピットに座る鳴瓢も疲れ果てているのは明らか。しかしその後も死を伴うトライアルアンドエラーは幾度となく繰り返されます。

炎を逃れ爆発から身をかわして向かい側のマンションまでたどり着き、少女のいる部屋まで壁に這わせた排水用のパイプをよじ登っていく酒井戸。バックに流れるMIYAVIさんの「Samurai  45」という曲が、この場面の疾走感をさらに増幅させます。誰の助けも借りることができないイドの世界の中で1人、命をかけて少女の元に向かう酒井戸の姿は、まさに「侍」のイメージに重なり、祈るような気持ちで画面を見つめていました。

少女の部屋に酒井戸が到着したその瞬間、若鹿は思わず「よし!」と両腕を上げ、百貴も深く息を吐きます。井戸端のメンバーたちが、どれほど長時間繰り返される酒井戸の生き死にを息を詰めて見守り続けてきたかが感じられますね。

イドに前に潜った時の記憶は持ち越すことはできません。つまり、イドに投入されるたびに、酒井戸が違う行動を起こすこともあり得るのです。しかし酒井戸は、記憶がリセットされていてもそれでもなお、死を繰り返しながら少女を助けようとし続けていたのでしょう。

 

俺はあの子を助けたい。でもそれは俺の使命ではない

 

酒井戸は確かにそう言っています。しかし助けることは使命ではないと言いながら、それでも少女の元へとひたすらに向かっていった酒井戸。彼は幼い少女を見殺しにすることなど出来なかったのです。

少女のいる部屋にたどり着き、改めて冷静に状況を振り返る酒井戸。燃え盛るマンション。たくさんの焼死体。しかし、カエルちゃんだけが、まだ燃えていない部屋で既に焼け焦げていたのです。酒井戸は犯人が焼いたカエルちゃんの死体をこの火事の中に紛れこませたのだと推理します。つまり、別の人物がこの事件を真似て自分の殺人を隠蔽しようとしたと考えられます。今回だけ思念粒子が採取できたのも、この事件が「模倣犯」によるものだったから。

ならば、このイドは誰のものなのか。部屋から逃げ出そうと酒井戸が少女を抱き上げたその時、少女は向かいのマンションの部屋を見てこう言います。

 

大野さんの家、すごい燃えちゃったね

 

その部屋には火を持った中年男の姿。また再び井戸端に緊張が走ります。この男は、被害者の少女が5歳の時まで近所に住んでいた大野だと判明します。自宅の放火したことを見られたと思い込んだ大野は、口封じのために「墓掘り」を真似て被害者を生き埋めにしたのです。

現在の大野の住所を特定し、突入する松岡ら。ネット中継ではまだ被害者は生きています。無事救出かと思われましたが、少女はすでに死後数日経っている状態で発見されました。ネットに流されていた映像は録画されたものだったのです。

少女を抱き上げ、マンションの部屋から脱出する酒井戸。火に包まれて焼け落ちていく男の姿を見せまいと、酒井戸は少女の目を手で覆ってあげます。事件の結末を知っているからこそ、目を見開いたまま亡くなっていた少女の姿とリンクして一層胸が痛みます。

被害者は何も見ていませんでした。それどころか当時幼すぎて、男のことを覚えてすらいなかったのです。しかし、少女は既に男によって殺されてしまっていました。そのことを百貴から聞かされた鳴瓢の絶望的な表情。

 

犯人の大野を殺したいか?

 

百貴にそう尋ねられた鳴瓢は即答します。

 

殺していいんですか?

 

イドの世界では少女を救えても、彼は現実世界では何もできませんでした。心の中には犯人に対する憎しみが渦巻いていたことでしょう。殺していいものなら、犯人を殺してやりたいと思ったはずです。しかし、今まで蔵の中で5人の犯罪者を自殺に追い込み殺してきたが、それは殺したかったからではなく殺せると思ったから殺したと鳴瓢は答えます。人間は衝動だけでは行動しないと。理由も無く5人も死に追いやったと言っておきながら、鳴瓢の矛盾を孕んだ返答。

家族についても知っているほど、親しかった百貴と鳴瓢。酒井戸としてひたすら少女を助けようとした彼の行動から、百貴は良心を見ていたはずです。殺人を犯したこと許せないが、それでも鳴瓢をまだ信じたい。百貴の中にある葛藤する気持ちは、鳴瓢にも伝わっているのではないでしょうか。

 

お前はまだ俺の仲間だって意識はあるのか

 

捜査後に交わされる2人だけの会話の時間。百貴だけは、連続殺人鬼としてでもミズハノメのパイロットとしてでもなく、ただ人として鳴瓢を見ているのです。

 

鳴瓢秋人

鳴瓢秋人

次回は『ID: INVADED  イド:インヴェイデッド』の第5・6話について語っていきます。

 

前回は、第1話・第2話について語っています。興味を持っていただけた方は、こちらからどうぞ。

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